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第31回 フォードvsフェラーリ (2019 米)

 2回続けて車はないだろうとお思いの方もありましょうが、U-NEXTのポイントの期限が迫っていたのです。男には逃せないタイミングというものがあるのです。

 車に詳しくない人でも『ル・マン24時間』という単語は聞いたことがあると思います。書いてその名の通り、フランスはル・マンで24時間延々走り続けて走行距離を競うという極めて苛酷でしんどいレースです。

 このレースは車にも人にも大変な負担がかかり、勝てば「速くてタフ」という評価が確固たるものになります。この評価が売り上げにつながるので、自動車メーカーは大金を投じてレースに参加するのです。

 今回紹介する『フォードVSフェラーリ』はタイトルの通り、60年代にル・マンで全盛を誇っていたフェラーリに、大衆車志向でレースに積極的でなかったフォードが勝負を挑むという実にわかりやすい爽快な映画です。

 史実に基づいた興味深いエピソード、有無を言わせない派手なレースシーン、チームの熱い友情、背広組の醜い権力闘争、決して綺麗事だけではないモータースポーツのリアルで大評判をとった一本です。

 そしてこれを観終わったとき、あなたは気付くはずです。モータースポーツはホモだと。


フォードvsフェラーリを観よう!

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真面目に解説

それは紛れもなくやつさ

 映画は1959年のル・マンから始まります。ジェームズ・ボンド御用達のアストンマーティンに乗って参戦したキャロル・シェルビー(マット・デイモン)はエンジンが炎上するほどの満身創痍な状態でピットインしますが、リタイアを拒否してそのまま燃料を補給して走り続け、見事優勝を飾ります。しかし代償は大きく、心臓を患ってシェルビーは引退を余儀なくされます。

 シェルビーはその後フォードの下でスポーツカーを作るカーデザイナーとして再出発しました。シェルビー・コブラと言えば知ってる人も多いでしょう。ボディコン除霊師や部下を海に叩き込むおやっさんが乗っていたあのシェルビーです。

 一方、もう一人の主人公である変人のイギリス人レーサー、ケン・マイルズ(クリスチャン・ベール)は整備士を本業にしていますが、腕は筋金入りなのに英国人特有のブラックジョークが過ぎて商売が上手く行きません。

 そんな商売下手なマイルズですが、奥さんのモリー(カトリーナ・バルフ)と息子のピーター(ノア・ジュープ)はマイルズをとても尊敬しており、案外幸せそうです。

 一方、デトロイトのフォードの工場では、教科書にも必ず乗っていたヘンリー・フォードの孫の二世(トレイシー・レッツ)が社員や工員に当たり散らしています。業績が思わしくないのです。何かアイディアを出さなきゃクビだと無茶苦茶言っています。

英国面

 シェルビーは自分の作ったコブラを各地のレースで走らせていて、マイルズもシェルビーのコブラでレースに参加しています。大変な活躍ぶりでポルシェから大きなレースへの誘いが来ます。

 ところが、マイルズはトランクが小さいのでルール違反だと指摘され、マーシャル(職員)と喧嘩した挙句トランクの蓋をハンマーで叩いて無理矢理隙間を空けてパスする無茶をやり、恐れをなしたポルシェの偉い人に逃げられてしまいます。

 シェルビーはマイルズがチャンスを逃してしまって悔しそうですが、マイルズは「あんたもドイツは嫌いだと思ってたが」とどこ吹く風です。シェルビーはパイロット、マイルズは戦車兵としてドイツ軍とやり合った過去があるので、ドイツのポルシェはそりゃあ好きではないのです。

 シェルビーはアメリカ人なので幾分合理主義で、スポンサーが付かないとレースはできないとマイルズを諭しますが、マイルズはジョンブルなので理屈より気骨で動きます。喧嘩した挙句シェルビーにスパナを投げつけ、自分の車のフロントガラスを破壊してしまいます。これにはシェルビーも呆れ顔です。

 マイルズは割れたフロントガラスでそのまま出場します。このレースシーンが見ものです。車好きでなくても興奮します。レースシーンは金がかかるので、これだけ気合を入れて作っている映画は滅多にありません。

 時代背景を反映して全てのマシンがミッション車なのも個人的には嬉しいポイントです。最近はF1さえもセミオートマなので、シフトレバーを慌ただしく操作するレーサーは過去の物なのです。

 マイルズは2番手まで追い上げ、最終コーナーで路肩を走ってトップに立ち、見事優勝を飾ります。応援に来たピーターは勿論大喜び、シェルビーも自分の判断通り走ったので嬉しそうです。マイルズは親子で歌いながらウィニングランです。

 かように、悪い意味で英国面全開のマイルズをシェルビーがいかに操縦するかがこの映画の重大なテーマになっています。

モータースポーツのリアル

 マイルズが家に帰ってみると、なんと税金を滞納したせいで工場が差し押さえになっています。モータースポーツは恐ろしく金がかかるのです。

 車代は言うに及ばず、改造費や部品代、移動費やエントリー料、その他金持ちでないとやってられないような出費がじゃんじゃん襲ってきます。だからスポンサーが必要なのです。

 メーカー直営のチームと契約する「ワークスドライバー」になれば給料を貰って走れる身分になれますが、ワークスドライバーになるのにもスポンサーを連れて行かないと厳しいのです。貧乏なメーカーだと腕よりスポンサーが優先されるくらいです。

 そういう意味ではマイルズはレーサー向きではないのです。金がないとスタートラインに立てない。それがモータースポーツの現実なのです。

 それを悟ってかマイルズはレースから足を洗います。ここで反対するモリーが素晴らしい。大抵の人間は配偶者が夢を諦める時に反対はできないものです。

車という製品

 一方、フォードでは企業イメージを変える為にスポーツカーを作ろうと販売部長のアイアコッカ(ジョン・バーンサル)がプレゼンしています。

 フォードは『ローガン・ラッキー』で紹介したNASCARには出ていましたが、基本的にモータースポーツにもスポーツカーにも積極的ではありませんでした。

 というのも、フォードと言えば「流れ作業」です。車を貴族のおもちゃから大衆の為の日用品に変えたのがフォードなのです。

 NASCARは今は専用のマシンを使っていますが、当時は市販車をそのまま使うレースでした。アメ車=頑丈というイメージは、ぶつかり合い上等クラッシュ万歳で走るNASCARで作られたものなのです。そういう意味ではフォードの企業イメージにはマッチしたレースです。

 NASCARで優勝した車は次の日に飛ぶように売れるという有名な話がありますが、所詮はアメリカローカルの話です。速くて格好良いスポーツカーを宣伝するのに一番良いのは世界中で注目されるルマンで優勝することなのです。

 ところがアイアコッカは販売実績を悪化させた黒星があるので、副社長のレオ・ビーブ(ジョシュ・ルーカス)に嫌味を言われて旗色が良くありません。

 一方フェラーリはルマンを4連覇してスポーツカーの王様の地位を確固たるものにしていました。そんなフェラーリに学ぶべきというのがアイアコッカの考えですが、ビーブは「フェラーリの年間生産台数はフォードの1日分にも及ばない」と馬鹿にします。

 フェラーリはご存知の通り家のような値段で、腕利きの職人が手作りしている芸術品です。

 ビーブは馬鹿にしますが、フェラーリの名は歴史において不朽のものになっているのも事実です。そんなフェラーリに勝てばフォードに若者は群がるというわけです。

 そしてフェラーリは職人集団なので金勘定に弱く、帳簿もイメージカラー同様真っ赤で倒産寸前です。一からフォードがフェラーリを負かせる車とチームを作るのは大変ですが、フェラーリを買収してしまえば簡単です。

フェラーリレッドの血

 アイアコッカはイタリアはモンツァにあるフェラーリの本社を訪れます。自分で言い出しておきながら「マフィアが自由の女神を買おうとするようなもの」とアイアコッカは及び腰です。

 記録係と称したカメラマンが居て嫌な予感ですが、熟練工によるフェラーリの手作り工程を見せられたうえで、フェラーリの創始者であるエンツォ・フェラーリ(レモ・ジローネ)と対面します。

 通訳を通じて事業そのものは9:1でフォードが持ち、レース部門は9:1でフェラーリが仕切るという買収話が進みます。エンツォの返事は「書類に目を通す時間をくれ」というものです。

 その間に記録係がイタリアを代表する大衆車メーカーであるフィアットの会長の元へベスパで走ります。こいつはスパイだったのです。フィアットがレースはフェラーリに全権を残し、もっと良い額で買収するという条件を取り付けてしまいます。

 その間アイアコッカは延々待たされます。フェラーリサイドのイタリア語は字幕も吹替もつかず、実に不気味です。

 そして、ルマンにフェラーリが出たいと言い、フォードが駄目と言った場合は駄目という具体的条件を確認すると、エンツォは「技術屋とイタリア人の誇りを傷つけられた」と怒り出します。

 そして「ミシガンに帰ってちんけな車作ってろ、重役は全員屑だ」と痛烈にフォードの大量生産体制をディスり、わざわざ英語で「フォードは所詮二世だ」と結びます。フォードはフィアットへの身売りの値上げ工作に利用されたのです。イタリアの跳ね馬に当て馬にされたわけです。

 エンツォ・フェラーリが厄介な人物である事は車好きなら誰もが知っていますが、ここまでくるとほとんどマフィアです。もっとも、フェラーリに乗るのは金持ちのバカ息子とサッカー選手とマフィアと相場が決まっているので当然かもしれません。

二世は所詮二世

 大泥棒三世御用達のフィアットがフェラーリを買収したというニュースを知り、エンツォの壮絶な悪口を聞かされて、二世はフェラーリを打ち負かして「ルマンのフィニッシュラインの地下30メートルに埋めてやれ」と指令を出します。

 これは随分美化されています。本当の所は二世にはイタリア貴族の愛人がいて、その愛人がフェラーリ好きだったことから参戦を決意したのです。

 一世はマフィアの用心棒を雇って組合運動を妨害したという子供向けの伝記には決して書かれない有名なエピソードがありますが、二世は愛人の為に会社の金を無駄遣いするのです。どっちも問題ありですが、エンツォの所詮は二世という言葉は正しかったと言わざるを得ません。

 一方シェルビーは相棒のエンジニアであるフィル(レイ・マッキノン)と一緒に金持ちにコブラを売りまくっています。スティーブ・マックイーンも顧客です。マイルズに投げつけられたスパナがオフィスには飾ってあります。

 ちなみにマックイーンは『栄光のル・マン』という映画を撮り、自分もル・マンに参戦を画策しましたが、周りに止められて断念したという有名なエピソードがあります。有名人の参戦は結構多く、ポール・ニューマンは77年に2位に入っています。

 そこへアイアコッカが訪ねてきます。パーツ代の集金かと慌てるシェルビーですが、実際はル・マン参戦の誘いでした。

 アイアコッカはシェルビーを「アメリカ人で唯一のル・マン優勝者」と言いましたが、これも間違いです。シェルビーの前の年にフィル・ヒルというアメリカ人が優勝しており、そのうえフェラーリの4連覇にも2回参加しています。この手の伝記映画にはありがちな事です。

 ル・マンに勝つのに必要な物を問われて、シェルビーは「軽さと強靭さと速さ」が必要だと的確かつ色の良くない返事をします。

 耐久レースは途中で車が壊れていくので、まず車は頑丈に作らねばいけません。しかし、頑丈でも重たいとそれだけ車その物に負担がかかり、燃料やタイヤの減りも早くなります。そして、その上で速くなければいけません。

 しかし、そんなことを言いつつシェルビーはやる気満々です。技術屋の血が燃えています

 かくしてシェルビーは雇われ整備士になったマイルズの元に話を持って行きます。ところが、マイルズは本気にしません。それくらいル・マンは過酷なレースなのです。

 しかもマイルズはフォードが嫌いです。社員はどいつも上にゴマする事しか考えていないと大企業の本質をズバリつきます。そしてそういう連中がシェルビーのような自由人が嫌いな事も。

 シェルビーはこの場での説得は不可能と悟り、来週行われるというフォード・マスタングの発表会へ誘って別れます。

跳馬VS荒馬


 ピーターも喜ぶという殺し文句が付いたので、マイルズは飛行場で行われた発表会へ行きます。マスタングはアイアコッカの肝煎りで作られたフォードのスポーツカー第1号です。

 もっとも、厳密にはマスタングはスポーティーカーと呼ばれる車です。純粋なスポーツカーよりも、それっぽく見えて安い車がアメリカ人には受けるという考えがアイアコッカにはあったのです。

 この読みは当たってどこのメーカーも似たような車を作るようになりましたが、マイルズはそこを見抜いてビーブを捕まえ、一目見ただけで恐ろしく痛烈かつ的確にマスタングにケチを付けます。車好きならのたうち回って笑うくらい的確です。

 シェルビーは自ら飛行機を操縦してワイルドに着陸してスピーチに臨みます。アイアコッカはシェルビーにあまり派手な事を言わないように釘を刺しますが、シェルビーは堂々と世界一宣言をしちゃいます。

 マイルズは呆れて帰ってしまいますが、帰るとシェルビーがコブラで待ち受けています。マイルズは断固拒否の姿勢ですが、シェルビーは「30分だけ」と無理矢理シェルビーを誘い出します。それを見て複雑そうな表情のモリー。

 飛行場に行ってみると、そこにはル・マンに向けてマスタングをベースに作られたフォードGTが。無茶苦茶楽しそうに乗り回し、的確にケチをつけるマイルズ。

 しかし、このケチの付け方が実はレーサーには大事なのです。そうやって欠点を直していく事で速い車ができるのです。

暴れ馬モリー

 結局ガッツリとテストドライブしてしまったマイルズは朝帰りをしてしまいます。モリーは車を運転しながら恐ろしく不機嫌です。そしてアクセル全開で暴走です。

 マイルズは必死でなだめつつレーサーのオファーを受けたと白状しますが、モリーはちょっと守りに入っているうえ、隠し事を作ったので怒っています。

 マイルズはまだOKは出していないとモリーをなだめますが、日当200ドル+経費という条件を聞かされて「馬鹿じゃないの?」と態度を急転させます。

 日当200ドルは今でも結構な高給取りですが、60年代の200ドルは値打ちが違います。そんな良い条件でレーサーが出来るのにどうして即決しなかったんだというわけです。私もこんな奥さんが欲しいものです。

技術屋VS背広組


 レーサーを引き受けたマイルズはテストドライブに臨みますが、空力(車の空気抵抗)に問題があると車載のコンピューターも見落とした欠点を見抜き、フィルの賛同を得て車に毛糸を一杯張り付けて空気の流れを測定する昔ながらの方法を取ります。

 チーフエンジニアで若手のロイ(JJ・フィールド)は半信半疑ですが、本当に問題があるのが解ってびっくりです。コンピューターに技術屋の勘が勝つのは王道です。

 マイルズがフィルを「おやっさん」と呼んでいるのもポイントです。本田宗一郎や円谷英二がそうだったように、技術屋の親分はおやっさんと決まっているのです。担当者はよくわかっています。

 軽量化にエンジンの換装とGTの改良はどんどん進みますが、そこへビーブがやってきて、一番大事な部品であるレーサーの選定に口を挟むのです。

大事な部品

 フォードはレーサーも金に糸目をつけずかき集める方針です。フィル・ヒル、クリス・エイモン、ブルース・マクラーレン、レースの世界ではもはや神話上の人物となったビッグネームが続々上がります。トリのリッチー・ギンサーはホンダがF1で初優勝した時のレーサーです。

 シェルビーはマイルズを当然のように筆頭に挙げて乗せる気満々です。一番GTの事を知っているのですからこれは至極まっとうな判断です。

 しかし、ビーブは変わり者のマイルズをヒッピー呼ばわりして乗せるのを嫌がります。そんな間にもテストコースのレコードを8秒も塗り替えてしまうマイルズ。

 シェルビーはマイルズを先の大戦でノルマンディからベルリンまで戦車で突き進んだ猛者だと庇います。しかし、ビーブは企業イメージの関係上、記者会見で何を言うか分からないマイルズは乗せたくないのです。

 シェルビーは「負けていいならドリス・デイに運転させろ」と反対しますが、結局ビーブの権威主義が勝ちます。

 そうとは知らないマイルズはおやっさんと一緒にGTの改良に余念がありませんが、シェルビーから本番で乗せることができない事を告げられます。

 シェルビーも辛いですが、マイルズはもっと辛いのは言うまでもありません。しかし、マイルズはあくまで課題の残るギアボックスに気を付けろと車の事を気遣うのです。そう、彼は純粋過ぎるのです。

 もっとも、本当はこの年のル・マンにマイルズはマクラーレンとペアで参戦しました。1955年にもイギリスのMGのドライバーとして参戦しています。しかし、今作はそこを追求すると野暮と言われるような作りになっています。

第三次世界大戦だ

 レース当日、一人ファクトリーに残って紅茶を飲みながらレースのラジオ中継に耳を傾けるマイルズ。GTの事を知り尽くしたマイルズはチームのミスが手に取るようにわかります。どんどんリタイアしていくフォードのマシン。

 そこへモリーが訪ねてきます。マイルズの心中を察し、ラジオのチャンネルを変え、マイルズと踊るモリー。こんな奥さんをどこで見つけたのでしょうか。

 結局フェラーリの前にフォードはボロ負けして巨額の損失を出しいます。アイアコッカは二世に油を搾られ、ビーブはそれ見た事かとしたり顔です。

 シェルビーはチームの指揮系統が混乱していた事とドライバーの人選ミスを敗因に上げつつ、GTは負けはしたもののフェラーリを超える最高速度を記録したのでエンツォはビビっていると二世を焚き付けます。

 まんまと乗った二世は先の大戦で爆撃機を作った時の思い出を引き合いに出しつつ、「これは戦争だ」とシェルビーに全権を預けて妾の為に会社の金をさらに浪費するのです。

感情のプロレス

 シェルビーはマイルズの家まで出向いて復縁を申し出ます。しかし、マイルズはジョンブルなのでプライドが高く、露骨にすねてます。買い物帰りなので「アイスクリームが融けちまう」と英国的皮肉が炸裂です。

 シェルビーは「謝ってほしいのか?」「土下座しろってのか」と大きく譲歩しますが、マイルズは「やってみな?受け入れるかは別だが」と第二次反抗期です。

 結局シェルビーの説得への返事は右ストレートでした。男と男に言葉は必要ないと悟ったシェルビーは、そのままマイルズと低レベルな取っ組み合いに突入します。

 シェルビーは散らばった買い物袋の中身で凶器攻撃に打って出ますが、缶詰は避けるのがポイントです。怪我されると元も子もありません。

 一方マイルズは後顧の憂いがないので、近くのゴミ箱の蓋を取ります。思わず蓋を殴って拳を痛めるシェルビー。ここでマイルズが「大丈夫か」と言っちゃうのが全てです。

 男同士の問題に女の口出しは無意味であるというマンコントロールの原則とこの喧嘩の本質を知り尽くしているモリーは庭先に椅子を出して新聞を読みながら見物です。返す返すもこんな奥さんが欲しいものです。

 喧嘩はシェルビーがジャイアント馬場の得意とした「河津落とし」をかましたところでノーサイドとなります。モリーにコーラを持って来させ、スパナを投げつけたあの喧嘩の思い出に浸る二人。シェルビーは拳を折られましたが、マイルズもシェルビーの「ラマバイト」なる脇の下をつねる裏技で大ダメージです。

 結局は適当にマイルズの怒りを発散させる機会があればそれでよかったのです。シェルビーは拳と引き換えにマイルズと復縁を果たすのです。

頓智とスピード

 雪辱に向けてバリバリ車を仕上げる二人。目指すは前哨戦でアメリカ最大の耐久レースである「デイトナ24時間」です。ピーターにレーサー哲学なんて語っちゃうマイルズ。

 そこへアイアコッカから悪い知らせが届きます。ビーブがレースの全権を二世から委譲され、マイルズを外せと迫って来ました。勿論単なる嫌がらせです。

 ビーブは明日二世と視察に来るそうです。しかしシェルビーは絶対にマイルズを外すつもりはありません。ところが折悪くマイルズのGTはブレーキの故障を起こして爆発炎上してしまいます。

 マイルズは無事ですが、制御できないならエンジンを変えろと要求します。そこでおやっさんが考えたのがレース中にブレーキユニットを丸ごと交換するという大胆なアイディアです。

 ルールに触れる恐れがありますが、こういうルールすれすれの頓智にこそモータースポーツの醍醐味と進化の歴史があります。かくして技術は進歩していくのです。

本丸を攻めろ

 ビーブの妨害もシェルビーが頓智で切り抜けます。「900万ドルもかけてるんだから」とこぼしながら視察に来た二世がおやっさんからGTの説明を受けているうちに、シェルビーはオフィスにビーブを閉じ込めてしまいます。

 そしてシェルビーは自らハンドルを握り、二世をGTに試乗させます。ビーブは閉じ込められて騒いでいますが、ロイが気を利かせて他の車のエンジンをかけて騒音をシャットアウトです。

 ビーブは窓を壊して脱出しましたが、車はもう走り出した後です。最初はイキっていた二世もシェルビーのスーパーテクニックに悲鳴を上げます。

 どうにか出てきたビーブにおやっさんは「初心者はそろそろ大の方を漏らす頃」と臭い事を言います。どうにか停まった瞬間恐怖と感動で泣き出してしまう二世。

 「この凄さを親父にも味あわせたかった」とメンタルがボロボロの二世にシェルビーはマイルズを売り込み、デイトナで勝ったらマイルズをル・マンに、負けたらシェルビーのブランドを丸ごとフォードに譲るという賭けに応じさせます。

デイトナ~

 前哨戦として参戦したデイトナ24時間レースで陣頭指揮を執る二世。男は乗るのが好きなのです。マイルズは絶好調ですが、フォードからはもう一台ウォルト・ハンスゲンという荒っぽい運転のドライバーがエントリーしています。

 ピット作業は同じフォードなのにライバル心むき出しです。シェルビーは荒っぽいハンスゲンに「まだ生きてたのか」と嫌味を言います。ちなみに彼は翌年事故で命を落としました。

 しかもハンスゲン側の方が明らかに作業が速いのです。向こうにはビーブがNASCARの腕利きピットクルーを宛がっているのです。

 モータースポーツで一番ピットクルーが高給なのはNASCARです。というのもNASCARのマシンは今でも精々数十万ドル、当時は市販車なので1万ドルもしません。車が安いのでそれだけ裏方にも給料が払えて腕利きが集まるというわけです。F1マシンはなんと数千万ドルと言われています。

 マイルズはそれでも負ける気がしないようで、交代している間(2人交代で走る)にモリーに電話して自信満々ですが、飛ばし過ぎでエンジンが気がかりです。

 エンジンは毎分6000回転が限度で、7000回転まで行くと危険というのがおやっさんの判断ですが、終盤になってシェルビーはマイルズに7000回転の解禁を指示します。

 待ってましたとばかり一気にピット作業の遅れを取り返しにかかるマイルズ。周回遅れのマシンを次々捌いてハンスゲンに迫ります。男の子はみんなこれが好きなんです。

 そして最後の最後でハンスゲンの後ろに付け、最終コーナーで抜き去ります。「クソッタレ」とハンスゲンにきつーい一発をかますマイルズと悔しがるハンスゲン。

 デイトナ24時間での優勝も大変な名誉です。ラジオを聞いていたモリーとピーターは大喜び。ビーブだけ呆然としていますが、あてつけがましくアイアコッカが横でこれまた大喜びです。

花のル・マン

 ピーターはフランス行きを前にしてル・マンの地図を描いてマイルズからコースの解説を受けます。ル・マンは普通の道を臨時にサーキットにするいわゆる市街地コースで、コンディションが悪くて難しいコースなのです。

 そうしてとうとうチームはル・マンに入ります。流石のマイルズも寝付けず、サーキットへ意味もなく向かってしまいます。すとそこにはシェルビーが。「お前も出られたらな」「チームをまとめる奴が居なくなる」などといちゃつきます。

 本番を迎えてマイルズはカーナンバー"1"の青いGTにマイルズは乗り込みます。ですが、三台並んだ赤いフェラーリを見て「美を競う競技なら負けてる」とちょっと弱気です。

 そして向こうのエースでイタリアの国民的英雄であるロレンツォ・バンディーニ(フランチェスコ・バウコ)と火花を散らします。よくこんな似た人を見つけてきたもんだと驚きます。セリフ無しなのに威圧感十分です。

ル・マン式スタート西海岸風

 当時はル・マン式スタートというものがありました。コースの片側にマシンを並べ、レーサーはその反対側に立って、スタートと同時にマシンに走って行って乗り込むのです。レーサーには短距離走の才能も必要だったのです。

 しかし、このスタイルは慌てて事故を起こす選手やシートベルトを締めない選手が多く危険であり、24時間のレースで数秒を争う意義は乏しいので、今では一部のバイクレースで行われるのみです。

 案の定トラブル発生です。なんとマイルズのマシンのドアが不具合を起こして閉まりません。しかもいきなり目の前でマシンがクラッシュして大慌てです。スタート直後は車が密集している分クラッシュも多いのです。

 ドアが閉まらず慌てるマイルズをぶっちぎり、いきなりトップに立つカーナンバー"21"のバンディーニ。エンツォの嫌味な笑みに二世はマイルズは何処だと騒ぎ始めます。ただ、本物のエンツォは基本的にサーキットには来ない人でした。

 どうにか一周してピットに入ったマイルズですが、ドアは閉まりません。おやっさんがハンマーでドアを叩いて無理矢理閉めるというアメリカンスタイルでどうにか対処しました。絶対に真似しないでください。

オメコ芸者

 ドアの問題の片付いたマイルズはたちまち追い上げてトップグループに入ります。ビーブは「あんなの作戦にない」とシェルビーにいちゃもんを付けますが「作戦は変わる」とシェルビーは相手にしません。

 マイルズはラップレコードを更新し、記者席は大騒ぎです。日本人記者も居ます。そして今日が誕生日のデニス・ハルム(ベン・コリンズ)と交代です。ベン・コリンズと言えば『Top Gear』のスティグです。なんと粋なキャスティングでしょうか。

 ル・マンは完走すれば入賞できると言われるほど過酷なレースで、事故が続出します。そして事故車を避けようとしてまた事故が起きるというデスマッチです。

 果たして"20"のフェラーリが避けようとしてクラッシュし、更にぶつけられる多重事故でリタイアです。

 二世はもう大丈夫だろうと思ったのか、愛人と思しき女とヘリコプターでディナーへ出発です。「お楽しみください」とおべっか使うビーブが実に情けないです。きっと二世はこれからあのオメコ芸者とマッチレースです。

姑息も作戦

 夜になって再びマイルズに交代です。エンツォはオメコ芸者と去って行った二世に嫌味を言いますが、一方シェルビーはフェラーリのピットからストップウォッチをかっぱらうという姑息な嫌がらせを行います。

 これが許されるのかとお思いの方も多いでしょうが、この手の裏技はモータースポーツの世界では結構聞く話です。

 一方、マイルズは雨の中でバンディーニに勝負を挑みます。ここが一番熱いシーンです。必見です。ホイールの中で散る火花に男は燃えるのです。

 ポルシェがドイツらしい根性(悪あがきとも言う)を見せてぶつけてきますが、マイルズは逆にやり返してポルシェはクラッシュです。男の子はみんなこれが好きなんです。

 フェラーリピットはストップウォッチが無いと大騒ぎです。「イタリア製だ」とシェルビーは盗んだストップウォッチをおやっさんに自慢しつつタイム測定です。

 ポルシェの邪魔も押しのけてマイルズは完全にバンディーニと一騎討ちです。それを見てビーブは回転数を上げろと指示を出します。クラッシュさせる気です。マイルズはバンディーニに迫りますが、スリップしてバンディーニが勝利です。もはやブレーキが限界なのです。

 ここで奥の手のブレーキユニット丸ごと交換が行われます。当然いちゃもんを付けて来るフェラーリサイド。マーシャルが注意しに来ますが、シェルビーが「パーツ交換は自由だ」とルールブックを盾に押しのけます。

 そこへバンディーニもブレーキトラブルでピットインです。エンツォが檄を飛ばす中慌てて修理するフェラーリ。何しろ丸ごと交換なのでフェラーリより時間がかかり、慌てるマイルズ。

 そこへシェルビーはいらないボルトを一つ取ってフェラーリのピットに捨てるという悪魔的嫌がらせを行います。エンツォも技術屋なので事の重大さがわかります。フェラーリ側は恐慌状態です。

要衝ユノディエール

 一方マイルズは再びバンディーニに迫ります。最高速度はGTが上なので、6キロも直線が続くル・マン名物「ユノディエール」で勝負をかけて追い抜きます。

 ル・マンのコースには各所に地名にちなんだエキゾチックな名前が付いていますが、このユノディエールは車が進歩してスピードが出過ぎるという事で、途中に2つシケインが設けられてしまいました。まさに昔話です。

 ピットで手間取ったのでもう一回マイルズはバンディーニを抜かなければいけません。再びユノディエールで勝負を挑むマイルズ。バンディーニはムキになって9000回転まで回転を上げますが、エンジンが駄目になってしまいます。こうしてフェラーリは全部リタイアしてしまいました。

歴史的写真

 そしてオメコ芸者とのマッチレースを終えたと思しき二世が戻ってきます。この期に及んでビーブはマイルズへの嫌がらせを画策し、エントリーしたフォード3台で同時にゴールインさせようと二世を唆します。

 アイアコッカはマイルズがぶっちぎりだから非現実的だとやんわり反対します。シェルビーも当然怒って反対です。しかし、マイルズは聞いていました。いじけつつも渋々承知します。

 シェルビーの「悔いなく走れ」の言葉を受け取ってマイルズはゴールに向かいます。恐ろしいペースです。マイルズは自分で出したラップレコードを再び塗り替えます。ピーターに説いていた完璧なラップを実践したのです。

 ビーブは交代させないと協会を除名するとシェルビーを脅しますが、シェルビーは頑として応じません。

 そしてマイルズはユノディエールで減速し、後続の二台を待って三台並んでゴールします。

 しかし、これはビーブの罠でもありました。シェルビーは同着優勝だと思っていましたが、後方からスタートしたマクラーレンの方が長く走っているのでマイルズは2着だというのです。

 おやっさんは「糞野郎にまんまとはめられた」と苦い顔です。しかし、マイルズは「俺に任せろと言ってくれた」とシェルビーを責める事はしません。そして来年に向けて改善案を出すのです。

 もっとも、本物のビーブはあそこまで極悪な人間ではなく、同着優勝でちゃんとマイルズの顔も立てるつもりだったようです。2着扱いはアクシデントだったのです。

皆死んだ

 来年に向けてテストコースで調整に余念がないマイルズ。しかし、マシントラブルが発生し、クラッシュしてマイルズは命を落とします。

 代わりのレーサーが用意されてテストは続きますが、シェルビーはショックから立ち直れません。

 シェルビーは思い出のスパナを返しにマイルズ家に向かいます。モリーに会う勇気が無く、たまたま通ったピーターにスパナを渡します。モリーと遠くから挨拶をして、泣きながらコブラを走らせて去っていくシェルビー。

 マイルズがモータースポーツの殿堂入りを果たし、フォードがル・マンを四連覇した事が語られて映画は終わります。

 ちなみにアイアコッカはこの手柄で二世の後任の社長に就任しました。ピーターはエンジニアの道を進んでおやっさん側になりました。ビーブはフォードを離れてビジネススクールを作りました。

 フェラーリも仕返しを画策し、翌年はわざわざ普段は出てこないデイトナ乗り込み3台同時フィニッシュをバンディーニを先頭にやり返しました。しかし、バンディーニは間もなくモナコグランプリで事故を起こして死にました。

 エンツォ・フェラーリは世論とマスコミの袋叩きにあい、長い間イタリア人レーサーを使おうとしませんでした。モータースポーツとはそういうものです。

BL的に解説(オール生モノ)

車を売る(至言)

 私の中ではシェルビーは総受けです。そもそもマット・デイモンは受け属性の俳優だと思います。何しろリベラーチェの男妾ですから。

 シェルビーは焼け死ぬ恐怖よりも勝利への可能性を取ってル・マンを勝ち取った燃える男です。しかし、心臓を患って無念の引退を余儀なくされて車を売る側に回りました。

 しかし、車のセールスは大変な仕事です。しかも自分で作って売るのですからリスクが違います。手段を選んではいられません。そういう生臭いセールステクニックは高い物を売る世界ではありふれたものです。

 コブラは高いので顧客は皆大金持ちであり、また少なくない層がシェルビー個人のファンであった事が示唆されています。ホモの金持ちが「シェルビー、お前に試乗させてくれ」と迫る事もあったでしょう。

 BL的にはこのシチュエーションはマフィアとか石油王が10台買う代わりに一晩俺を乗せろとかそういう展開になります。愛しのシェビー69で今夜はフィジカルです。シェビーはシボレーの事なのですがこの際大した問題はありません。

 こうしてコブラを売れば売る程シェルビーの股間のコブラは物の役に立たなくなっていくのです。

英国紳士の嗜み

 一方、マイルズはイギリス軍の戦車兵です。あの戦争は勝った方も楽ではありませんでした。まして戦車ともなればドイツの方が分があるくらいです。

 戦車兵は一蓮托生、死ぬときは同じ棺桶で火葬です。当然ホモソーシャルな事になるのは大洗の女子高生達が教えてくれた通りです。

 性別にはこの際目を瞑りましょう。同性であるということが大事です。そしてこんな格言を知ってる?「ワーテルローの戦いはイートン校の運動場で勝ち取られた」

 イートン校でフットボールで結束を深めた指揮官達がナポレオンに打ち勝ったというような意味で用いられますが、当時のイートン校には運動場などなく、そもそもフットボールというスポーツさえなかったのです。

 パブリックスクールがホモ養成所だとイギリス国民に広く信じられている旨は『大脱走』でも述べましたが、まあそういう事です。本当は寝室で勝ち取られたのです。それが英国の伝統なのです。

 マイルズもイートン仕込みのホモ車長に俺に装填しろと迫られたに違いありません。そうしてケツ束を深めてマイルズ達はベルリンを勝ち取ったのです。

マイルズ×シェルビー

 両方がホモである根拠をでっちあげたところで、本題に入りましょう。レーサーとメカニックがホモホモしてこそレース物です。

 シェルビーはそんなマイルズに目をかけていました。イカれたブルドッグを助けるのは常にシェルビーです。つまり、シェルビーの方がマイルズに気がある訳です。誘い受けです

 とは言え、マイルズの方もシェルビーを意識しています。マスタングの発表会でシェルビーが下手糞な操縦をするのを見て「多分よく知ってる奴だ」とシェルビーが操縦しているのを見抜きます。レーサーとしてのシェルビーを知り抜いている証拠です。

 そして煮え切らないマイルズ相手にシェルビーは強硬手段に打って出ます。先っちょだけ戦術です。そしてGTにずっぽり乗ってしまうマイルズ。カスタムしたコブラとは次元の違う車です。すっかり夢中になるマイルズ。

 そして遅くまで帰りませんでした。200ドル+必要経費という条件の他にシェルビーにも乗ったに違いありません。夜のコブラツイストがマイルズを狂わせます。

 モリーという素晴らしい奥さんがいるので久しく忘れていた男に乗る快感に夢中になるマイルズ。そりゃあ考え込みます。

 そんなマイルズにモリーは「昨夜シェルビーと出かけ遅く戻った」「隠し事を作った」とジェラシーを爆発させて車を暴走させます。

 ここでちょっとエンツォ側の話をしましょう。かのマラドーナがエキサイトしてあるチームメイトのカニーヒアにキスした時、奥さんが無茶苦茶怒ったというエピソードがあります。

 私は冗談抜きでマラドーナは男もイケる口だと信じています。奥さんが怒ったのは「私のディエゴが盗られる」という恐怖から来たものだと思うのです。

 シェルビーが邪な方法で車を売っていることを、マイルズが戦地で仲間達と何をしていたか、全てモリーは知っていたのです。だとすれば邪推するのは無理からぬ話です。

 しかし、200ドルと聞いてモリーはマイルズを逆に焚き付けます。愛するマイルズが大好きなレースが出来て、たまにシェルビーに貸すだけで200ドル。金の魔力はシェルビーが一番よく知っているのです。かくして二人の仲はモリー公認になりました。

 二人で一人でル・マンを目指すシェルビーとマイルズ。ル・マンは二人一組(今は三人)で走るのですが、そんな事はこの際些細な問題です。噂では、ハルムはコンドーム扱いされているのだとか。ジェームズ・メイもびっくりです。

 ところが、ビーブがマイルズを外せと迫ります。シェルビーにとってこれは実利的観点からも情からもあり得ない話です。二人で勝たないと意味がないのです。

 しかし、シェルビーは結局マイルズをル・マンに連れて行ってやることができませんでした。案の定負けるフォード。シェルビーもおやっさんもわざと手を抜いた可能性さえあります。

 そして二人はレスリングで和解します。マンコントロールの原則に基づいて見物を決め込むモリーは知っているのです。タイマン張ったらホモ達であることも。二人は完全に和解しました。今夜のナイトセクションはさぞ派手であった事でしょう。

 そしてあらゆる危険を冒して俺のマイルズを守り切ったシェルビーは見事ル・マンで勝利を飾りましたが、悲しい事故で2位にされてしまいました。しかし、マイルズはシェルビーを責めませんでした。

 本当の愛が芽生えていたからです。そして、二人でつながっている限りもう一度チャンスは来ると知っていたのです。

 しかし、マイルズは死にました。シェルビーとピーターを残して。ピーターにも、モリーにもシェルビーは会わせる顔がありません。相方の幸せを壊さないのが本当に良いカップルです。

 思い出の、恐らく邪な用途にも使われたであろうスパナをピーターに返し、シェルビーは涙にくれます。シェルビーにとってマイルズと過ごした日々は生涯忘れる事の出来ない美しくも悲しい思い出になってしまったのです。

フィル×シェルビー

 失意のシェルビーをどうにか立ち直らせることができるとしたが、おやっさんしかありません。そもそも二人は現役時代からの古い仲であり、今でもおやっさんはシェルビーにとって公私に渡ってかけがえのないパートナーです。

 おやっさんはシェルビーを滅茶苦茶にすることで死んだ者は帰ってこないと思い知らせるしかないのです。しかし、シェルビーはマイルズの死後本当に傾き始め、活動を縮小させてしまうのです。

 おやっさんの優しい愛をもってしても、マイルズという忘れがたい光からシェルビーは逃れることができなかったのです。

 股間のコブラがもはや物の役に立たなくなっていたのは、以前は何回も結婚したのに、レーサーを引退した直後から明らかに生殖機能を失うまでずっと独身であった事が物語っています。

 いくらタブーなきレビューとは言え、これ以上突っ込むとシェルビー氏を冒涜したと言われても仕方なくなるので、この話題はこの辺でよしておきます。

二世×シェルビー

 俺のマイルズをねじ込む(夜はねじ込ませる)為には二世を口説く事です。その為にシェルビーは乱暴な手段を取ります。ウンコを漏らすほど乱暴な運転で二世を屈服させたのです。

 「親父にも味あわせたかった」と新たな快感に打ち震える二世。そうして俺のマイルズを売り込むわけですが、当然夜に駄目押しするわけです。

 シェルビーは二世にささやくのです。「あのヘンリー・フォード・二世が車でビビってウンコを漏らしたなんて、あの貴族のバカ娘やマスコミや、何よりエンツォ爺さんがが知ったら黙ってないでしょうね?」そう言って尻のボンネットを開くシェルビー。

 二世は躊躇うはずです。しかし「親父さんには無理でも、息子には味あわせることができますよ」「1959年のル・マンを制した名車に乗ってみませんか?」シェルビーのコブラの毒のように強烈な誘惑が二世の理性を崩壊させます。

 かくして、一億台のマスタングがシェルビーにベルトコンベアで流し込まれます。二世はマスタング(荒馬)ではなくスタリオン(種馬)に変身です。自動車業界が日本車に席巻されるのはそう遠い未来ではありません。ヨーロッパ車などコンドームです。

アイアコッカ×シェルビー

 シェルビーとアイアコッカは実際にズブズブでした。アイアコッカのバックアップがあればこそシェルビーはフォードの支援の下で車を作る事が出来たのです。

 マスタングを作るようなセンスの持ち主にとって、コブラはもっと魅力にあふれた車です。アイアコッカはシェルビーに身も心も魅了されていたわけです。

 アイアコッカはフォードの社長になりましたが、二世と確執を作って会社を追われ、ライバルであるクライスラーの会長に就任します。シェルビーはそうするとクライスラーと接近して同社の車をデザインするようになります。

 はっきり言ってクライスラーでのシェルビーの車はあまり売れませんでした。最後の方に作ったダッジ・バイパーはよく売れましたが、そこまではもう道楽としか言いようがないような車が殆どです。

 シェルビーとアイアコッカの仲がビジネスを超越していた証拠です。そうして最後にバイパーという大輪の毒の花が咲きました。愛は金で買えないのです。そして最後に愛は勝つのです。

ビーブ×シェルビー

 今作でのビーブの行動原理は「マイルズが憎い」の一点に集約されます。副社長という立場上マイルズのマスコミ対応が心配だったというのは事実なのでしょう。しかし、その一方で「彼は純粋過ぎる」と評しています。これは無視できません。

 ビーブはシェルビーが好きで、好きな子に意地悪しちゃう小学校5年生男子の審理で接しているのです。

 マイルズは恋敵であると同時に純粋でまぶしすぎる存在なのです。汚れ切った自分には勝てない事を腹の底で分かっているからこそあんな行動に出たのです。

 アイアコッカも彼にとっては敵です。俺のシェルビーとイチャイチャしやがってというわけです。

 ビーブがシェルビーをモノにするには、シェルビーを一回は失敗させて、アイアコッカの面目を潰してマイルズを外して自分の指揮のもとル・マンを勝つしかないのです。

 しかし、所詮ビーブは負けヒロインです。彼に出来ることはマイルズを優勝させないという嫌がらせが限度でした。そして、それさえも燃料に二人は何処までも愛のユノディエールを突き進んでいくのです。

二世×エンツォ

 トリはカーマニア激怒のカップリングでお送りします。この二人は物作りへの姿勢が全く違います。

 フォードにとって車を大量生産して世間に行き渡らせたことは誇りでもありました。二世も当然それを誇りとし、世間の人は皆フォードを買うべきだと信じています。

 しかし、あのイタリアのオメコ芸者は言ったに違いないのです「パパの作る車ってダサいわ」と。二世の股間のマスタングがたちまち失速するほどショックだったに違いありません。

 アメリカの金持ち爺の愛人になるような貴族のバカ娘にはフェラーリの美しさはどうにか理解できても、フォードの崇高な企業理念は理解できないのです。

 とはいえ所詮二世は三代目なので、企業家ではあっても技術屋ではありません。祖父から受け継いだ家業と社員と株主、ユーザーと何より己の性欲の為に巨大企業を操るのが二世の務めなのです。

 一方エンツォは貧しい板金工の倅であり、レーサーを志して挫折し、理想の車を自ら作って成功をおさめ、老いてなお夢と理想に燃える技術屋です。

 二世にとってエンツォは必要以上の手間暇をかけて金持ちのおもちゃを作るイカれた爺さんであり、エンツォにとって二世は金の為に醜い車を世間にばらまく愚かなガキなのです。

 BLにおいてこの手のイデオロギー闘争はセックスに直結します。勝った方が掘る(掘らせる)のが男同士の愛の力学なのです。

 フォードはこの後実に四連覇を飾り、ル・マンから撤退(勝ち逃げ)しました。丁度フォードとフェラーリの間くらいの思想のポルシェがだんだん強くなり、五連覇は危ういと悟ったからです。

 一方フェラーリは低迷していました。しかし、エンツォ爺さんはムキになる方なので諦めません。ここで二世の企業家としての手腕が光ります。

 三連覇くらいの所で二世は賭けを持ち掛けるのです。勝った方が何でも言う事を聞くと。勿論ポルシェが優勝したら自分が負けくらいのハンデは付けたでしょう。

 結局フェラーリもフォードもあれきり優勝していません。勝つのは敗戦国の車ばかりです。しかし、二世は戦勝国の特権をエンツォに行使するのです。

 そんな間にもスーパーカブを先頭に日本車が世界に迫ってきます。フォード・マスタングマッハ1、フェラーリ・デイトナ、トヨタ・2000GTと車好きの前に三台並べ、好きなのを一台やると言えばトヨタが一番人気のはずです。

 もはや日本車という驚異は無視できないものになっていることを二人は分かっているのです。言うなれば、この映画はそうなる直前の刹那的快楽を切り取った物に過ぎないのです。

 賭けに勝った二世はダットサンがフェアレディZというマスタングを脅かす車を送り出してくるという不穏な噂に内心恐怖を感じつつ、股間のマスタングをエンツォというマイフェアレディに突き立てるのです。

 彼らは世界一堅いという日本人に蹂躙される運命を悟りながら、刹那的快楽に耽ります。レースよりも儚い愛の物語です。

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