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第99回 必殺4 恨みはらします(1988 松竹)

 暮れも押し迫ってまいりました。今年はジャニーズ崩壊の年でもありました。

 そして、29日の必殺シリーズのスペシャルを持って東山"ソーセージ"紀之が引退するそうですが、私は極めて不満であります。

 そもそも、必殺は現実社会の許せぬ悪を殺す事で半世紀も続いてきたシリーズだというのに、渡辺小五郎がこのまま退場するのは勝ち逃げであり、私は断固として許せません。

 従って、皆様はあのスペシャルを見るべきではありません。その代りになる作品は、既に作られているのです。

 というわけで、今回は必殺シリーズ劇場版『必殺4 恨みはらします』でお送りします。二回続けて深作欣二×JACはないだろうと言う人もありましょうが、男には逃せないタイミングという物があるのです。

 作りはド派手ですが中身はいつもの必殺シリーズです。現実社会の悪をインスパイアした外道を中村主水が殺す。それだけです。

 ただし、本作は『必殺仕掛人』の記念すべき最初の2話を監督した深作欣二が手がけ、JAC全面協力の元、千葉真一がゲスト仕事人、大ボスが真田広之という劇場版ならではの豪華な取り合わせです。

 殺陣はシリーズ最高クラスで文句なし、真田広之のベストアクト級の薙刀捌きはつとに有名ですが、千葉ちゃんもやはりボスとしての風格を見せています。

 そして、今回殺される悪は、暴走族、地上げ、ジャニーズです。真田広之は明らかにジャニーさんをモデルにした悪のホモなのです。

 また、必殺シリーズがやおいの原点になったのは、若い世代の腐の皆様には覚えておいていただきたい点です。

 仕事人はシリーズ選りすぐりの二枚目が揃えられており、単発で観ても全く問題ないストーリーになっているので、推しを探して金パロしましょう。

 ただし、ジャニーズ支持派の方は今回はパスしていただきます。私はジャニーズが邦画と時代劇を殺したと信じているので、かなり手厳しくこの点を糾弾します。

必殺4 恨みはらしますを観よう!

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真面目に解説

テレビ時代劇の異端児


 テレビ時代劇というジャンルが終焉してかなりの年月が経ちました。勿論、単発の時代劇は時々作られているのですが、バブル期は毎日どこかのテレビ局が時代劇を放送していた事を考えれば、隔世の感があります。

 松平健がゲイサンバのおじさんになり、大河ドラマが毎週不出来を非難される現代、必殺シリーズだけが毎年正月にスペシャルが作られ続け、時代劇の暖簾を守っています。

 しかし、実は必殺シリーズは極めて特殊な時代劇です。つまり、かつて毎週放送され、今も再放送されているタイプの時代劇は、高貴なお方が身分を隠して悪を討つ「水戸黄門・暴れん坊将軍型」と、ちょっとサスペンスの要素の入った「大岡越前・鬼平犯科帳型」、そしてスターの独立プロダクションが欲望に任せて派手に作りがちな「ドンパチ型」に分類されます。あくまで個人的見解なので、うのみにしないようにお願いします。

 必殺シリーズはどれでもないのです。普段は市中の人として暮らしている殺し屋が、金ずくで法で裁けぬ悪を殺す。能天気な勧善懲悪で予想も期待も裏切らない黄門様や上様とは全然違います。ダークヒーローの物語です。

 意外というのか皮肉というのか、最後に残ったのは特殊なタイプの作品だったのです。

リーダーは誰だ?

 一般に、必殺シリーズの主人公は同心の中村主水(藤田まこと)という認識が広まっています。

 しかし、このシリーズの原作は池波正太郎の『仕掛人・藤枝梅安』という小説シリーズで、その名の通り、藤枝梅安という針医者が針で殺す話です。

 さいとうたかをのコンビニコミックを喫茶店などでよく見かけるはずです。原作でも漫画のどのバージョンでも良いので見かけたら是非ご覧ください。真面目に読んでもBLとして読んでも極上のマブネタです。というか『鬼平犯科帳』でも『剣客商売』でも、池波作品は基本かなりの頻度でガチホモ回があります。

 とにかく朝日放送がこの原作に狙いをつけ、土曜22時の枠で『必殺仕掛人』が放送され、想像以上のヒットになった事から延々と作られ続ける事になったのです。斬新なコンセプトもさることながら、遅い時間の放送なので過激な描写が許されたのも勝因でした。

 従って、最初は主人公が緒形拳演じる藤枝梅安でした。ですが後半のエピソードは原作との乖離が目立ったことから池波正太郎が続編の話を嫌がり、原作を放棄してコンセプトだけを流用してシリーズ第2作『必殺仕置人』が作られます。

 その主人公がほかならぬ中村主水だったわけです。以降シリーズは半年くらいでリニューアルしながら延々と続くのですが、主水だけは常に留任して主役というフォーマットで1992年のテレビスペシャルまで続きます。

 そこから空白期間を置いて2007年から正月に特番で放送される形式でシリーズが復活し、主水は一歩引いて東山紀之演じる渡辺小五郎が主役になります。

 これはジャニーさんが個人的に時代劇が好きなので、手駒のアイドルを時代劇シリーズに押し付けた結果です。そして藤田まこと亡き後は渡辺小五郎の独壇場になり、この度ついにジャニーズの崩壊と共に渡辺小五郎はいずこかへと消えるのです。

 ジャニーズが時代劇を支えていると言い張る人もありますが、低クオリティの続編などおよびじゃないのはどんなコンテンツでも同じです。一に梅安で二に主水。小五郎は後世に無かったことにされるのが目に見えています。

 キャンセルカルチャーには反対ですが、自主的にキャンセルするのは個人の自由です。必殺シリーズを知らない反ジャニーズの腐の皆さまは、東山を頭から消して、古いシリーズを観ましょう。かつて姐様方が熱狂した理由がお判りいただけるはずです。

必殺シリーズの社会的機能

 何故こんなに必殺シリーズが支持され、未だに作られている理由は何なのか?それは法の裁きを免れた悪を討つというコンセプトにあります。

 つまり、このシリーズは現実社会で起こっている社会問題のパロディを脚本に用いています。これは視聴者が熱狂するのは無理もありません。

 更に、スキャンダルを起こした俳優の禊の舞台をもこのシリーズはかねていました。津川雅彦がスケベオヤジ役で使われるようになったのは、女関係でやらかして干されていたところを、このシリーズに外道の悪役として呼ばれて演じきったからです。

 ハワード・ホークスが娘の彼氏のフリードキンに授けた教えの中に「悪い奴をぶちのめす映画を世間は求めている」という物がありますが、必殺シリーズはホークスの教えを完璧に体現しています。

 だからこそ、東山の悪行が白日の下に晒された今、渡辺小五郎が少年を陰間茶屋に売り飛ばすサイドビジネスに手を染め、バレて殺される以外の脚本は許されないのです。

必殺シリーズを作った男

 必殺シリーズは松竹の時代劇のドル箱ですが、本作の監督は東映から招かれた深作欣二です。これを無茶だと言う主水しか知らないファンを見た事がありますが、それは誤解です。

 そもそも、このシリーズは従来にない時代劇を作る為に、時代劇の最大手である東映ではなく敢えて松竹に依頼した経緯があるのですが、そうして作られた必殺仕掛人の最初の2エピソードは深作欣二を東映から借りました。

 つまり、パイロット版は深作欣二が作ったのです。むしろ本作で深作欣二がまた戻ってきたのは非常に有意義なのです。さらに言えば、仕掛け人の3話と4話は大映出身の三隅研次が監督しましたたし、本作を含めてシリーズの後半の作品は太秦の映画村を松竹が借りる形で撮られているので、このシリーズ自体が超党派的な性質を持っています。

 そして、大物の外部監督は怖いものなしなので趣味に走りがちで、深作欣二はその傾向が顕著です。

 JACを一緒に連れて来たのもそうですが、斬られ役は東映の慣れ親しんだ面々で固められ、仕掛人の第一話で悪代官を演じた深作欣二の親友、室田日出夫が御馳走役で出て来るのも色々と察する物があります。

ダメな奴が最強

 さて、シリーズの説明が終わったところで、本筋の方に入っていきましょう。

 映画は南町奉行(藤岡重慶)が賄賂をだまし取られた与力(石橋蓮司)にぶっ殺されるというシーンから始まります。

 深作欣二特有の暴力のロケットスタートは他所の会社でもお構いなしなのです。無駄にダイナミックなカメラアングル、命惜しさに逃げ惑うヘタレ同心ども、そしてセコい殺され役に藤岡重慶。時代劇であるという点を除けば、全てが東映のヤクザ映画と何ら変わりません。

 シリーズに欠かせない主水の上司、オカマの田中様(山内としお)が厠に逃げ込んで他の同心を入れないというのも、実に深作的演出です。

 結局逃げ遅れた昼行燈の無能同心、中村主水(藤田まこと)だけが尻尾切的に責任を取らされ、半年間減給50%という悲惨な罰を受けます。

 同心は30俵取りの薄給で、町人からの賄賂と奥さんの内職でどうにか生きていけるというレベルの収入です。おやっさんではない藤岡重慶ごときが殺される巻き添えを食って年収25%減はかなりの痛手です。

 主水は婿養子で、姑のせん(菅井きん)と妻のりつ(白木万里)に虐待されています。これはシリーズに欠かせぬ要素なので映画版でもちゃんと踏襲され、減給を理由に朝飯抜きという罰を受けてしまいます。これは実はシリーズ中では軽い方の虐待です。

 こういうダメ親父が実は最強の仕事人という設定も、このシリーズが世のお父さんに支持された理由なのでしょう。

酒か涙かアマゾネス

 このように家庭が冷え切っているので、主水は時々浮気をします。今回もおけら長屋なるしけた長屋に居酒屋を構えるおふく(倍賞美津子)という女に入れ揚げていますが、おふくもかなり乗り気というのはちょっと珍しいパターンです。

 おふくは人妻で、店を出す夢をかなえるために出奔した夫の帰りを待っています。

 アントンか?猪木なのか!?倍賞美津子と気まぐれ亭主だからアントニオ猪木ですよね。え?TBS系だから金八先生じゃないか?手前はすぐ妊娠する生徒にコンドームでも配ってろ、このバカチンが!

 この長屋は貧しいですが人情にあふれており、浪人の平野弥兵衛(室田日出夫)が取り仕切って頑張っています。

 梅安と左内の最初の的だった男が仕切っている長屋というのはろくな事になりません。頼れないのに妙に人望があるリーダー、それが室田日出夫の芸なのです。

 平野にはお弓(斉藤絵里)という娘が居て、浪人の杉江(本田博太郎)とデキているのですが、杉江は仕官するには賄賂が要ると知って刀を叩き折り、とにかく浮世の辛さを強調していく役割をこの長屋は担っています。

 しかし、ミス映画村の斉藤絵里と、伝説の『北京原人 Who are you?』で有名な本田博太郎のカップルとは、実に東映色が強い長屋です。

小姓奉行来る

 一方、南町奉行が殺されたので、後任の町奉行が着任します。それが若衆ルックで頭には力紙まで結った歌舞伎風ファッションでキメた奥田右京亮(真田広之)です。

 小姓まで連れて奉行所にやって来る右京亮の姿は完全に変態です。奉行でなければ奉行所に引っ張られるレベルです。ロックンローラー奉行です。

 とは言え、この時代考証を半分放棄した自由さこそが必殺シリーズの魅力であり、ひいてはテレビ時代劇の醍醐味でした。特に必殺シリーズは無茶苦茶するので、深作欣二はさぞ楽しかったでしょう。

 右京亮は与力同心に豪華な食事を出します。同心の一人は「若いからって舐められないようにしてて可愛い」などと二天一流なことを言いますが、味噌汁に一両小判が入っていて大騒ぎになります。

 付け届けです。勿論収賄は褒められたことではないのですが、江戸時代の経済は収賄が前提になった仕組みになっていました。だから30俵取りの微禄でも同心は飢え死にはしないのです。

 しかし、与力が25人で同心が100人が定員ですから、全員に1両賄賂を寄越したとすれば、右京亮は小姓の姿をしていても相当なスーパー攻め様アングルです。そして、小姓を女優が演じているのはちょっと頂けません。

マッドマックス旗本愚連隊

 主水はこういう賄賂はきっちりもらうクチなので、早速おふくに貢ぎに行きます。

 しかし、そこに馬に乗ったマッドマックス並みの変態ファッションの騎馬集団が長屋に殴りこんできます。カブキロックス風あり、Kiss風あり、志村けん風あり、まさにやりたい放題です。

 水戸黄門で一時期綱吉をやっていた堤大二郎率いるこの連中は旗本、つまり将軍直属の殿様たちです。

 俗に旗本七万騎と申しますが、基本的に役職の定員に対して武士は余っているので、このように旗本の地位にありがら仕事の無い無役の旗本がかなり居ました。

 その中にはこんな風に傾いて徒党を組み、市中で乱暴狼藉を働く「旗本奴」も居ました。旗本奴に立ち向かって殺されたのがかの幡随院長兵衛だと言えば、その重大さはご理解いただけるかと思います。

 これは完全に当時最盛期だった暴走族を意識しています。御役目がなくていじけているこの連中に、仕官が叶わず武士である事を諦めかけている杉江が立ち向かうというのは、基本的に暴走族が親のすねかじりの甘ったれである事も端的に示しています。

 ですが、必殺シリーズは基本的に江戸後期を想定して作られています。旗本奴が居たのは江戸前期で、時代が下がると旗本はどんどん困窮し、こんな遊びをしている余裕は無くなってしまうのです。

 そして、この旗本奴に平野が蹴り殺されてしまうのが実に良い演出です。流石に深作欣二は室田日出男のマブダチだけの事はあり、正しい使用法を誰よりも分かっています。

ノーパン夜鷹行くぞ!

 ここでついにお弓が身を売って3両の金を作って旗本奴の暗殺を依頼し、仕事が始まります。大体娘が身を売って安い金で仕事をするのがお約束です。

 とは言え、殿様3人が的で前金3両、後金3両というのはシリーズ随一の安い仕事です。

 ここで意味もなく背中の弁天の彫り物を披露して仕事人に仕事を持って行くのが、夜鷹のまとめ役でもある仕事人の元締、弁天(岸田今日子)です。

 元締もシリーズの重要なキャラクターです。タイトルによって居たり居なかったりですが、少なくとも原作の仕掛人は顔役(つまり親分衆)が依頼人と仕掛人を仲介します。

 そして、弁天が岸田今日子である事に注目です。このフォーマットはもう『傷だらけの天使』です。あのドラマも深作欣二が第1話を監督し、室田日出男も出演しています。

 そして、修と亨は精神的ホモである事が市川森一によって明言されています。しかも今回のヴィランは右京…なのは偶然ですが、偶然は時に奇跡を起こします。

主水のハーレム

 一方主水は基本的にチーム行動で、彼の事を「八丁堀」と呼ぶ仲間達とチームで仕事を敢行します。僅かの依頼料を分け合って仕事に向かうシーンが御約束ですね。

 一癖も二癖もある奴らが主水といちゃいちゃしたり衝突して、多くの場合表商売の道具を使って、かなり荒唐無稽に悪を殺す。この群集劇に熱狂した姐様方がやおいという分野を作ってきました。

 …が、本作における仲間の仕事人たちは影が薄く、ストーリーにあまり関与してきません。あくまでJACを中心にというのが本作のコンセプトだったのでしょう。

 とは言えスケジュールと設定(死ぬ奴が多い)の許す限りで二枚目が揃えられているのは、やはり深作欣二は客が見たがるものを分かっている証拠です。

 低いレベルで一番優遇されているのはを投げたり刺したりして戦う飾り職人の秀(三田村邦彦)です。これは当然の選択でしょう。

 何と言っても女性人気ナンバーワンで、やおい人気もナンバーワンですから。『太陽にほえろ!』においても三田村邦彦演じるジプシーはやおい人気が高く、まさにBLスターです。

 そして鍋釜の修理を生業とし、手作りの槍で戦う鍛冶屋の政(村上弘明)も長く登場した人気者です。

 秀と政はキャラがかぶっています。つまり、どちらも髷を結わない若手イケメン枠です。これは元々は沖雅也演じる棺桶の錠から始まった枠で、秀がこの枠を引き継ぎ、政に更に引き継がれてきました。

 女性人気が高いのでスペシャルや劇場版では抜けたはずの秀が戻って来て政と共演する事が多く、この場合どっちかが髷を結って差別化が行われるのが慣例で、今回は政が結っています。ですが村上弘明は髷が嫌いだとかで、ほっかむりをしています。

 最後が正義漢の蘭方医、西順之助(ひかる一平)です。蘭方医だけあって武器もハイテクで、ライデン瓶を使った電気攻撃、妙に手の込んだ投石器、豊橋の花火みたいな竹鉄砲と、シリーズによって道具は変わりますが、シリーズ後半の殺し技が奇抜化していく時期の象徴のようなキャラクターです。

 しかし、本格アクションでこんな変な道具を使うのは深作欣二も千葉ちゃんも嫌だったと見えて、本作では手りゅう弾を投げまくります。

 これに直接殺しをやらないサポートメンバーが加わるのが基本フォーマットで、本作では便利屋お玉(かとうかずこ)がこの枠を担当し、一応主水と仲間達の形が完成するのですが、今回は彼らが役立つのは最後の最後だけです。

ダークヒーロー真一

 閑話休題、あまりに割に合わない仕事なので、主水の仲間も含めて仕事人は皆嫌がります。

 しかし、弁天は夜鷹(売春婦)の出身だけあって身売りで仕事料を作ったお弓に同情的で、どうにか引き受けて欲しいと頼み込み、これに応じたのが流れの仕事人、わらべや文七(千葉真一)です。

 文七は股旅スタイルだけあって情に篤く、江戸の仕事人の薄情さと贅沢さを非難して超格好良い所を見せてくれます。このナルシズムこそが千葉ちゃんなのです。

 何しろこの映画はJACの若い衆の根性が資本であり、千葉ちゃんと深作欣二はズブズブを通り越してズボズボなので、千葉ちゃんが格好良くアクションを決めないと収まりませんし、第一お客さんが許しません。

 つまり、美味しい所は全て千葉ちゃんが持って行ってしまうのです。基本的にゲスト仕事人は優遇されるというのに、その上劇場版で誰が千葉ちゃんに逆らえましょうか?

 個人的におけら長屋に思い入れのある主水は安いのを承知で文七と共に単独で依頼を受け、早い者勝ちという事で競争になります。

千葉ちゃん大回転

 文七の武器は基本的に刀ですが、独楽を投げつけて的をひるませるという特殊能力を持っており、更には自分の子供を囮に使うという従来にない手口です。独楽と子供に気を取られている内に文七が近寄ってばっさりというわけです。

 柳生十兵衛で服部半蔵でもある千葉ちゃんが、木枯し紋次郎の格好をして子連れ狼的に仕事人をする。千葉ちゃんの欲張り!もっと!

 吉原で無茶苦茶楽しそうに野球拳に耽り、右京亮との癒着もにおわせる旗本どもに遊客にまぎれて主水と文七は忍び寄りますが、的の一つは文七が首を落して先手を取り、更には文七の息子の長次(岩戸隼人)が主水の目の前に飛び出して呆気にとられたところを文七は襲い掛かります。

 独楽がトレードマークだけにマントを靡かせながらぐるぐる回って三連撃を主水に食らわせる文七。スローモーションなんて使っちゃってクールです。どうやればこの衣装が格好良く見えるか知っています。

 基本的に主水は不意打ちで仕事をする上、藤田まことは時代劇スターの中では殺陣の技術は明らかに下の方なので、殺陣の上手い役者が演じる強キャラと正面切ってやると押されてしまうのです。吉宗や桃太郎侍と違って主水は無敵じゃないのも斬新だったのです。

かなしい文七一家

 文七は息子の長次を囮に使う世にも稀な家族経営仕事人なわけですが、更には仕事に失敗して逃げる主水に長次の姉であり、父文七から捨てられたおみつ(相楽ハル子)も絡み、事態がややこしくなります。

 千葉ちゃんが十兵衛だった頃に悦ちゃんと盛んにやっていた、実は血のつながらない家族設定がここで爆発します。つまり、文七はかつて親子3人で仲良く仕事人をやっていたのですが、おみつは子供から女になってしまったので文七は意図的におみつを捨てて突き放しているのです。

 いずれにしても、相楽ハル子の演技はアイドル歌手にしては上出来です。何しろビー玉のお京ですから、物を投げる不良娘の役には慣れているのです。

 そして19歳の全盛期なので超可愛いのが高得点です。文七が良からぬ事態を恐れるのは無理もありません。

尻一つで奉行職だとぉ!?

 並行して主水は秀に頼んで右京亮の素性を探りますが、秀は「陰間上がりかも」という情報を掴んだところで気味悪がってギブアップしてしまいます。

 陰間上がり!ゲイしかスターになれない時代劇の世界にあって、基本的に無かったことにされるこの職業にクローズアップしたのも、この映画が極めて高い評価を得ている理由なのは間違いありません。

 だって、真田広之が陰間ですよ。当時から千葉ちゃんとそういう関係だという噂はあったというのに。

 そして、主水は陰間茶屋まで聞き込みに行っちゃいます。東映系の明るく楽しい時代劇では吉原は出て来ても陰間茶屋は出て来ません。どうせ頼まれ仕事だからと深作欣二はやりたい放題です。

 老陰間(藤木孝!)が右京亮の若い頃と肌の素晴らしさを知っていて、ライバルが客と心中した事で役者に転身したという事が判明します。藤木孝の迫真のカマホモ芝居は必見です。

 毒を石見銀山と言うのにご注目下さい。これはいわゆる猫いらずで、石見銀山で銀のついでに取れるヒ素の事を指します。

 そこから更に役者時代の右京亮を知る楽屋番(草野大悟)に主水は辿り着き、右京亮は芝居は下手でもルックスが抜群なので大人気で、さる有名な寺から寺小姓にと誘われ、それを拒んだ座頭が強盗に殺された事でついに右京亮は武家となったと知ります。

 そして、右京亮をスカウトしたのが酒井雅楽頭であり、更には将軍の小姓にまで上り詰め、今や町奉行として主水の上司となっているのです。

 まさに尻一つのサクセスストーリー。貧乏旗本が老中になるくらいならよくある事ですが、陰間からスタートして町奉行というのはアクロバットです。しかし、真田広之なら不可能じゃないと思わせる説得力があります。

幕閣は悪

 右京亮を抱えたのが円光院という寺で、ここには実に東映っぽい隠し部屋があり、寺の坊主が女とチョメチョメしているのがのぞき見できる仕掛けがあります。

 ここで右京亮と密会するのが、老中酒井雅楽頭(成田三樹夫)です。やはり深作欣二は成田三樹夫の使い方が分かっています。

 しかし、酒井雅楽頭とは考えたものです。雅楽頭はその名の通り雅楽の元締めですが、この地位は姫路の殿様の酒井家当主が世襲していたので、いつの時代も幕府の中枢に居ます。誰なのか特定できない上手い仕組みです

 この覗き部屋は右京亮の考案した上様の為のアトラクションで、上様(中村錦司)は調子に乗って腰元おきく(小林ひとみ!)を押し倒して覗かれる側に回り、おきくが井戸に身投げして自殺したトラウマに苦しんで死にかけています。

 なりませぬ、よいではないかは悪代官のお約束ですが、帯回しに成功してマジでよいではないかしちゃうのは深作欣二ならではであり、AV女優のレジェンド小林ひとみならではです。脱ぎっぷりが異次元です。

 そして、中村錦司が上様というのも凄い話です。普段は上様に殺される役ばかりしていますからね。

 ですが、これはちゃんと理由があります。中村錦司の父親は初代中村吉右衛門の番頭を勤めていたので、その縁で松竹作品ではちょっと優遇される傾向にあるのです。

 ただ、この上様は多分異常性欲の家斉でしょう。間違っても吉宗ではないはずです。吉宗ってホモだし。

鋳掛ニンジャ

 右京亮は主水が仕事人である事に気付いていて揺さぶりをかけ、主水は残っている旗本を殺す必要に迫られ、また文七と的争いになります。

 しかし、毒手裏剣を使う忍者の妨害を受けて的は横取りされ、文七は手裏剣の毒にやられて死にかけてしまいます。

 更にはこの忍者は杉江の刀を盗んで旗本殺しの現場に残した為、旗本は杉江を犯人だと思っておけら長屋に襲撃をかけて乱闘になります。旗本も長屋の住人もJACなのでド派手です。

 実はあの忍者の正体は長屋に流れて来た鋳掛屋の九蔵(蟹江恵三)で、室田日出男を殺したのも実は九蔵でした。そして、九蔵の正体に気付いたおふくは店を持った亭主の居る江の島へ行く野を目前にして殺されてしまいます。

 蟹江恵三が忍者。実に胡散臭くて良い仕上がりです。しかし、この件についてはBL的の方に取っておきます。

マカロニ仕事人

 さて、長屋の住人の生き残りは立ち退き。旗本はみっともない抵抗を見せながら斬首。お弓は仕事の失敗を苦にして包丁で自殺。主水と文七は弁天に無茶苦茶嫌味を言われ、文七は九蔵を仕掛けて本当の敵討ちを決意。更に主水は九蔵の雇い主は右京亮と見て、それぞれお弓の弔い合戦に臨みます。

 つまり、この映画の最後の30分くらいはほぼ全部立ち回りなのです。深作欣二×JACですから、これくらいしないと客にショボいと言われます。

 文七は九蔵と無人になった枯れ葉舞うおけら長屋で壮絶な決闘になります。これはもう完璧にマカロニウエスタンです。平尾昌晃のマリアッチ風のBGMはマカロニウエスタンをイメージして作られているのでマカロニ風になるのは正しいのです。

 長屋を縦横上下一杯に使いながらの立ち回りは、タランティーノもビンビンになる出来です。勿論ここまでの殺陣は蟹江敬三に手に負えないので、JACのスタントマンが肩代わりしています。

 勿論子供達も来ているので、九蔵は長次を人質に取って「泣け、喚け、助けを呼べ」とキモい悪役ムーブを完璧に決めてくれます。

 そして文七が脱ぎ捨てたマントを着たおふくが囮になり、文七は刀を投げつけて九蔵に勝つものの、おふくを庇って多分毒べったりのサイを受け、子供達を両腕に抱きながら主水に残りの的を託して独楽を手渡し、息絶えます。

 最後は仕事人ではなく、父親として死んでいった文七。これは泣かせます。バイオレンス感動ポルノです。

生き残ったら勝ち

 主水と仲間達は事実上タダ働きで右京亮を殺す事を決意し、円光院へと殴りこんでいきます。

 一方、右京亮は不良旗本と貧乏浪人を粛清し、おけら長屋の地上げに成功した事を雅楽頭にべた褒めされ、御側用人に取り立ててやると約束されます。

 しかし、ここでどんでん返しが起こります。右京亮は上様に犯されて自殺したおきくの弟だったのです。死ねば負けと学んだという右京亮は、雅楽頭の酒に毒を盛っていました。

 生き残って出世するのが勝ちと考える右京亮は小姓と一緒に死んでいく雅楽頭を囃し立て、地獄絵図のような有様です。深作欣二が時代劇でやりたがる性癖が丸出しです。

 真田広之の色悪も見事ですが、成田三樹夫の死に様も見事です。やはりこういう役には成田三樹夫なのです。惜しい人を亡くしました。

 そこへついにずっと封印されていたあの必殺のテーマが流れ、主水と右京亮の対決がついに始まります。

 大胆にも首を取って見ろと言い放つ右京亮。JACの若手最精鋭を集めたと思しき無茶苦茶強い小姓たち。出番が少ないからここぞとばかり頑張る二枚目仕事人一同。レギュラー放送とはちょっと格が違いますが、お玉が二丁拳銃で頑張っちゃうのは何気にレアです。

カイロ仕事人

 右京亮は一人雅楽頭の死体のそばで高みの見物を決め込んでいましたが、外で待っていた幕臣たちが入って来ると薙刀を取り、ついにあの歴史に残るスーパー殺陣が始まります。

 ばったばったと薙刀で侍を切り殺す真田広之。一騎打ちになって明らかにスタントブルになり、いつもとは出来が違う動きで抵抗する主水。

 刀を飛ばされて脇差を抜いて大ピンチの主水ですが、ここでお玉が拳銃であっけなく右京亮を止め、主水の一突きで勝負が尽きます。

 これは『インディジョーンズ』のカイロソードマンをインスパイアしたのだそうです。ですが、カイロソードマンの死因が究極にはハリソンの手抜きだった(身体が悪くてアクションが無理だった)ことを考えれば、深作欣二はスピルバーグを越えたとも言えます。

 そして主水はおふくと長次が葬った文七の墓に、文七の形見の独楽を手向け、映画は終わります。

 テレビの3倍の尺ですが、密度は30倍です。胸焼けするほどのこの迫力こそ暮れには必要なのです。

BL的に解説

金パロ時代よもう一度

 本noteでこのシリーズを取り上げるのには重要な社会的意義があります。つまり、必殺シリーズはかつて確かに覇権ジャンルだったのです。

 やおいの黎明期、まだナマモノが主流だった時代が確かにあり、時代劇と刑事ドラマが非常に重視されていました。

 『太陽にほえろ』と本シリーズが金曜日に放送されていた事から、このジャンルは「金パロ」と呼ばれていました。

 現在の第一線の腐の母親世代、下手をしたら祖母世代の話です。これはもはやBL考古学、そして良い物は色褪せません。

 これを機会に金パロはいかがでしょうか?なあに、平日午後の再放送を撮りためればすぐに入門できます。

主水ハーレム説

 本作の主水の仲間はストーリー上そもそも居る必要が無く、最後の殺陣での露払いでしかありませんが、女性人気の高い面々が揃えられています。

 そして、これはいつもの事なのですが、最終的に主水はタダ同然で仕事をして、仲間達はそれに乗って付き合うのです。これは何気に尊い展開です。

 金の為に集まったプロと称しながら、男と男の絆に殉じてしまういい男達。これはもう『ワイルドバンチ』の世界です。いや、多分そのくらいは考えて作っているでしょう。

 それにしても、秀に政に順之助とは、狙ったと言われても驚かない組み合わせです。3人全員に疑惑が残ります。順番に説明していきましょう。

 まず第一に飾り職人の秀。まさに金パロの覇権を獲った男でありますが、この人にお熱なのは腐だけではないのです。

 最近の三田村邦彦がテレビに出た時の定番のネタは、「伊吹吾郎に迫られた」という物です。伊吹吾郎の方も近頃はオネエを隠す意思を感じません。

 まさか「優しく教えてくれてすごく気持ち良かった」などとは言えないので、真相は闇の中です。左門×秀、吾郎×邦彦、生々しくて非常に味わい深いものがあります。

 そして鍛冶屋の政。本作では鍛冶屋と称していますが、実は初登場した頃は花屋で、再登場の時に珍しい仕事人の一人です。

 生け花の師匠に育てられたという設定が、実に意味深です。あの種のゲイ事の世界でノンケ男が生きていけるとは到底思えません。むしろノンケ男の師匠の元に娘を安心して稽古にやれないですし、この種の徒弟社会では一人ホモが居れば弟子筋に伝播します。

 そして、村上弘明のキャリアも疑惑に包まれています。村上弘明を見出したのは、かの伝説のガチホモドマラ『同窓会』の脚本を手掛けた井沢満。何でも「酒場で見つけて」自分のドラマに起用し、ニューヨークやシスコに旅をして「ホテルでパンツを洗ってやったりした」そうです。

 これが井沢のブログに書いてあるのですから、もはやアウティングです。何も無かったと言っても私は信じません。

 そして西順之助、これはひかる一平が演じている以上、説明はいらないでしょう。ジャニーズなんですから。

 ひかる一平と言えば、金八先生でホモ疑惑回をやらされた男でもあります。これはキャスティングにごり押しをかけてくるジャニーさんへの抵抗とも取れます。

 そして、本作の時点でひかる一平はジャニーズを去っています。わざわざ爆死したはずの順之助を生き返らせたことが、深作欣二の無言の抵抗だとしたら?

 あり得ます。ジャニーズのごり押しで一番損をしたのは、他の男性アイドルとヤクザ映画関係ですから。

右京亮=ジャニーさん説

 これを私は真剣に考えています。『仁義なき戦い』の山守は昭和天皇を投影しているという説があるくらいなので、私の説だって許されるはずです。ジャニーさんと右京亮の共通点は驚くほど多いのです。

 まず第一に、病的なシスコンです。右京亮は姉おきくの無念を晴らすために雅楽頭を殺し、ジャニーさんはメリー喜多川を唯一信頼できる女だと思っていた節があります。

 そして、どちらも金と権力を手に入れる為に手段を選ばず、その為ならば他の誰かの人生を破壊する事も平気で、また金と権力があれば誰でも自分に従うと信じています。

 また、ジャニーさんは生意気なイケメンに掘られるのが大好きというのは古くから知られていましたが、右京亮も陰間上がりなので、やはり掘られる立場から掘らせる方向へ進んでいます。

 右京亮とジャニーズに共通点を見出した人は、右京亮が殺された事によって溜飲を下げたでしょう。そう言う意味では、この映画がシリーズの最高傑作なのです。ケツ作なのです。

右京亮尻出世物語

 さて、本題へ移りましょう。右京亮のキャリアからしてもはやBLの原作に十分なレベルです。

 幼くして陰間に売られたというのが、フィクションとして考えれば極めて耽美です。姉が将軍の腰元になったのを考えれば、やはり相当な美少年だったのでしょう。

 若き日の右京亮に未だほれ込んでいる藤木孝の「きめの細かい肌がいつも湿ってやがって」という評価はまさにホモは文豪としか言いようがありません

 そして、何故そんな事を知っているんだという話です。ちょっと触っただけではないのは明らかです。先輩の特権を行使したのは間違いありません。羨ましい…

 とにかく、またとない上玉なので、歌舞伎からスカウトが来ますが、右京亮には萩之介というライバルが居ました。芝居に行けるのは一人だけ。

 そこで右京亮はライバルに毒を盛り、容赦なくチャンスをものにしていきます。

 陰間は陰間同士を好むというので、やはりこの2人もデキていたのでしょう。一つしかない椅子を美しきものが奪い合い、毒薬が勝負を決める。これはもう大奥物です。

 そして役者に華麗なる転身を果たした右京亮。江戸三座の一つである猿若座に出演していたというのですから、相当な出世です。

 勿論、歌舞伎役者にとって色事は修行であり収入源です。文化だ何だと言ってみたところで、歌舞伎なんて物は結局は高級ウリ専のストリップですから。右京亮が売りまくったのは考えるまでもありません。

 そこへ酒井雅楽頭が右京亮を寺小姓にスカウトしますが、右京亮にほれ込んだ座頭が「渡さねえ」と突っ張るという三角関係がおっぱじまります。

 千両役者が惚れこんだ魔性の美青年右京亮。そして雅楽頭は権力を利用して座頭を殺害し、無理矢理ものにする。現実だとおぞましいですが、フィクションだと美しい展開です。

 そして権力への足掛かりをつかんだ右京亮は、雅楽頭の後押しで町奉行にまで上り詰め、あわや将軍と直接口を利く御側用人というところまで上り詰めるのです。

 ぞっとするほどジャニーズと似ています。これを全部ひとりの人間の人生に詰め込むとリアリティがないですが、一つ一つなら探せばありそうなレベルです。つまり、ジャニーズの倫理観は江戸時代レベルという事です。

雅楽頭×

 右京亮は総受けなので、久々にこの簡略掛け算でお送りします。

 この雅楽頭は完全にホモです。状況証拠もそうですが、そもそも明らかにそれをにおわせていますし、雅楽頭歴代の何人かは明確にホモの証拠が残っています。

 美男役者を小姓に欲しがって奉行まで取り立てるという時点で、雅楽頭は重篤なホモです。

 考えてみてください。歌舞伎役者は河原乞食と呼ばれるように差別を受ける賤民です。歌舞伎役者が成駒屋とか澤瀉屋とか屋号を名乗るのは、身分上許されないはずである表通りに家を構える為に、副業をやる為の店舗として届け出た名残なのです。

 百姓町人から武士になるのはそれほど珍しくないのですが、歌舞伎役者から武士になるのはかなり困難です。雅楽頭がその為に奔走したとすれば非難儲けたはずですが、雅楽頭は寺社奉行から老中まで出世し、権勢をふるっています。

 そう、右京亮もジャニーさんなら、雅楽頭もジャニーさんなのです。なんなら、権力をいい事におきくを弄んだ上様もジャニーさんです。これが本当のジャニーズです。

 そして、雅楽頭は成田三樹夫でありながら女を連れ歩いていません。これは異常です。だって、監督が深作欣二で成田三樹夫ですよ?愛人の2、3人は連れているのが筋です。

 つまり、この点からも雅楽頭がガチホモである事が読み取れます。実際、覗き部屋で小姓の手なんか握っちゃいますし、右京亮と同じ杯で酒を飲んだりします。

 しかし、右京亮にとって雅楽頭もまた、出世の為の踏み台に過ぎませんでした。

 長屋の地上げと旗本の粛清を果たした右京亮は、実はおきくの弟である事を雅楽頭に告げ、毒を盛られて死んでいく雅楽頭を小姓と一緒に囃し立て、家名に傷がつかないように卒中で病死という事にしてやると言ってのけ、雅楽頭のきせるで煙草を吸います。

 間接キスです。何しろ右京亮は陰間出身のエリートホモですから、雅楽頭に褥でこういう事をしてあげたのでしょう。

 雅楽頭は気の毒ですが、散々良い思いをしてから死んだので良いのでしょう。ジャニーさんと同じです。

九蔵×

 本作には一つがあります。九蔵が右京亮に義理立てする理由です。忍者なので素性不明なのは分かるとしても、あそこまでして戦う理由は何なのか?

 私は色事だと思います。つまり、右京亮は九蔵に仕事をするたびにご褒美に掘らせているのです。

 一見するとさえない風体の九蔵を色仕掛けで篭絡し、絶対服従のマシーンに仕立て上げる。これもジャニーさんのやりそうな事です。

 旗本の馬に手裏剣を投げつけて暴走させたのは九蔵ですが、それを主水に見つかり、右京亮は無理をしてもみ消す羽目になります。

 しかし、右京亮は九蔵に「お前らしくもない」などと妙に優しいのです。そして九蔵は相変わらず手裏剣を乱用し、証拠を残す仕事ばかり続けるのです。

 この不自然な構図も、右京亮=ジャニーさんと考えると合理的に説明できます。

 つまり、ジャニーズアイドルの不祥事はジャニーさんがもみ消します。全く同じ構図です。右京亮は偉い男とヤリまくった結果、気を使わなくていい蟹江敬三みたいなのが好きになってしまったのでしょう。

 しかし、九蔵を倒したのは家族愛に目覚めた文七でした。結局のところ右京亮にとって九蔵は出来の良い性具に過ぎず、九蔵は本物の愛を知る文七には勝てないのです。

主水×

 ついに主水もBLになります。まあ、念仏の鉄が主水の正妻だと私は信じますが。

 右京亮は着任の時点で小姓を連れて派手な行列など組み、与力旗本に小判をばらまいて奉行所を篭絡してしまいます。

 これはあからさまなスーパー攻め様態勢ですが、右京亮が受けである証拠があります。

 右京亮の頭を飾る派手な紙細工をご覧ください。これは力紙と称して、『暫』の鎌倉権五郎景政であるとか、『曽我兄弟』の曽我五郎であるとか、若くて元気一杯なヒーローが身に付ける物です。そして、このような若者は若衆です。

 陰間という言葉の起源は鎌倉権五郎景政(かげまさ)から来ているという説があります。これはまあ、やおいの語源は七曲署が矢追町にあるからというのと同レベルの話ですが、暫が一種のゲイポルノだという考えを江戸の庶民が共有していたのは確かです。

 そして曽我兄弟は敵討ちの過程で寺に預けられたという苦労談が定番です。源義経もそうですが、何故寺に預けられると苦労した事になるのか?そう、ホモ坊主の股間の薙刀がショタ侍の尻を襲うのです。

 つまり、力紙は受けアピールという事だと私は考えます。右京亮はスーパー受け様なのです。

 右京亮は主水に「私の時は見捨てないでくれよ」と意地悪を言って恥をかかせますが、主水はどうでもいい存在だと思っていたはずです。

 しかし、九蔵の手裏剣に主水が気付くと、おどけ者とは言いつつ九蔵に警戒を命じてちょっと気に掛け始めます。

 実際主水はアホに見えて捜査力があるのです。なんたってはぐれ刑事ですから。右京亮の尻一つのサクセスストーリーを陰間茶屋から振り出しにたどって円光院に辿り着きます。多分主水は藤木孝とヤったと思います。

 おまけに主水は覗き部屋まで見つけ出し、おけら長屋の地蔵に祀られているおきくと右京亮の関係に気付きます。

 しかし、そこへ右京亮が墓参りへやってきます。男は平気で殺すのに、殺された姉は大事にする右京亮。

 主水は見つかりそうになって秀の投げ簪に助けられますが、右京亮はお前が何を見つけても無駄と言う一方、「心を入れ替え、私に仕える気になったらいつでも参れ」とまさかのスカウトです。

 You、日の当たる座に就けてやるYoってなわけです。多分九蔵はこんな風にして右京亮に堕ちたのでしょう。

 この誘いに渡辺小五郎なら大喜びで応じるでしょうが、主水はそんなに安くありません。ついに右京亮との直接対決に至ります。

 応戦の構えを見せる小姓を制して自ら歩み出る右京亮。やはり真田広之はJACの申し子なので、千葉ちゃん以上の強い男フェチなのかもしれません。首を取ってみろ宣言などは、いかにも千葉ちゃんが好きそうな生意気ぶりです。

 それを証拠に、まずは小姓と戦わせてから右京亮は自ら主水と戦います。小姓に殺される程度の男と戦う価値はないと考えている証拠です。そして、小姓も結局は右京亮にとって道具でしかないのです。

 そして残り5分の所でついに一騎打ち。右京亮は簡単に殺されない主水を「やるじゃん」と褒めます。

 ここからが凄く意味深です。刀を飛ばされて慌てて脇差に持ち替えた主水に「そんな短ぇ奴で俺の首に届くのかよ!?」と来ます。これは掘れるもんなら掘って見ろという意味に取れないでしょうか?

 そしてここでお玉が二丁拳銃で割って入り、ついにその短いので刺されて右京亮は敗れ去ります。

 お玉が2つの硬くて熱いタマをぶち込み、最後に主水が後ろから熱くて鋭いのをぶち込んで、右京亮はイった。これはもはや完璧にセックスのメタファーです。

 一旦倒れて歌いながら歩いて死ぬというのも、まるで鶏みたいで印象的ですが、ホモセックスを古き良き日本語では鶏姦と呼びました。

 とすれば、右京亮の死に様は決して悪い物ではなかったのでしょう。強い男フェチにとって最高の死に方は、戦って死ぬ事です。

旗本愚連隊ホモサー説

 ここでちょっと箸休め。真面目に観れば単なる賑やかしに過ぎない連中ですが、BL的にはなかなかの珍味です。

 そもそも、時代背景を考えるとこういう連中がホモである事は驚くべき事ではありません。何と言っても武士道と衆道は不可分であり、友情と性愛に明確な区別のない時代です。

 それにこいつらは明らかにマッドマックスを参考に作られています。オーストラリアの暴走族がホモレイプをするのなら、旗本奴がやらないわけがないのです。茨城出身の深作欣二ともあろう人がその程度の事に気付かぬはずもありません。

 そして、室田日出男を殺してしまった自責の念からこいつらは吉原でどんちゃん騒ぎをして気を紛らわせようとしますが、金の無い時は男同士でというわけです。

 そもそも、一緒に女を買いに行くというのは実質ホモセックスです。もうこいつらは女が居ても居なくても同じです。

 野球拳で負けて女に包茎なのを馬鹿にされる旗本が、派手な赤い錦の褌を締めているのも注目に値します。これはノンケのセンスではありません。

 殺しに悩む旗本は宴会を早めに切り上げさせて早々にヤらせるというのもヤンキー特有の友達だけは大事にするホモソーシャルな精神であり、ホモとして消費すると美味しくいただけます。

 殺された仲間を荒っぽくもねんごろに葬り、奉行所に頼らず敵討ちを宣言しちゃうのも、ヤンキー物と同じ精神構造を感じます。つまりホモです。ここでブルっちゃうのは偽物で、アホなりに男気を見せてダチの為に根性見せるのがヤンキーの美学なのです。

 文七と九蔵の襲撃を受けた時も、殺された奴をわざわざ運んで雨の当たらない場所まで運んでやり、堤大二郎は凶器の刀を目利きして杉江に狙いを定めちゃいます。ヤンキーがバイクには詳しい的なものを感じます。

 「まだ成仏すんなよ、仇は俺が取ってやるからな」という言葉は、こいつらが糞ヤンキーである事を除けばかなり尊く、深作欣二のBL力が生きています。

 楔形フォーメーションでおけら長屋に進軍して来る姿には偽らざる友情が感じられます。

 しかし所詮はこいつらはイキりヤンキーなので、長屋の根性の入った浪人と九蔵の前に壊滅。戦死者を前に泣き、うなだれる3人の生き残りは即刻切腹を申しつけられ、抵抗した挙句斬首されてしまいます。

 全員死んだのが不幸中の幸いです。彼らは地獄で再開し、地獄の鬼も混ぜて永遠にホモり続けるのです。

文七×主水

 トリはやっぱりこれでしょう。やはり千葉ちゃんは攻めです。俺様野郎ですから。

 旗本3人で6両と聞いて手を引いた仕事人たちに嫌味を言いつつ引き受けちゃう文七は物凄くクールです。

 やはり、仕事人は金ずくのアンチヒーローとは言っても、正義を持っていないとやっていけないという哲学がこのシリーズの根幹にあります。文七は乱暴者で残酷かもしれませんが、誰よりも正義の心を強く秘めています。

 主水が文七を殺そうとしたのも、金の為というよりも、単純に江戸の仕事人の贅沢さが許せなかったからのような気がします。ゲスト仕事人は基本的に主水より強いので、別に主水を殺さなくても6両手に入れる事が出来たはずです。

 文七の襲撃で主水は左腕に傷を負い、後を付けて来たおふくを頼りに長次と文七が住まう河原の小屋まで辿り着きます。

 主水も本質的には正義の味方なので、子供を囮に使うという倫理的に不味い文七の手口と、内ゲバの危険さを説きますが、文七は邪魔者は必ず殺して通ると一匹狼宣言をかまして言う事を聞きません。おまけにおふくを突き放して主水もドン引く修羅場を演出します。千葉ちゃんらしいキャラクター造形です。

 従って2つ目の的争いでも文七が先行しますが、文七は九蔵の毒手裏剣を食らって窮地に陥り、長次は雨で風邪を引いて中村家に逃げ込み、せんとりつに気に入られ、主水と離縁して長次を養子にしようとか言い出します。主水がホモに走っても誰も責めません。

 一方、おふくが文七を家まで連れ帰って傷口から毒を吸い出す定番アングルを決めます。こんなのはもう濡れ場です。千葉ちゃんの趣味丸出しです。

 そこへ主水が駆けつけて来て、親子の情の欠如を非難しますが、長次もおふくも金で買った貰い子だと言って居直り、自分もまた仕事人に買われた貰い子だったと、主水の想像を絶する過去を語って主水の覚悟の欠如を非難します。

 金で買った子供でも邪険にしてはいかんと説く主水ですが、文七はおふくが欲情して噛みついて来たとかなりアブノーマルなエピソードまで披露します。そして満更でもない風に「女の情は仕事人の邪魔になる」などと言い放ちます。

 もうお判りでしょう。基本的には同心であり育ちの良い主水と、壮絶すぎる文七では見えている世界が違うのです。しかし、主水が女の情は邪魔理論に納得してしまうのは、主水も文七も精神的ホモの世界観に生きている点では同じという事です。

 そして、男と男の心の共鳴が決定的になるのが、お弓の自殺と弁天の説教を受けた時です。

 文七はお弓の無念を晴らすために九蔵を殺すと宣言し、主水もまた右京亮を殺すと誓います。的は違っても考えている事は同じ。お弓の恨みをはらすということ。これこそ必殺シリーズの美しさです。

 そして文七と九蔵は壮絶な決闘に臨み、長次とおふくの強力の末に相討ちで勝負を終えます。そう、かつてと同じように親子3人で勝利を拾ったのです。

 死に行く文七の元に主水が駆けつけ、文七は「的一つ残しちまった」と後悔の念を述べ、主水に独楽と後の事を託して子供達を腕に抱いて死に絶えます。

 ここまでくると健さんの任侠映画の世界観です。東映が培ってきた、最も美しい男と男が惚れる境地。ジャニーさんが嫌がって日本の映画から排除された物がここにあります。

 主水は御法度のタダ働きを承知でお弓と文七の仇を取りに行くと決意し、仲間達もこれに乗って右京亮の待つ円光院へと向かいます。

 仏も主水たちに味方したと見えて、主水は全てを終えておみつと長次が遺して行った文七の墓標に独楽を手向けます。そう、主水は文七と一緒に恨みをはらしたのです。

 無力な少年に「俺のソーセージを食え」などと言った外道はこの美しき境地には決して到達できません。なら外道らしく死ぬ役で幕を引けと私は思うのですが、それさえ叶いそうもないので、私はこのレビューを書き、こっちを観るべきと微力ながらもお勧めしているのです。

BL的に解説(ナマモノ篇)

JACホモ集団説

 ここからは禁断のナマモノ、金パロ時代でも憚られた世界になります。

 千葉ちゃんが両刀であるという噂は、昭和には既に存在しました。曰く、大阪の有名なハッテン場に出入りしている、曰く、JACとジャニーズは構造が同じである。

 どちらも大いにあり得る話です。ですが、一つ決定的に違う点があります。JACはあくまで責任能力がある大人が居る場所であり、千葉ちゃんはジャニーさんと違って自ら仕事をしている点です。

 千葉ちゃんがショタ時代の真田広之に英才教育を施したという説が本当だとすれば、やはりそれは非難されるべき事でありましょう。

 そして、ジャニーズが非難される事をしたとしても、作って残した物を排除する事は許されないと私は思います。

 後は残った物をどう評価するかですが、それは個人の問題です。私はJACがハッテン場であったとしても、千葉ちゃんと教え子たちが作った物を評価します。そして、それはジャニーズ支持の方向で頑張っている方も同じでしょう。

 やはりキャンセルカルチャーはいけません。ジャニーズの面々のごり押しは絶対に許容できませんが、市場原理に基づいて適正なギャラで芝居の出来るジャニーズは生き残るべきですし、それを邪魔するのは問題があります。

 おい岡田、ここはひとつジャニーズを代表して禊はどうだ?ホモの家光役とかどうだ?

深作欣二×真田広之

 まさかと思うでしょうが、私は案外あり得ると思います。

 というのも、真田広之は確かに日本が世界に誇るアクションスターですが、同時に男とキスする役やゲイの役を何度もやっています。一回ならノンケもやるでしょうが、何度もやるのは本物というのが私が提唱している仮説です。

 私が把握している限りでも、『魔界転生』でジュリーと、『新宿鮫』で奥田瑛二と、原作者たっての希望で設定を曲げて『最終目的地』ではアンソニー・ホプキンスとキスしています。

 そして、本作では初めてガチホモ役を演じたわけです。これがどういう意味か分かりますか?そう、BLスター真田広之の道を作ったのは、深作欣二なのです。

 魔界転生でホモキス、本作でガチホモ、深作欣二は常にそっち方面で真田広之に新しい道を開いて来たのです。You,千葉ちゃんみたいになりたいかい?というわけです。

 しかも、ジュリーとのホモキスは現場での思い付きで行われた物です。それで本作ではあの有様ですから、これは深作欣二が真田広之はホモ役が似合うと確信していた証拠です。

 女好きで知られた深作欣二が実は男も好きで、千葉ちゃんからちょいちょい借りていた。ありそうな話です。ゲイの貞操観念はノンケと違うので、ガチホモの世界では貸し借りは普通にありなのですから。

お勧めの映画

 独自の統計(主観)に基づきマッチング度を調査し、本noteから関連作品並びに本作の気に入った方にお勧めの映画を5点満点にて紹介し

千葉真一追悼企画
『激突!殺人拳』(ダークヒーロー千葉ちゃん)
『沖縄やくざ戦争』(悲惨な目に遭う室田日出男)
『空手バカ一代』(やっぱり悲惨な目に遭う室田日出男)
『トラック野郎 度胸一番星』
『戦国自衛隊』(真田広之大活躍)

今までのレビュー作品はこちら

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