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第42回 激突! 殺人拳(1974 東映)

 ここの所追悼特集ばかりやっていました。理想を言えば死んでほしくないのですが、人は必ず死にます。

 東映ヤクザ映画を彩ったスターはほとんど天国東映に移籍してしまいました。しかし、千葉真一だけは50歳も年下の愛人をこさえたりと全く移籍の気配を見せません。それでこそです。

 しかし、千葉ちゃんは案外ヤクザ映画に出ていません。千葉ちゃんにとってヤクザ映画は出稼ぎに過ぎず、カラテ映画というジャンルを一手に担う一国一城の主だったのです。

 今回紹介する『激突!殺人拳』はそのカラテ映画の第一作であり、日本映画として初めて海外でヒットした歴史的一本です。かくして千葉ちゃんは世界のサニー千葉になったのです。

 金次第で汚い仕事も平気で請け負う千葉ちゃんが、本作が出世作の石橋雅史と、千葉ちゃんの秘蔵っ子である志穂美悦子の兄妹との因縁を中心に暴れ回る、血と汗の臭いが立ち込めて来る本格的アクション映画です。

 空手界の協力を取り付け、JACの若い衆やピラニア軍団が無残に殺され、山本麟一、遠藤達郎、渡辺文雄、天津敏と東映自慢の悪役俳優が胡散臭く暗躍する。東映イズム満載の脳筋映画です。

 そして、私には我慢ならない事ですが、本作はBL映画として過小評価されています。実は本作は千葉ちゃんと山田吾一の内縁の夫婦愛が裏のテーマなのです。

激突! 殺人拳を観よう!

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真面目に解説

日本映画と海外市場
 日本映画が海外で売れないのは今に始まった話ではありません。非英語圏の映画が国際市場で苦戦するのはどこでも同じですが、日本の場合国内市場が大きすぎるのです。

 例えば、韓国映画が近年注目を浴びているのは韓国だけで当たっても商売にならないという事情があるわけです。その点日本映画は日本でだけ当たればそこそこの金になってしまいます。

 昔から世界的な映画賞はちょいちょい取っているじゃないかとお思いの方もいるでしょうが、賞と興行は別問題です。素晴らしい芸術品のゴタールの映画を午後のロードショーでやりますか?

 だからこそ海外でもアクションスターとして名を知られた千葉ちゃんは偉大なのです。世界のクロサワ世界のキタノと言ってみたところで、海外ではシネフィルにしか知られていないのですから。


カラテ映画というジャンル
 本作の公開当時、東映の柱は実録ヤクザ映画でした。しかし、その他の作品にヒットが出ません。そんな間にもどんどん実録映画のネタは枯渇していきます。

 そこで東映が目を付けたのが、世界的に流行っていたカンフー映画でした。カラテの心得のある千葉ちゃんで似たのを作れば売れるだろうという当時の東映らしい雑な発想で本作が作られました。

 千葉ちゃん達の根性が資本なので金もかからず、上手く行けば香港との合作も作れるという目論見でしたが、ヤクザ映画を仕入れに来たアメリカの配給会社の目に留まり、想定を上回る大当たりをしたわけです。

 当時の世間の空手観は『空手バカ一代』か柔道物の悪役くらいでしかなく、非常にミステリアスな存在でした。

 その上カンフー映画より一層生々しくえげつない空手の技を東映がどぎつく味付けしたので、一回観たらもう忘れられない強烈な一本に仕上がりました。

 ヤクザ映画でリアリティを出す為に本物を使うという手法を得意とした小沢茂弘監督らしく、本物の空手家を使ったのも勝因でしょう。

 京都にあった日本正武館の協力を取り付け、会長である鈴木正文氏も美味しい役どころで出演しています。空手の方はともかく、芝居の方はアレでしたが…

千葉ちゃんのリアル
 若い世代の人にとって千葉ちゃんは関根勤のモノマネから窺い知る物なのでしょう。そして、そういう人は本作を観たら驚くはずです。あのモノマネはよく似ていて決して誇張ではないのです。

 絞め殺される鶏のような不思議な呼吸法、やたらとタメの多い構え、表情の豊かさ、ほとんど歌舞伎のノリですが、あのオーバーアクションこそ千葉ちゃんなのです。もう人間とは別種の獣です。

 そして千葉ちゃんなので無茶苦茶強いのです。空手は総合武術なので武器術もばっちりです。手裏剣なんて投げちゃいます。外国人が大喜びするのは無理からぬ話です。


ダークヒーロー対決
 単純な勧善懲悪ではないのもポイントです。千葉ちゃん演じる主人公の剣琢磨は金次第でどんな汚い仕事もやるプロの悪党です。

 一方、ライバルである石橋雅史演じる志堅原楯城(しけんばる たてき)に至っては道場破りで人を殺した死刑囚です。

 死刑執行を控えた志堅原を、志堅原の兄弟から依頼を受けた剣が坊主のふりをして面会に訪れ、脱走の手引きをするところから映画が始まります。いきなり看守の目を盗んで一戦交えちゃうあたり、やっぱり東映は分かっています。

 石橋雅史は舞台役者で本格的な映画出演は初でしたが、大山倍達の高弟というガチの空手家であったことから抜擢され、本作のヒットでスターとなり、カラテ映画の悪役として欠かせない存在となり、また時代劇や戦隊物でお馴染みの悪役俳優となりました。

 どっちも悪党ではありますが、悪党なりに一本筋が通っているダークヒーローなのがたまらないところです。金子信雄あたりとは悪の次元が違うのです。

 志堅原は徐々に悪に落ちていきますが根本的には強さを追い求める求道者であり、剣は悪党なりの仁義を標榜し、存外に義理堅い所があります。タランティーノが痺れるのは当然です。


館長
 剣はその後香港の組織ともめつつ、産油国の石油会社の相続争いに介入して稼ごうと目論みます。跡取りのサライ(中島ゆたか)という娘が親類の政岡(鈴木正文)の空手道場にかくまわれているというので奪いに行きます。

 剣は道場空手に病的な敵意を燃やしていて、門弟を片っ端からぶちのめしていきますが、最終的に政岡に敗れます。

 鈴木正文は高名な空手家で、笹川良一とかアントニオ猪木といった胡散臭い連中とも親交の深い大物です。猪木とモハメド・アリの試合のレフリーはこの人でした。流石に組み手は見事ですが、芝居はちょっと残念です。ただし、有無を言わせない貫禄があります。

 政岡は憲兵にスパイの嫌疑をかけて殺された剣の父親とも旧知の仲です。中国で拳法家と親交を深めていたので殺されたのです。

 『イップマン』でも書きましたが、これはリアルな話です。当時は日中で技術交流が盛んに行われました。行き過ぎてスパイ疑惑をかけられた人も実際いたようです。

 とにかく、剣を倒した政岡は父親の件を持ち出したり才能を持ち上げたりして剣を丸め込み、剣をサライの護衛として雇う事で収まります。

 その後剣は政岡をなんだかんだと慕うようになり、その後のシリーズにも出演を続けるのです。


悦ちゃん頑張る
 こんな字のハッテン場のようなnoteでなんですが、第一に注目して欲しいのは楯城の妹の奈智演じる志穂美悦子です。日本史上初の、そしておそらく今後も唯一のアクションスター女優です。

 千葉ちゃんの作品にバーターとしてようやく出演し始めた頃ですが、強くて可愛い悦ちゃんはもう既に完成されています。そして珍しくミニスカートです。

 長渕剛がムキムキになったのは、夫婦喧嘩で彼女に半殺しにされたからだという有名な伝説がありますが、それも納得の身体能力です。石野真子が気の毒でなりません。

 しかし、依頼料を払えずに兄の義順(千葉二郎=千葉ちゃんの弟)は殺され、奈智はヤクザに売り飛ばさて組員に味見されてしまうのです。悦ちゃんの濡れ場は私の知る限りこれが唯一です。貴重な映画です。

 そして最終的に志堅原と合流して二人で剣とのラストファイトに臨むのです。この戦闘シーンは映画史に残る壮絶な仕上がりで必見です。

 そして、今作のヒットで女バージョンも作ろうということになり、千葉ちゃんのプッシュもあって彼女の主演で作られたのが『女必殺拳』です。カラテ映画の分派を担いコンドームを超越した女、それが志穂美悦子なのです。


怪人集団
 しかし、カラテ映画を印象付けるのは何といってもアクの強い悪役達です。変態一歩手前の格好と珍妙な殺し技で千葉ちゃんに殺される武術家に、弱さを逆手にとって無様かつ印象的に殺されるヤクザ

 彼らなくしてカラテ映画は成立しません。いきおいピラニア軍団の活躍が必要になります。

 当時はまだピラニア軍団は結成前ですが、千葉ちゃんはピラニア軍団の後ろ盾なので、有名どころは大体出ています。

 特に川谷拓三の殺され方は映画史に残る完璧なものです。ある意味彼も国際俳優なのです。

 悦ちゃんを味見するヤクザの中に黒人のおじさんが混じっているのも注目です。この人はチコ・ローランド。関西の人なら知っているはずです。那智黒飴のCMで婆さんと一緒に踊っていたあの人です。

 「ミーが可愛がってあげる、ヒヒヒ」と超棒読みでズボンを脱いで悦ちゃんに襲いかかる様に世の少年は股間を熱くしたのです。

 そして最終的に千葉ちゃんに壮絶な殺され方をされます。拓ボンと並ぶ今作の裏のMVPです。

 健さんに斬られる印象ばかり強い天津敏が還暦過ぎというのに座頭市のパチモノとして斬る側で千葉ちゃんと相対するのも面白い所です。実は天津敏は殺陣が上手なのです。実に胡散臭く格好良い仕上がりです。


ディンサウ親分

 悪代官の寄り合いのようなキャスティングの映画なわけですが、中でも印象深いのが志堅原が逃げ込んだ香港は九龍城のボス、ディンサウ(山本麟一)です。

 この映画の香港観は実にいい加減で、ディンサウと手下多たちは変態を一歩踏み超えた京劇みたいな恰好をしています。

 ですが山本麟一は健さんの大学の先輩で盟友なので、やっぱり任侠映画のテイストが抜けません。義侠心に富んだまったくもって素晴らしい親分です。

 登場早々に警察から部下を庇い、日本から流れてきた志堅原を腕を見込んで拾ってやり、売り飛ばされてきた女に混ざっていた奈智を買い戻す為に剣抹殺の仕事を周旋します。面倒見抜群です。

 そして一緒に日本について行って剣と対峙します。ディンサウとは首切りという意味だそうで立派な青龍刀を持っていますが、素手には素手と男気を見せて互角の勝負です。

 仲間が介入すると露骨に嫌がります。そして捕まって処刑される寸前の剣を明らかにわざと脱出させ剣のような強い男に後を継がせたいとこぼすのです。

 そして、志堅原が勝てば九龍城をやるという条件でラストバトルをお膳立てします。そして拳銃で介入したサライの石油会社の偉い手を激怒してぶった斬ります。

 その一方、奈智の介入には何も言いません。なんとも立派な親分が居たものです。九龍城を治めるにはこのくらいの器量が必要なのです。


嫁はラクダ
 本note的にこの映画の最大の肝は剣の相棒であるラクダの張(山田吾一)です。山田吾一は本作が文句なしに代表作です。

 シンガポールで命を助けられたとかで、胡散臭い中国人風の訛りで剣を「大人(ターレン)」と呼んで慕い、日常生活の世話から仕事の助手まで、まるで嫁さんのように尽くします。ディンサウが江戸っ子口調なのとはえらい違いです。
 
 その愛が行き過ぎて話をややこしくし、二人の仲は悲劇的結末を迎えるのですが、それについてはBL的解説の方に譲ります。

ラストバトルは盛大に
 最終的に剣はサライの会社のタンカーに乗り込み、チンピラをどしどし殺しながら志堅原とのラストバトルへと突き進みます。

 志堅原との戦いもさることながら、このチンピラ相手が見事なのです。まさに暴力の大喜利、殺しの見本市状態です。そりゃあアメリカ人も大喜びするのは当然です。

 そして最終的にディンサウの仲介の元、嵐の甲板で志堅原との九龍城とプライドをかけた大勝負に臨みます。出演者一同寒くて死にそうになったそうですが、それだけに凄味があります。

 特に有名な最後の決まり手は次作の伏線にもなっています。石橋雅史の役者人生がこのラストバトルで決まったと言っても過言ではありません。

BL的に解説

剣×志堅原
 二人の強烈なファーストコンタクトからこの映画は始まるわけです。死刑執行を前日に控えても鍛錬を怠らない求道者志堅原。

 そこへ剣が坊主のコスプレで訪ねて来るや使い手と気付き、「首里手派か?那覇手派か?」と客を置いてきぼりにしたマニアック空手トークを展開します。

 そして「今生の名残に貴様のような男と立ち合ってみたかった」と強烈な求愛をおっぱじめます。

 志堅原は道場破りで7人も殺したという病的な強い男フェチです。千葉ちゃんのような極上のオスを前にして我慢できようはずがありません。

 二人の間にはいろいろな因縁が重なっていくわけですが、根っこは結局のところ志堅原の強い男とヤりたいという欲望でしかないのです。

 案の定おっぱじめてしまう二人。手錠を付けている上に栄養状態も思わしくない志堅原は敗れます。しかも全身が痺れる秘孔なるものまで突かれてしまいます。

 BLでそんなものが出てきたらやる事は一つですが、あいにくと時間がありません。「もう一度戦いたければ」と強い男フェチの扱いを心得た事を言って、剣は志堅原に脱走の手引きをします。

 手引きと言っても絞首台から転げ落ちて病院送りになり、そこを浮浪者のふりをしたラクダが襲撃して志堅原を奪い取るというかなり雑な方法です。しかし、もはや剣とヤる事しか考えていない志堅原は平然と飛び降ります。

 志堅原はかくして香港に送り込まれるわけですが、義順と奈智の兄弟は約束の依頼料を払いきれず、義順は剣との立ち合いで勢い余って窓から落ちて死に、奈智は300万円で売られてしまうのです。

 そしてディンサウの下でたまたま志堅原と奈智が再会してしまったために事態はややこしくなります。欲望に因縁が積み重なって志堅原は完全なヤンホモに変身してしまうのです。

 そして石油会社の方で忙しい剣の元に兄妹二人で押しかけます。剣は忙しいので対戦を拒否しますが、志堅原は「俺の技が怖いのか?」と強い男フェチ特有の挑発をしてサイを投げつけ、更には誘拐されたサライの居場所の情報提供で執拗に剣と戦おうとします。

 志堅原はディンサウに雇われている以上この情報提供は利敵行為ですが、そんな事は志堅原にとってコンドームほどの価値もありません。第一、ディンサウも強い男フェチなので許してくれるでしょう。

 剣はサイを取って奈智を狙いますが、「貴様を倒すためら妹は喜んで死ぬ」そうです。妹公認となるともう手に負えません。剣も逃げるしかありません。

 そして志堅原と剣はディンサウの仲介で嵐の中空手家同士の決闘に臨みます。これが本当の濡れ場です。

 奈智が剣にしがみついて二人一気にサイで串刺しにするなどSMも挟みつつ、奈智の捨て身の攻撃で剣が弱る一方で志堅原はいよいよ剣を殴り倒し、とどめを刺しにかかります。

 しかし、なんと剣は志堅原の喉を掴み、引きちぎるという強烈な荒業で一転攻勢を果たし、リバでこの実質セックスは幕を下ろします。

 しかし、志堅原は死にませんでした。続編で二人の愛は第2ラウンドに突入し、ますます爛れていくのです。むしろ、BL的には本作のラストファイトは前戯でしかないのです。


九龍城ハッテン場説

 二人の仲をお膳立てしたのがディンサウ親分ですが、考えて見ればこの人も大概怪しいのです。志堅原の上を行く強い男フェチです。

 そもそも九龍城に警察が踏み込んできたのは手下のナイフ使い猿道子(溝口久男)が人を刺したからです。

 何故刺したか盲狼公(天津敏)に問われ、「ボスの悪口言った」とキレる十代みたいな答えです。つまり、悪口が殺人の動機になる程ディンサウと子分たちの絆は深いのです。これはもうホモです。

 そして警察に連行されかけて暴れる志堅原をディンサウは気に入り、子分に引き入れて売りに出される女を抱かせてやろうとした結果、奈智と志堅原は再会するのです。

 志堅原は奈智を買い戻す為に「仕事が欲しい。何でもする」と言っちゃいました。ん?今何でもするって言ったよね?

 ディンサウは剣の抹殺と言う願ったりかなったりの仕事を斡旋してくれますが、これはちょっと虫が良すぎます。

 そう、ディンサウは志堅原の尻に股間の青龍刀を向けたのです。「お前の身体で払ってもらう」と言われてどうして志堅原が断れましょうか?

 そしてディンサウはサライを奪い返した剣にも特に必然性なく素手で勝負を挑みます。そして拳で河原の石を叩き割る程の腕前で剣を追い詰めますが、最終的にそのパワーが活用できない関節技に行きます。

 絡み合い押し合いへし合いする二人。ホモで強い男フェチのディンサウにはご褒美です。さぶミッションというくらいですからね。

 しかし、女幹部の楊紀春(風間千代子)が拳銃で邪魔を入れ、ディンサウは「手前ら邪魔するな」と露骨に嫌そうにします。しかし、職務上の責任もあるので嫌々ディンサウは剣を開放します。

 剣はサライの居場所を吐かせるために木に縛られて拷問されますが、先っちょだけで欲求不満なディンサウがラクダを捕虜にすることでラクダからサライの居場所を聞き出します。

 楊は非道なオメコ芸者なので剣を始末しようとしますが、ディンサウはこれを阻止します。

 そして自ら始末すると申し出て、剣を縛っている縄を斬って剣を谷底の川に放り込みます。

 明らかに剣を殺したくないという強い男フェチ特有の下心です。楊の「また悪い癖始まったね」という言葉が、彼のセクシャリティが香港において公然の秘密である事を物語っています。

 そして剣がタンカーに乗り込んできたと聞いて九龍城を剣に任せたいととんでもない事を言い出します。強い男フェチはBL的映画鑑賞における基本ですが、ここまでのケツ物はそうはいません。

 そして勝てば志堅原に譲ると焚き付けるのです。二人の戦いはディンサウとしては是非見たいのです。

 そして邪魔をした石油会社の偉い人をぶった切ります。「汚ねえ真似しやがって」と健さんイズム全開です。

 男と男の真剣勝負と言う神聖な行為を妨害するなどディンサウには絶対に許せない行為なのです。あいつらは言うなればAVのモザイクです。


政岡×剣
 千葉ちゃんは言うまでもなく総攻めですが、何事にも例外があります。剣は素直にはなれませんが明らかに政岡を慕っています。

 道場空手を敵視する剣にとって、デカい道場を作って若者を侍らす政岡など唾棄すべき存在です。

 門弟も次々ぶちのめしていきますが、最終的に政岡が自ら勝負を買って出ます。そして圧倒されて昏倒してしまうのです。

 そして政岡は剣が大陸で親交を結んだ剣れいざん(字は不明)の息子ではないかと気付くのです。

 空手と中国拳法の親善に努めていた剣の父はスパイの嫌疑をかけられ、剣に「人を信ずるな」と言い残して処刑されます。剣にとっては歪んでホモに走るに十分な壮絶な過去です。

 そのことがフラッシュバックして息を吹き返した剣はワイヤーアクション丸出しの三角蹴りで政岡に一矢報いますが、結局サライの強奪を諦めて護衛として自らを売り込みます。世界一ワイルドな就職活動です。

 強引にキスされたサライは「こんな野獣みたいな人に守られるなんて死んでも嫌」と拒絶しますが、いくら中島ゆたかとは言えコンドームでしかありません。マンコントロールの原則に基づき、彼女の意思は無視して話は進んでいくのです。

 政岡は大物なので剣の売込みに応じ、「君の胸の奥にはれいざん先生の怨念が渦巻いているのではないか?そうあって欲しい」となかなか哲学的に水を向けてきます。

 剣は「親父は親父俺は俺」と一茂みたいなことを言って照れ臭そうです。こりゃもう完全に落ちました。

 その夜、ラクダを門弟に始末させ、政岡は剣に襲い掛かるのです。剣は抵抗するかもしれませんが、政岡の前には無力です。

 おそらく政岡は剣の父ともデキていたのでしょう。『イップマン』でも述べましたが、中国拳法には房中術も含まれているのです。二人で試してみたとしても何ら驚く事はありません。

 昔愛した男の息子を手懐け、自分のものにする。これの男の夢の前には50歳下の愛人などコンドームほどの価値もありません。


剣×ラクダ

 トリは勿論この二人です。いくら命の恩人とは言え、ラクダは剣が好き過ぎます。一つ屋根の暮らすこの二人は完全に夫婦です。

 お世辞にも強いとは言えず、家事の能力にも疑問の残るラクダを剣は相棒として手元に置いておく。これも愛です。

 何かというとラクダの鼻の穴に指を突っ込むのもかなりホモ臭い愛情表現です。夜は別の穴に突っ込むのは明白です。

 「染みの付いたパンツまで洗わせるくせに」などと言ってしまいます。事実だとしてもノンケは言わないセリフです。どうして染みが付いたのかは説明するまでもないでしょう。

 ラクダは剣のトレーニングのパートナーも務めます。どう見ても実質セックスです。カメラの回っていないところでは腰のトレーニングに忙しいわけです。

 剣が政岡にのされた後もラクダは甲斐甲斐しく介抱します。ここまでくると妻と言うより母親という趣さえあります。親無しのファザコンである剣がラクダに母性を見た時、何が起こるのか?胸の奥に欲望が渦巻くのです。

 隙を見てサライの財産を奪い取ろうとサライを付け回す剣とラクダですが、サライは誘拐され、ストーキングしていた二人の車はクレーンで川に放り込まれてしまいます。

 狼狽えるラクダに剣は「ラクダ、離すな」と愛情を爆発させます。そしてとどめを刺しに来た拓ボンを血祭りにあげ、剣は鼻に穴に指を突っ込みながら血だらけのラクダを介抱するのです。

 奥様にこれだけの男気を見せる事の出来る男が世間にどれだけいるでしょうか?二人の夫婦愛は並ではないのです。

 志堅原の横やりをどうにかかわし、サライの奪還に成功した二人でしたが、剣は捕虜になり拷問されます。勿論千葉ちゃんなので殺されても白状するわけがないのですが、ラクダは違います。

 楊もディンサウというガチホモと付き合っているので男同士の愛の機微はそれなりにわかるらしく、ラクダにサライの居場所を吐かなければ剣を殺すと脅しをかけます。

 ラクダ当人を痛めつけるよりも効果的です。剣は「やりかけた仕事だけは捨てるんじゃねえ」と男気を見せますが、ラクダにとって大人の命の前には仕事もサライもコンドームの空き袋ほどの価値さえありません。

 ディンサウのおかげで命拾いした剣をラクダは川から引き揚げて蘇生させます。当然人工呼吸したはずです。

 そして温泉療養を提案します。温泉で裸の付き合いもとい突き合いしようというわけです。

 しかし、剣はラクダが口を割ったのに怒り、「手前それでも金玉ぶら下げた男か」とホモ臭い決め台詞でコンビ解散を宣言します。

 ラクダは狂乱状態になり、「相棒でなくていい、奴隷でいいのだ」とノーリスクな提案をして食い下がりますが、結局二人は決別してしまうのです。

 剣はサライがタンカーに連れ去られたのをかぎつけて乗り込んでいきますが、盲狼公が待ち受けています。籠手で剣を防御する外人大喜びの格好良い戦いを見せる二人ですが、何しろ天津敏なので一筋縄ではいきません。

 そこへ何者かがバイクで駆け付けてきて邪魔をします。男は盲狼公に切られてしまいますが、これで流れが変わり、剣は勝利します。

 勿論この男はラクダです。虫の息のラクダに慌てて駆け寄る剣。剣の中でダークヒーローの哲学がラクダの愛の前に敗れた記念すべき瞬間です。

 ラクダは己の弱さを恥じ、「シェイシェイ」と言い残して息絶えます。そんなラクダの鼻に指を突っ込み、涙を流す剣。なんと美しい愛でしょうか。

 『トップガン』はホモ映画だと言い切ったタランティーノが、このシーンにホモを見出さないわけがないのです。まさに全米が泣いた愛です。

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