マガジンのカバー画像

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙

9
ある日突然、〝弟〟から〝私〟に手紙が届いた。30年以上音信不通だった〝弟〟はカトリックに改宗し、山中の無言の行を行う修道院にいると言う。 弟はなぜ、修道士の道を選んだのだろうか?…
運営しているクリエイター

#信仰生活

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第3章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第3章

 正月の三が日が明けると裕人は息子を連れて発っていった。世界各国の友人たちに年始の挨拶をするために、プライベートジェットで飛び回るのだ。
 一緒に行かないか、と誘われたこともあったが、私は頑なに断った。体の具合が悪くなるから、と言い訳をして。「ちぇっ。つまらない女だ」一度裕人が吐き捨てるように言ったのを、いまでも覚えている。心から軽蔑するような表情を浮かべて、苛立ちながら、長いあいだ無言で私を睨み

もっとみる
【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

【短編小説】 シャルトリューズからの手紙 第4章

 4度目の便りは、それから1ヶ月後に届いた。


 お姉さん、お元気でお変わりなく過ごされていることをお祈り申し上げます。僕がこの修道院に入ってから、もうすぐ1年が経とうとしています。僕は元気です。少なくとも、表面上は……。
 相変わらず、祈りの日々を続けています。夜11時30分に起き、自分の房で祈りを捧げ、零時15分には礼拝堂に移ってほかの修道士たちと朝課を行います。午前3時になるまで賛課は続

もっとみる