「好き」を代弁するデザイン。
こんにちは!マネージャーのFです。
前回きりよく最終回みたいな終わり方をしましたが、まだまだ当分続きますよ~。
この仕事に就いて一番「おもしろいなあ」と感じるのは、人の「これが最高なんですよ」「とにかくこれが好きなんです!」っていう、並々ならぬこだわりや愛情にふれたとき。
でもそのほとんどは、お客さまが外から持って来てくれるものだったりします。
ご依頼をいただいて、まずはお客さまのこと、その業界のことを知っていくところから始まるんですが、「それってどうやったんですか?」「なんでそうしたんですか?」って話を深堀っていくと、「いや、実はこれがね、」なんて言って目をキラキラさせながら話してくれるんです。
聞き終わる頃には「めっちゃすごいじゃん!早くみんなに知らせなくちゃ!」とこっちまでワクワクしている。
この人たちの仕事や商品に対する「好き!」がそのまま伝わってほしい。そんな風に思うことも少なくありません。
今回は、この「好き!」を伝えるデザインについて。香川県三豊市にある海沿いの町、仁尾町で作られるびわについてお話ししていこうと思います!
デザインがさらにおいしくなる話vol.21三豊市仁尾町のびわ
1.三豊市仁尾町とは
香川県三豊市仁尾町はみかん栽培で有名な港町。最近注目されているあの「父母ヶ浜」がある町です。
仁尾町のみかんは海から吹き上げる潮風にビシバシ鍛えられて育つのですが、そのままだとさすがにスパルタ過ぎるので防風林としてびわの木を植えています。
仁尾町のびわ栽培は、こうしてみかんの副産として始まりました。
しかし、実はその出荷数は全国3位。栽培当初こそ「副産物」でしたが、今となってはみかんに負けず劣らずの名産品なのです。
今回のお仕事は、そんなびわの生産者さんからの少し変わったご依頼から始まりました。
2.「びわの種を売りたいんです」
そう言って手渡されたのは、一見栗のような見た目のびわの種の甘露煮。
「びわって、果肉だけじゃなくて種や葉っぱや根っこも利用できるんですよ」
もちろん実もおいしいけれど、葉は乾燥させてびわ茶にして、種はコトコト煮込んで甘露煮にしておいしく食べられること。樹皮や根っこも昔は漢方として利用されていたこと。
生産者の吉田さん(後のびわ仙人)はまるで我が子の話でもするみたいにびわについて心底たのしそうに話してくださいました。
びわ、そんなにすごかったのか……!
びっくりして調べてみると、びわは江戸時代には「大薬王樹」と呼ばれ、薬の王様として重宝されていたのだとか。
もう種とかそんな話じゃない。びわ自体がすごすぎます。
そしてお話を聞く中でもう一つわかったのは、このご依頼の本質的な課題は「みかんが有名すぎてびわにスポットライトが当たっていない」ことでした。
それならいっそ、びわそのものをブランド化したらいいんじゃないだろうか?
弊社からの提案で、種ではなくびわそのものをブランディングすることになりました。
3.大薬王樹
ブランド名は初見のインパクトで「大薬王樹」をそのまま採用。
だけど、このままじゃちょっと固いですよね。
伝わってほしいのは「びわってこんなにすごい!」ということと、吉田さんを始めとするびわ農家さんのびわに対する溢れんばかりの愛情。無欲なまでの「好き!」という気持ちでした。
そこで作ったのが、このキャラクターです。
びわを愛し、びわに愛された仙人。びわのことなら何でも知っていて、いつも琵琶を持っている、通称「びわ仙人」。
生産者の吉田さんがあまりにも物腰柔らかにびわについて語るので、「まるで仙人のようだ!」と吉田さんをモチーフにオリジナルのキャラクターを作りました。
ふにゃふにゃしたシルエットでリーフレットのあちこちに出てきてくれます。
「大薬王樹」というかっこいい名前で「なんかすごいぞ!?」と思わせつつ、イラストからは作り手のこだわりや愛情、ふふっとなるようなかわいらしさも感じられるテイストに仕上げました。
元は種のデザインのはずでしたが、「ここまで来たらイベントもしよう!」とその後栗林公園内にあるお土産ショップ・栗林庵でイベントも開催されました。
イベントの様子はこちら↓
生のびわだけでなく、種の甘露煮、びわのドーナツやソフトクリームなども販売されて大盛況だったそうです。
そしてここでも人気を博したのが「びわ仙人のびわ講座」。
作り手の愛情とかこだわりとか、「これがたまらなく好きなんです!」っていう話ってめちゃくちゃ面白かったりしますよね。びわ仙人のキャラクターも相まって、多くの人が集まりました。
4.デザインは「好き」の代弁者
以前、ブランディングについて「自分たちがどんな信念をもってどんな風に社会に貢献しているかを適切に伝えることで、社会的信頼を得て人々に記憶してもらう活動」と書きました。
だけど一方で、人は理屈ではなく感情で動く生き物。そして、人の感情を動かすのはやっぱり人の感情だと思うのです。
作り手のまっすぐな「好き!」を、第三者である私たちが「ここの生産者さん、ホントびっくりするくらいびわが大好きで。ちょっと人間とは思えないくらいすごいんですよね。仙人みたいじゃないですか?」って面白がって、代わりにその「好き!」を伝えていってあげる。
デザインには、そんな好きの代弁者の役割もあるんじゃないかなあと思います。
「デザインがさらにおいしくなる話」とは?
CREDIT
Creative Direction:村上モリロー
Art Direction:村上モリロー
Graphic Design:村上モリロー
Illustration:喜多彩加
Creative Produce:村上モリロー