映画『愛なのに』感想 ピンク映画手法の純愛コメディ
心に童貞を飼っている人を描く作品。映画『愛なのに』感想です。
『アルプススタンドのはしの方』で知られる城定秀夫監督による最新作で、脚本を務めたのが、『愛がなんだ』『街の上で』の今泉力哉監督。お互いの脚本作品を監督し合うというプロジェクトの作品だそうで、この後に今泉力哉監督作品、城定秀夫脚本の『猫は逃げた』が公開されています。
一応、ラブコメディというジャンルの物語になるとは思いますが、そこは今泉力哉脚本というだけあって、相変わらず恋愛を良いものとしては捉えていないような視点を交えつつ、それでもユーモラスで人間の微笑ましい姿を描いています。
ただ、今泉監督作品ではあまり強調されていなかったセックスというテーマが深く関わってきていますね。ベッドシーンもかなり大胆なものになっており、ここにピンク映画出身である城定監督の手腕があるのかなと思いました。
岬を主軸とした甘酸っぱい青春の恋愛模様と、一花を主軸にした大人同士の泥沼な肉体関係を比較構造として、その狭間で葛藤する多田くんという図式になっています。多田くんは充分に大人な年齢ですが、精神年齢が童貞なので、肉欲に溺れるということを良しとしない人間なんですよね。だからと言って精神年齢が近い岬に振り向けば、実年齢差によって変態・犯罪の誹りを受けるわけですね。
ここ数年、河合優実さんの出演作品をよく鑑賞しておりますが、今作でもまた違った顔になっています。爽やかで純真な女の子なわけですが、多田くんのこうした童貞的思考による煩悶を、全て見抜いた上での行動にも感じられる演技なんですよね。けっこうはっきりと断られているのに、意に介さずにプッシュしてくるところなんか、そうなんじゃないかと思います。そういう態度って図々しく感じられるかと思うんですけど、不思議と岬ちゃんはイヤにならずに微笑ましく見えてきます。
その逆に位置する一花と亮介、美樹のドロドロ関係なんですけど、どちらかというとこちらの方がリアリティがある恋愛模様の描写なんだと思います。『偶然と想像』でもそうでしたが、マヌケなイケメンを演じさせたら中島歩さんの右に出る者はいないという境地に達していますね。こういうモテるけど、中身が薄い(薄いからモテるのか)男って確かにいるように思えます。
一花役のさとうほなみさんの、美人だけど角ばった雰囲気もハマっていますね。一花が亮介のどこに惹かれて婚約したのか、描かれずともわかる気がするんですよね。このカップルの組み合わせもリアルなものでした。
逆に、多田くんが一花のどこに惹かれていたのか、岬が多田くんのどこに惹かれているのかが、理解は出来ても、ちゃんとエピソードや言葉で知りたいような気もしました。特に岬の想いがどこから来るのかがわからないと、ただのオッサンの幻想を映像化した少女として捉えられてしまいかねない設定だと思うんですよね。
一応、その言い訳みたいなものが、終盤で登場する岬の両親なんだと思いますが、展開としては自然なんですけど、物語としては何か不自然というか、取って付けた感を抱いてしまいました。どう解決したのかもはっきりしてないし、まさしく「ロリコン物語ではないですよ」という言い訳のためのエピソードに感じられてしまいました。
この物語で描いているのは、コミュニケーションとしての恋愛だと思います。一花と亮介と美樹は、セックスという最も直接的なコミュニケーション方法を交わしているにも関わらず、本質的な部分はすれ違ったままですが、岬と多田くんは、手紙で想いを伝えるという遠回りな方法で本質部分を触れ合わせることが出来たんだと思います。多田くんが岬に返事の手紙を書くのは終盤のみなので、手紙のやり取りは岬の一方的なものですが、それを多田くんがきちんと箱に入れて保管しているところが、コミュニケーションが成立していると理解できるんですよね。
自分としては、多田くんにシンパシーを感じる童貞マインドを持った男性なので、多田くんと岬の「尊い関係」という理想を描きたいのは理解できる気がします。ただ、童貞マインドを持っているからこそ、多田くんみたいな人が幸せになるということに、リアリティを感じられないんですよね。実際、作中で多田くんはピンク映画的な展開によって、男側としての「おいしい思い」をする状況になるんですけど、それは彼にとっては傷つけられたような捉え方になっています。
そういう意味では、やはり一花と亮介・美樹サイドの方がリアリティある恋愛模様なんでしょうね。ここがリアルなんだけど、人間としての魅力を感じられず、ノレない部分でもありました。
でも、世間一般の生きにくさを感じていない器用な人たち、それこそセックスが日常にある人たちは、こちらの部分をリアルな恋愛コメディとして楽しめるのかもしれません。
…なんかムカついてきたので、今回はここで筆を置きたいと思います。
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