見出し画像

映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』感想 画としての再現度は完璧だけど…

 「実写化」で何が大事なのか、改めて考えさせられました。映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』感想です。

 他人の心や記憶を本にして読む能力「ヘヴンズ・ドアー」を持つ人気漫画家の岸辺露伴(高橋一生)。美術オークションにかけられた黒塗りの絵を目にした露伴は、少年の頃に出会った女性・奈々瀬(木村文乃)との記憶を呼び起こされる。この世で最も邪悪な「最も黒い絵」の噂を奈々瀬から教えられていた露伴は、オークションで黒塗りの絵を落札するが、その絵は模写を得意としたモーリス・ルブランの作品で、彼は「最も黒い絵」に影響されてこの絵を描いたのではないかと露伴は推測する。ルブランがフランスのルーヴル美術館で模写を描いていたことを知った露伴は、「最も黒い絵」を求めて、ルーヴルへと向かう…という物語。

 荒木飛呂彦の漫画作品『ジョジョの奇妙な冒険』第4部の人気キャラクターである岸辺露伴を主人公にしたスピンオフ『岸辺露伴は動かない』シリーズ、そしてそれらを原作とした、実写ドラマシリーズの劇場版作品になります。NHK放送時と同じスタッフが今回の映画を手掛けています
 絵画的で現実離れしている荒木飛呂彦作品を、幻想的で耽美な風味で実写の違和感を消して、さらに高橋一生さんによる露伴の再現度も高いという、実写化成功作品の1つに挙がる作品です。
 ただ、ドラマ時から短編漫画で1話ずつ作っているからか、ちょっと間延びしてしまう部分が大きかったので、劇場版もキツいのではと考えていましたが、観てみたら案の定という印象を受けてしまいました。
 
 元々、怪異や事件の謎を岸辺露伴がひも解くというミステリースタイルの物語なので、そこかしこに謎としての伏線を散りばめた演出が多い作品ですが、長編映画という枠だと、非常に勿体付けた雰囲気になっているように思えます。出だしはともかくとして、露伴の行動動機となる過去の回想シーンも、とても長ったらしく説明的に感じられてしまうんですよね。
 原作は、コマとコマの合間にあるはずの細かい部分を飛躍させる漫画の手法があるから成り立つものですが、その合間を埋めることをせずに、そのまま尺を伸ばして映像化しているように思えます。ちょっと自分とは、時間感覚が合わなかったのかもしれません。
 
 全体を俯瞰して観ると、物語の構造は面白いと思うんですよね。露伴の過去の昭和文学のような耽美な雰囲気、ルーヴル美術館で繰り広げられる業界の裏側を描く美術ミステリー、そして全ての発端として明かされる怪談噺のような時代劇パートという風に、全く違う雰囲気の物語が、1つのものとして成り立たせようとしている類を見ないものだと思います。
 ただ残念ながら、それらが1つになっているとは言い難いものだと思います。それぞれのパートが分断されているように感じられるんですよね。もう少しそれらを繋ぐような工夫が必要だったように思えます。
 
 ただ、ドラマの時からそうですが、この作品のカメラワークは本当に絶品ですね。特にルーヴル美術館のシーンでの、画の強さは半端じゃなかったです。ルーヴル美術館の建物としての魅力、劇中の台詞にもある「人間の手に負えない」感が、きっちりと画面からは溢れていました。荒木飛呂彦作品の「絵」を、「画」としてきっちりと再現しているものだと思います。これを観るとルーヴルに行ってみたくなりますね。
 
 原作ものの実写化をする際に、まずどれだけ忠実に再現出来るかで評価されるイメージがありますが、その再現をした上で、どれだけ正しい解釈を加えられるかも重要だと思うんですよね。このシリーズは「画」としての再現度は既にクリア出来ていたわけですが、そこに映像としての「解釈」というものが足りていないように思えます。ちょっと惜しい印象を受ける作品でした。

https://kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp/


この記事が参加している募集

#映画感想文

68,047件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?