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【#NIKKEI】カインズさんが本当のDXをやっている

 引用した記事の内容は、ホームセンター大手カインズさんが小売事業でDXをやっているというもの。現在は、商品実際に手にとって試用してみることに特化した店舗(b8ta)、へ商品を出品しデータを集めている。この店舗では、買うことはできるが、売り込まれることはない。顧客が自由に試して、店員はその感想を聞き、これを定性データとして利用する。他にも、従業員向けアプリの開発やECで注文した商品の受け取り、データを商品開発に活かす、データの提供、と様々な動きをしている。

 最近、YouTubeを始めました。温かい目で、ご視聴いただけますと幸いでございます。どうぞ、よろしくお願い致します。内容はnoteの方が細かいです。


DXとは(簡易的に)

カインズのDX、スライド1

 基本的には、他の記事で扱っている定義と同じである。DXは単に部分的なIT導入をすることで達成されるものではない、という点がポイントだ。昨今、新聞で取り上げされている、マイナンバーカードの普及率とDXが直接的に関係しているようなトピックがあるが、実はこれは誤りである。住民票がデジタル化されても、行政手続きが今までと変わらないのなら、そもそもデジタル化しただけで、DXなどではない。
 では、DXとは何であろうか。画像の通り、デジタル技術を活用することで、提供価値および提案過程、を変革することである。例えば、銀行の提供する口座残高が見れたり振り込みができたりするアプリはデジタル技術を活用していると言える。しかし、ATMは自前で持ち続けるし、人事の評価項目の変更もそこまで大きくはされていないだろう。ここで考えていただきたいのは、単に便利なデジタル技術による価値提案を、今までの業務にくっつけてみました、となれば部分的なIT化ということである。例えば、ATMとアプリで機能が重複して余計なコストがかかるから、必要に応じて棲み分けを行いましょう、となれば全体最適の図られるDXであると考えている。それでも、完全とは言えないが。。。
 少し、図の説明をしておこう。左側が提供過程である。企業がどのような資産を持ち、どのようなパートナーと組み、どのような人材を抱えているかである。特に私が注目したいのは、人材の評価制度である。組織における合理性とは、過去に実績があり、調査可能な領域で結果を出すことではないだろうか。例えば、トヨタ自動車において、サブスクリプション(KINTO)を担う人、代理店で自動車を販売する人、は同じ評価指標で動いているだろうか。おそらく前者は継続性やソリューションとしての付加価値(どう単価を上げるか)などがポイントだろう。一方、後者は販売車数および売上(本体車両価格+オプション)がポイントだろう。となれば、やはりDX導入後の評価指標は異なる可能性があることはイメージいただけるのではないか。
 このように、デジタル時代においては、部分最適なIT導入ではなく、全体最適なDXを進める必要がある。場合によっては導入したものの利用率の悪いデジタル機能であったり、組織を崩壊させる危険性もある。実はDXの重点事項は、アプリケーション同士の連携やITツールの導入と同等に、社員のITへの理解や評価制度の刷新が求められているのだ。

カインズさんのDX

カインズのDX、スライド2

 カインズさんのDXは、店舗設備、商品開発、データ提供、の3つを挙げることができる。
 店舗設備はさらに2つに分けられる。従業員向けアプリ「Find in CAINZ」、ECの注文カウンター「ピックアップロッカー」、である。従業員アプリでは、導入によって、売り場案内に発生する時間が4割減少したとのこと。注文カウンターでは、一度店頭で商品を確認してから購入を決定することができるという。単に無人のロッカーではなく、元記事の写真を拝見する限り人が受付するカウンターとなっており、おそらく相談しながら購入を決定できるのだろう。ここで着目したいのは、やる気になれば無人化が可能な施策であるということである。前者は公式アプリに機能を追加することで達成可能であるし、後者はロッカーを暗証番号やSuicaで解錠し通常のレジで購入するようにすれば良い。コストも大きくは変わらないだろう。そう考えると、これらの試作は実はカインズ様の企業理念である「Kindness(親切さ)」を理解することができる。確かに、顧客を教育して顧客に行動の一部を代替させることで低価格を実現させる方法は一般的になりつつある。しかし、この場合は、デジタルを業務効率に集中し、接客の質をあげたり顧客とのコミュニケーションに特化しているように思える。つまり、人間の担当領域とデジタルの担当領域を明確に区別して、デジタル技術を導入しているのではないか。私は、こうした取り組みがDXであると思う。
 商品開発は、定性分析と定量分析を商品開発(SPA:製造小売)に活かすというもの。ただし、これは検討段階である。定性分析は、商品実際に手にとって試用してみることに特化した店舗(b8ta)で、買わない理由、をインタビュー調査することで商品開発につなげていると言う。今後は、店頭でデモを行い、インタビューを行うという。定量分析は、カメラから顧客の動きを解析するというもの。立ち止まった後の反応、立ち止まった時間、手に取るまでの時間などを分析している。カインズさんは小売店ではあるが製造小売でもあるので、商品開発に活かすというもの。カメラでの解析はAI技術を用いるものであるし、インタービュー調査を用いる点も興味深い。
 データ提供は、店内で収集したデータ分析の結果を主にナショナルブランドへ提供するというもの。データを集めることのできる資産(店舗)を認識し、他社へ提供するものと考えられる。これはポイント(TポイントやPontaポイント)のエコシステムに代表される、マーケティング系のエコシステム、を小売店事業が行うと言う点で新しい。

まとめ

 ITツールの導入を=DXとすることが多いが、全社的にデジタルによって店舗の人の動き、設備を変えたり、データの運用が社内的にも社外に向けてもできているという点で、非常に興味深いと感じた。もちろん必ずしもデジタル化を全社的に行う必要があるかと言えば、企業理念や事業内容による、としか言えないが、できること、できないことを切り分けてデジタル技術を活用しているように感じた。


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