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”女子だから仕方ない”は、当たり前ではない【作戦タイム】No.9

男女平等や個の自立。
頭ではわかっていても、なかなか進まない日本の現実。
それは根底の社会的な風土や文化の違いの影響もあることを海外から学ぶ。

<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。

MCは奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストは、一般社団法人S.C.P.JAPANの代表理事・野口亜弥さん。
兄の影響で3歳からサッカーを始めたものの中学生になるとその環境が激減、この「中学で女性のあるある」問題に直面し、アメリカの大学、スウェーデンでのプロサッカー経験からジェンダーの問題に関心を持つように。

現在は、順天堂大学スポーツ健康科学部の助教を務める傍ら、スポーツをツールに共生社会づくりを掲げ、女性、障がい者、LGBTQそれぞれに特化した啓発啓蒙プログラムで開発と平和をテーマに国際協力や国際交流を行っている。

プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time

ダイジェスト⇩

「女子は、空いてる時間にどうぞ」はおかしい。 海外で気づく

アメリカでは、コーチの数や給与、部活動の費用、グラウンドの使用に至るまで男女で差をつけてはいけない、という「教育の男女平等」が州政府の法律で定められている。

野口さん
「私は、筑波大学でサッカーをしてからアメリカに行きましたが、アメリカは奨学金や大学スポーツの仕組みも整っています。
例えば、日本ではまず男子がグラウンドを取って使ってから、空いてる時間に女子どうぞ、でしたが、アメリカでは女子もきちんと使える。それまで私は『女子はできなくて当たり前で、それも仕方ない』と思ってたけど、それは疑問視していいんだ、と気づきました。私がサッカーできなくなったのは"仕方ない"ではなくて、ジェンダーの問題なんだと」

奥村
「違う文化に触れることは大事ですね?」

野口さん
「私はトータル4年間大学に行き、その後プロを目指したいと思って自分で色々動いたら、偶然が偶然につながりスウェーデンでプロになりました」

奥村
「自らかなり動かれて、つながっていったんですね」

「助けるけど、まずは自分でアクションしなさい」の考え方

野口さん
「どうやったら自分のやりたいことをカタチにするか。それはアメリカで学びました。アメリカって、助けるけど自分でやりなさい、という考え方。生き残っていくためには自らアクションしなさい。でもアクションすれば誰かが助けてくれる」

奥村
「日本は手厚すぎて、チケットの取り方、ホテルの取り方をわからない選手も多い。お膳立てされすぎてて社会に出た時に何もできなくて急に困る」

平等だから、女性にも「個」や「自立」への意識を求められる

スウェーデンは社会全体に男女平等が根付き、男子にプロリーグがあれば女子にもあって当然、資金も同等の環境。

野口さん
「スウェーデンの女子サッカー選手もデュアルキャリアの意識が強くて驚きました。
というのは、女性であれ一人前に稼げないと自立した大人として社会が認めてくれないからなんです。日本は逆にそうではない選択を女性がしても、お金を誰かに依存しても批判する社会ではないと思いますが、スウェーデンでは大人として一人前だと思われない。なので、男性と同じレベルで先のことを考えなきゃいけないんです。

経済的に自立しているから結婚する夫婦も少なくて、事実婚が多い。いつか別れるかもしれないからって。離婚しても子どもには子供手当が出て学費はただなので、養育費はどっちが出すとかない。社会の仕組みができています」

岡田先生
個の意識が高い!シンプルと言えばシンプルですね」

日本は「サポートを作れ」、アメリカは「自分で打開しろ」 ベースが異なる

奥村
「日本のサッカーの指導方法とかの違いはありましたか?」

野口さん
「衝撃はアメリカに行ったとき。私が知ってたのは”日本のサッカー”だったんだと。日本のサッカー協会がつくったカリキュラムが前提で、日本人は体格も小さいし足も速くないので、チームで崩すパスサッカーの指導なので、ボール持ったら周りは孤立しないようサポートをつくる指導です。

アメリカでは私の前提はまず通用しないので、ボール持ってもサポートがいない(笑)。
ボール持った、サポートいない、ボール取られた、お前なに取られてるんだ、になる。サポートがいようがいまいが、あなたがボールを取られたことによって私たちは危険になってる、どうにかしろ。
それは、ある意味、自立を求められていて、もし自分が保持する能力がないなら、早くサポートに来て、と声を出すか、自分で打開するしかない。そこを変えなきゃいけなかったです」

奥村
「戦術理解も大切ですよね」

野口さん
戦術を早く理解して早く動くというのが勝負でした。アメリカのチームには色々な国の人がごちゃ混ぜにいますから。例えばブラジル人は、だまし合いっこしてずっとケラケラ笑って踊り出したり。日本人的な、まじめすぎて笑っちゃいけないというのも間違いかなと思えてきて。
スウェーデンのチームは、自由はあまりなく戦術のレベルも高くて緻密でした。対応していくのも楽しくていい経験でした」

ノーカット音声はSpotifyで⇩
アメリカやスウェーデンで気づいた日本での男女格差 #5-1
指導者やサッカー観の違いを痛感 #5-2

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察する先回りか、自ら動いての意思表示か

【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ

最近、スポーツ界でも課題になる「個」の自立や強化。
いきなり表面的な「個」だけ繕おうとしてもムリがあり、やはり置かれている社会の風土や価値観と大きく関係していることを実感している。

今回のサッカーの戦術と社会の考え方のリンクがまさに物語っている。

海外に行くと気づく 過保護すぎる日本のサービス

駅や施設での案内看板、車内のアナウンス…。
日本にいると当たり前だけど、その感覚で海外に行くと、驚くほどサッパリ。私自身の海外での経験からも、日本ほど"ご丁寧すぎるご案内"はないと感じる。

日本は「わからなくて困る人がいるかもしれない」と察して先回りして、更に「困る人を出してはいけない」という生真面目さから、過保護なサービスになりがち。
これが良くも悪くも日本の「察する」文化なのだなぁと思う。

一方、例えばアメリカでは、「困るか困らないか、どうしたいかは一人ひとり違う。他人はわからない」が前提だから、サービスはシンプル。合理的だけど、目的を果たすためには意思表示をせざるを得ない場面が多い。

実際に私自身のアメリカなどでの経験を踏まえると、自己主張をしたいわけでなくても、自分の意思を表明しないと、自分の目的が果たせず困るから、という側面もあるように思う。

イエスかノーかもハッキリしないと、「言わなくても察してくれる」はあまり期待できないし、彼らは良くも悪くも他人の行動を気にしていない。
ただ、助けを求めると意外にフレンドリーで親切。

意思表示せざるを得ない土壌で「個」が育つ

「自分で打開しろ」は、厳しく聞こえるけれど、たった一人で解決しろ、と冷たく突き放しているのではなく、野口さんも話しているように、「自分の力ではムリならサポートが欲しいと意思表示しろ」という意味。

意思表示するためには、サポートが必要なのか、自力でなんとかできるのか、その判断が必要。それには、自分の能力と状況の把握も必要。
「個」の力の認識が自然と養われるし、「自己責任」という感覚も身につきやすい。

一方、日本的な察する先回りサポートは、とても安心感がある反面、慣れ過ぎると、それが自力でもできるのかできないのか判断したり、力を試す機会を奪われてしまう。
ともすると依存心が高くなって、個の力や自己責任が薄れそうだけど、「察する」側になると想像力は必要になる。

察して配慮する土壌と、自ら意思表示せざるを得ない土壌。
意思表示の習慣が根づいている社会の方が、「個」の力は確立されやすいだろう。

また、スウェーデンの女性たちが「個」の自立への意識が高いのも、「真の意味で男女フェア」という環境があるからこそ。

どちらが良い悪いではなく、この社会的な土壌の違いが、まさしくアスリートの「個」の力に相関するのではないかと思う。

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