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⑩他人になれるのか?

〇皆さんこんにちは。ここでは初心者の方にも分かりやすく、順番に演技のことについて説明していきたいと思っています。演技の勉強をしたいという方はぜひご参考になさって下さい。
〇今回のテーマは「他人になれるのか?」です。

自分以外の人間になれるの?

〇よく「役になる」「役になりきる」といった言い方をしますが、人が自分以外の他人になるということができるのでしょうか? 
〇思春期の若い皆さんの中には、実生活での現実の自分というものをつまらなく感じ、ドラマや映画の主人公のようになれたらと憧れを抱く人もいるかも知れません。
〇実際、好きな作品の登場人物や出演者に憧れて俳優を志したり、アニメが好きで、その世界の登場人物になりたいと思って声優養成所の門を叩いたりしたという話しはよく聞きます。では、演技が上手になって好きな役を演じることができたら、人は自分以外の他人になれるのでしょうか?

人は自分以外の他人にはなれない

〇変身願望を持って自分以外の人になれることを期待して読んで下さっている方には申し訳ありませんが、私は演技というものが自分自身の心と肉体を使って行われるものである以上、自分以外の他の人間になることはできないと考えています。もし仮に、あなたが自分自身の体や性格、能力に不満を持っていたとしても、役者はその自分自身を使って勝負するしかないのです。
〇「役になる」「役に入る」といった表現については様々な意見があると思いますが、私は役に入って演じるという行為は、あくまで自分自身を使い、自分というものを通してその役を表現する行為だと考えています。

演じるためには感性が必要

〇役者が自分自身を使って演技をする、という話しについて語り始めると大変長くなりますので、今回は例として「感性」のお話しをしておきます。
〇私たちは人生の中でいつも様々なことを感じながら生きています。嬉しくなったり怒ったり恥ずかしくなったり怖くなったり。そしてそれが様々な反応となって表れます。目をそらす、頭をかくといったちょっとした動き、姿勢、筋肉のこわばり、瞳の変化…本当に様々で、多くの場合それは無意識に行われます。それは台本に描かれた登場人物たちも同じです。

人間の驚くべき能力!

〇そして私たちは自分以外の他者に対し、その人たちの反応を感じ取りながら社会生活を行っています。五感を通じ(もっと言えば第六感も使って)、周囲の人たちの態度や反応を読み取り、コミュニケーションをとりあっています。うまく説明できなくても、ほんとうに繊細な何かから、相手が今傷ついたのだ、とか、怒ったのだ、とか、あの人のことが好きなのだな、とか、瞬間的に分かるという経験があると思います。人間の驚くべき能力です。
〇お芝居の中で演技をする場合も、役者はお互いに相手の反応を感じ取りそれに対してまた反応を示しながら場面を展開させていきます。その登場人物たちの反応を感じ取ることで、観客は今どんなドラマが展開されているのかを理解し、感動するわけです。

感性を捨てたら嘘になる

〇警戒してまばたきをする。興味のある異性を見て瞳孔が開く。緊張して脈拍があがる。好きな人と目があって頬を赤らめる。息が浅くなって声がうわずる…人間は様々な反応を示します。役者が演技をする場合、無限に示され続けるこれらの反応を、頭で考えてわざとやってみせるなんてことが可能でしょうか? 私はほぼ不可能に近いと考えています。そして、わざとそうしようとやればやるほど(表情を作ったり、わざと泣いているような声にしたり等)、嘘っぽいわざとらしい演技になりがちだと思っています。

他人の感性は使えない

〇台本を読み込み、登場人物の感情を読み取ったとしても、他人の感性を使うことはできません。役の立場を想像して「嬉しいな、悔しいな」と感じられたとしても、そう感じているのはどこかの誰かではなく、あなたです。役として感じるといっても、それはあくまで役者自身の感性で「感じる」しかないのです。

自分で勝負するから価値がある!

〇でも私は、演技というものは役者が自分自身を使って勝負するからこそ素晴らしいと考えています。例え同じ台本で同じ役を演じたとしても、百人の役者がいれば百通りの演技が生まれる。その役者にしかない魅力が発揮される。そこにまた、演技やお芝居の素晴らしさがあるように思うのです。

おっさんはロミオになれるのか

〇例えば、有名なシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」という作品をご存知だと思います。大昔から世界中で繰り返し繰り返し上演され、何度も映画がつくられ、いまでも上演され続けている作品です。素晴らしい俳優がさんざん名演技をしてきたのだから、もうやらなくてもいいんじゃないかと思っても、上演したい、それを観たいという意欲はおさまらず、おそらくこれからも世界中で愛され、演じられ続けていくお話しなのだと思います。
〇さて、仮に私がこの作品に出演し、恋する少年「ロミオ」を演じることになったとします。台本の設定ではロミオは14世紀のイタリアの都市ヴェローナに生きる名家の息子で16歳ですが、私は現代の日本の地方都市に生きるしがないおっさんです。ジュリエットのような美少女に一目ぼれして大恋愛をしたことなどありませんし、人を殺したことも自殺したこともありません。
〇それでも私は考えます。もし今自分が16歳で、イタリアの名家の息子として生まれ育ち、描かれているようないとこや友人たちとヴェローナの街に生きていたとしたらどうだろう? 劇的な出会いを経験し、目の前で人が死んで、自分も人を殺めてしまったとしたらどうだろう? そうして自分自身が舞台上でロミオとして生き、話し、動き、共演者たちが演じるキャラクターにロミオとして接することができるように、深く細かく「役作り」をしていきます。
〇そうしてうまくこの試みが成功したとき、私は舞台上でロミオとして生き、泣いたり笑ったり怒ったり、女の子にデレデレしたりすることになるのだと思いますが、そんな風に感じて動いているのは私自身であり、その感性は私のものです。こうして世界中でひとりしかいない、私版のロミオが生まれるのです。
名作が繰り返し再演される魅力のひとつがここにあります。どれほど上演され続けてきた台本でも、演じる役者が変わればまた別物。百人の役者がいれば百通りのロミオを楽しむことができるのです。

ひとつの人生では出会えなかったはずの体験

〇先の例では日本人のおっさんが14世紀のイタリアに生きる少年としての気持ちを味わい体験することに成功している(フィクションです)わけですが、このように役者は自分自身を使って役を演じることで、普通に人生を過ごしているだけでは味わえなかったはずの別の可能性と出会うことができるとも言えます。
〇自分でない他人になることはできなくても、普通は一通りしか選べないはずの人生を様々なかたちで経験できるのだとしたら、やはり役者として演じることは大変魅力的な行為なのではないでしょうか。

自分自身を使って役に入ろう!

〇「役になる」とは言っても別の人間になるのではなく、あくまで自分自身を通して演じるのが役者、ということをご理解いただけましたでしょうか? 「役作り」や「役に入る」ということに関してはまだまだご説明できていないことがたくさんありますが、まずは今回お話しした「自分の感性を使う」ということを覚えておいていただければと思います。

〇今回のご説明をお読みになっても、それでもやっぱり自分なんかじゃなくて他人に変身したいと思う方もいらっしゃるかも知れません。ご安心下さい。そういうあなたも、十分に魅力的です。その魅力の活かし方を、少しずつ勉強していきましょう!

〇今回は「他人になれるのか?」ということをテーマにお話ししてみました。皆さんの演技力向上にお役立て下さい。
〇演技について学ぶべきことはたくさんあります。今後も少しずつだんだん情報をお伝えしていきたいと思っておりますので、焦らずリラックスしながらお読みいただき、ご参考にしていただけたらと思います。ご質問等ありましたらお気軽にご連絡下さい。

※情報はどなたでもお読みになれるよう無料公開させていただいておりますが、無断での転載や引用等はご遠慮下さい。

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