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クリーンテック・プレイグランド 「De Ceuvel」:アムステルダムの環境再生型施設に行ってみた

Takeshi Okahashi

こんにちは。オランダ在住のACTANT FORESTメンバー、岡橋です。今回はアムステルダムの先進的スポットとして有名な「De Ceuvel」の訪問レポートになります。2020年にオランダにやって来る前から噂は聞いていて、いつか訪れたいと思いながら、なかなか訪問を実現できていませんでした。ちょうど近くにいく用事があり、雨が降りしきる中、訪問してきました。

成功事例としての De Ceuvel

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アムステルダム中央駅から北へ向かって、運河の向こうに見えるのがアムステルダムノールド(アムステルダム北部地区)だ。かつては造船所や工業施設があったところだが、ここ最近はクリエイティブ産業に関わる人々や企業が集まる場所として知られるようになってきている。

この地区にある施設で、サステナビリティや建築、まちづくりなどの文脈でよく知られているのが De Ceuvel だ。「クリーンテック・プレイグランド(クリーンテックの遊び場)」をコンセプトに長年使われていなかった運河沿いの一角を、人々が集まる場所へと転換させることに成功した施設だ。De Ceuvel は、オランダ語の発音としては「ドゥ・カーヴェル」といった感じになるが、カタカナ表記をするには複雑で、聴いた人によっても変わるだろう。

De Ceuvel を有名にしているのは、そこまで広くはない土地にオフィススペースやカフェ、野菜の栽培、リサイクル施設などさまざまな機能が盛り込まれ、サステナビリティを強く意識した思想をベースにした試みが全体として数多く取り組まれているからだ。

例えば、カフェが提供するのは、肉や卵を使わないヴィーガンメニューのみ。肉の生産には多くのエネルギーと水を必要とするからだ。また、カフェの建物やオフィススペースもリサイクル素材、中古素材が活用されている。オフィススペースは、16個の中古ボートを改築したものだ。De Ceuvel は、運河に接した場所にあるが、中古ボートは陸にあげられた状態で配置され、かっこよくリノベーションされ、素敵なボート型スタジオに変身している。どのスタジオにも太陽光パネルが設置され、それらはブロックチェーンで管理されている。また、施設内の緑は、「Phytoremediation(植物による環土壌浄化)」と呼ばれる考え方で植えられていて、汚染された土地を浄化する役割も担っている。

2014年ごろから取り組んでいるというから、とても先進的である。

De Ceuvel の全体像がよくわかるYouTube動画

アムステルダム市の公募プロジェクト

元々、De Ceuvel の土地は何もない、うち捨てられた場所だったそうだ。アムステルダム北部自体が、かつての工業地帯であり、アムステルダムの中心街と比べると寂れた土地とみなされていた。しかも、朽ちた船から汚染物質が流れ出るなどの影響で、土地も汚染された状態であった。

この土地をどうするのか。困り果てたアムステルダム市は、この土地を活用し、再活用する魅力的でサステナブルなアイデアを公募することにした。その公募プロジェクトの中から選ばれたのが、De Ceuvel のアイデアだった。

実は、De Ceuvel のその立ち上げ時の提案資料がウェブから自由にダウンロードして読むことができる。提案の中心となっていたのが、Metabolicというコンサルティング会社とSpace & Matterという建築会社だ。MetabolicはDe Ceuvel内のオフィススペースに入居もしている。

提案資料は、全部で138ページもある。De Ceuvel とともに、Shoonschip という水上住宅の2つのプロジェクトについての提案書だ。(Shoonschip も、De Ceuvel から少し離れたところに建設され、高い評価を受けている)

これを読むと、さまざまな観点からサステナビリティというテーマを深堀りし、できる限りの実践や仕組みをこの場所で表現しようという意気込みが伝わってくる。

提案書のタイトルは、Clearntech Playground: a cleantech utility in Amsterdam North。クリーンテック、つまり土壌汚染の改良やレストランの食べ残しなどの有機廃棄物の活用、野菜の水耕栽培、太陽光発電など、環境に優しいテクノロジーとプロジェクトを、まるで「遊び場(プレイグラウンド)」の遊具のように、いたるところに配置・実践し、そこで過ごす人たち、訪れる人たちがそれらに触れ、楽しみ、学べるようにしようというコンセプトだ。

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提案書の中のイラスト

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リサイクル施設とグリーンハウス野菜栽培

計画段階においてすでに、コミュニティを育てることが意識され、エネルギーの生産と管理、ゴミや汚水の処理などの計画が練られ、De Ceuvel を訪れる人々の参考とインスピレーションにしていこうというビジョンが示されている。

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企画書の一部。最終的な物質循環の目標がチャート化されている。

自然とサステナブルな試みに触れられる

僕自身の施設内のカフェ、Cafe De Ceuvel での経験も、まさにサステナビリティをテーマとした「プレイグラウンド」で遊んだような経験だった。前述したように、ここのカフェの建物はリサイクル素材を活用して作られている。なので、小綺麗さはない。それでも、独特の雰囲気があり居心地の良いカフェだ。

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カフェ全景(魅力的に撮れてなくてすみません...)

メニューは「ヴィーガン」のみ。僕は、ファラフェルというアラブ地域でお馴染みの「ひよこ豆」でつくったコロッケを挟んだサンドイッチを注文した。ファラフェルは、これまで外食スナックとしても食べたことがあって、味もだいたい予想がついたからだ。しかし、サーブしてもらったサンドイッチを一口食べて驚いた。とても美味しかったのだ。ここまで美味しければ、ヴィーガン料理を食べたことがない人も、関心を持つだろう。僕自身も、ちょうど座ったテーブルからすぐに見えるショーケースに入れられていた作り置きのエスニック料理への関心が一段と高まった。次回はスタッフの人にあれこれ聞いて注文したい。また、これは後でわかったことだが、サンドイッチと一緒に頼んだコーヒーも、CO2ニュートラルを実現しているという。そして、ここのキッチンではガスを使わず、電気で調理している。これも、サステナビリティを意識した判断だ。

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こうして、直接的、間接的に、そこを訪れる人たちがサステナビリティを意識した実践に触れ、感じ、学べるようになっている。全く押し付けがましいところがないのが良い。最も良かったのは、居心地がよくて、頼んだサンドイッチもコーヒーも美味しかったことだ。気分がほっこりした僕は、Wi-fi を借りて、そのままノートパソコンを開いてやりかけの仕事も片付けることができた。

仕事がひと段落して顔を上げると、いつの間にかお客さんが増えていることに気づいた。若いカップルもいれば、1人でパソコンに向かっている人もいて、小さな子どもを連れた家族もいる。センスの良さそうなシニアの夫妻がちょうど入店してきたところだ。僕が訪れた日は強めの雨が降り、時節的にも観光客は少ないはずだから、おそらく地域の人たちだろう。思い思いの使い方ができるカフェレストランとして親しまれていることが見てとれた。

志を同じくする人たちが集まるオフィススペース

カフェと隣り合うボートスタジオがあるエリアも少し見学した。ウェブサイトによると、ここには、サステビリティや社会課題をテーマにした小規模事業者や個人事業主が集まっている。このプロジェクトの企画を作ったリサーチ・コンサルティング会社であるMetabolicの事務所も入居しているというから、Metabolicと繋がりがあるような企業や個人も入居しているのだろう。

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こんな感じで改築ボートスタジオが点在している

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ホテルもあった

ぶらぶらと歩いてまわっていたら、あるボートスタジオの入り口付近に、こんなメッセージが貼り付けられているのが目に留まった。紙に手書きで、「When your children act like leaders, and your leaders act like children, you know change is coming! (あなたの子どもたちがリーダーのようにふるまい、あなたのリーダー達が子どものようにふるまう時がきたら、変化が訪れているということだ!)」と書かれている。おそらく、子どものリーダーシップ教育に取り組んでいる団体の事務所なのだろう。

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この事務所は、子どもを対象とした活動をしているようだ

ボートスタジオは、かっこよくリノベされているが、オフィスビルのような快適さはないはずだ。それでも、緑にかこまれ、エネルギーを生産し、同じような志を持つような人たちが集まる場所で働けるというのは大きな魅力だ。すぐ隣のカフェでの議論も盛り上がりそうだ。

汚染を改善する腐海のようなタイニーフォレストが育っていた

そして、ACTANT FORESTとして気になるのが、「Phytoremediation(植物による環土壌浄化)」だ。De Ceuvelのサイトによると、DELVA Landscape Architectsという会社とベルギーのゲント大学が共同で企画実施し、今でも経過をモニタリングしているそうだ。具体的には、土壌の構成要素のバランスを良くしたり、金属物質を吸収するような植物を植えている。

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De Ceuvel のWebサイトには、最初期のボートスタジオの写真が載っている。その頃はまだ下草が生えているくらいだ。しかし、8年が経った今は、鬱蒼とした林になっていて、16個あるボートスタジオが緑に包み込まれはじめている。

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ボートスタジオの間を縫うように散策路がある

手づくり感が大事

以上が De Ceuvel の訪問レポートだ。思い立って訪れ、短時間を過ごしただけだったが、さすがによく考えて作られたことがわかる場所だった。そして、設立から8年ほど経ち、COVID-19の影響を受けているとはいえ、提案企画書に書かれていたように、日常的に使っているスタジオ入居者や近隣地域の人たちのみならず、国内外から訪れる多くの人たちにとっての学びの場、インスピレーションを受けられる場所になっている。アムステルダム市は10年の期限付きでこの土地を貸し出しているそうだから、2023年が区切りとなる。10年を越えて、継続的に人が集まる場になっていくと良いと思う。

そして、今回の訪問を通じて、自分にとって最も大きな学びは、De Ceuvel の「手作り感」だった。訪れる前は、「クリーンテック・プレイグランド」と言うくらいだから、テックのイメージがやや先行していた。しかし、実際に訪れてみると、中古素材がいたるところに使われていたり、お金をあまりかけていなかったり、共同トイレもDIY感満載だったり(充分清潔だった)、まずは自分たちでできることを最大限の創意工夫でやっていこう、と言う雰囲気で溢れていた。テックももちろんちりばめられているのだけど、全体のDIY感、手づくり感が、オープンでウェルカムな場の雰囲気をつくっていた。まさに、それが De Ceuvel が実験であり、外の世界に向けたショーケースである証拠だし、さまざまなタイプの市民が別け隔てなく関われる場所として愛されている秘訣なのだと思う。

世界中にこんな場所がもっと増えていくといいなと思う。もちろん日本でもだ。ACTANT FORESTがここから学べることも、たくさんある。次回は、メンバーと共に訪れたいところだが、ご時世的にまだまだはっきりとは予定が立てられなさそうだ。まさにこの記事を書いている間にオランダの新規感染者数はみるみる増えていき、つい数日前に3週間のロックダウンが始まった。

De Ceuvel では、ガイドツアーがサービスとして提供されている。しかも、オンラインの見学ツアーもあるようだから、まずはメンバーとともにオンライン見学ツアーに参加してみるのも良さそうだ。早速、問い合わせてみることにしよう。

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