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ラディクル・シビックス|後編 ー 市民社会の萌芽、その可能性を実装する

Dark Matter Labs
Translated by Takeshi, Mai, Ryuichi

この記事は、ダークマターラボによるMedium記事「Radicle Civics — Building Proofs of Possibilities for a Civic Economy and Society」を訳出したものです。前半では基本理念と共に3つの重要なシフトの方向性が設定されました。後半はそれぞれの方向性に関連する具体的な実証プロジェクトの紹介となっています。頭でっかちすぎないか?とも思える抽象度の高い議論と社会実践をつなげようとしているのが彼らのグッとくるポイントです。デザインの一番の強みは実践と介入にあるのです。

ACTANT FORESTも、彼らの思考に共感しながら、様々なスタディを進めています。例えば、Design Rethinkersがキュレーションした「関係から考えるデザイン - システミックデザインとは?」展では、スタディのひとつとして、「Comoris POT」というプロトタイプを展示しました。都市生活と自然とのインターフェースとして森に人格を持たせることができないか、という問いに基づいたサービスプロトタイピングとなっています。以下で展開されるダークマターラボの実装プロジェクトが多分にインスピレーションを与えてくれました。いつも僕たちのやりたいことをスマートに言語化してくれるダークマターラボに感謝。


世界観のシフト 1:モノからエージェントへ

西洋の法律では、私たちはモノの所有者になり、それによって「財産」とされる家や土地から排他的な経済的価値を引き出す特権を得る。キャロル・ペイトマンは『Contract and Domination(契約と支配)』の中で、土地の植民地化、希少資源の独占、価値抽出の私有化を正当化するために財産権がいかに利用されていたか、その結果を一般化しつつ明示している。ラディクル・シビックスでは、単に財産所有のしくみを微調整したり、その社会的および生態学的影響に制限をかけるのではなく、このシステムの根底の部分でのシフトを探求している。人間を主体に、地球をモノや商品と見なすのではなく、動植物から河川、土地、そこに建てる家に至るまで、あらゆるものの「自己性」と「エージェンシー(主体性)」を認めることはできないだろうか? 所有権の代わりに、土地や地球との結びつきを、人間と人間以外の存在のコミュニティにおけるケア、相互性、互酬性を前提とした関係のネットワークとして捉え直すことはできないだろうか?

所有権は支配の理論のひとつであり、所有者の排他的利益という唯一のアウトプットに対してのみ最適化することができる。絡まり合った複数のステークホルダー、利益、利便性を最適化するようには設計されていない。代わりに、異なる所有者の権利が対立する場合か、あるいは狭い範囲での権利行使を規制する時にのみ、複数のステークホルダーの権利が考慮される。これでは、私たちが抱える複雑なシステムの危機を解決するメカニズムとしては不十分である。価値交換の絡まり合いから世界を見れば、「所有権」を超えて「関係モデル」に移行すべきだということは明らかだ。土地、川、家が自分自身を所有するセルフオーナーシップは、所有者という存在の可能性を排除することで、現存する所有権のシステムを覆しうるものだ。所有者による支配がなければ、あらゆる存在は、お互いの関係性の中で、自らの必要性のためにエージェンシーを発揮することができる。排他的な権利を譲り渡す所有権契約から離れて、ケアとスチュワードシップ(世話する責務)の関係性に加わることで、等しい存在同士のニーズを通した、権利と責任のバランスを取ることが可能になる。

では、土地や川のセルフオーナーシップとはどのようなものだろうか? 彼らに権利が付与された世界をどのように想像できるだろうか? これについて、私たちは、自然や未来の世代に高い地位を与え、彼らを代弁する方法を発展させてきたさまざまな先住民の知恵を基盤にしている。また、昨今成長しつつある「自然の権利(Rights of Nature)運動」も参照している。ラディクル・シビックスは、人間以外のアクターのエージェンシーを効果的に実現し、人間中心主義を超える文化の転換をもたらすために、それを支援するテクノロジーの活用とオルタナティブなガバナンスのデザインを探求している。

現在の官僚的な行政テクノロジーは、アナログモデルの延長線上にある。たとえ紙のデジタル化が実現されていても、「ペーパーワーク」には文字通り事務処理という意味がある。加えて、私たちが現在、世界をモノとして管理するために採用している官僚的テクノロジーには、還元主義的な傾向がある。豊富なデータが利用可能になり、その処理能力が桁違いに高まった今、このテクノロジーはもはや制約ではなく、事実上エージェントベースの世界観の可能性を広げるものとなっている。デジタルツインのようなツールを使えば、常に現実と照合しながら、ダイナミックかつ非独占的に情報を特定し、整理し、インタラクションさせることができる。ガバナンスに応用する場合、コンピューテーショナルな官僚制は、Polisなどの機械学習ツールが実証しているような多元性と一貫性を、地球スケールと超ローカルスケールで同時にサポートすることができる。ブロックチェーンのような分散プロトコルは、中央権力に依存することなく、検証、取引、意味づけ、決定を整合性をもって行うことができる。これらをエージェントベースの世界観とのやりとりのための支援技術として扱うことで、人間や人間以外の存在、そして機械がピアツーピアにインタラクションを行い、新しい市民社会のビジョンを運用するという高邁な機能が果たされる。

実証プロジェクト: フリーリバー — ドーン川プロジェクトとケアのためのインターフェイス

オプス・インディペンデンツと、ロイヤーズ・フォー・ネイチャー、シェフィールド・ハラム大学、アーバン・フローズ・オブザーバトリーによるパートナー・グループ、そしてシェフィールド大学、シェフィールド・データ・フォー・グッド、サウスヨークシャー・サステナビリティセンター、ドーン流域河川トラストらと共に、私たちは ドーン川プロジェクトに取り組んでいる。このプロジェクトは、ドーン川自身の人格を認識することによって川と関わるためのオルタナティブなモデルを構築することを目的とし、川をエージェントとして捉え、理解し、評価し、共感し、ケアするための新しいやり方を解き放つことが期待されている。

ダークマターラボは、CivicAI workというプロジェクトを基盤として、川に対する新しいケアの関係とスチュワードシップを生み出す「ケアのためのインターフェース」の設計に取り組んでいる。このケアのためのインターフェースは、生態系のデータを具体的かつ有意義にフィードバックするために、チャットボットから拡張現実まで、さまざまなインターフェースを組み合わせて使用することになるだろう。これらは、私たちの集合知を成長させ、川の生態系に対する深い共感と帰属意識を育むものとなる。さまざまな表現メディアを組み合わせて、川がどのように自らのニーズや価値を最もよく伝えることができるかを探ろうとしているのだ。川は、水質汚染によって傷ついたことを表現する詩を書けるだろうか? 心と心を通わせる会話は、地域コミュニティが川をケアするための積極的なアクションに向かう力を与えてくれるだろうか? このインターフェースを通じて構築された共感が、市民が川と新しい形の協力関係を結ぶ際にどのように活用できるのか、個人やコミュニティの具体的なケアの行動を中心に探っていくつもりだ。インターフェースは、市民のケア行動に関する情報をインプットし、彼らのエージェンシーが及ぼすポジティブなインパクトを、ケアを深化させるための反復的なラーニングプロセスの一部として表すことで、フィードバックループを完結させる。また、経済的なインセンティブではなく、感謝の手紙やアートといった社会的なインセンティブを付与し、人間の行動をより良いスチュワードシップへ導くことで、川を中心としたケアエコノミーをどのように構築できるかも探求していく。

世界観のシフト2:外部性から絡まり合いへ

ニコラス・ジョルジェスク=ローゲンによれば、現代経済学の原罪は、経済は資源やエネルギー、廃棄物貯留には依存しておらず、したがって指数関数的に拡大し続けることができる、という幻想を生み出した点にある。企業は「自然の恵み」をできる限り安価に奪うことで利益を最大化することを許されてきたが、その一方で、奪い取ったものを修復・復元・補充する義務は一切免除されてきた。Trucost社の調査によれば、世界有数の産業はどれも、使用する自然資本に対価を支払った場合、利益を上げられないという。対価を支払わずに消費された自然資本の総額は、2009年の世界GDPの13%にあたる年間7.3兆ドルにのぼる。この損害は、私たちの経済システムにとっては単に「外部性」として扱われる。これは、所有者に帰属する利益と責任の外側にある・・・・・もので、真のコストは他のすべての人々やその他の存在に降りかかることになる。言い換えれば、外部性とは、財産という概念が可能にする極めて便利なフィクションであり、財産とその価値は周囲の世界から切り離し、独占して囲い込むことができるという恣意的な前提に基づいている。

「[…]そこでは『あちら側』といったカテゴリーが消滅してしまうからだ。人は飴玉の包み紙をただ放り投げるのではない。エヴェレスト山に落としているのだ」
——ティモシー・モートン『Humankind』

外部性は単なる会計上の不具合ではなく、私たちの複雑な絡み合いを否定するものであり(バリー・コモナーが生態学の4つの法則のひとつとして「すべての生物は他のすべての生物と結びついている」と述べているように)、価値に関わる経済理論の構造的な欠陥だ。私たちが資源の乏しい世界に生きているのだと思い至るなら、価値とは、囲い込まれ、周囲の世界から疎外されるべきものではなく、関係的で、世界と絡み合っているものだとも認識すべきだろう。モノではなくエージェントに着目する世界観では、価値はエージェント間の関係から生み出される(例えば、昆虫にとっての生息地としての木の価値)。だが価値は、この複雑に交差した関係性のシステムが持つ新たな財産ともなりうる(例えば、動植物の生息地と地理的な個々の関係性から、生態系の生物多様性という価値が紡ぎだされる)。ひとたび絡まり合いの複雑さを受け入れると、バリューセオリーも必然的に複雑になるだろう。自分たちの世界観と経済のしくみとを、資源や価値を抽出するという発想から離れて、絡み合う価値を評価する複雑なものへと移行させたい。そのために、まずは「家」というテーマを起点に新しい分類法をスケッチし始めている。

この絡まり合いに基づくバリューセオリーは、さらに次の問いに対する私たちの意思決定を導き出すだろう。つまり、シビックインフラは、何に価値を置き、何を優先し、何をサポートするように設計されるべきなのか? この多元的に絡み合う縦断的な価値の連なりを考慮しながら、市民財政モデル(規制、投資、会計、課税、保険、調達全般におよぶ)をどのように進化させられるだろうか? そして、外部性という負の遺産がつくり出した複雑な社会的・環境的課題の解決に必要とされる機関投資家や民間の資本をどのように活用することができるだろうか? 例えば、持続可能ではない方法で建てられた、不快でエネルギー効率の悪い、家賃目当てだけで建てられた家と、環境や住人、あるいは周辺社会と調和するように設計された家を比べてみよう。現在の経済システムは、この2つの価値の違いを本当にすべて説明しているだろうか? もしそうでないとしたら、後者のための新しい経済・住宅モデルとはどのようなものだろうか? 私たちは次の実証プロジェクトを通して、これらの疑問を探っていきたいと考えている。

実証プロジェクト:フリーハウス

家というのは一般的にいって、最も身近で心落ち着く空間であり、また、経済・社会・環境的なシステムの交差点に位置してもいる。絡まり合いのバリューセオリーの実験にはうってつけの場だといえるだろう。もし家というものが、他の商品と同様に売買の対象となる財産ではなくなったらどうなるだろうか? コモディティではなく、セルフオーナーシップを持つ存在として認識した場合、それは、さまざまなバリューフローの結び目という重要な役割を体現する存在となるだろう。例えば、家を建てたり解体したりする際に流通する建材としての価値はもちろんのこと、都市の持続可能な排水システムを支えることで洪水リスクを軽減する価値、あるいは、エネルギーを生成し、使用し、そしてグリッドに戻すという価値を持ち得る。さらに言えば、家やその周辺に住む生物たちの生態系に果たす役割の価値や、炭素固定を推進するサステナブル建築としての価値、帰属意識とメンタルウェルビーイングに資する「ホーム」としての価値、そしてより広いコミュニティの一部としての価値。こういった複合的な価値を体現するものとして認識することができる。

家がバリューフローの結節点として認識され、そのフローの先にマルチステークホルダー、つまり複数の受益者と複数の責任保有者がいることを知った時、家は投機や抽出の対象ではなくなる。私たちはどのように、家を、関係する存在すべてに共通の利益を生み出すものとして捉え直し、投資することができるだろうか? こういった絡まり合いのバリューセオリーを実現するために、私たちは以下の重要な要素を検証している。

1. 絡まり合ったコモンバリュー(共有価値)が支える生成的な資金調達と意思決定

家は、エネルギー生成、食料生産、社会的交流、生態系サービスなどを通じて、複数の価値創造を体現している。絡まり合いのバリューセオリーは、これらコモンバリューの創造を最大化する自己生成型のビジネスモデルをデザインする絶好の機会となるだろう。それは、家賃を搾取するという行為の代わりに、家が自らメンテナンスやローンの返済などの長期的な維持を行うことを可能にする。このプロジェクトでは、絡まり合う価値のマッピングなど、バリューフローやエージェンシーの関係性を読み取るために必要なフレームワークをデザインする予定だ。また、新しいトレードシステム(成果型購入や多元的な価値交換のための通貨)や、トレードできない事柄(ケアや感謝の気持ち)まで、これらの価値を運用可能にするために必要なインフラストラクチャーをデザインすることもスコープに入れている。

絡まり合いのバリューセオリーは、私たちの意思決定プロセスに影響を与えるだろう。家が完全に自律的にそのエージェンシーを発揮するまでには至らなくとも、所有者の私利私欲に奉仕するのではなく、家が自ら見つけ出すミッションを達成するために必要なガバナンスや意思決定の構造といったものをデザインすることになるはずだ。それは、家の隣人となる人間や人間以外の存在、そして相互に依存するすべてのステークホルダーの参加を受け入れるプロセスとなるだろう。

2. 共に住まうためのコモンズのガバナンス

エージェントからエージェントへつながる関係性の観点から言えば、家の使用価値は家とその居住者の関係を通じて生み出される。現在、私たちは、ミシェル・セレスの「自然契約(The Natural Contract)」の概念と伝統的な生態学的知識からヒントを得て、私たちを支えているシステムとの絡み合った関係を具体化するスチュワードシップ協定のデザインを模索している。この協定は、フリーハウスに住む権利と、フリーハウスをケアする責任、そしてフリーハウスを取り巻く世界との関係のバランスを取ろうとするものだ。あるいは、このスチュワードシップの関係は多角的なものだとも言い換えられる。その家の住民は、手頃な価格で快適な家を手に入れる代わりに、家をメンテナンスし、周囲の野生動物や植生の繁栄を促進し、地域社会の一員としての責任を負うことになるからだ。

住宅格差はシステム的な配分の不均衡から生じている。財産という形式が可能にする富の蓄積は、往々にして他の人々が基本的な住まいのニーズを満たすことはもちろん、気候変動やメンタルウェルビーイングのような、より広範な社会的・環境的懸念に対処することを排除してしまう。言い換えれば、財産にはある種の社会的機能があり、排除の権利は社会的な機会コストの上に成り立っているのだ。セルフオーナーシップを持った家はすでに、資源配分に対する市場原理的なアプローチを免れている。だが私たちはさらに、単なる使用権の再配分を超えて、共に住むという文化を育むことによって、そのフリーハウスに誰が住むべきかを決めるオルタナティブなアプローチにまで踏み込んでいる。私たちは、その家に住むポテンシャルのある人々と共に、「居心地の良いホーム」へのニーズと、その家や近隣に居住していない人を含む、より広範囲にわたるエージェントコミュニティにとっての機会コストとの公正なバランスがどこにあるかを明らかにするために、市民との対話を始めているところである。

3. コモンズから貸し出されるマテリアル

マテリアルの価値には、その素材に求める機能を得られるという所有するエージェントにとっての利点、ないし浪費を避けるという責任と、マテリアルがそれ以外の機能を果たし得たという機会コストの双方が含まれている。家を建てる際に使用するマテリアルの選択は、環境や居住者のウェルビーイングに大きな影響を与える可能性がある。

もし、住宅建設に使われるマテリアルが所有物ではなく自然からリースするものだとしたらどうだろう? 資源の枯渇を回避する完全なサーキュラーエコノミーは、その後の再利用を考慮せずに新たな資源を持続不可能な形で抽出する現在のモデルよりも、大きな価値を持つ。議論の余地はない。この完全な循環性を実現させるには、マテリアルを所有することに長期的な責任を課すシステムレベルのインフラが必要だ。現在、私たちは「炭素貯蔵リース」というアイデアを模索している。これは、木材などのマテリアルのライフサイクル全体を通じて炭素が確実に固定されるようにするために、リース契約のような長期的または永続的な手段が利用できるかどうかを検証するというものだ。

世界観のシフト3:公共-私有からコモニングへ

私たちは今日的な課題に取り組むために、前時代に考案されたアプローチを依然として使い続けている。それらは利用可能な情報やテクノロジーの質・量ともに制限された、画一的で中央集権的な対応方法だ。相互に結びついた複雑な課題によって不確実性が増している現代、こうしたアプローチはますます古臭い様相を呈している。パンデミックや気候変動、格差の拡大といったグローバルな問題は、境界や担当部門、専門分野といった概念をゆうに超えていて、単一の政府、あるいは政府間の連携だけで解決できるものではない。同時に、大量のセンシングやデータの増大は、公共の利益をもたらす可能性を秘めているが、一方で権力や情報の非対称性、脆弱性、データの一元化によるプライバシーの濫用といったリスクももたらしている。私たちは「コントロール」という理論の限界に達しているのだ。つまり、排他的なコントロールの領域を切り分けるのではなく、共有資源に対する意思決定の方法を再考する必要がある。

ラディクル・シビックスは、コモニング(あるいはアンドレア・ナイチンゲールが言うところの 「コモン的になる[becoming in common ]」)の可能性を探求している。つまり、資源やマテリアル、スペースの使い方はもちろん、共有するリスクの解決において、地球規模のコラボレーションを推し進め、流動性が解き放たれた新時代をいかに切り開くことができるか、ということだ。このシフトは、新たな集合知モデルと社会的・市民的資本を軸とした大きな方向転換を必要とし、同時にそれを培うことになるだろう。私たちはすでに、こうしたマルチキャピタルシステムの可能性を目の当たりにしている。例えば、ある自治体によって新たに植樹された木々が生き残る確率は10%と低い一方で、コミュニティによって適切に手入れされた木は90%以上の確率で生き残ることができる。これは中央集権的な管理と分散型ケアの違いをわかりやすく示している例だろう。ラディクル・シビックスでは、テクノロジーにレバリッジをかけて、既存のケアのエコノミーを活性化すると共に、新たなエコノミーを構築する方法を模索している。分散型コンピューティング、台帳、スマートコントラクトなどのテクノロジーは、複数のステークホルダー間の行動を調整し、関連コストを削減する。また、ジェネラティブなコラボレーションを促進し、それらがプラスとなるように働きかけることができる。これらは、新たなセンスメイキングと学習能力を築くことに利用できるのだ。

実証プロジェクト:フリースペースと都市のパーミッション

私たちの多くは、河川や土地をコモンズ(共有地)と見なすことに慣れ親しんでいる。だが、空きビルにコモニングを当てはめてみたらどうだろうか?  都市は、パンデミックや仕事の進化、人口動態や経済の再編成の結果、十分に活用されていないスペースで溢れている。だが、こうした資産の未活用ゆえに社会的コストが発生しているにもかかわらず、その資産を集団的な利益のために活用しようとする財政的インセンティブや規制の枠組みは、現在のところ整っていない。フリースペースでは、マイクロスチュワードシップのためのスマートコントラクトや他のエージェントとのピアツーピアの協議など、新しいタイプのコモ二ングを通じて、都市の公的・私的な空間資産をどのように市民のためにアンロックできるかを探求している。それは、伝統的な賃貸や所有のモデルを超えて、どのように都市の共有資産に対するコモニングの実践とスチュワードシップの文化を後押しできるかを問うものだ。例えば、特定のスペース(共有キッチンなど)や特定の期間(例えば毎月火曜日の夕方など)を管理するためのいくつかの方法を重ね合わせることで、空室のオフィススペースを部分的なコモンズに変えることはできるだろうか? そして、相互に依存するステークホルダーに対し全体として良い影響を及ぼしているかを測定したり確認しながら、それを推し進めることはできるだろうか? 私たちの韓国チームは最近、大邱市という場所でこの新しい市民的分配の実験を構築しようとするプロセスを「Re:permissioning the City」で発表した。

新しい経済に向けた3つのシフト

デニス・ハーンが述べるように、「金融、財政、経済システムをどう構築するかは、冷徹な計算の産物ではない。より正確には、システムとは、私たちが種としてどのような存在であり、社会をどのように組織化するのが最善であるかについての、文化的、哲学的、さらには宗教的見解の表現である」。ここまで、市民社会をその根底から想像し直すという形で、お互いの、また世界とのあるべき関り方において重要と思われる3つの世界観のシフトを明らかにしてきた。世界を相互依存的なエージェントとみなし、そこから分散的でダイナミックな組織化やコモニングの方法が生まれ得ると認識することによって、この市民社会の再定義が、多種が共に存在するあり方の示唆となるだけでなく、経済がどう刷新されるべきかという命題をももたらすことを期待している。

さまざまな存在を経済的な抽出対象(財産)として扱うのではなく、彼らに内在する主体性を認識するようになった時、また、彼らが自らのバリューフローを構造化し、分散型の金銭的生産に加わるようその能力がアンロックされた時、そして、ケアや信頼、贈与、集合知などをプラスに働く行動に価値を見出すようになった時、経済システムの公理に関わる3つのシフトは新たな進化の道を開き、従来のシステムが引き起こした深く暗い轍から私たちを抜け出させてくれるだろう。そして、ラディクル・シビックスが取り組むことにした実証プロジェクトの、セルフオーナーシップを持った経済的主体(フリーハウス)と、主体をケアするためのインターフェース(フリーリバー)、そして、主体間の討議や調整の方法(フリースペース)は、エージェントベースの経済システムを現実のものとしていくために必要不可欠な要素になると信じている。

What’s Next?

存在論的シフトと実証プロジェクトの枠組みが、ありうべき未来に対する具体的な感覚をもたらしてくれることを願っている。今後数ヶ月、数年にわたり、私たちは多様なパートナーと、さまざまな場所、コンテクスト、リード市場でコラボレーションを継続し、さらなる実証プロジェクトを開発していく予定だ。こうした取り組みを通じて、私たちは、自分たちの文化やインフラの中で、世界を複雑な関係システムとして認識するための道筋を開く戦略的な介入策を見出し、実証することを目指している。

このほか、現時点で進行中の以下のプロジェクトがある。

  • フリーハウス・ベルリン: 社会レベルの想像力を育み、構造的・システム的に深い変革を推進する、具体的な体験と有意義な市民対話の機会を創出する。この探求の旅は、スチュワードシップ協定、配分システム、革新的なファイナンシャルメカニズムを探ることから始まる。これらはすべて、今後必要とされるインパクトあるシフトのための土台を築くものである。

  • フリーセンス: セルフオーナーシップ型の監視カメラによって、センサーが生み出す公共的価値を探求する。また、セキュリティとプライバシーのジレンマに対処しながら、中央集権的な管理ではない形で、それらをどのように統括することができるのかを探っていく。

  • シビックニュースシティ・シェフィールド: メディアとイベントの相互作用を利用して、シェフィールドにおける熟議のための深い傾聴能力を育んでいく。また、現在進行中の市民集会やコレクティブなセンスメイキングのための、ハイブリッドな新たな市民空間をつくり出していく。

  • コモンズネイバーフッド/シェアードストリート・シェフィールド: システムレベルの成果(信頼、レジリエンス、ウェルビーイング、情報フローなど)を引き出し、コレクティブなセンスメイキングやアクションを行う新たな力を育む、変革のための基本単位として、近隣地域を中心に位置づける。

  • 私たちは、さまざまな領域の専門家と共に円環をなすように学びを継続しており、市民科学、芸術・文化組織、憲法と契約法、トークンエコノミクス、ブロックチェーンや分散型組織などの有識者と、ストラテジックデザインに関する問いを深く掘り下げている(欧州ローアンドポリティカル・プロジェクト、ホロチェーン、da0シビックテックコミュニティには深く感謝している)。

  • P4NEネットワークへの貢献: 新たなシビックエコノミーがニューノーマルとなるために必要なインフラの実証と構築の方法を共同で探求している。

著:Alexandra Bekker、Calvin Po、Fang-Jui “Fang-Raye” Chang
グラフィック:JP King、Eunji Kang
レビュー:Indy Johar
ウェブサイト:https://radiclecivics.cc/

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