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DIYで微生物発電キットをつくろう

Akitoshi Nakamura

前回のおさらい

森から収穫するものは、きのこ、木材、山菜ですが、それに加えて、電気も収穫してしまおうというプロジェクト。第一弾として、森の土と微生物とともに電気を収穫してみることにしました。

改めておさらいすると、利用する微生物燃料電池というのは「微生物がエサを食べ、体の外に出した電子を電極で回収する」という仕組みです。ホタルのようにLEDをほのかにともしたり、センサー化させたりといろいろな活用方法があります。

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エナジーハーベスティングの文脈では近年盛り上がりを見せていて、世界的に有名なところでは、イタリアのBiooなど、発電を農業に活用するスタートアップが成長しています。

わたしたちは微生物によってもたらされるこの電気を自然と私たちの1つのコミュニケーションツールとして利用しようと考えています。前回の記事でも紹介した「NukaBot」の森版、つまり微生物の状態、さらには植物、土壌、水分の状態を把握し、微生物と一緒に良い森を作っていこうというものです。この発電とデザインというアプローチとを結びつけてなにができるか。森での実用化を探っています。

前半では、発電装置の作り方(室内編)について、後半では、森で使うために考案した発電装置(屋外編)についてDIY工程を紹介していきます。

微生物を使った電気のつくり方 - 室内編

発電装置と言っても作り方は簡単で、材料はAmazon、100円ショップで簡単に手に入ります。微生物発電は、今かなりあつい最先端の研究なので、自由研究のテーマに困ったときに挑戦してみるのも良いかもしれません!

1. 材料を揃える

はじめの

<材料> 所要時間約30分
・電極(カーボンフェルト または ステンレス鋼)
・容器(タッパーなど)
・導線(VSF0.75(ホームセンター))
・ハンダセット
・土(そこらの土、市販の腐葉土)
・植物(お好みで)
・寒天、塩化カリウム水溶液、水(イオン伝導膜)

*カーボン電極が高いなと思ったら、ステンレス綱でも大丈夫です。
(100円ショップの油かす取りザルや金網ザルを分解したものでもOK)
*カーボンは電極に使えないものもあるので選ぶときは注意が必要ですが、容器や導線はあまり神経質にならなくて大丈夫です。容器は見た目で選ぶのもありです
*「この植物が発電してるのよ」と言いたい方はお好きな植物のご用意も。
*イオン電導膜は発電量をあげたい上級者向けです。(作り方は野外編にて)


2. 容器の形に合わせて電極をカット(2枚)

容器に合わせて電極を2枚準備します。

あく


3. 電極に導線をより合わせ、はんだ付けする/差し込む

導線の皮膜を剥いて、撚り合わせた後、ハンダでコーティングします。これをしないとうまく導線が電極の中に入りません。ステンレスを使う場合にはハンダがつきにくいので導線を絡ませてからハンダづけをするとうまくいきます。

追加2

追加1


4. 土のミルフィーユをつくる

用意した土を水でドロドロにし、土→電極→土→電極→植物の順に容器に入れる。山、田んぼ、畑、そこらにある土で発電できます。殺菌処理されている土は発電できないため、市販土壌の中には発電できないものがあります。水加減ですが、どの土でもドロドロ加減によって発電ができないということはないのであまりこだわらなくて大丈夫です。発電菌は嫌気性なのでできるだけ空気を抜くと良いです。容器ごと地面にトントンすると簡単にできます。

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写真くらいまで土を入れたら電極を入れます。下に入れたものが負極になります。電極を押し付けるように載せ、ここでもできるだけ空気を抜きます。

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写真くらいまで土を加えます。何cmにするといった細かいことは気にせずに順番さえ合っていれば問題ないです。あくまでDIYということで。
(イオン電導膜を入れたい場合は、負極の少し上あたりに配置 *作り方は後述)

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電極を土の上に載せます。これが正極になります。土に接してさえいれば、強く押し付ける必要はありません。

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お好みでコケなど植物を載せてみてください。コケは保湿剤のようにもなるので相性が良くお勧めです。盆栽のように小さい木を入れたい時は、電極がない端っこに植えたり、一部電極をくり抜いたりして植えてみてください。(写真はスナゴケ)

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5. テスターで電圧を計測

カーボン電極は2週間くらい時間が経つと電圧がどんどん上がります。600mV以上を目指していましたが、ステンレス鋼では400mVくらいでした。物によってはもっと電圧は高かったり低くかったりするのであくまで参考程度にみてください。

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発電 - 室内編の結果はどうだったのか

時間が経つにつれて電圧が上がっていくのが楽しみになり、おかげですごく地味な趣味ができました。はじめはカーボンが全然発電せず、がっかりしていましたが、カーボンは体があったまるのが遅いタイプのようで後半は尻上がりに発電量は上昇しました。逆にステンレスはスタートこそ良かったが、後半は失速していました。

あくグラ

各電極ごとの発電量の推移

なぜ植物があると良い結果が生まれるのか

上記のように差が出た理由はカーボンに比べて、ステンレスは土壌が乾燥したときに、正極(上側)が土から離れてしまいやすいというのが原因の1つだと思います。ステンレスを使う場合には植物と合わせた方が良いかもしれません。
ステンレス鋼と土壌の乾燥の関係について、卒業研究のデータを下に少し補足します。卒業研究では、微生物燃料電池(炎酸化ステンレス)の発電量には、土壌の水分状態や植物がどのように影響しているのかということについて調べました。

卒論写真

卒業研究で行った調査環境はこんな感じで恒温機の中で行いました。いろいろなデータのうち、植物と土壌の乾燥に関係するデータに関するものが下のグラフです。

卒論ぐら

この結果からは、土が湿っているほど発電量は高く、また、植物(スナゴケ)があると発電量が高くなるということがわかります。

実際の森林環境にインストールするとどうなるのでしょう。楽しみです。

微生物を使った電気の作り方 - 森林編

ここからは森林編についてです。
微生物とともに良い森をつくっていくということがこのプロジェクトの目標です。そのためには、森に差し込むだけで発電できるような装置、つまり森と一体化した装置が必要です。そんな装置ができれば、微生物がLEDを光らせたり、写真を撮ったり、植物がセンサーとなってその森の「いま」を教えてくれる森のメディア化を達成することができます。

そのためにまずは屋外で使える装置を自作しました。(※作成にあたって、特許WO2016035440A1を参考にしました。)

屋外1

<材料> 所要時間約2〜3時間
・アクリル円筒(太φ=100mm・細φ60mm、L=300mm、t=3)東急ハンズ
・アクリル平板(φ100、φ60、t=3mm)
・アクリサンデー
・ボルトとナット(M5)
・導線(VSF0.75)
・カーボン電極 
・粉寒天
・塩化カリウム水溶液(3.3mol/L)
・電導ドリル


1. ケースをつくる

アクリル円筒(太・細)の下部に穴を開け、アクリル平板で底に蓋をします。地面に差し込めるように円筒の容器を用意。底面から10cmの高さまで約220個の穴を電動ドライバーで開ける、のはかなり大変でした.......。今後は3Dプリンターを使って、この穴あけ工程をスキップします。最後にアクリルサンデーを使って底に蓋をします。

アクリル円筒


2. 導線を差し込む

カーボン電極を円筒の円周に合わせてカットし、導線を差し込みます。室内編の電極よりも大きい電極を使うので、差し込むのが大変です。導線はある程度の太さ、硬さが必要です。今回紹介した導線よりも太いもののほうがスムーズにいくと思います。電極の長さは、直径×3.14+αで、太は長さ約315mm、幅150mm、細は長さ約190mm、幅150mmとしました。

長電極


3. ケースと動線を合体!

アクリル円筒にカーボン電極を巻き付け、アクリル円筒同士を固定します。アクリル円筒の穴を開けた部分を覆うようにカーボン電極を巻き付けます。巻き付けた電極を結束バンドで固定します。最後に、アクリル円筒(太)の中にアクリル円筒(細)を入れ、ボルトとナットで固定します。円筒同士の固定する時は幅が狭いので、箸をくっつけた秘密兵器を使いました。

なっと

でき

ペンチ


4. イオン伝導膜をつくる

粉寒天、塩化カリウム水溶液、水を混ぜイオン伝導膜をつくります。イオン電導膜というのは、「電子は通すが、酸素は通さない」という性質を持っています。微生物燃料電池の負極の嫌気性を保つことができるため、イオン電導膜を入れることで発電量を高くすることができます。簡単にいうとドロドロした寒天をつくって流し込むという作業です。

<イオン電導膜のつくり方>
粉寒天3gに塩化カリウム水溶液100mLの割合(3.3mol/L水溶液の場合)または、水100cc、粉寒天3g、塩化カリウム30gの割合で加え容器に合わせた量をつくります。https://www.chem-bio.st.gunma-u.ac.jp/~taiken/2016/3.pdf

今回は、粉寒天3g、塩化カリウム水溶液(3.3mol/L)100mLの割合でカーボン電極の高さより高いところまでカバーできる量(500~800mL)を作りました。最低でも円筒の穴の範囲は必要です。これらの材料を鍋に入れ、弱火から中火で火にかけ、ドロドロになるまで煮込みます。

森で作ったので、正直、正確さには欠けますが...。

寒天

5. 寒天を流し込む

太い円筒と細い円筒の隙間に流し込みます。細い円筒の内側に入らないように注意します。

注ぎ


6. さあ、森にインストールしよう

完成した装置をダブルスコップで穴を掘り、装置を埋めて、完成です。装置の先が地面からはみ出るくらいの深さ(20~25cm)にします。その穴に装置を差し込み、掘った土を戻して装置と地面の穴の隙間をつめて完成です。

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入れて

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森の中で地面から電極が伸びているという不思議な光景に。

発電 - 森林編の結果はどうだったのか

森での実験なので、ずっと発電量を見ておくことはできませんでしたが、作成した4/30には215mV、5/18には605mV、6/13には789mVと、時間が経つにつれてぐんぐん上昇しました。室内編の時の発電量は大きくても600mV程度でしたが、森林編ではときには800mVを超える電圧が確認でき、今後の期待が高まります。

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今回のまとめ

今回は、発電装置の室内編と森林編を紹介しました。どちらの様式でも発電できることが分かり、特に森林編の装置では高い電圧が確認できました。微生物の声をキャッチすることはひとまずクリアできました。ただ、現段階では、発電はできても、電気を使うところまで至っていません。電圧が安定せずにLEDをつけることがまだできていないのです。微生物とのコミュニケーションを図るには、もう少し試行錯誤が必要になります。

次の段階では発電した電気を使ってLEDを点灯させる!を目標にします。コンデンサや昇圧機を組み合わせて、自然の力でLEDの点灯を目指します。発電された電気をヒトが利用できるようになると、このプロジェクトの幅も広がり「森のメディア化」も少しずつ現実味を帯び始めます。

というわけで、つぎのnoteでは「微生物とともにLEDをつける」をお届けする予定です。お楽しみに!


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