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愛着の発達や機能~虐待や家族関係との関連~ (第二期:第3回③)

1.虐待と関連して(②への補足)

 被虐待児特有の症状を被虐待児症候群と呼びますが、これは異常な環境における正常な反応で、セリグマンの実験で犬が示した学習性無力感やハーロウの実験でサルが示した反応と同様です。
 また、虐待は連鎖すると言われますが、実験環境で育ったサルも親になり育児をすることに困難を示したそうです。

2.愛着の体験から発揮へ

 愛着対象を安全基地とすると、子どもは徐々に探索の範囲を広げ、安全基地に戻らずに不安や恐怖を解消できるようになります。愛着対象をイメージとして内在化するようになるからです。固定電話から携帯電話への進歩に似ているでしょうか。そして大人になる頃には自らの体験をもとに安全基地になります。
 安全基地は母性的愛着対象がもつ機能を指しますが、そこを基準とした探索行動を加味した場合、父性的人物の機能も決して軽視できません。外界の探索に子どもを誘い、その魅力を伝え、勇気づける行為を父性の機能とすると、様々なことの理解が深まります。家族という単位に生まれ、生きるのが人間です。

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 愛着対象はたいてい家族ですので、家庭も同様に安全基地的な機能を持ちます。その点からも家庭環境や家族関係の重要さは疑いようがありません。安全基地機能つまり母性と前述した父性機能の影響(両親との関わり)の中で子どもがどう成長していくかは、交流分析と呼ばれる理論で分かりやすくなります。

3.交流分析理論からの理解

 交流分析では心の構造として保護的な親(NP)、批判的な親(CP)、自由な子ども(FC)、順応する子ども(AC)、大人(A)の5つを想定します。
 NPは母親、CPは父親の影響を受けるとされています。その人がどの程度保護的か批判的かは両親に左右されるということです。Aは外界と関わる際に機能します。そして、子どもは安全基地(母性的愛着対象)の範囲で自由でいられるので、FC(自由な子ども)もNP同様にその影響下にあると考えることができます。また、順応は批判に対して行われますので、AC(順応する子ども)もCPのように父性的人物に左右されるはずです。これは既述の内在化の説明と言えます。

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 前に、安全基地の機能不全が虐待であると書きました。交流分析の理論で言えば、保護的な親(NP)が機能しなければ自由な子ども(FC)は育たず、批判的な親(CP)に偏れば順応する子ども(AC)が応じるということです。意欲が低く、不安を抱え、危険回避に長けるという被虐待児の特徴を示しています。

注意!「批判」の意味

 ただし、CPの名称につく「批判」という言葉には注意が必要です。日常的には「否定」と似た意味で使われがちですが、むしろ「検討」の方が近い、改善のための助言のような意味です。ポジティブな批判は、能動的な順応を促し、自由な探索行動の助けにもなり、FCをも伸ばし得ます。本来の父性的機能です。したがって、CPにはネガティブとポジティブの両方向があると考えた方がいいでしょう。
 温かく家庭的な環境では、NPが高まりFCを伸ばし、ポジティブなCPが能動的なACを促すと考えられます。反対に、虐待的な環境では、既述のように、NPとFCはともに育まれず、CPとACがネガティブな方向に高まるはずです。

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4.子どもへの支援を考える

 ここまでを加味して、子どもへの支援を考えると、人格形成と家族機能の関係を見過ごすことはできないはずです。

・被虐待児には、新たな親像として内在化する対象が必要です。
・幼児への保育や教育では、子どもには主に遊びを用いて探索を促し、家族には現在の家族機能を尊重しつつモデルとして関わります。
・教育は基本的に父性的行為です。探索行動は「学習」を含み、最終的に自立にまで繋がりますので、その準備と言える教育は、広い意味での探索行動の支援行為と言えます。したがって、ポジティブな意味での批判によって外界への興味や好奇心を保ちつつ行われるべきです。家族への関わりは前述と同様です。

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 子どもと関わる際の具体的な注意事項は雑多にあります。しかし、母性的機能が内的な不快を解消すること、父性的機能が外界に対するそれを軽減することを、それぞれ促し、それぞれによってNPが高まればFCが続き、CPが良好に獲得されればACも応じると考えることが重要です。これが応用できるからです。

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