天井のハートと梅雨明けと。

「なんかさ、持参するの忘れて思いがけず使った旅館のコンディショナーが意外と良くて、髪がサラサラになった時ってさ、なんか寂しくない?嬉しいんだけど悲しいよね。」

行為が終わってシャワーを浴び終えた君が床にぽたぽたと水滴を垂らしながら、話しかけてくる。半裸の君はお構い無しだけど、なんとなく目のやり場に困って、テレビの横の棚に目をやる。

「わかる!意外とよく分かんないメーカーのコンディショナーがいいんだよね!!」と言いかけて、昔の恋人と温泉に行ったことを思い出して口に出すのをやめた。ていうか、男の人ってコンディショナーとか使うのか?もしかして彼女と温泉行った時に彼女が言ってたのかな。一瞬で沢山の事を考えたが、全てを飲み込むように煙草を一口吸い込んだ。いつからこんな煙草なんて吸うようになってしまったのだろう。全然可愛くないよな。そりゃ彼女にしたくないよな。

「ねえ、聞いてる?」いきなり後ろから抱きつかれてびっくりした。ああ、いい匂いがするな。この男のこういうところが嫌いだし、好きだ。

ただのだらし無さを「エモい」って言葉で片付けるのは便利だな。

エモい=エモーショナル、感情を揺すぶられる事であるはずなのに、私達は言葉で片付けて思考停止している。それで言うと、少なからずこの状況、この男に感情を揺すぶられている私は、かなりエモいと言うことになってしまう。

自分以外に感情を揺すぶられて、支配されるダサい自分に耐えられない。だから恋なんてしたくないのだ。私は恋なんてしないし、甘えることなんてない。ただ、今日だけ腕の中で寝かせて欲しい。

「ああ、ごめんごめん!分かる〜!私もこの前友達と旅行行った時に旅館のコンディショナー使っちゃった」と言ったら、何も言わずにキスされてもう1度ベッドに連れていかれた。

 

最中、天井のハートの照明にバカにされてる気分になった。
あと何回したら気が済むんだろう。
もう何回だって同じか。
昨日の居酒屋で、何人としたか数えた方がいいと言われたから、君を1人目にしようか。1人目だったら変わってたのかな。
もう、付き合ってもない男とセックスしたくらいでは何も感じないはずなのにやたら気持ちよくて、一瞬だけ全てどうでも良いと思ってしまったな。

あと何回セックスをしたら私は完全になれるのだろう。

 

 

 

けたたましく鳴り響くスマホのアラームで起こされた。しっかりとセットしていたなんて、君は私と違って本当にちゃんとしているな。

窓のない部屋って嫌い。私だけ昨日が続いているみたい。

早く光を浴びたくて、フロントに鍵を返して出口を出た。昨日の雨とは打って変わってすごく眩しくて暑くて、なんとなく、私は君とは別の方向に歩き始めた。君も別の方向に歩き始めて、私達は今日も別々の今日を始める。どこに出掛けるかなんて、結局最後まで聞けなかった。私は少しだけ、君が好きだった。こういうのをエモいと言うのだろうか。

 

昨日の傘を持ったままの私のエモい夏が、

はじまっていた。