「スキ、キライ、スキ、キライ…」 さっきから少女のような花占いをしているのは中年の男。 彼の片想いは深刻と言ってもいいほどの情熱だった。起きている間は片時も彼女のことが頭を離れず、食事もろくに喉を通らない、マンガのような日々を過ごしていた。 思い切って彼女に告白しようと思っても勇気が湧かず、ついつい乙女のような占いをしてはため息を吐くだけという、典型的モテない男の思考のまま日々を過ごしていた。 今日、ついに告白をしようと決心はしたものの、またも気持ちが萎えてしまい、最後
「さあさ、これこそは究極のダイエット薬!飲めば必ず痩せますよ!」 怪しげな薬、サプリメントを売っている店の前で、店主が呼び込みをやっていた。 そこへでっぷりと太った紳士がやって来た。 「君、必ず痩せるんだね?」 「はい、もちろんですとも!」 「では買おう。金ならある。1億円分買おう」 「ありがとうございます!」 邸宅に帰り、山のように積み上がった薬の箱を前に、紳士はご機嫌だった。 「さて、一体どれほどの効き目か試してやろう」 シートから黄色いカプセルを押し出すと、
今や機械学習の発達は目覚ましく、翻訳の分野においてもその能力を遺憾なく発揮しつつあった。 しかし、そんな機械翻訳にも欠点はあった。例えば、「バカ」という言葉が罵倒表現なのか、または女性の甘い囁きなのかを理解できないのである。 この問題に対して、数億ドルの資金と最先端の機械学習の知見によって、これを解決するシステム、アナログバイリンガルが開発された。 アナログバイリンガルは高度な学習機能と推論機能、感情機能を搭載しているため、例えば「てめえ顔貸しな」を「あなたをボコボコに
お題 「冷蔵庫」「を宣伝してみる」 「はいお客さん。これは便利な品物。冷蔵庫と言うんです。これがあると生活がとっても便利になります。まず、なんと言っても肉が凍らない。柔らかいお肉がいつでも食べられます。いいでしょう?野菜も果物も凍らない。いつでもシャキシャキ、ジューシーなものを食べられます。そしてこれが重要!水が凍りません!いつでも水が飲めます!わざわざ融かす必要がありません!」 こうして私はイヌイットに冷蔵庫を売りつけることに成功した。
お題 「クリスマス」「名探偵」 今日はクリスマス! 学校のサークルでもイベントをやるって言ってたしな。 サークルの部室にやってきた。 すると、 「ええっ!」 部室の真ん中には人がうつ伏せに倒れている。そして、床に大きく広がる赤い液体。 倒れているのは… 「ぶ、部長!」 やや背が低く小太りでしかも見覚えのある服装。 思わず近づこうとしたが広がる赤い血が近づくことをためらわせる。 「こんにちは〜」 そうこうしているうちに他の部員たちも部室にやってきた。 「おい、何これ!」 「
お題「釣り」「メガネ」 今日は絶好の釣り日和とばかりに港にやって来た。 すると、おじいさんが小さな屋台でメガネを売っていた。 「なんでメガネなんか売ってるんですか?」 「ああ。これはな、掛けると海の中の魚が見えるようになるんじゃよ」 これはいい。釣りにはもってこいの道具じゃないか。早速購入して掛けてみる。 「本当だ!魚がどこにいるかよく分かる!」 喜び勇んで釣りを始めた。 しかし、どうしたことか魚がエサに食いついてくれない。ちゃんと魚がいる場所を狙っているのに
「はい、これプレゼント」 彼女はそう言って僕に一冊の本を差し出した。 彼女は本が、読書が好きだ。ふだん物静かな彼女だけど、好きな本の話をするときには、言葉を尽くして感想を懸命に話してくれる。そんな彼女の姿が愛おしかった。 本の内容は彼女にふさわしく、どこか幻想的で、でも心が温かくなるような物語で、僕の心にじんわりと染み渡るようだった。 その本の一節に鉛筆で線が引いてあり、「MからAへ」と書いてあった。Mは彼女のイニシャル、Aは僕のイニシャルだ。 「君の未来の半分を僕
お題 「助手席の」「リストラ」 「未来の自動車」 かつての自動車には助手席というものがあった。 助手席に座る人は必然的に運転手のサポートをしなければならない。 道案内。話し相手。居眠り防止。等々。 助手席に座って眠ったりすると不興を買うのだ。 今の自動車は違う。 人型のロボット、「総合ナビゲーター」がその役を果たしてくれるのだ。 道案内はもちろん、運転手のつまらない話もきちんと受け答えしてくれ、居眠りも優しく注意してくれる。 最近はロボットを自分好みの姿にカスタマイズする若
「お客さん!ここにあるのは魔法の冷蔵庫!もう買い物をする必要はありません!」 「え、どういうこと?買い物の必要がないって?」 「欲しいものを言ってから扉を開ければ、何でも手に入るんです!」 そんなバカなと思いながら、引っ越し直後でちょうど冷蔵庫が必要なこともあって、つい買ってしまった。 冷蔵庫を据え付けて、喉が乾いたと思いながら 「あー冷えたビールが欲しいなあ」 と冷蔵庫を開けると、なんと良く冷えたビールがおいてあった。 思わず手にとって飲む。冷えたビールがウマイ。 「こうな
かつて神様がこの世を創られた時、バナナは真っ直ぐであった。 ある日神様が山の頂上でバナナを食べようとしたところ、手を滑らせてバナナを落としてしまった。 「あれあれあれ!」 神様は慌ててバナナを拾おうとしたが、バナナは真っ直ぐだったのでそのまま転がり、池に落ちて沈んでしまった。 「けしからん!真っ直ぐだから転がるんだ。これからはバナナは曲がった姿にする!」 こうしてバナナは曲がった姿になった。 #ショートショートnote
ダイエット用にコップが開発された。 そのコップに飲み物を注ぐと、コップが「この飲み物は〇〇カロリーです」と喋って教えてくれるのだ。 僕がこのコップを使い始めたおかげで、自分のダイエットが捗り始めた。 そんなある日、例によってダイエットコップでビールを飲んでいると、「また第3のビールですか?たまには本物を飲みましょう」とコップが喋った。 こんな機能もあったのか?うるさい奴め。構わず飲み続けていると、コップが「頭が痛くなってきましたよ。もっといいもの飲みましょうよ」と言っ