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炎と言葉を自在に

好きな陶芸家で芸術家の方が書かれたエッセイの感想文を書こうと思う。
京都市東山区は五条坂の地に陶芸家河井寬次郎の住まいだった家がある。

現在その住まいは『河井寬次郎記念館』として存在している。
『土と炎の詩人』とも言われ、唯一無二の世界感を築いてきた人。

そんな河井寬次郎著書のエッセイ『火の誓い』を読んでの感想を綴らせて頂きたい。自分の拙い表現や文章でどこまで感想を伝えられるか、そして自分よりもよほど詳しい方もいらっしゃると思いますがどうかご容赦を。


河井寬次郎について


その名前に馴染みの方もいれば、そうでない方もいらっしゃるはずですので少しだけ自分の少ない知識と参考文献の力を借りて略歴を書いてみようと思います。

河井寬次郎は明治23(1890)年に島根県安来で大工の棟梁である父、河井大二郎の子として生まれました。明治43(1910)年に東京高等工業学校窯業科に入学。焼き物に対する科学的な基礎を学びます。

卒業後、京都市立陶磁器試験所に入所。作陶や研究に励み、やがては賞を受賞するほどに。だが、段々と自らの作品に対する疑問を持ち始めていくことになっていきます。

その頃に出会った柳宗悦の影響も大きく、試験所の同僚であった浜田庄司らと民芸運動を推し進めていく中心人物になっていきます。

やがては民芸を中心にしつつも自らの個性を交え、その世界感は唯一無二のものを築き上げていきます。昭和41(1966)年に惜しまれつつもその生涯を閉じます。

作陶だけではなく木工や詩、そして自らの住まいもデザインするなど多岐に渡って才を発揮されていきます。あくまでも一陶工としての姿勢を崩さずに、自らの作品に名を入れず、人間国宝も辞退しました。

何とも簡素な説明文で間違っている箇所もあるかもしれませんが、略歴を書き記してみました。どうかご容赦下さい。

本を読んでの感想


書を通して言えることはすべての目の前に起きている事象を通していかに美が潜み、その背景を著者のフィルターを通して考察し、何がどう美しくて、それがもたらす意味というものを鋭くひも解いている。

日々の風景や、四季の移ろい、人々が暮らす生活においても自らの感性で豊潤な言葉と表現で書きしるされている。それは人の仕事を評す上でも如何なく発揮される。

親交のあった棟方志功の仕事ぶりも評してあり、実に興味深い。棟方がいかに体と仕事を混然一体となって事に及んでいるかが描かれてある。仕事に対して全身でぶつかり、あくなき探求心と向上心を作風に表し、その全身全霊ぶりを喜びとして書かれている。

読んでいて何とも熱い思いが伝わってくる。更に棟方が自分の仕事に対して責任が持てないと言っているのに対し、おめでとうと河井は言う。仕事に対して全霊全霊で向かっている棟方に対するある意味賛辞の言葉ともいえよう。

責任が持てないという言葉は、ある意味本気で、真剣に向き合っているからこそ生まれる言葉ともいえる。その向上心から出た言葉を河井は汲んでおめでとうと書いたのではなかろうか。

他にも色々な方の仕事ぶりを評されている。全体的に言えるのは、まずいかにその人の人柄を見ているか、そしてそれを踏まえたうえで、その人の仕事ぶりを評されているかが分かる。

いかに人柄を、そして人柄から生まれる生活を土台にして、良い仕事が生まれるかを独特の表現で記している。日々毎日行う事、だからこそ日頃の生活ぶりが仕事にどのような影響を及ぼすか、それは現代の社会においても大変参考になるものだと感じた。

更に仕事のプロセスを丹念に分析し、文章にして落とし込んでいるかが書を読んでいて、よく描かれている。仕事の全体像を言語化して落とし込む、よくアウトプットとインプットの重要性が説かれているが、ものの見事にそれが表現されているのである。

時にそれは作られたモノの立場から作った人の評価をしている場合もある。
およそ知らない人はいないであろうピカソの仕事ぶりも評している。

ピカソは歌ってはいるが皿は和してはいない。この協和しない性格の二重奏はどうしたことなのあろう。陶器の方からすればピカソは明らかに未だ招かざる客なのは遺憾である。陶器は彼が陶器の中に待たれている自分をはっきり見付けてくれるのを待っている。

火の誓い 69ページより 『陶器が見たピカソの陶器』 

もしピカソファンの方がいらしたならスミマセン(笑)
『陶器が見たピカソの陶器』というタイトルでの引用です。

世界的な巨匠であるピカソの陶器に対する仕事ぶりを、陶器を通して評している。日頃作陶に励んでいた著者だからこそ見えた世界感なのではなかろうか。

ピカソならばもっと良い作品を残せる、そして陶器のポテンシャルを存分に生かし切れてないという事なのだろうか。見つけてくれるのを待っているというのは中々表現できない。著者にしか見えないモノがあったのだろう。

そしてピカソならば新しく形を生み出すだろうと結論づけて締めくくられている。当たり前のことを述べるかもしれないが、キレイなものや事を評する力、審美眼というものが言葉として発する力がするどく、言葉に置き換える力というものが類をみないものとして本を読んでいて感じる。

著者が全国の窯場を巡った際の紀行文や、町の景観のエッセイなど記されているが、いかに日頃から起きている事象や目に入ってくる事柄を自らの中でかみ砕いて消化し、何故その生活様式は必要なのか、何故その仕事は誇り高く風景の一部として馴染んだものになっているのかが説かれている。

日常の名もなき職人さん達の仕事ぶりも見事にとらえており、それがどれだけかけがいのない事なのかを慈しみの言葉で説かれているのだ。当時の生活スタイルや日々の仕事ぶりを知る上でも大変興味深い本である。

そして目の前で起きている事を一辺だけではなく、全体を、そして流れを通して言い表し人々に与える影響についても考察されている。特に印象に残るのが、風景や季節の狭間で起きる事象がいかに子供に重要なのか、そして今後成長していく過程で大切なのかを、著者の言葉で表現されている。

町の人達は彼岸の声を聞くともう、どんなに寒さに身体が縛られていようと、心だけは飛び出して春をつかまていた。春の山は笑うという。人はなかなか大きく笑えるものだ。町の人達は山を借りてさえ笑いたくなっていた。大人さえそうなのだ。子供達はもうじっとしては居られなかった。子供の中にいる未知の者達は、あらゆる縁を求めて起き上がろうと、子供達を駆り立てた。

火の誓い 126ページより 『浜鳴り』

春と冬の狭間の時の事である。
「子供の中にいる未知の者達は」という表現が好きだ。言葉の表現力自体が好きなのかもしれない。唯一のものだと感じている。子供の好奇心や衝動心を上手く表現されており、この項だけではなく、いかに自然の事象が人々、子供達にとっては重要なのかがひしひと伝わってくる。

そして自然と寄り添い、暮らしていく人々の生活スタイルとリズムやそこから生まれていくものの重要性がよく分かる。美しいものや事はどうやって生まれていくのか、その土台は日々の人々の日常に潜んでいるものなのだと感じた。

町の風景の描き方や景観全体の描き方など生き生きとして、目をつぶればその情景がありありと浮かぶ。景色とはいかに雄弁なのかを改めて自覚させられた気がした。

詩について


河井寬次郎は詩もお書きになられている。その世界感も好きだ。

すべてのものは 自分の表現

火の誓い 208ページより 『いのちの窓』

仕事が見付けた自分
自分をさがしている仕事

火の誓い 211ページより 『いのちの窓』

おどろいている自分に
おどろいている自分

火の誓い 215ページより 『いのちの窓』

何という今だ 今こそ永遠

火の誓い 217ページより 『いのちの窓』

一部引用させて頂きました。
著者がいかに自我を切り離し、冷静に自らを見つめているかが伺える。そして自らに関わるものが全て自己表現をするものであると著者の気概を感じる。

それは陶工だけではなく木工や文章、詩を綴っていることもそうだし、家のデザインに家具や持ち物一つとっても細部にまで著者の人柄が良い意味で滲み出ている。

そして仕事や日常を通していかに発見があるか、どれだけ発見ができるのか、新たな自分が発見できるのか、今という時にどれだけ全力を尽くす事ができるかの重要性を説いている。

日々を真摯に向き合うからこそのおどろいている自分なのだろうし、今が永遠のものなのだろう。今という一瞬が大切なのである。詩を通して著者の生きる姿勢がよく伝わってきて、エネルギーをいただく内容だ。そして日々をよりよく生きるヒントも隠されているようでならない。

最後に


本を読み終え、生きていく上での姿勢を御教授させていただいた気分だ。そんな感慨にふけっている。当然のことながら著者のようにはなれないが、その考え方や、暮らしのエッセンスは自らに参考にすることはできる。

美しいもの、変わりゆくもの、そして日々のことをいかに自分の中で咀嚼し、アウトプットできるのか。そのためには多くの言葉を知り、多くの芸術や美術を感じ、自らの感性を磨くことの重要性が分かる。

また自己を日頃起きている事や仕事、プライベートなどで鍛錬していく姿勢もまた重要なのだ。己の客観視も一つのテーマだと感じた。全てが繋がっているのである。

長々と感想を書かせて頂きました。稚拙な感想で不備もあるかと思われます。申し訳ございません。そしてあくまでも自分の感想です。どうかご容赦下さい。著者の人生や作品についての勉強不足が文章に見受けられるかもしれません。もっともっと勉強していきます。


最後までお付き合いいただき誠にありがとうございます!





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