見出し画像

「あるがまま」を表現する、ナチュラルワインのお話を聞いて、Most Likely To Succeedを思い出した

先日、ふと思い立って「ナチュラルワイン」のオンライン試飲会に参加してみました。以前から「亜硫酸」入りのワインがどうも苦手だったので、それについて「少しでも知ることができればいいなぁ」と思った程度。ワインは好きですが、詳しいわけではありません。

**ここからは、参加中に自分でメモしたことや検索した内容の記録です(リンクが貼ってあるのは、その用語の詳細について自分で確認したサイトです。)**

講師は酒美土場オーナーの岩井穂純氏。申し込むと6本の小さな小瓶に詰められたワインが手元に届き、Zoomウェビナーでお話を聞きながら一緒に試飲をするオンライン試飲会。

自然派ワインと工業的ワイン

化学肥料や農薬、農機具を使って合理的に効率良く作物を育てる慣例農法に対して、自然な農法のアプローチとしてオーガニックビオビオディナミ自然栽培などがある。オーガニックは英語、ビオはフランス語で、内容は同じ。この用語は全て、どのようにして農作物を作るか、という農法に関するもの。

ナチュラルワインは自然な農法をベースにしながら、醸造も自然なもの。ワインの作り方も自然でないとナチュラルワインにはならない。だから自然派ワインの中には、農法は確かに自然だけど、醸造で工業的になっているものがある。だから、ナチュラルワインは自然派ワインとは少し違う。

ここでいう工業的ワインとは、大量消費に耐えうる生産ラインを備え、毎年変わらない均一な味を保証し、大規模なマーケティングで物流にも耐えうるように作られたワインのこと。

ワインは本来農作物であり、全てが自然からできているはずなのに、いつの間にか工業的なワインが主流になってしまった。それはなぜか。まずは歴史から読み解く。

ハーバーさん、ボッシュさんという二人が開発した「化学肥料」

第一次世界大戦で、爆弾が大量に使用される。爆薬を作る上で、硝酸が大量に必要になるが、当時は硝酸は自然な方法で生産しており、大量生産は夢のまた夢。でも大量に生産できるようになれば戦闘で優位に。そのため、空気中の窒素をアンモニアに変える錬金術が求められた。

この研究を成功させたのがドイツのハーバーさん(毒ガスを発明)、ボッシュさん(爆薬を発明)。ハーバー・ボッシュ法として「火薬」と「窒素肥料=化学肥料」の大量生産に成功し、世界に衝撃を与えた。

元々は戦争の兵器のための発明が、結果、空気中から窒素を固定化することを可能にした。これが化学肥料の起こり。二人はノーベル化学賞を受賞。大量の人を毒ガスと爆薬で殺し、大量の人を化学肥料で飢餓から救ったという矛盾。

緑の革命

第二次世界大戦勃発。二度の大戦で農業や産業も荒廃。それを復興させるために、化学肥料が大活躍。F1種と呼ばれる種が発明され、痩せた土地でも化学肥料で農作物の収穫が可能に。爆発的に農業が盛んになる=爆発的な食糧生産=人口爆発も引き起こす。産業革命、農業革命に続く大きな革命。

化学肥料がなかったら、今のような人口70億人突破はなかったのかもしれない。

ワインの工業製品化

第二次世界大戦後、ワイナリーも荒廃、ワインが売れない。ワイナリーが大手資本、銀行に資本を求める=経営側はお金が回らないと困る=キャッシュフロー重視の経営になってくる。

ワインの品質の安定が製品の安定化に繋がり、品質の均一化を生み出し、ブランディング化が進む。安定した生産力をキープするために、化学肥料が増える=葡萄が弱る=虫や病気が増える=化学肥料や農薬がますます使われる。

「安定した味を提供する」というマーケティングでは不可欠な条件を満たすため、酵母も人工的に作られるようになり、ワインの味を酵母で操作できるようになる。葡萄を育てずにワインだけを作る醸造家が登場し、ワインが工業製品化した。
流通面では輸送中にワインが劣化してしまっては困る。そこで品質を維持するための亜硫酸が登場

亜硫酸について

亜硫酸はワインに使われる代表的な保存料で、働きとしては「酸化防止」「菌の抑制」「色素の劣化防止」。

元々は、硫黄を燃やした時に出る二酸化硫黄を水に溶かしたもの。自然な亜硫酸は硫黄を燻蒸して作る。現在の主流は科学的な亜硫酸で、石油産業の副産物。石油精製の際、不純物で含まれる硫黄を使っている。粉末で販売されるため、生産者としては使いやすい、便利、使用量がわかりやすい。

ここで忘れてはならないこと。今使われているのは、元々は化石燃料=石油の不純物。そして、二酸化硫黄って、酸性雨と同じもの

世界保健機構(WHO)が定める1日の亜硫酸許容量は体重70kgの人なら49mgと結構低い。日本で一般的に売られているワインを1リットル飲むと、ほぼ亜硫酸許容量をオーバーする。

「亜」がついているが、硫酸は硫酸であって劇物には変わりない。ただ、亜硫酸を入れないとワインの品質が輸送中に変わってしまって流通ができない。物流を考えると必要なものであり、ワインのマーケットは亜硫酸ありきで動かざるを得ない。

野生酵母と培養酵母

ワインセラーでの作り方として、「野生酵母」と「培養酵母」がある。
醸造家が狙った味にする酵母が「培養酵母」であるのに対し、土地の味がはっきりするのが「野生酵母」

野生酵母がいる場所は、畑、土、取り巻く環境のどこにも酵母が自生している。それが葡萄の皮にくっついて樽にやってくる。そして葡萄を醸す。

最近よく聞くようになった「オレンジワイン」は、皮のエキスをしっかり使う。天然の抗酸化作用を利用したもの。オレンジワインはスタイルではなく、ナチュラルに作りたいという願いから始まった。

葡萄を洗ったり消毒すると野生酵母が死んでしまう。ということで、野生酵母の場合、葡萄を洗わないで収穫したらそのまま使う。そのため、農薬は使いたくない。健全な畑で健全な葡萄であってほしい。その結果、葡萄の栽培も自然派にならざるを得ないという当たり前の流れ。

農薬がついた皮を使いたくないから洗ったり除去する。すると野生酵母がいなくなる。そのため、新たな酵母が必要。その結果、培養酵母を投入せざるを得ない、という当たり前の流れ。

微生物の働きがナチュラルワインの1番の特徴

本来はワインは農産物だった。100年前までは醸造もナチュラルだった。
酢酸、ブレット、乳酸、そして実は亜硫酸も。ナチュラルワインは全て自然に発生する。そういった菌、野生酵母が複雑に折り重なってワインが生まれる。そのワインの味をよしとするか、ダメとするか、その店のソムリエ、そして飲む自分で決める。

ワインは毎年味わいが違う、これが本来のワインの姿では?

菌やバクテリアと共存するのが本来の姿。でもこれは工業的ワインではNG。微生物の働きがナチュラルワインと工業ワインとの大きな違い

ワインは嗜好品なので、人それぞれの判断であっていい。良いワイン=評論家が認めたからではない。自己基準を持ち、「自分にとっていいワイン」を自己判断できるようにすること。誰かが「良いワイン」といったから、ではなく、「自分はこれが好き」を見つける。

「菌を楽しんでテイスティングしましょう!」という言葉で、お話は終わり。

「うちのワインは毎年この味がする」という不自然さ

自然界には同じものは二つとない。みんな違うから、そして毎年違うから、それが面白さ、味わい、奥深さを折り重ねてきたものだと思う。

よく考えてみれば、「毎年同じで均一化した味」とは、とても不自然なこと

自然をコントロールしようとする工業的思想に対し、文明があって、文化があって、それに対して自然(ジネンと読む)=あるがままがあるという東洋的な考え方。

同じことは教育にも言える。子どもも自然(ジネン)なわけで、誰一人として同じ子はいない。でも、戦争での勝利や国家強化を目指すため、工業的な教育システムが生まれ、みんなが均一で同じような能力を持つことを求めた教育。全員が決められた流れで、決められた内容で、数値化され、学校教育で培う能力がみんな同じっていうのは、とても不自然な現象なのに、そこに全く疑問を持ってこなかった

Most Likely To Succeed を思い出した。

今、世界のあちこちで工業化されたシステムが瓦解しかかっている。ワインも農業も食も、そして教育も、いろいろなところで同じムーブメントが起きている。これは決して偶然ではないと思う。

自己基準を作り、「自分にとっての学び」を自己判断できるように
何を持って「良い・悪い」のか。誰かが「良い」といったから、ではなく、「自分はこれが良い」を見つける

自然な葡萄畑 = 自然な学びの場
慣行農法のカウンター = 慣行教育のカウンター
地球に優しい、人に優しい農法 = 地球に優しい、人に優しい学び

マーケット = 飲む人の選択である。教育業界のマーケットも、学ぶ人の選択である。

今回の講習を受けてみて、私もその土地の野生酵母を見守り、醸造するような教育者でありたいと思いました。

この記事が参加している募集

最近の学び

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?