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1本の線,色彩 -ロートレック展[時をつかむ線]@SOMPO美術館

 フィロス・コレクション ロートレック展 時をつかむ線(- 09/23)

19世紀末フランスを代表する画家、アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864年―1901年)の展覧会です。

ロートレックによる紙作品の個人コレクションとしては世界最大級のフィロス・コレクションより、約240点をご紹介します。フィロス・コレクションの最大の特徴である素描作品に始まり、ポスターを中心とする版画作品、雑誌や書籍のための挿絵、ロートレックが家族や知人にあてた手紙、ロートレックの私的な写真など、画家に肉薄した作品と資料で構成する展示です。

同上




第1章 素描、第2章 ロートレックの世界

圧倒的な作品数の鉛筆デッサン

 エレベーターで5階まで上がり、そこから3階までの3フロアが展示室となる。最後に常設のゴッホの「ひまわり」を鑑賞し、2階のショップやカフェへと進むのが動線だ。

 5階は、鉛筆デッサンの作品からはじまる。その数が圧倒的だ。ロートレックのポスター絵になじみがあるなら、ワンフロアのほぼ全部がスケッチ、というのに驚くかもしれない。そもそもだが、本展は、アメリカのフィロス夫妻による個人コレクションの一部だ。鉛筆で描かれたデッサンが多いのも、コレクションの方針による。

 描きかけのもの、完成度の高いものとさまざまだが、たとえ切れ端のような紙スケッチも、美しい額に入り、作品へのリスペクトを感じる。

 ただこれは、次のフロアで展開される大量のリトグラフ作品を観る前に、必要な準備だとも感じた。

 その理由は、このフロアでは、「キャバレのアリスティド・ブリュアン」が撮影可能作品として展示されているのだけど、

キャバレのアリスティド・ブリュアン
1893年 リトグラフ

 このように、完成したポスター絵には無駄な線がない。選び抜かれた1本の線、に至るまでの膨大な試行錯誤、が、鉛筆デッサンを観ていて感じられたからだ。


楽し気な音楽、喧騒

 次の展示室へは、階段で向かった。

 前回の展覧会でもそうだったけれど、

 階段には、展示室どうしを分断させないような工夫があった。作品からきりだされたキャラクターが壁に貼られており、

 今回はスピーカーから、19世紀末パリの「ベル・エポック」風の楽し気な音楽と喧騒が、いい音で流れてくる。

 次の展示室へ。


第3章 出版、雑誌、歌曲集、書籍

 ここからは、リトグラフの展示となる。パリのカフェ、酒場、ダンスホールを舞台に、当時のセレブリティをテーマとした作品が多い。

『ラ・ルヴュ・ブランシュ』誌のためのポスター
1895年 リトグラフ

 雑誌や書籍の表紙など、ベル・エポックこと、よき時代とはこんな感じだったのだなと想いを馳せる。


リトグラフの存在感

 ところで、鑑賞していてふしぎに思ったのだけど、

 通常、リトグラフや版画作品は、原画よりも価値が低いとみなされると思う。唯一無二か、複製可能であるものかの違いからだろう。

 では、展示されているリトグラフのすべてが、たかが印刷物であって何も宿っていないのかといえば、どうもそうも見えない。

 これはあくまでも個人的な意見だが、まずロートレックの作品の肝は「1本の線」と作品に載る色彩のように思えるので、リトグラフとなっても削がれる要素は小さいのかもしれない。加えて、石版画であるリトグラフ(石板も展示されていた)は、刷る作業に力を要する。その過程で何かが籠るのかもしれない(?)。

第4章 ポスター 第5章 私的生活と晩年


 3階の展示では、まず美しいポスターが目を引く。晩年(といっても30代で亡くなっている)の作品、そしてロートレックの幅広い交流関係を伺わせる書簡や写真などの資料も展示されていた。

 これらポスター作品は、通常は屋外に貼られるものなので劣化してしまうが、美しく原型を留めているところに価値があり、それがコレクションの特徴でもある、といった説明もあった。

 近寄って観れば、紙にほどよく沈んだ鮮やかな色彩が確認でき、経年もいい味を加えている。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864-1901)

南フランスのアルビに伯爵家の息子として生まれ、幼いころから、絵を描くことに関心を抱いていました。
13歳のときに左脚を、14歳で右脚を骨折、以降下半身の成長が止まってしまい、絵画に専念するようになります。
1882年に画業のためにパリに出て1884年頃からモンマルトルにアトリエを構え、そこに生きる歌手や芸人、娼婦たちの姿を描きました。
とくに素早い描線と大胆な構図を活かしたポスターが、一世を風靡しました。
飲酒や放埓な生活のために肉体と精神を害し、療養の末、母の居城があったマルロメで亡くなりました。

同上

 ロートレック自身の全身写真も展示されていたが、とても小柄な人だ。


エピローグ -ゴッホ「ひまわり」との調和

  ところで、SOMPO美術館といえば、常設「ひまわり」が存在感を放つ。


 その展示の端に、さりげなく、こんなプレートがあった。




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