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私小説 [朝寝とんかつ]

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自分が書いた私小説まとめです。
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#子供

バナナの魔法[私小説/ショートショート]

バナナの魔法[私小説/ショートショート]

 「デザートくだしゃーい」
 昼食時、娘が言った。娘の食器はどれも、綺麗さっぱり空っぽになっていた。
「バナナくだしゃーい」
我が家にはデザートシステムがある。満腹中枢があるのか疑わしいほどの食欲を持つ娘に、食事の終わりのサインとして与えていた。今の主なデザートは、子供にも食べやすいように工夫されているこんにゃくゼリーだが、たまの楽しみに果物を買うこともあった。この日の数日前も、たしかにバナナを買

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眠るな乳児、眠れよ幼児―精密聴力検査の受難―[私小説/短編]

眠るな乳児、眠れよ幼児―精密聴力検査の受難―[私小説/短編]

 乳児は眠る。日に何度も眠る。眠ることが彼らの成長の一助となるのだ。ここにもまた、強い睡魔に襲われし男児がいた。そしてその子を寝かせるまいと必死に挑み続ける母親の目は、既に死んだ魚のそれのように暗く澱んでいた――。

 時は令和、新時代の幕が開けた頃。季節は梅雨、その晴れ間。一人の男児が元気な産声を上げた。髪は少なく、顔はマイルドなゴリラのような顔をしていた新生児であった。私の息子である。生まれた

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二歳児警察官[私小説/ショートショート]

二歳児警察官[私小説/ショートショート]

 「あ!犯人が逃げたじょ!」
 事件は唐突に始まった。犯人からすれば、それは周到に用意した予定通りの犯行かもしれない。だがそれ以外の人々にとっては、それは常に突然の出来事なのである。

 「犯人逃げちゃったの?どうしよう……」
 困り果てた女性に、女児が声をかける。
「警察を呼ぶんじょ!」
言われるがまま、女性は警察を呼んだ。
「助けてー!娘ちゃん警察ー!」
女児はその言葉に呼応するように、その場

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