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atsuko
2019年10月8日 23:27
神奈川県の小田原にある「小田原文学館」には、尾崎一雄さんの書斎が移築されています。他にも、大量の蔵書や関連資料が松枝夫人からの寄贈により保管されています。父の書棚にあった収蔵品目録を見ると、尾崎さんが生涯手元に置いていた手紙の数は膨大で、しかもその幅広さに驚かされます。交流のあった文士たちの手紙はもちろん、父を始めとする一般人の知己からの手紙も多く、その中には、なんと私と妹が連名で書いた手紙まであ
2019年9月4日 00:14
作家の尾崎一雄さんが書いた父と父の家族を題材にした作品だけで一冊にした本があればいいな、と私は密かに思っていました。ある日、父の書棚から尾崎さんの出版目録なる立派な和綴じ本を発見し、ページをめくっていたところ、なんとあったのです。尾崎家と父の家族が出会った上野櫻木町の路地の人々を描いた『ぼうふら横丁』、東京大空襲で全滅した深川の山下家のことと父の行方を捜した作品『山下一家』、そして、父と再会した時
2018年9月26日 00:35
私が小学校高学年、いや中学生か、な頃、父から小倉百人一首の上の句と下の句を書き分けた赤いリングノートをもらいました。父はなかなかの達筆で、むすめふさほせ、の一枚札から始まる端正な文字が並ぶノートを、私は長いこと大切に持っていました。時間があるときには、声を出して読みながら歌を暗記したものですが、もうかなり忘れてしまっている脆弱な記憶力に、我ながらがっかりします。ともあれ、実家でカルタといえば百人一
2018年8月6日 03:07
二〇一六年三月に母が亡くなってからしばらく、父の精神も体も、目を覆いたくなるほどの衰弱を見せ、このまま母を追いかけるようにして逝ったらどうしようかと途方に暮れました。何か元気づけることはできないか、と思案し、私にできそうなことといえば、こうした物語を書くことくらいでした。でも、すぐには手をつけることができなくて、そんな時にふと思い浮かんだのが、写真家である田沼武能さんの『時代を刻んだ貌』という
2018年7月27日 22:55
少しだけ私の話を。平成十八年(二〇〇六年)に『きものの花咲くころ』という本を上梓しました(一昨年に『きもの宝典』として再版)。十年在籍した主婦の友社の、看板雑誌『主婦の友』から、きもの関連の記事を選り抜いて再編集し、解説をつけたもので、大正六年(一九一六年)に創刊された『主婦の友』九十年分に目を通してみると、表紙や口絵、テーマ、執筆陣、記者の語り口などから、リアルに時代の匂いを感じることができ、濃