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毎週ショートショートお題 「ひと夏の人間離れ」


「あれ?あんたもう帰ってきたんね。明日の午後や言うてたのに」

「うん。講義が休講になったから、友達も昨日から帰省してるし」

「そうね。お父さんは朝から山入ってて、よう子はいつもの川で遊んでるから迎え行ってあげてくれん」

 大学の夏休みで久しぶりに帰ってきた実家は、あっけらかんとするほどいつも通りで、照りつける日差しも、忙しなく鳴き続ける蝉の声も、なぜか東京にあるエアコンの効いた 部屋よりも心地よかった。

「兄ちゃん帰ってきたん!見て、魚三匹も捕まえたんよ!」

 妹のよう子も相変わらずの野生児っぷりで、メイクやブランド物に身を包んだ同期の女子達よりも生き生きと美しかった。
 僕は夏休みの間ずっと家族と過ごした。朝から親父と山に入り、妹と川で遊び、母親の手料理を食べた。東京の自分とは違う、ありのままの姿でいる幸せを噛み締めた。

 東京に戻る朝、見送りはいいと家の前で家族と別れた。
 また明日から気を引き締めなければと思っていたら、よう子に大声で呼び止められた。

「お兄ちゃん!尻尾が出たまんまよ!」 

 ちゃんと変化したつもりが、黄金色の尻尾がお尻でふわふわと揺れている。
 少し実家を満喫しすぎたようだ。



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