|Ⅲ|(20xx+1年)8月◆18日の夕立
夕立。俺と藤四郎が『洋燈』に逃げ込んだときには、もう二人はずぶ濡れだった。
お店に入ると、葵さんが濡れた俺と藤四郎の服を、お店の裏方にある乾燥機で乾かしてくれることになった。
半裸の二人に、葵さんは大きめのタオルを貸してくれたのだが、、、。
『誠志。お前、その傷は?』
藤四郎は誠志の左の鎖骨の下にある、横一文字の古傷を指差した。
『ああ、これ?』
ああ、やっぱり見つかっちゃったか。
『昔、ペースメーカーをいれたんだ。』
『へー。』
気まずい沈黙、、、やっぱり話さなくちゃいけないか。
『子供のころ、心臓が止まりかけたんだ。毒が体に入ってね。ペースメーカーが入っていたのは、2日位だったかな。その間に毒を抜くために、血漿交換っていう血液の成分の入れ替える治療を何度も受けたんだよ。』
少しの間。
『それって、事故?』
葵さんが心配そうに聞いてきた。
『うん、事故。』
俺は、何事もないかのように、そう答えた。もっと聞かれたら『誤飲した』と答えるつもりだった。だが、二人はそれ以上聞いてこなかった。
本当は、実の父親に殺されかけたのだが。
(この二人がいたから、俺は今普通の大学生でいられるんだよな)
『葵さん。コーヒーおかわりもらえますか?』
空気を変えるために、注文を出す。
『え?ええ、いま淹れるわね。』
コーヒーの豆を準備し始める葵さん。藤四郎が、何も言わずに俺の方を見ていた。
『お待たせ』
時間を置いて葵さんがコーヒーを持ってくる。
コーヒーはなぜか3杯用意されている。
『このコーヒーは、私からのおごり、、、ね?』
そういって葵さんはコーヒーを俺と藤四郎、あとは自分自身の前に置いた。
『その代わり、約束。』
葵さんは、コホンと一つ咳払いをすると、
『誠志君は、卒業したら貿易事務の仕事に就いて、5年後の今日、仕事ぶりを私たちに報告する!もちろん、妹さんにもね。』
俺の目を見て、話す。
『由利君は、卒業したらきちんとルポライターになって、5年後の今日、由利君の記事の載った本をもってここにやってくる。』
藤四郎の方を見て、話す。
『私は、今から5年後の今日、必ずここのお店にいて、二人に特別なコーヒーと、将来私の建てる予定のブックカフェの図面の完成版のスケッチを必ず二人に見せる。』
最後に、葵さんは胸に手を当てて、そう宣言する。
『いいわね?だから、このコーヒーは誓いの杯ね!この約束はきちんと守る!』
この物語はフィクションであり
実在の人物団体とは一切関係ありません
キャライラスト:たもと様(http://coconala.com/users/275422)
飾り枠:百花繚乱様(https://flowerillust.com/)
コーヒー:来夢来人様(http://www.civillink.net/)
ランプ:StudioTakeda様(http://www.dlmarket.jp/manufacture/index.php?consignors_id=2338)