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謳う魚、騒がしい蟹達

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稲垣足穂『一千一秒物語』のオマージュ作品です。
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2014年7月の記事一覧

ある夜の出来事

 夜の大通りを、おもちゃの兵隊が、隊列を組んで歩くと、プロペラ飛行機が、その上を飛び、宙返りをした。

  ミニチュアの車がドリフトをすると、それを見たビスクドールが歓声を上げ、ゼンマイ仕掛けのコウモリが、パタパタと羽を動かした。

  そして、鳩時計が、ポッポーとなくと、彼らは同時にすっと動きを止めた。

 すべては電気の消えたショーウインドウの中での出来事だった。

お月様に叩かれた話

 ある晩、友人と二人で駅前の大通りを歩いているとき、『なんだって?お月さまは三角形なのかい?』友人はそういうと、お月さまへ石を投げ始めた。

  最初は検討違いの場所にばかり飛んでいたが、だんだん狙いが合っていき、そしてついにはお月様へガツンと当たってしまった。すると、お月さまが回っていたコマが止まるように三角形になって止まるのが見えた。

 翌日、友人が街を歩いていると、突然『昨日の夜を覚えてい

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お星さまのお話

 彼はおもむろにコッピー鉛筆を取り出すと、空港近くにある白いコンクリートの地面に星座を書き始めた。 お日様が高いうちは彼一人だったが、暗くなるにつれて、彼を見守るギャラリーが増え始め、大変にぎやかになった。

 大熊座、子犬座、オリオン座が完成し、ペガスス座を書きにかかったとき、ついにはちょっとした理由からギャラリーの中で喧嘩が始まってしまった。そこは大変にぎやかになった。

  ふと、男が夜

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ある晩の出来事

 ある晩の出来事夜の酒場で、彼はチョコレットを口に放り込むと、言った。

『こんな晩に』

『晩がどうしたね』

 私が怪訝そうにいうと、友人はポケットから鉛筆を取りだし、ナプキンに鋭角のある三角形を書き始めた。

『そんなものをどうするんだい』

『こうするのさ』

 三角形の鋭角に彼の人差し指が触れたとき、パチン、と音がすると、鉛筆とナプキンだけを残して、彼の姿が消えてしまった。 驚

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お星さまが立ち上ったお話

 街のなかはしんと静まり、カサカサに乾いた空気をかき分ける音だけが響いていた。

  アルゴンネオンで照らされたある室内に、コップ入った炭酸水が置いてあった。炭酸水は、少し紫がかった煙が立ち上っていて、飲めそうになかった。

 そこに、黒猫がキャッと行って逃げ込んでくると、炭酸水をこぼしてしまった。こぼれた炭酸水は、シュー、と泡立つと、たちまちお星さまが立ち上った。

 お星さまは部屋いっぱい

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如何にしてK博士はほうき星を手に入れたか?

 ある日、山の頂上にある鉄塔にほうき星の尾が引っ掛かった。それを聞き付けた青年Aは、アルミニュームの袋をもって、鉄塔へと続く森へと入っていた。

 森は静かで暗かったが、ほうき星の出す光と、キロキロという音を目印に進むことができた。無事にほうき星のもとへとたどり着いた青年Aはほうき星をアルミニュームの袋に詰めるとそのままどこかへと行ってしまった。

 それから、数日が過ぎたある日、とある町工場の一

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They were swaying that night.

 ムーヴィを見に行くと、会場には自分一人だった。

 これはいい、貸し切りだと思い、上映されたスラップスティックを見ていると、映画のクライマックスが近くなったところで、映写室からドシンガチャンと大きな音が鳴り、映画はプツリとそこで終わってしまった。

 夜、カフェーでビールを飲んでいると、お月さまとお星さまが映画のことで喧嘩したらしいという話が耳にはいった。

 慌てて空を眺めてみると、お月さまと

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続・扉が閉まった話

『この扉を開けるとだな』
とAが言った。
『何も起きないじゃないか!』
とBが言った。そして、おもちゃ箱から溢れた二体のマリオネットの正面で、ピシャリ、と扉が閉じました。

アセチレン灯の話

 ある昼下がり、人込みを歩いていると山高帽子を被ったアセチレン灯が歩いているのをみつけた。

 『そんなにおしゃれをして一体どこにいくんだい』私がそう聞くと、アセチレン灯はぐっと弓なりに反ったと思うと、ダーッとすさまじい速さで走り出した。

 私は颯爽とオートモーヴィルにまたがると、アセチレン灯を追いかけ始めた。

 私たちは跨線橋を越えた。放水路を走り抜けた。モニュメントの前を通りすぎた。ト

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万華鏡の話

 ガヤガヤと賑やかいステーションの待合室に座っていると、万華鏡がひとつベンチの上に置き去りにされているのを見つけた。
私は何気なく、それを手に取り中を覗き込むと、フランス語の書いたラベルカードがくるくるとたくさん鏡に写っていた。

オ・ルヴォワール!

 私がその内の一つを読み上げると、急に悲しい気分になった。私が万華鏡から顔を上げると、ホームの中から人が消え失せていた。駅にはゴトンゴトンと無人の

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扉が閉まった話

ここは誰もいない昼下がりのお屋敷のなか。
Aが言った。
『ツェ伯式飛行船は、落ちたのかい?』
Bが言った。
『レコオドの針は、折れたのかい?』
Aが言った。
『ロンドン橋は落ちたのかい?』
Bが言った。
『水飲み鳥は、もう水を飲まないのかい?』
そして、おもちゃ箱から溢れた二体のマリオネットの正面で、ピシャリ、と扉が閉じました。

お月様が泣いていたお話

 ある月のきれいな夜、窓の方を見ると上から縄ばしごが降りてきた。
 私が縄ばしごを上っていくと、いったいどうしたわけか縄梯子の上の方にいるお月さまが、シクシク泣いていた。

 落ちるぞ!と誰かが叫んだ。
 すると、お月さまが空から外れて、地面に落ちてしまった。
 お月さまはコーン、という音を立てながら、西の彼方へと転がっていってしまった。

 それを聞いた悪友のFが、ポリスをやり込めて西の方を捜索

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悪態をつかれた話

 自室でぼんやりとしていると耳元で、ブウゥゥーンという音がなった。いまいましい蚊(モスキート)め、と、音の鳴る位置を狙いすましてパチン!と平手を打つと、ガッシャンと音がした。

 慌てて手を開いてみると、レシプロ飛行機の残骸が手の中に残されていた。

 そして、私の顔の前を二つのパラシュートが、悪態をつきながらフワリフワリと落ちてくるのが見えた。

シガレットを忘れた話

 夜、眠られない腹いせに、空想旅行をすることにした。

 私は心のなかで部屋を出て、タクシーを捕まえ、運転手とシガレットの話で盛り上がりながら市立公園へと向かった。

 公園へついてT川のほとりまで歩いたところで、タクシーの中へシガレットを忘れたことに気がついた。

 翌朝、部屋のどこを探してもシガレットが見つからなかったので、ヤラレタ、とため息をついた。