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連載 #夢で見た中二物語 53

☆空と翼に託された願い☆

ある時を境に、世界から電気という概念がなくなった。

電気を失った人々は、エネルギーの多くを蒸気に頼る生活に戻っていた。

そんな時代、幼い頃に両親を亡くして孤児として育てられ、現在はパン屋の見習いをしている少年がいた。

朝早くからパン作りに励み夜遅くまで配達して回る少年の唯一の憩いは、パンの注文を受けた先の客と話をする時だった。

特に今日はパン屋の師匠から嬉しい話を聞き、とある客にパンを配達しに行くのが楽しみで仕方がなかった。



その客がいるのは、パン屋がある大きな建物の最上階の一室。

少年はその部屋のチャイムを鳴らすや否や、返事も待たずに部屋の扉を開いて言った。

少年「飛行士さん!上空航空偵察隊に選ばれたって本当ですか!?」

その声を聞いた部屋の住民の青年ばかり、笑いながら答えた。

青年「おっ、情報が早いな
   どこで聞いたんだ?」

少年「うちの師匠から聞いたんです!
   でも既にこの建物内では、貴方の噂で持ちきりですよ」

青年「そうかぁ、オレも有名になったもんだ
   まぁ、まだ仕事してないけど」

少年「初飛行はいつですか?」

青年「明日の早朝だ」

少年「明日の早朝!?
   明日は昼前までの予約でたくさん発注が入ってるから、仕込みで手一杯なんですよ
   ・・・貴方の初飛行、見れないかもしれません・・・」

そう言って落ち込む少年に、青年は笑い混じりに小さくため息をついてから言った。



青年「オレ達、上空航空偵察隊は、突然どこかへと消え去った”電気”を探し出すのを目的として編成された部隊だ
   過去の時代の蒸気機関に頼りながら、かつて存在した電気を探すっていうのも皮肉なものだがな
   でもつまり、オレ達は未来を託されたというわけだな
   電気すなわち雷は、昔は神の力であり”神鳴り”と呼ばれていた
   だからオレ達は、実際そこにあるかどうかは分からないが、空高くに雷の痕跡を探しに行くんだ
   これで雷が見つかれば、すごい功績ってことだな」

少年「でも、ボクには不安もあります
   電気が人の生活から姿を消したのは、神が人間たちに怒ったからという説を聞いたからです
   神様が、人々から電気を奪ったのだと」

青年「そうだな、確かにそれも一理あるかもしれない
   でも、それでも求めてやまないのが人間ってやつだ
   それが良いとか悪いとかではなく、生命としての人間のさがなんだろう
   だからオレは飛ぶんだし、人間は前に進もうとすることを止めはしないだろう
   ・・・それにオレが空高く飛びたい本当の理由は、神様から電気を取り戻すことじゃなくてな・・・
   まぁ、一度で良いからその神様という存在に会ってみたいって事なんだ
   ・・・そういう存在が、本当にいるとすればな・・・」

少年「・・・それを聞いたら、ますます貴方の初飛行を見たくなりました・・・」

青年「スマンな、オレの意志では時間は変えられないんだ
   だけど、土産話をたくさん聞かせてやる
   大変だろうけど、お前は自分の仕事を頑張れよ」

少年「分かりました!お土産話、たくさん聞かせてください!約束ですよ!」

青年「あぁ、もちろんだ」



今日のパンの配達を終えた少年は、数時間の仮眠の後で朝早くパン作りを師匠と共に始めた。

パン作りは酵母菌など生き物も関わってくる繊細な作業なので、毎朝気が抜けない。

それでも美味しいと言ってくれる人達の笑顔が見たくて、辛い時があってもここまでやってこれたのだ。

あの青年も、色んな辛い試練を乗り越えて夢への切符を手にしたのだ。

少年《ボクも、まだまだ頑張らないと!》

青年の初飛行を見れないのは本当に残念だが、少年は今自分に出来ることを一生懸命果たすことにしたのだった。



朝日が昇り、時間は昼前。

少年はパンがたくさん乗った台車を押しながら、ついでに手にもパンが入ったかごを持ちながら、いつものように配達まわりを始めた。

一番初めに向かうのは、パンの大量発注が入った顧客。

少年《空には飛行機の姿は無し、やっぱりもう終わっちゃったかぁ》

そう考えて密かにうなだれていると、不意に空から大きな音が聞こえてきた。

少年がバッと空を見上げると、白く美しい一つの機体が飛行機雲を形成しながら飛んでいた。

そしてその飛行機は、空のキャンバスに「いつも美味しいパンをありがとう」と描くと、地平線の彼方へと去って行ってしまった。

それを見た少年は、飛行機雲の言葉が消えてしまうまで、美しい空をじっと見つめていた。

☆☆☆

今日の話は、つい最近見た夢物語です。

なんか神とか雷とか色々出てきますが、とりあえず普通の物語として見ていただければ幸いです (^^)

夢でも最初はセピア色のスチームパンク的な風景でしたが、朝の青空の風景がとても綺麗だったのを覚えています。

そして実は、パンも焼きたてですごく美味しそうだったんです(笑)

中高生の頃より現在のような夢を元にした物語(文と絵)を書き続け、仕事をしながら合間に活動をしております。 私の夢物語を読んでくださった貴方にとって、何かの良いキッカケになれましたら幸いです。