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動きから引き出されるもの~「Parametric Move 動きをうごかす展」 雑感

2018年6月17日日曜日、東京大学生産技術研究所S棟1階ギャラリーで開催された、山中研究室プロトタイプ展2018「Parametric Move 動きをうごかす展」を訪れました。(催しは17日で終了)

SEERについても含めて前知識なしに行ってしまい、詳細は判っておらずこれから後追いで調べますが、忘れないうちに当日感じたことだけつらつらと‥。

"動きをうごかす"

プロトタイプのひとつひとつの「動き」を見るだけではなく、コントローラーやセンサーを通じて操作できます。デザイナーがコンテンツとして用意したプロトタイプの動きに、自分が参加できるということ。

例えば、手を差し出すと前進してくるもの。

コントローラーで見た目の動きに変化が出るもの。

ドローンによって重力が解放され、二足ロボットの身体表現が軽やかに。さらにコントローラーで歩行速度が変化するもの。

そして衆目を集めていたのはゲスト作品の"SEER"。
SEER(Simulative Emotional Expression Robot)は小型のヒューマノイドロボットで軟質弾性ワイヤによって眉がそして眼球が仮想の注視点に向けて動き、さらに顔の向きや傾きで表情が作り出されていました。

こちらがSEERを一方的に見ているようですが、SEERもこちらを見ています。

パソコンモニター右上の画面は、SEERからみた風景です。
(なおこちらの写真では個人特定できないよう、映っている方をぼかしていますが、実際は結構鮮明に顔認識しています)

なおSEERはおよそ1m先に注視点を設定されているのだそうです。

コントロールされているのは機械か自分か

興味深かったのは「機械」が「動く」ことで、見る側にも明らかに「変化」が生まれることです。次の動画はSEERの動きをとらえたものです。

SEERが表情を作り首を動かすと、近くで見ていた方から「かわいい」と声があがります。他の作品でも同様で、動き出すと各々「かわいい」とか「こわい」という方がいました。

SEERの動きを見る、あるいは動きをコントロールすることで、見る側の感情にも動きが生まれるんですね。
プログラミングやコントローラーで動かされているのは、実は動かしている側の気持ちではないかと思いました。

視線という"情報"から生まれるコミュニケーション

立体的に顔が映し出されることで、平面に映し出されたものに比べて心理的に近しくなることがあるそうです。

次の写真は、昨年の2月頃東京中央郵便局に置いてあった日本郵便のキャラクター「ぽすくま」です。写真ですと少し判り難いですが、「ぽすくま」の部分が立体的になっています。

正面から見ると立体的なスクリーンになっています。「ぽすくま」がお喋りしながら案内をしてくれるのですが、立つ位置によって視線があいます。すると、こちらもつい「ぽすくま」を見つめ返してしまいます。

どんな風になっているのかなと、そっと裏を覗いたら、プロジェクターで裏側から投影していました。

SkypeのようなWeb会議やテレビ会議を使い、遠隔地とミーティングをしたことがある方で、1対1ではそんなに違和感はないのに、複数人対複数人ですると相手が自分に対して話しかけているのか、別の人に話しかけているのか、そんな風に戸惑った経験はないでしょうか。

コミュニケーションは言語情報と非言語情報で構成されます。しかし、視線があわないことが非言語的コミュニケーションに影響を与えます。
次のリンク先は、Live Maskを使用したコミュニケーションの評価の研究です。

LiveMask : 立体顔形状ディスプレイを用いたテレプレゼンスシステムにおけるコミュニケーションの評価(2012年, 東京大学/三澤加奈、 石黒祥生, 暦本純 一)

この研究では、人の顔から型取りをした立体的なスクリーンを搭載したテレプレゼンスシステムを開発しています。平面スクリーンと顔スクリーンの表情の認識のしやすさに関しては差異が見られなかったものの、

多くの被験者は「顔スクリーンの形状は,顔の表情が分かりやすく,通常の平面的なディスプレイと比較すると人らしい形状を持っているため,親しみやすい」と述べており,表情以外の非言語情報を受け取った被験者もいた.

ともあり、コミュニケーションにおける視線を含めた非言語情報の重要性を強く感じます。

最後に

SEERは目の動きや眉の上げ下げ、顔の向きで表情を変えます。正確に言うと「表情が変わって見える」が相応しいのかも知れません。

人間は筋肉で顔の表情を動かしており、眉の上げ下げも決して眉毛だけ動かしているわけではないはずです。もし自分が人間に倣ったロボットを作るなら、そういった人間の表情筋を細かに参考にするかと思うのですが、SEERは眉、まぶた、瞳、顔の傾きといった最小限で"表情"を動かして見せ、ひいては非言語的コミュニケーションを導き出しているのが面白い。

どちらかというと、能面をつけた顔の動きでその感情が観る者に伝わる、お能のしぐさのようで興味深かったです。

余談ですが、今日のヘッダー写真はかなり昔、父が打った能面を私が撮影したもの。この時も、ちょっとした向きや光のあて加減で表情が変わり、撮影していて楽しかったのを思い出しました。

(了)

明日は「ウェブサイト上でみられる文字拡縮や読み上げツールについての調査(4)」です。

最後までご覧いただきありがとうございます! 現在放送大学でPDFのアクセシビリティを卒業研究中。noteはそのメモを兼ねてます。ヘッダー写真はnzで私が撮影しました。 【ご寄付のお願い】有料noteの売上やサポートはnzクライストチャーチ地震の復興支援に使わせて頂いております。