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Amtrak アメリカ鉄道旅 09 アセラ・エクスプレス

Acela Express (アセラ・エクスプレス)は、今まで紹介してきたアムトラックとはちょっと異なる列車です。2024年時点でアメリカ唯一の高速鉄道となっていて、アメリカの東海岸の大都市を南北につなぐ路線です。この路線は日本の東海道新幹線のようにビジネス客が利用している高速路線となります。他のアムトラックのようにのんびりと時間をかけて都市間を移動するというよりは、日帰りでビジネスミーティングを目的とした移動に使われています。今のところアメリカ唯一の高速鉄道なので、日本人観光客も例えばニューヨークをベースに日帰りでボストンやワシントンD.C.観光が可能となっています。

名前の由来はAccelaration(加速する)とExcellence(優秀さ)を掛け合わせた造語です。アメリカも日本も列車のネーミングのセンスが今ひとつと感じるのは私だけでしょうか。

運行区間:毎日運行(1日何便も運行しています)
運行都市:ボストン-ニューヨーク-ワシントンD.C.
距離:734km
平均所要時間:6時間45分(停車駅による)

ハイライト

アセラ・エクスプレスは、既存の鉄道の線路を利用して走る高速鉄道です。日本の新幹線のように専用軌道を走るわけではありません。同じ路線には普通の近郊鉄道が走っています。スピードはそれほど早くないです。アセラ・エクスプレスは在来線の特急的な位置づけであることを理解するとわかりやすいと思います。

ボストンからニューヨークを経由してニュージャージー州を縦断し、フィラデルフィア、ボルチモアに停車して首都ワシントンD.C.を結びます。この東海岸の主要都市を結ぶ北東回廊は、アメリカに珍しく鉄道網が発達しており、多くの通勤、ビジネス需要があります。そのため、電化され頻繁に列車が運行されています。

ボストン- ニューヨーク間は、ニューイングランドと呼ばれる美しい景色が印象的です。穏やかな海岸沿いを走るアムトラックからの景色は素晴らしいです。まるで「魔女の宅急便」の世界に迷い込んだような古いアメリカの街並みが続きます。
ニューヨーク - ワシントンD.C.間は、基本的に鬱蒼とした森や河川が続きますが、アメリカ建国の頃から栄えた重工業の街が現れます。これらの街はどちらかというと古く汚れています。そして治安も悪い傾向にあります。

アセラ・エクスプレスを利用して、アメリカ建国の地を鉄道で走ってみるもの面白いと思います。

座席のクラス

ファーストクラスとビジネスクラスがあります。他のアムトラックのような個室寝台はありません。基本的に座席の大きさが違うだけで、これも東海道新幹線に近い仕様です。
食事はファーストクラスで提供されます。
カフェ・カーがあり、誰でも利用することができます。
注意する点は、他のアムトラックと違い受託荷物サービスはありません。自分で荷物を車両に持ちこむ必要があります。新幹線と同じです。
この路線はビジネス客が多く利用するので、月曜日の午前中と木曜・金曜日の午後はとても混みます。予約をするのが良いでしょう。ネットで簡単に購入可能です。

アメリカでは珍しい高速鉄道

乗車記1:ニューヨークからボストンへ

今回は、2方向に分けて記します。まずは私が乗ったニューヨークを起点にして北のボストン行きをお伝えします。

ペン・ステーションの入り口

ペン・ステーション 
New York, NY – Moynihan Train Hall (NYP)ニューヨークの駅はペンシルベニア・ステーションです。アムトラックはこちらの駅を使います。ペン・ステーションと呼ばれるこの駅はマジソンスクエア・ガーデンの地下にあります。2024年現在ペン・ステーションは大規模な工事中で、将来は立派な駅に生まれ変わるそうですが、100年前の駅が今でも残っており、天井は低く複雑です。アムトラック利用者は、先行してオープンしたモニハン・ホールに行けば、迷うことはありません。もともとこのモニハン・ホールすらなく、ペン・ステーションはとてもわかりにくい構造でした。モニハン・ホールは、入口が広く明るくサインもわかりやすいです。注意すべきは近郊電車(ロングアイランド鉄道)や地下鉄がある古い地下迷宮には行かないようにすることです。この地下迷宮は将来なくなりますが、現在は工事も相まって複雑です。なるべく地上階からモニハン・ホールに入ってしまいましょう。ビジネスクラス以上の乗客にはラウンジが用意されています。こちらのラウンジ、新しいだけあり気持ちが良いです。早めに駅に着いてラウンジでゆっくりするのが良いでしょう。駅のモニタには乗る列車の番号と行き先、プラットホームの番号が表示されます。プラットホームの番号が出発10分前にくらいにならないと表示されないので、ちょっと緊張しますが表示されると乗客が一気に移動するので、それに着いていけば問題ないです。モニハン・ホールからプラットホームまではわかりやすい導線となっています。ラウンジにいるとスタッフがホームまで連れて行ってくれます。

ホームは暗くなんとも言えない匂いが立ち込めていますが、アムトラックはすぐに入線してきます。ボストン行きはワシントンD.C.からの列車で、ニューヨークは途中駅となるので、急いで乗りましょう。

アムトラックは他の路線とは違い、新幹線のような流線型をしています。これは高速対応だからです。ただ、線路は従来の鉄道の路線を利用するので、そこまで速くは走れません。ボストンに向かう列車は、地下の駅を出発し暫く走ると、ブロンクスで地上に出ます。マンハッタンからイースト・リバーを超えるまでは地下区間を走ることになります。地上に出ると後方にニューヨークの摩天楼を見ることができます。その後列車は長い橋を越え、この長い橋からも進行方向左側に美しいマンハッタンのスカイラインを見ることができます。そしてニューヨーク州のウェストチェスター郡に入ります。アセラ・エクスプレスは、ニューヨークを出て、既存の線路を借りながらボストンを目指します。ウェストチェスター郡に入ると、そこから暫くはMTAのニュー・ヘブン線に入ります。ニュー・ヘブン線は、ニューヨークの郊外列車で、コネチカット州のニュー・ヘブンという街とマンハッタンのグランド・セントラル駅を結ぶ路線です。この路線は富裕層が住んでいる住宅地で、ニューイングランドと呼ばれる美しい海岸沿いを走ります。進行方向右側にはチラチラと大西洋が見えます。海の向こうには大きな島というか陸が見えますが、これはロングアイランドです。この沿線の海はロングアイランドがあるおかげでいつも凪いでいます。まるで瀬戸内海のような穏やかな景色が続きます。

ニュー・ヘブン New Haven, CT – Union Station (NHV)
ニューヨーク商圏は、この辺りまでです。ニュー・ヘブン駅を過ぎるとショア・ライン(東線)に入りボストンまで向かいます。景色はより郊外というかのどかな海岸線になります。
ニューヨークからボストンにかけてはニューイングランドと呼ばれていて、アメリカ建国時にはこの辺りは、ヨーロッパ移民が住み始めた場所です。街は捕鯨の拠点となったところも多く、古いヨーロッパ調の景色が広がります。
ニュー・ヘブンからプロビンスの間にはミスティック・シーポートなどアメリカ建国時の街を再現した観光地がいくつかあり、賑わっています。この辺りはニューイングランド・クラムチャウダーの生まれた場所。街によって味が微妙に違うクラムチャウダーを食べ歩くのも楽しいでしょう。まるで日本の味噌汁のように味が異なります。

プロビデンス Providence, RI – Amtrak/MBTA Station (PVD)
アメリカで一番小さい州、ロードアイランド州を通過します。この小さな街、実は富裕層がたくさん住んでいます。豪邸めぐりなどのツアーも頻繁に出ています。この街を起点にして、ジャズ・フェスティバルで有名な避暑地ニュー・ポートや鯨見物で有名なケープ・コッドに行くこともできます。

ボストン Boston, MA – South Station (BOS)
ボストンに到着です。ニューヨークからは3時間30分ほどで到着です。北向きの場合は向かって右側の方が景色は綺麗だと思います。あっという間に到着するので退屈することはないでしょう。

乗車記2:ニューヨークからワシントンD.C.へ

次は、ニューヨークを出発し、南に向かいます。フィラデルフィア、ボルチモアを経由しワシントンD.C.までの道のりです。

ニュージャージ・トランジットの線路を利用して走ります

ペン・ステーション New York, NY – Moynihan Train Hall (NYP)
ペン・ステーションを出発し、ハドソン川をトンネルで超えると地上に出ます。ここはニュージャージー州です。車窓左側にはマンハッタンが見えます。線路はニュージャージ・トランジットを利用します。ニュージャージー州郊外から集まってくる近郊列車と頻繁にすれ違います。
ニュージャージーは、ニューヨーク首都圏を形成しているので、かなりの本数の列車がハドソン川をくぐるトンネルを共有しています。現在、このトンネルといくつかの橋がボトルネックとなっていて、遅延が発生しています。
この問題を解決するために新しいトンネルと橋を建設中ですが、いつ完成するかは不明です。

ニュージャージー州に入ると左側にマンハッタンのスカイラインが見えてきます。マンハッタンの北から南までが見えるので素晴らしい景色です。ニュージャージ側からのマンハッタンの景色はあまりメディアで取り上げられないので、ちょっと珍しい見た目となります。

ニューアーク・ペン・ステーション Moynihan Train Hall (NYP)
ニュージャージーで初めに停まる駅はニューアークのペン・ステーションです。ニューヨークの駅もペン・ステーションなので戸惑う方もいるかと思いますが、この2つの駅は違う駅です。こちらからはニューアーク空港にアクセスできます。ニューアークの街は治安が悪いので歩かないようにしてください。

アセラ・エクスプレスはニュージャージー州を縦断します。アメリカの地図を見るとニュージャージー州は比較的小さいのですが、鉄道で走るとそれなりに大きいことがわかります。車窓からの景色は森や河川が中心です。ただ、その中にポツポツと街が見えます。ニュージャージ州は、ニューヨーク周辺(北側)とフィラデルフィア周辺(南側)に人口が集中しているので、中間は、静かな田舎町といった感じです。

フィラデルフィア Philadelphia, PA – 30th St. Station (PHL)
ニュージャージー州とペンシルバニア州の境にはデラウエア川が流れています。ニュージャージー州から大きな橋を越えると、大きな都市フィラデルフィアが出現します。この街はアメリカ建国の街、リバティ・ベルのある街、映画「ロッキー」の街として有名ですが。工業中心の街だったのでアムトラックから見るとちょっと薄汚れて見えます。ただ観光地として多くの観光客が乗り降りしているので治安が極端に悪いということではありません。

フィラデルフィアを出ると森の中を走りますが、湖や河川が増えていることに気づくでしょう。この辺りは大きな河川が大西洋に流れ出るポイントになります。そんな湿地帯をアムトラックは走り続けます。

バルチモア Baltimore, MD – Penn Station (BAL)
かつては大きな貿易港だったバルチモア。現在は全米で最も治安の悪い街のひとつとなっています。観光地以外の散策は避けてください。かつての港湾地区は見事に再開発されとても美しい観光地となっています。そしてこの辺りで採れるソフトシェルクラブは是非食べてほしい郷土料理です。

バルチモアからワシントンD.C.までは数十分の距離です。バルチモアもワシントンD.C.の通勤圏となってるので住宅地が続きます。

ワシントンD.C. Washington, DC – Union Station (WAS)
駅を降りると、すぐアメリカの政治の中心地です。そこには国会議事堂が建っていて、その先にワシントン・メモリアルまで観光地がずらっと並んでいます。アメリカの歴史を知るには入場料無料のスミソニアン博物館を見るべきでしょう。そこにはアメリカ建国から始まって鉄道・航空の歴史までが丁寧に展示紹介されています。

停車駅について

・Boston, MA – South Station (BOS)
・Boston, MA – Back Bay Station (BBY)
・Route 128, MA (RTE)
・Providence, RI – Amtrak/MBTA Station (PVD)
・New Haven, CT – Union Station (NHV)
・Stamford, CT (STM)
・New York, NY – Moynihan Train Hall (NYP)
・Newark, NJ – Penn Station (NWK)
・Metropark, NJ (MET)
・Trenton, NJ (TRE)
・Philadelphia, PA – William H. Gray III 30th St. Station (PHL)
・Wilmington, DE (WIL)
・Baltimore, MD – Penn Station (BAL)
・Baltimore, MD – BWI Thurgood Marshall Airport (BWI)
・Washington, DC – Union Station (WAS)

注意点

・基本的に遅延は他のアムトラックほど起こりません。理由は路線が短いこと、鉄道網がしっかりしていることが挙げられます。ただ、ハドソン川を越えるためのトンネルがキャパオーバーになっているので、多少の遅延は覚悟してください。
・他のアクトラックのような個室やベッドルームはありません。
・ダイニングカーがついています。

最後に

アセラ・エクスプレスは、アメリカ唯一の高速鉄道ということですが、新幹線を知っている我々日本人にとっては、それほど驚くことはありません。ちょっと早い特急列車という感じです。ただ、短時間で主要都市を結んでいること、駅は街の中心にあることを考えると、飛行機や車よりも移動に便利です。そして美しい車窓からの景色もこの列車に乗るポイントとなります。

ボストン-ニューヨーク間、ニューヨーク-ワシントンD.C.間は飛行機利用も可能ですが、セキュリティチェックや空港までの距離を考えるとアセラ・エクスプレスの方が便利です。ボストン-ワシントンD.C.間は飛行機の方が早いです。
その他の都市利用はアセラ・エクスプレスが便利です。
目的により、うまく使い分けるのが良いでしょう。

各回テーマ:
01 アムトラックの旅
02 アムトラックの路線
03 アムトラックのチケット購入・座席の種類
04 アムトラックの駅
05 エンパイア・ビルダー号
06 カリフォルニア・ゼファー号
07 サウスウエスト・チーフ号
08 コースト・スターライト号
09 アセラ・エクスプレス号
10 エンパイア・サービス号


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