見出し画像

不登校の定義ってなに? #1

「不登校」は文字通り学校に行っていない学齢の子どもを指す言葉です。
毎年文部科学省は全国すべての学校を対象に調査を行い、不登校児童生徒数を発表しています[1]。

そんな不登校ですが、画一した定義はなく、その境界は極めて曖昧です。不登校とはいったい何なのでしょうか。ここでは、その一部を取り上げてみます。

※思ったより長くなったので、次回に持ち越します。

統計上の定義

ニュースなどで「不登校が○○万人」と大々的に報道され、文部科学省の発行する報告書、通知、また、学術的な論文に至るまで、広く用いられるのが、統計上の定義による「不登校」です。ここでは「統計上の不登校」とでも呼びましょう。

これらは、文部科学省が行う「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(以下、生徒指導調査)によって計上された「不登校」の数を指します。

この生徒指導調査によって計上された不登校の数が、世間一般で広く用いられる「不登校」の数になっています。統計ですから、何らかの線引きが存在します。その定義を見てみましょう。

「不登校」には,何らかの心理的,情緒的,身体的,あるいは社会的要因・背景により,児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし,「病気」や「経済的理由」,「新型コロナウイルスの感染回避」による者を除く。)を計上。

[1] p.65

うーん。なんだかよくわからないですね。
この統計上の定義を理解するためには、生徒指導調査の概要をまずは知る必要があります。

生徒指導調査は暴力行為、いじめ、出席停止、長期欠席、中途退学(高校)、自殺、教育相談の7つの生徒指導上の問題についての調査です。
でも、このなかには不登校がありませんね。

実は、不登校は長期欠席の下位分類なのです。
すなわち、文字通り長期間欠席した児童生徒を母集団として、そのなかに不登校があるということになります。

まず、長期欠席の定義を確認しないといけませんね。細かいことを省けば、ざっくり「年間の欠席日数が30日以上の児童生徒」ということになります。二文目にあるように、「出席扱い」はここでは欠席(登校しなかった)日数として計上されます[2]。

「児童・生徒指導要録」の「欠席日数」欄及び「出席停止・忌引き等の日数」欄の合計の日数により,年度間に30日以上登校しなかった児童生徒数を理由別に調査。なお,「児童・生徒指導要録」の「出欠の記録」欄のうち,「備考」欄に,校長が出席扱いとした日数が記載されている場合は,その日数についても登校しなかった日数として含める。

[1] p.65

さて、不登校に話を戻して、もう一度定義を見てみましょう。
この引用文の前に「長期欠席者のうち」と付け加えるとわかりやすいです。つまり、「長期欠席者のうち、ある一定の理由によって学校に行かない/行けない児童生徒」と言い換えることができるでしょう。
だいぶすっきりしましたね。

さて、ここで問題となるのは、学校に行かない/行けない「ある一定の理由とは何なのか」ということです。
定義を振り返れば、「何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景(ただし、「病気」や「経済的理由」、「新型コロナウイルスの感染回避」による者を除く。)」と理解できそうです。

「何らかの」と付くぐらいですから、その理由が極めて広範なものであることが見て取れます。とっても曖昧ですね。
ここで重要となるのは、括弧の中の文章です。つまり、「とっても曖昧な理由にせよ、「病気」や「経済的理由」、「新型コロナウイルスの感染回避」[3]を理由とした欠席は不登校ではない」と捉えられます。

なんだか不思議な定義の仕方をしていますね。
数学の集合で考えてみましょう。長期欠席者の集合Uに対して、病気を理由とする集合A、経済的理由とする集合B、新型コロナウイルスの感染回避を理由とする集合Cとします。
「統計上の不登校」はA、B、Cどれにも属さない部分になります。すなわち、A∨B∨Cの補集合(バー)です。(あんまり分かりやすくないですね)

例えば「成績優秀者」という分類は、「全生徒」に対して「評定が4以上」といった具合で決められます。この場合、「全生徒」という母集団に対して、「評定が4以上」という特定の要件を満たす者を抽出しているかたちになります。

こうして比較すると、「特定の理由に当てはまらない者」を計上する統計上の不登校の定義の異質さが分かるのではないでしょうか。

まとめ

以上が統計上の不登校の定義でした。
簡単にまとめると、「「病気」や「経済的理由」、「新型コロナウイルスの感染回避」を除き、年間30日以上欠席した者」と言えそうです[4]。

この生徒指導調査の結果は様々な場面で用いられますが、多々問題も指摘されています。この調査自体が教員が回答しており、長期欠席の理由などの分類についても、その妥当性に疑問が残ります。また、分類としてほとんど計上されない経済的理由による長期欠席についても、経済的理由による副次的な理由の不登校との峻別は極めて困難でもあるでしょう。

不登校経験者や、当事者に対して直接その理由を回答してもらう統計データなども存在するため、生徒指導調査だけの結果を見るのではなく、比較しながら検討するのがよいのではないでしょうか。


補足

長期欠席の下位分類は、病気、経済的理由、不登校、新型コロナウイルスの感染回避、その他の5分類になっています。



  1. 文部科学省(2022)「令和3年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」

  2. 不登校児童生徒を対象として、教育支援センターやフリースクールでの活動を、指導要録上出席の扱いとすることができますが、ここでは、こうした「出席扱い」は欠席として計上されていることに留意する必要があります。

  3. 「新型コロナウイルスの感染回避」の文言が定義に含まれるようになったのは、「令和2年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の所解題に関する調査結果」からです。

  4. 「学校に行きたくても行けない」といった子ども目線の理由が、こうした統計にどの程度反映されているのかは疑問が残る。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?