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ゼロから学びます。採用がこれで丸わかり。〜新卒が採用を探究する道のり〜

こんにちは、Okamuです。

私はこの春からHRテックの企業に新卒入社しました。
そこで人事、採用について書籍やインタビューで学んだインプットをこのnoteでまとめていき、探究していきます。

ぜひ、皆さんの会社での人事・採用施策や課題と感じていることなどのお話もお聞かせいただければと思っております。ご感想やご質問もお気軽にご連絡ください


更新履歴:
 [2023-05-08 Mon] 初版
 [2023-05-19 Fri]

第1章 人事の必要性

人事は組織の中ではバックオフィス、コーポレート機能、コストセンターという扱いが多い。しかし、人事は能動的に自社を取り巻く環境変化と事業の先行きを理解し、経営陣から将来きっと言われるに違いない重要事項にアンテナを張って、先見性を持って対応する極めて重要な仕事である。

長期的な視点から考える

2050年までに新興国が大きく成長して、世界人口は100億人規模に到達すると予測されている。その中、日本は2050年時点で世界人口のわずか1%、つまり約1億人となる見込みである。現在日本は1億2491万3千人(2022年11月1日時点)であり、人口ピークであった2009年の1億2855万人から急速な減少の一途である。

ここ10年間、全体的に日本の総人口は右下がりの状態

日本の存在感がなくなりつつあるのは、人口インパクトだけではない。GDPに関しても同様のことが言える。

2050年には世界のGDP規模は215兆米ドル規模に到達する予測で、これから益々加速していく。一方、日本は2050年には世界のGDP規模に対してわずか3.2%の存在感になると言われている。これは1960年代の高度成長期前に戻ることを意味する。

つまり、世界的にみると日本企業としては、成熟して衰退する国内マーケットよりも成長する新興国マーケットに通用するような新たな国際的経営リーダーの育成が急務となってくる。そして、世界最適な立場で適材適所にて採用・育成・処遇する新たな組織運営に変える必要がある。

しかしこれは簡単なことではない。採用方針、人材育成、人事評価制度、報酬体系などあらゆるものを変更して、人材の質と量をアップデートしていくには相当の時間がかかる。よって、人事戦略は経営戦略が決まってから構想や実行に移すのでは遅く、先見性を持って、先行して考えて作っていかなければならない。

人事は新たな未来を作る仕事であり、目の前のことだけでなく将来の会社経営や日本社会においても極めて重要な役割を担っている。

人事の役割

人事の役割は大きく分けて6つある。
6つとは、「採用」「育成」「配置」「評価」「報酬」「代謝」である。

採用:企業外部に、必要な存在を求めて社内に採り入れる活動
育成:企業内部の人材を、業務で必要な特性を持つ人材に変化させる活動
配置:企業内部の人材を、社内の業務やポジションとマッチングする活動
評価:ミッションや目標、行動、成果の達成度に基づき人材価値を評定する活動
報酬:一定期間の評価に基づき、人材に配分する価値を決める活動
代謝:「採用」とは逆に、内部にいる人材を外部に退出してもらう活動

今回はその中でも『採用』(主に新卒採用)について探究していく。


第2章 日本の採用の歴史

ここでは、日本の採用の歴史について簡単にまとめていく。

大正初期:新卒一括採用の定着

日本で初めて「大卒」を出したのは、1878年(明治11年)の東京大学。
そこから明治時代の末まで東京帝国大学をはじめとした帝大卒業生は官僚へ、慶應義塾、早稲田、東京高等商業学校(現在の一橋大学)などの卒業生の多くはビジネスの道へ進んだ。当時は推薦者や紹介者を介して随時希望する企業に入る、いわゆる「縁故採用」が一般的であった。

それが、第一世界大戦を契機とした日本資本主義経済の飛躍的な発展と大正デモクラシーの運動が起こっていた大正初年代である大正6年、7年に、各社が大学卒の新卒者の「定期一括採用」を開始した。

このように日本経済が極めて好調だった当時、それまで迷うことなく官界を目指していた学生たちまでもが、民間企業で働くということに対して一般的な選択肢になっていった。当時は学校からの推薦が大前提とされており、大企業においては大学ごとの推薦枠が決められていたため、現代のような「誰もがエントリーできる」という状況であったとは言えない。

昭和初期:人材の供給過剰

1920年代末以降にあたる昭和恐慌期、大卒者の就職活動に暗雲が立ち込めるようになる。大学や専門学校、中等実業など新卒者たちの就職結果は良いとは言えないものだった。なぜなら、学生の数が増加したことにより、全体として人材の供給過剰が起こり、選り好みができない状況「買い手市場」になったからだ。

供給過剰になると人気企業には求職者が殺到した。そこで自筆の履歴書や卒業証明書、身体検査証、人物考課書に加えて、学校長の推薦状や、各学年別の学業成績などの提出が義務付けられた。これが年々増加する志願者に対応するべく一つ足切りの基準に使っていたことは容易に想像できるのではないか。推薦状さえあればどこかの企業には入れるという時代感とは移り変わり、昭和前半期には就職マニュアルも登場し、今の形と近いものになってきていた

戦後(昭和20年以降):今も残る採用スタイルの登場

戦後になっても「買い手市場」はさほど変わらず、採用スタイルがバージョンアップした。新たに、筆記試験、面接、身体検査などに加えて、グループディスカッションや適性検査のような科学的な手法による各種性格検査の導入が進み、1950年代には確立していた。今では求職者が必ず一度は行うであろう「自己分析」についても、この頃にアメリカ心理学者の影響を受けて入ってきた考え方である。

1954年(昭和29年)の週刊誌によると、この時期の採用基準は上から順に、
人物や健康、思想・心情、学識・見識、性格・資質、学業成績、身元・家庭、言語態度であり、曖昧な採用基準と言えるものだった。
多くの企業が「優秀」とみなす求職者にも人気が集まり、この頃から他社に先駆けて動き出す企業や水面下で動く企業が出てきて、正式に採用する前に「事実上の採用通知書」として出す「内定通知書」もこの頃に登場した。

1960年代には「リクルートブック」と言われる就職情報雑誌が登場し、学生たちにとって職探しにおける情報源が広がるほか、就職情報雑誌が発信する情報(ランキングなど)に左右されるようにもなった。

平成初期:エントリーシートの登場と採用のWeb化

ソニー社が導入した「エントリーカード」を先駆けとして、本選考に先立ってエントリーシートの提出を義務付けるというやり方が登場したのは1991年(平成3年)のこと。1990年代半ばから後半にかけて、他社にも広がりを見せ、応募者の1次選考(または書類選考)の絞り込みのための定番ツールとして定着した。また、1996年(平成8年)には就職情報サイトが登場し、募集におけるウェブ化が始まった。

令和:コロナウイルス流行によるオンライン化

2020年3月ごろから始まったコロナ禍。対面で面接ができない、説明会が開催できない、インターンシップができない…。突然のことでバタバタしながらも、各社それぞれがオンラインツールの活用などによって対応した。

このように定期一括採用は、大正から始まったものであり、採用フローにおいては戦後からあまり変わらずに現代まできている。定期一括採用の歴史を長いとみるか短いとみるかは人それぞれであるが、少なからず私は長いと感じた。令和になり、Open AI社によるGPTという新たなテクノロジーが登場したことで世の中全体が大きく変わろうとしている。毎日新しい情報や動きで溢れかえっているというスピード感の中でも、まだまだこの昔からの採用スタイルが変わらないのが日本である。課題がないのであれば、何かを変えることなく、踏襲していくのが良いと思うが、そうではない。


第3章 採用の目的

採用とは、「①企業の目標および経営戦略実現のため、②組織や職場を活性化させるために、外部から新しい労働力を調達する」活動

①企業の目標および経営戦略実現のため

企業が設定した目標と経営戦略を実現するために、ある時点で不足している、あるいは将来の時点で不足すると予想される人材を獲得する、というもの。

これは一般的で基本的な考え方。

②組織や職場を活性化させるため

経営学の古典的研究では、集団は「緩んでいく」ことが報告されている。
特定の組織や職場に同じメンバーが長期にわたって所属しつづけると、人々の間の活発なディスカッションや情報交換の頻度が下がり、外部に対して閉塞的になり、人間関係における緊張感がなくなり、時間と共にメンバー同士の間に慣れが生じ、本来必要なコミュニケーションまでもがおろそかになっていく。
組織も川と同じように淀めば濁るので、常に水が流れている状態を作る必要がある。

加えて、組織や集団というのは、「異質な人よりかは同質的な人」「価値観や考え方の違う人よりも似た人」、そして「目標の異なった人よりも共通の目標を持った人」を好む傾向がある。そのため、時間とともにメンバーは少しずつ均質化し、当初あった良い意味での緊張感や、活発なやり取りがなくなっていく。

ここにおける「長期」という期間がどの程度なのかは少し置いておくにしても、人々の間の活発なディスカッションや情報交換の頻度が下がり、外部に対して閉塞的になるというのは少し意外性がある。気心知れた関係になることで活発になるのかと思いきや、意外にもそうではないということだ。確かに、人柄を知っていると話さなくてもわかるみたいなことは往々にしてあると想起するのは容易だ。

つまり、「慣れ」や「同質化への圧力」、「文化」によって均質化する組織や職場を活発化させる人材を獲得する、ということである。


第4章 採用の現状

ここからは、採用活動における時間軸から、採用におけるマッチングの中身、そこからの課題について書いていく。

<採用活動の時間軸>

❶募集段階 ー企業と求職者の「出会い」のフェーズ
❷選抜段階 ー企業と求職者の「相互評価」
❸定着

❶募集段階 ー企業と求職者の「出会い」のフェーズ

企業がいかにお金をかけた選抜を用意しようが、趣向を凝らした面接を設定しようが、そもそもそうした選抜の対象となる候補者が、その企業の採用にエントリーしてくれなければ意味がない。採用活動においては、「企業が求職者を選ぶ」よりも前に、「求職者が企業を選ぶ」ことがまず行われていると言っていいだろう。

<募集とは「出会いをコントロールすること」>
企業が目指すのは、
1. 自社に関心を持ち、
エントリーする意欲を持つ求職者の中で、
自社にとって魅力的な求職者だけをエントリーさせること

2. 自社に興味を持たない求職者の中で、
自社にとって魅力的な求職者を振り向かせ、エントリーさせること

3. 就職先候補として自社の存在を知らない求職者に対して、
自社の存在をアピールすること

自社に必要な求職者を惹きつけることと自社に必要ない求職者を排除することを、同時に行うことになる。
募集段階の本質は、企業が提供する情報によって、求職者との出会いをいかにコントロールし、魅力的な候補者群を作り出すか、ということにある。候補者群の中に、適切な人材がどれだけ多く含まれているかということが、募集における最も重要な問題になる。

❷選抜段階 ー企業と求職者の「相互評価」

募集段階で出会った求職者の候補者群の中から、自社の社員として相応しい人に内定を出すことが、選抜の主たる目的。

しかし、選抜は難しい。決して簡単なことではない。

〜難しい理由〜
①企業側と求職者側の間に情報のギャップ(非対称性)があるから
②採用時点で人材の優秀さを直接確認できない場合が多いから

企業としては、求職者の優秀さなり魅力度なりを推測していくことになる。推測するしかないということが、選抜の本質的な難しさである。

❸定着

時間をかけて選抜をし、内定を出した候補者に辞退されてしまっては意味がない。さらに、早期に離職することになったり、環境に馴染めず仕事の成果をあげられなかったりするのも困りごとだ。だから、企業としてはその人が企業の内定を受け入れ、入社して、さらにそこで活躍するようになるまで気を使う必要がある。

ただ、定着においては、そもそも採用担当者はどこまで関与する必要があるかによって、各社の役割範囲は変わってくるだろう。


〜自社に必要のない求職者を排除する必要性〜

戦略の祖、『戦争論』クラウゼヴィッツの言葉に「戦略の失敗は、戦術では取り返せない」というものがあるが、これに模して、「採用の失敗は、教育では取り戻せない」という言葉がある。

これは、ベースで間違った人材に、幾ら教育投資をしても、それは教育コストをどぶに捨てるようなもの。いくら投資をしてもざるから流れ落ちる水のように、効果・結果が出ることはないということ。

採用難の現代ではあるが、自社に必要のない求職者は絶対に採っていけない。幹部候補者ならば、なおさらのことである。

つまり、自社に必要な人材を惹きつけることと自社に必要のない人材を排除することはどちらも極めて重要なことなのだ。

「割れ窓理論」や「腐ったミカンの法理」は知っているだろうか。

「割れ窓理論」とは、米国の心理学者ジョージ=ケリングが提唱したもので、「窓ガラスを割れたままにしておくと、その建物は充分に管理されていないと思われ、ごみが捨てられ、やがて地域の環境が悪化し、凶悪な犯罪が多発するようになる」という犯罪理論のこと。つまり、軽犯罪を放置することで地域の犯罪が増加することを指す。

「腐ったミカンの法理」は、ドラマ『3年A組金八先生』でのセリフが元になったもので、「箱の中に一つの腐ったミカンがあると、他のミカンにも腐敗が広まることから、特定の人の悪い振る舞いが集団全体に悪影響をあたえることを指す。

つまり、「割れ窓理論」は、地域全体への影響、「腐ったミカンの法理」は、集団全体への影響を表すが、両者とも一つの小さな瑕疵から大きな瑕疵に繋がることを表している。

採用においても人材のミスマッチによって、組織崩壊にまで繋がるのだ。

採用の入り口でこのジャッジを徹底的にやっている事例として、一つamazon社を紹介する。

ー amazon社の採用事例

amazon社の場合、まずジョブ・ディスクリプションと呼ばれる求める人材の職務の範囲を決めた上で、スクリーニングを行いスキルベースの確認とともにOLPベースの面接を行っていく。
OLP(Our Leadership Principles)とはリーダーシップ理念とされる16ヶ条であり、amazon社における行動理念にあたる。

応募してきた人の中から人事部が簡単にスクリーニングをして、ハイヤリング・マネージャー(採用担当マネージャー)に幾人かのレジュメ(応募書類)を渡す。この時点で、ハイヤリング・マネージャーは、自分の部署で働くのに必要なスキルがあるかどうかを見て書類選考合格者と面接を行う。そして、一次面接で「この人いいな」と思ったら二次面接を行う。

至って一般的な採用の流れだと思われると思うが、そんなことはない。
一次面接と二次面接の間で、キックオフミーティングを行っている。
キックオフミーティングでは、4〜6名の面接官を選抜し(内1名はバーレイザー(※1))それぞれの確認するOLPを分担している。それを元に各々が担当OLPを確認しながら二次面接を行った上で、最後にハイヤリングミーティングが行われる。
このハイヤリングミーティングでは、全面接官がフィードバックを提出し、原則全員一致の結果を出し、バーレイザーやハイヤリング・マネージャーが最終決定を下す仕組みである。

このように、amazon社ではまずジョブ・ディスクリプションと呼ばれる求める人材の職務の範囲を記載してから、採用が動く。そして、行動理念をベースにスキルの確認をしていくため、「良さそうな人だから採用して、そこから仕事を覚えてもらおう」ということは発生しない。日本企業でよくあるパターンは、中途入社したが自分が何をするのか、はっきり教えてもらえない。会社も採ってみたものの、どの仕事をさせようか迷っている状態。「とりあえず勉強してて」で放っておかれて、結局配属先は希望と全く違うところだったり。そう、よくあるのが「え、こんなはずじゃなかった」のミスマッチ。

「採用の失敗は、教育では取り戻せない」。こういったミスマッチはamazon社には少ないという。これはジョブ・ディスクリプションによって、求める人物を明確に規定していることの良さだろう。それにより、自社に必要のない求職者を排除することもできるということである。

<採用におけるマッチング>

上述した<募集段階→選抜段階→定着>というフェーズにおいて、企業と求職者は何をやっているのか。中身について「マッチング」の観点からみていく。

採用には少なくとも2つのマッチングが必要になってくる。これは採用研究をするアメリカの産業心理学者ジョン・ワナウスが提唱する、個人が組織に参入しそこで上手くやっていくためのマッチングである。

1.「期待」のマッチング

個人が会社に対して求めるものと、会社が提供するもの(仕事特性、雇用条件、組織風土など)とのマッチング。

求職者は給与水準、教育機会の提供、海外勤務の可能性など個人にとって重要な情報を募集情報を閲覧したり、リクルーターに質問したりすることで収集する。一方、企業側は募集情報の中に様々な項目(勤務条件や職務内容など)を記載することで、その条件に合わない求職者をはじく。このような期待の確認、いわゆる「期待のマッチング」は主に募集段階における双方の情報のやり取りによって行われる。

企業が提示する募集情報の中に求職者が判断するための情報が十分に含まれていて、求職者がその情報を精査する。これは期待のミスマッチを防ぐことに繋がる。反対に、企業による募集情報に企業の魅力を誇張した表現や、事前に伝達すべき情報の秘匿がある場合や求職者が募集情報を精査せずにエントリーした場合には、両者の間に深刻なミスマッチが発生する可能性がある。

期待のマッチングは主に募集と選抜の各フェーズに関わってくる。
企業が求職者にとって必要なだけの十分な情報を募集広告として出していて、求職者がそれを見た上でエントリーの決断を行なっているのであれば、募集段階で期待のマッチングは有効に寄与する。
また、面接などの選抜段階においては、「その会社で働くことによって何を得ることができて、何を得ることができないのか」ということが素直に話し合われるならば、選抜プロセスを通じて期待のマッチングはさらに深まっていくと考えられる。

個人にとって会社はただ給与を得るだけの場所ではなく、所属し、仲間を得ながら生活する共同体でもある。そのため、入社段階で、個人は会社に何を求め、反対に会社は個人に何を求めるのかということを、ある程度明確にすることが重要である。

さらに、期待のミスマッチは入社後の幻滅に繋がり、社員の職務満足や組織へのコミットメントの低下、そして離職の可能性の増大をもたらすもの。離職理由の調査でも期待のミスマッチは大きく影響しているとみて取れる。

「平成30年版 子供・若者白書(全体版)特集 就労等に関する若者の意識:初職の離職理由」(内閣府)

2.「能力」のマッチング

求職者が持っている能力と、企業が必要とする能力のマッチング。

求職者が企業内で求められる知識とスキルを持っていて、その能力を遺憾なく発揮できる環境が企業にある場合、求職者は満足のいくパフォーマンスをあげることができるだろう。このように能力のマッチングは入社後の個人の業績を直接説明するものであり、主に適性検査や採用面接など、選抜段階での情報源でやりとりが行われる。

「期待」と「能力」はそれぞれで異なる結果を生むということ、そして、募集や選抜など採用のフェーズごとに、2つのマッチングがどちらも達成され得るということはポイントである。

*「フィーリング」のマッチング

この2種類のマッチングに加えて、『採用学』の著書である服部教授は日本独自のマッチングがもう一つあると見た。このマッチングは必要なマッチングというよりは、日本においては「期待」や「能力」のマッチングよりも優先されてしまいがちな傾向があるというものだ。

これは募集と選抜の各フェーズで求職者と採用担当者がお互いに「この相手とは合いそうだ」や「この人と一緒に働いてみたい」というような、主観的な相性によるすり合わせを行うことを指す。

元々、日本企業に関しては、終身雇用がメインだったので、基本人生で1社だけにしか所属しないことが多かった。同じ会社において、職を変わっていくことを想定すると、長期的な会社とのつながりを大事にすることから、この「非科学的」にも思えるマッチングが日本では多い傾向にあることもポイントである。

<現状・課題感>

さて、ここからは各フェーズそして各マッチングがどのように行われているのか、日本の採用の現状・課題感を見ていく。

採用における課題は各社さまざまであるため、解は一つではない。その中、2つの課題に目を向けた。

1.相互期待の曖昧さ

日本の採用、特に新卒採用は、募集段階で雇用条件をはじめとする相互期待が曖昧になっている。
日本企業は募集段階において個人が会社に対して何を期待し、反対に会社が個人に対して何を期待するのかということを明確にしない。雇用契約のような文書でも、口頭でのインフォーマルなやりとりの形でさえも中々明らかにされない。
このように多くの場合、募集・選抜どちらの段階においても、期待のマッチングを図るために本来必要なこうした情報が十分に開示されず、求職者は採用後に初めてそうした点について理解することになることが多い。つまり、組織と個人の間に、期待のマッチングを図るために十分な情報交換がないままに、いわゆる中身のない「白紙の雇用契約」に合意し、詳細の中身は採用後に書き加えられていくというものだ。

なぜこうした本来必要な情報が十分に開示されないのか。
これには「大規模候補者群仮説」という一種の共同幻想のようなものが影響している可能性がある。
この幻想は、「エントリー数が多くなればなるほど、候補者の中に優秀な人材が含まれる割合が多くなる」というもの。優秀な人材をエントリーの段階で取りこぼしなく集めるためには、まずは大量のエントリーをしてもらうのは極めて合理的。しかし、そうすると企業にとってはそれほど魅力的ではない求職者がエントリーしてくる可能性も同時に高まるため、選抜段階においてのコストが増大する。この仮説は科学的根拠のない、むしろ研究では否定されている仮説である。

ここでの問題は、この仮説を信奉する会社は、多くのエントリーを募るために募集段階でネガティブな情報を出すことは控え、ポジティブな情報を魅力的なフレーズで彩る傾向がある。「グローバル人材を」や「若いうちから圧倒的な成長環境」のような、いや、これは嘘であるわけではないだろう、しかし、このようなメッセージは求職者に大きな影響を与える。このようなメッセージの裏には「グローバル人材を(輩出するが一部だけ)」や「若いうちから圧倒的な成長環境(はあるがごく一部で、ベテランがその機会を奪うことも多い)」というような、現実もある。

こうしたネガティブと言える情報を大規模候補者群仮説を信奉している会社は表に出さない。誰しもが魅力的に自社を魅せたいから、当たり前のことではあるのだが、これにより魅力的なフレーズに惹かれた求職者と企業がフィーリングによるマッチングを促進する可能性があり、それはさらに重要な期待のマッチングを覆い隠してしまう。

2.評価基準の曖昧さ

選抜の段階において、多くの企業が重視することの項目として「素直さや誠実さなどの人柄」や「コミュニケーション能力などの対人スキル」、「学生の自社に対する熱量や意欲」などを絶対に必要な基準としている会社が多い。

マイナビ 2023年卒 企業新卒採用予定調査|https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2022/02/s-kigyou-23-002.pdf

見てわかる通り、この基準には曖昧さが多く含まれている。
成績や学歴、資格などで採用する基準と比較するとその曖昧さがわかりやすいだろう。
この曖昧さは同時に多義性につながる
ある人から見ればコミュニケーション能力がある人は、別のある人から見るとコミュニケーション能力があるとは言えない人かもしれない。それに、そもそもコミュニケーション能力とはどういう能力なのか、どのように定義するのか、それは人によって様々だ。さらに、多義性のある曖昧な評価基準は、なんとなくイメージすることが容易でもあるため、分かった気になりやすいという問題がある。
各面接官が「コミュニケーション能力」を一つとっても多様な解釈をした場合、面接によって合格となった求職者の「コミュニケーション能力」には分散が見られるだろう。

曖昧な評価基準の設定が、担当者による解釈の多義性を生み、それが採用結果の分散につながるというプロセスを通じて、最終的に企業が採用する人材は、企業が本来求めていた人材から少しずつ乖離していってしまう。

新卒一括採用。日本と海外の違い

このような評価基準の曖昧化は日本独自の「新卒一括採用」という採用慣行も大きく起因している。

新卒一括採用は最近になって、懐疑的に思われ、アップデートしていく必要性を感じている人は多いだろう。上述したamazon社の例からもわかるように、海外企業では必要な時に必要な人材を補充するという欠員補充型の採用が行われている。

このように、新卒一括採用を前提としたとき、採用時点で、その会社で仕事をするにあたって、必要な能力や技能の全てを身につけていることはあまりない。日本企業の場合、人材を採用する時点でその人が将来的にどのような職種に就くのか、どのようなキャリアを歩むのか、ということが明確になっていない。むしろ、組織全体の長期的な人員計画に基づいて、年度ごとに採用計画が立てられるのが実態である。そのため、人材がどのようなキャリアを歩むかということについても、入社後の仕事ぶりや人間性などから時間をかけて見極め、少しずつ確定させていくことになる。

採用担当者といえど、実際のところどのような能力が将来の実績に繋がるか、また採用時点でその能力を検出すれば良いのかということを深い次元で理解することは困難である。そのため、仕事に直接必要な能力や技術そのものではなく、「将来的にそうした能力を高いレベルで身につけるであろう可能性」を推測するということにとどまる。

「学歴フィルター」という言葉は聞いたことがあるのではないだろうか。
どちらかと言うと求職者側が敏感に反応するワードだろう。学歴を一つの基準として評価するということである。学歴フィルターの存在から、日本企業の不公平さや不誠実さが指摘されることがあるが、(労働政策研究・研修機構研究員「大学新卒者採用における面接評価の構造」研究より)1970年代の段階では健康や精神性の曖昧な基準に加えて、「学業成績」が企業の評価基準において上位を占めていた。採用後の配属先が確定しない状態で採用することになる日本の場合、どうしてもその人材の一般的な意味での「潜在的能力」に注目することになり、その能力を簡単に表すシグナルが「学歴」であった。企業にとって学歴が一定の合理性があると考えることに正しさもある。また、すがりたくなることも容易に理解できるだろう。

現在は高校卒業者の約70%が教育機関に進学し、そのうち約半数が大学や短大に進学している。学歴だけでは良い就職が保証されなくなった。学歴や出身校の入学難易度は優秀さの指標としての有効性を失い、近年の日本の採用基準では、こうした学生の精神的な健全性と知識の習得度によって測られる「学力」を中心としたものから、「コミュニケーション能力」や「主体性」といった曖昧な多義的なものへ大きくシフトしていることがわかる。

「期待の曖昧さ」と「評価基準の曖昧さ」がもたらすもの

・膨大なコスト

大規模候補者群仮説が信奉されがちな日本企業においては、募集段階で多くの人材を確保することが重要視されることも多い。しかしながら、求職者の人数には限りがあるため、求人媒体などに多くのコストを支払い、候補者獲得競争が過熱化する。募集段階では膨大なコストをかけて集めた候補者群を、膨大なコストをかけて選抜していく。これで求める人材を獲得できている企業はまだ良いものの、全ての企業が満足のいく人材を獲得できるわけではないのも現状である。つまり、人材のミスマッチも生じているということだ。

・就職活動の過熱化

採用活動の過熱化と同時に、学生たちの就職活動も過熱化している。大学進学率が上昇し、大卒就職者が増える中で、自らが望む就職をするために努力をしている。今やエントリーシートの書き方や面接対策のノウハウが溢れている。そのため、その助けを借りながら、より「正しい」答えを予測し、周到に準備をしていく。企業の採用基準は曖昧で近似してきているため、「正しい」答えの予測にはある程度の汎用性があり、どれだけ準備をできているかが大事だとされていたりする。
企業の採用基準が近似しているため、それを探るための質問に対して、多くの学生から「正解」に近い回答が返ってくる。

「正解」に近い回答ばかりになると、企業側も気づく。学生の本来の姿がわからない。

例えば、企業の評価基準として「コミュニケーション能力」や「向上心」、「ストレス耐性」が設けられていて、面接の受け答えからはどれも丸がつくけれども、あまりにいい答えがすぎるがあまり、信じることができないという場合が生まれてくる。準備してきた回答ではなく、本音ベースの回答が聞きたいと思うようになる。
そうすると、本来設けられていなかった評価基準を新たに設け「フィーリングでの良し悪し」の判断になってしまう。元々は能力のマッチングを行うことを目的としていたはずが気付かぬうちにフィーリングの基準が持ち込まれ、能力のマッチングが覆い隠されてしまうということが起きる。

多くの企業はあの手この手で質問の仕方などを工夫し、できるだけ本音ベースの回答を引き出そうとしている。それこそまた、過熱化をもたらし、学生の就職スキルの向上により「採用基準の拡張」を招くことにもつながっている。本来重要であるはずの能力評価基準が拡張され、フィーリングのようなさらに曖昧なものへとスライドしていくということだ。

このように、「曖昧な期待」と「魅力的な情報」に頼っている採用は、求職者と企業の双方にとって良くない結果をもたらしている。企業としては、募集段階から選抜段階へと求職者を惹きつけることも極めて重要だが、それをどのようにマネジメントし、マッチングしていくべきなのか。求める人材をどのように集め、選抜し採用していくべきなのか。また、同質化してしまっている日本企業の採用のあり方を新しい採用のあり方へ変革していっている企業はどのようなことに取り組んでいるのだろうか。

第5章 採用施策の事例

ここからは、ここ10年くらいの日本企業の採用行動の特徴をいくつかの事例を紹介しながら見ていくことにする。

①入り口の多様化

企業側が募集情報を提示して、エントリーシートや履歴書を集め、適正試験の結果を含めた最初の選抜を行い、そこで残った候補者に対して面接を複数回実施するという一般的な入り口がある。それに加えて、インターンシップから最終面接まで一般的な順序を飛び越えて進む入り口、大学からの推薦による入り口、既存社員からの紹介による入り口、一芸に秀でた人のための入り口などなど、いくつかユニークな入り口を用意しているケースがある。
特定の人材を採用するために、あえて複数の入り口を設け、一つ一つの入り口ごとに人材を評価する基準変えて、多様な人材を取り込むことを意識している。

なぜ企業は入り口を多様化しているのか。それは採用のリスクを分散させるためでもあるが、何より人材の多様化を図るためである。第3章でも述べたように、組織や職場に同じメンバーが長期にわたって所属し続けると、「慣れ」や「同質化圧力」によって、人々の間の活発な情報交換の頻度が下がり、職場が閉鎖的になっていく。だからこそ、新しいメンバーを迎え入れ、こうした閉塞感と硬直性を打ち破ることが採用に期待されている。募集段階では漠然とした企業イメージのような周辺的な情報によって求職者がエントリーをする可能性は極めて高いため、エントリーしてくる候補者群の中には、企業の既存のメンバーと似たような気質、価値観、思考パターンを持った個人が多数含まれているだろう。そこで、企業は入り口を多様化することで、候補者群に含まれる人材の多様化を図っている。入り口ごとに含まれる候補者たちの性格や特性、好み、仕事や会社に対する考え方なども異なっているはず。よって、採用の入り口の多様化はそれぞれに異なる特性を持つ個人が集まった候補者群を複数持つことにつながる。

ここで一つ注意するべきことは、募集段階で多様性のある入り口で集めたとしても、選抜段階で多様性を削減してしまうやり方にならないかを意識する必要があるということ。第4章で述べたように、日本企業の採用では面接の中でただでさえ曖昧な評価項目からフィーリングによる評価へとスライドし、採用基準の拡張が行われる現象がある。会社という組織の中には、ある程度均質化した特徴を持った人たちがいるわけで、この人たちが面接において採用基準の拡張を行なってしまうとフィーリングの合う人たちを採用し、面接結果がかなりの程度均質化した人材になりかねない。

つまり、募集段階において多様な人材を含む候補者群を形成することに加えて、選抜段階では多様性を削減しないような選抜基準、選抜手法を多様化する必要があるということだ。

ー 「カフェテリア採用」/三幸製菓

入り口の多様性の確保に貢献する実践例。求職者たちを一律に同じ方式のもとで募集し、選抜するのではなく、求職者が自分自身に合った募集・選抜のスタイルを選択するやり方である。

②エントリー要件の明示/自己選抜

求職者に対して企業から「こういう人に来てほしい」あるいは「こういう人には来てほしくない」ということを明示したり、何かしらの方法でエントリーのハードルを高くしたりすることで、エントリーの人数を抑制し、候補者群の質の高さを上げるケース。

募集段階で十分な情報が与えられない場合、求職者は企業に対する自分の勝手なイメージと、これまでに接した一部の企業の人たちとのやりとりだけを手掛かりに、その企業やそこでの仕事に対する勝手な期待を形成していく。
そうして起こる期待のミスマッチは「リアリティ・ショック」という形で、入社後に顕在化する。

リアリティ・ショック(reality shock):
人が新しい社会、新しい組織、新しい状況に直面した際に、その人がそれに対して事前に抱いていた期待と、その人自身が実際に目にした現実との間のズレによって引き起こされる「衝撃」をさす。

このリアリティ・ショックは入社後の会社への幻滅が誘発され、離職にもつながるため、大きな問題である。
こうした期待のミスマッチ問題に対して、先に紹介したワナウスは、ポジティブな情報を中心に多くの求職者を惹きつけ、その中から優秀な上澄みの人を選ぶという伝統的なあり方へのアンチテーゼとして、「現実路線の採用」を提唱した。つまり、すべての適切なリアルな情報を歪めずに求職者に伝えるということだ。リアルな情報には必ずしもネガティブなものだけが含まれるわけではないことは一つポイントである。

事前にリアルな情報開示をすることには、ミスマッチによって入社後に会社を辞める可能性の高い潜在的な離職者たちのエントリーが抑制される効果がある。こうして求職者自身による自己選抜を採用の早期の段階で行うことで、入社前に期待のミスマッチを顕在化させてしまうことが可能になる。反対に言うと、そうした情報を知ってもなお、その企業にエントリーしてくる求職者たちは企業との間で期待のマッチングで高いレベルでできていることになる。

リアルな情報の開示は、当該企業に強い興味を持っていない求職者たちにとっての当該企業の魅力度を引き下げ、結果としてエントリー数を減少させることになる。またリアルな情報に対して候補者群に含まれる求職者たちは現実的な期待を形成していることになるため、採用後の離職の可能性が低下する(採用担当者に置かれている目標値や評価指標にエントリー数が置かれている場合も少なくないと思われるが、そこはここでは置いておく)。つまり、求職者による自己選抜を通じて候補者の量を減らしつつ、候補者の質を高めるだと言えるだろう。募集段階の最も重要な役割は候補者群における企業と求職者の間の期待のマッチングを高い精度で行うことであることはポイントである。

また、エントリー段階の自己選抜を促す方法として他にも、ある一定の要件を満たした求職者だけを選抜へと進めることを決めているのであれば、明示すべきであろう。例えば、TOEICの一定スコアの取得を基準に入れていたり、インターンシップの必須参加を基準にしていたりするのであれば、明示することでリアルな情報開示と同等の効果が期待できるであろう。

いずれにしても、募集段階での自己選抜による候補者数の減少は、それが適切に行われてさえいれば、採用担当者のコスト削減に繋がり、一人一人の候補者の選抜にかける時間を大幅に増やすことに寄与する。そしてそれは、選抜段階の密度を高めることに繋がるだろう。

ー エントリーの録画選考

昨今のコロナ禍により、エントリーシートを動画形式で課す企業が増えたのではないだろうか。書類としてのエントリーシートとは違い、動画から得られる情報は増えたと思われる。反対に、求職者にとってはこれまでの書類としてのエントリーシートはWeb化も進み、OpenESという形で汎用性のあるものも作成可能であったり、どこでもいつでも作成可能であった。ところが、動画形式のエントリーシートは周りが静かで明るい場所など撮影環境への配慮や質問項目も各社違う場合、加えて企業ごとに撮影する必要があったりと、求職者側の工数もあるように思う。そのため、エントリーのハードルを感じる求職者やしっかりと時間をかけて望む求職者が現れ、一つのスクリーニングになる。

③採用時期やタイミングの多様化

他社と同じ時期に新卒一括採用をするのではなく、時期をずらす、または逐次採用している企業も増えている。また、通年採用や大学1年生をも採用の対象とする企業、入社時期を卒業後の4月以外にも拡大している企業がある。

ー 「大学1年生採用」/ファーストリテイリング

④ワークサンプル手法

実際に仕事をさせて、その成果を評価するもの。
機械の修理をさせるケースやプロジェクトの計画立案をさせるケース、求職者が入社後に実際にすることになる仕事のサンプルを用意して従事させるケースなど、成果から優秀さを検出することを目的に実施される。

インターンシップも一つのワークサンプル手法と言える部分がある。
1dayサマーインターンはその要素が薄いが、3daysや5days、就業型インターンや長期インターンにおいては実務ベースを体験を求職者に提供して、期待と能力のマッチングを行なっている企業もある。

ー インターンシップ/NTT東日本

(前編)

(後編)

⑤テクノロジーの活用

採用におけるテクノロジーの活用と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
ここ数年だと「WEB面接」や「オンライン説明会・インターンシップ」が誰の頭の中にも思い浮かべられるのではないだろうか。コロナ禍によって、採用手法は大きく変化し、人事・採用領域におけるテクノロジーの活用は一気に加速している。

では、コロナ禍以降において急激にオンライン形式を取り入れる企業が増加し、少しずつコロナ禍が緩和されている現在、「採用のオンライン化」に関して企業の動向はどうだろうか。
HR総研:2023年&2024年新卒採用動向調査 結果報告【24卒採用選考編】によると、オンラインと対面の良い面を掛け合わせたハイブリッド型の採用活動が主流となりつつあるという。

インターンシップの実施形式については、従業員数が1001名以上の大企業では50%が「対面形式とオンライン形式を混合して実施」、35%が「すべてオンライン形式で実施」となっており、対面形式のみで実施するのは僅か15%となっている。一方で、従業員数が300名以下の中小企業では52%が「すべて対面形式で実施」となっており、半分以上が対面形式に戻している。

企業規模別 インターンシップ実施形式

また、選考面接の実施形式については、大企業では「対面形式を主軸にオンライン形式でも一部実施」は46%、「オンライン形式を主軸に対面形式でも一部実施」(38%)と「オンライン形式のみで実施」(10%)を合わせると48%で、対面主軸よりやや多い傾向。中小企業では「対面形式を主軸にオンライン形式でも一部実施」が35%、「対面形式のみで実施」が33%に上り、7割近くが「対面形式を主軸」として面接を行っている。

企業規模別 選考面接の実施形式

中小企業では採用のオンライン化において、ハイブリッド型というよりは大企業に比べるとコロナ禍以前の対面形式に戻しつつある状況のように見える。インターンシップにおいては半数以上、面接においては3分の1の企業が「対面形式のみで実施」と回答している。しかし、学生はコロナ禍以降に大学へ入学した世代であるため、授業のオンライン化やデジタル機器が身近な存在である。また、オンライン化の良い所として、遠方の求職者ともタイムレスに繋がれるところがある。そして今後は労働者人口も減少していく中で、企業における新卒者のエントリー数は少なくなっていくことが予想される。そこへの対応としても、中小企業の動きにおいてハイブリッド型ではなく、対面形式だけで実施していくことが、企業間での格差を生んでしまうのではないかと懸念している。

第6章 採用のデータ活用

昨今、ますますテクノロジーが身近になってきて、コロナ禍以降、HR関連領域でも高度なテクノロジーと人事関連業務を融合させた「HRテクノロジー(HR Tech、HRテック)」(Human Resource × Technology)の活用が進んでいる。

HRテックとは、クラウドやデータ解析、人工知能(AI)、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、ロボティクスなど最先端のテクノロジーを使って、採用・育成・評価・配置などの人事関連業務を行う手法のことをいい、採用業務においてもHRテックの活用は進んでいる。

これまで採用の課題感として、期待や評価基準の曖昧性について話してきた。それは日本独自の採用手法により、海外と比較しても求職者の優秀さなり魅力度なりを推測するしかなかったからである。そしてそれは定量的に測ることができないがために、採用における本質的な難しさであると述べてきた。

その中、最近の採用領域ではHRテックの進化で、デジタイゼーション(Digitization)という、いわゆる「特定業務のデジタル化」によって、データを収集・活用し、定量的に測ることができるようになってきたのである。

動画から受ける印象の確認から、
データに基づく客観的な評価までをサポート

02 録画動画から表現特性を見える化し、見極めの精度向上


自己PR動画からは直感的に「熱意」や「人柄」を把握できます。
また、独自開発したAIで、動画から得られる情報(顔の表情や発言など)を複数の評価指標で定量化し評価をサポートします。

https://harutaka.jp/entry-finderより抜粋

さらには、データを活用して求職者の面接体験の向上に繋げた事例も出てきている。
ー 選考録画データを活用した面接スキルの可視化/大塚商会


これまで企業としては、求職者の優秀さなり魅力度なりを曖昧な評価基準に従って推測して選抜するしかなかったのだが、このようなHRテック、採用領域でのテクノロジー活用から、いかにデータを活用して、選抜していくかというフェーズに入ってきている。

今後もデータを活用した採用ケースは増えていくだろう。求職者は望んでいる企業に就職でき、会社は求める人材を獲得できる。そんなミスマッチのない社会、そして日本経済がより良好な状態になったらいいなと思っている。

冒頭に書いた通り、世界的にみると日本企業としては、成熟して衰退する国内マーケットよりも成長する新興国マーケットに通用するような新たな国際的経営リーダーの育成が急務となっている。そして、世界最適な立場で適材適所にて採用・育成・処遇する新たな組織運営に変える必要がある。

簡単なことではないが、あらゆるものを変更して、人材の質と量をアップデートしていく先見性を持って、先行して考えていかなければならない。

この探究を通して、人事、そして採用担当者は新たな未来を作る仕事であり、目の前のことだけでなく将来の会社経営や日本社会においても極めて重要な役割を担っているということを改めて感じることができた。

この記事で何か気づきを受け取ってもらえていたら嬉しいです。
ここまで読んでいただき、大変ありがとうございました。


番外編

DX(デジタルトランスフォーメーション)

ところで、テクノロジーの発達により「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉に触れる機会は増えたのではないだろうか。

あちこちでDXと言われているため、少々言葉だけが先行している印象を受けているので、ここで一度整理しておきたい。

DXとは、企業がビッグデータなどのデータとAIやIoTを始めとするデジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立することをさす。そして、DXをするまでにはいくつかのステップがある。

Step1:デジタイゼーション(Digitization)

デジタイゼーション(Digitization)とは、いわゆる「アナログ情報のデジタル化」のことを指す。採用においては、特定業務のデジタル化として、WEB面接やES動画がこれに当たる。そして動画データの収集や活用もここにあたる。

Step2:デジタライゼーション(Digitalization)

デジタライゼーション(Digitalization)とは、「サービスや業務プロセスのデジタル化」のことを指す。採用においては、デジタイゼーションから改善最適化を行い、採用プロセスの全般をデジタル化することをいう。

Step3:デジタルトランスフォーメーション(DX)

Step1、Step2と進んできて、最後にStep3のDXにたどり着くものである。
採用におけるDXとは、採用モデルが変換されることをさす。

表層的な言葉でStep1〜3まで説明したがが、おわかりいただけただろうか。基本的な世の中のことはまだまだデジタイゼーションにとどまっていることを。

採用のDXがどのような形につながっていくのか、非常に楽しみでもある。


※1:バーレイザー(Bar Raiser)
シニアマネージャーからの推薦で選抜されトレーニングを受けたのちに就任。OLPを熟知し採用に関し大きな権限を持つ。


参考書籍
HRDXの教科書 デジタル時代の人事戦略
採用学 (新潮選書)
人事と採用のセオリー
amazonのすごい人事戦略


参考資料
第1回 採用の失敗は、教育では取り返せない|組織・人材|経営プロ
「割れ窓理論」と「腐ったミカンの法則」の違いとは?分かりやすく解釈
【人事担当者向け】Amazonのすごい人事戦略と採用
リーダーシッププリンシプル


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