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森見登美彦テーマ考 #猫ラーメン

この連載を書くにあたって、今度はどの作品を取り上げるか迷っているところでした。KADOKAWAさんが何年たってもあらゆるキャンペーンで『四畳半神話大系』を推し続けてくださって、ただのファンとはいえ、何があってもKADOKAWAさんを支えたいと思ってしまうものです。

そんな本作が推薦図書にも選ばれている #読書の秋2020 に便乗させていただき、「猫ラーメン」のお話を少し。

約1年前、我々森見登美彦愛読者たちに衝撃のニュースが飛び込みました。

2018年9月24日 17時38分44秒 (Mon)
お知らせ
9月24日 突然なのですが、諸事情により店を閉める事となります。今まで本当にありがとうございます。暑い日も寒い日も、お越しになって下さったお客様のおかげで、今まで屋台を続けていく事が出来ました。昔からのお客様も、新しく知って頂いて来られたお客様も、本当にありがとうございました。そして、このHPを作って下さった管理人さん。管理人さんのおかげで、私もお客様も、とても助かり、HPを見てアジアの各国からもお客様が来て下さいました。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。そして、お客様。こんな形でのお知らせとなりまして、申し訳ございません。今まで『はらちゃんラーメン』をご贔屓にし、支えて下さったお客様。ありがとうございました。『はらちゃんラーメン』の事を覚えていて下さると、とても嬉しいです。今まで本当に、ありがとうございました。(はらちゃんラーメン店主ブログより)

かの「猫ラーメン」が…。と嘆く者があとを絶ちませんでした。もちろん、森見を知らなくとも悲しんだ方は数多いでしょう。

私だって、家族や友人に気を使って「また今度」と言い続けたことを何度後悔したことか。この悔しい思いを胸に、今月末、再び京都へ足を運びます。せめて大極殿本舗のカステラ買って帰ろう…。

妄想してないで、とっとと恋路を走りやがれ!
私は冴えない大学3回生。バラ色のキャンパスライフを想像していたのに、現実はほど遠い。できれば1回生に戻ってやり直したい! 4つの並行世界で繰り広げられる、おかしくもほろ苦い青春ストーリー。(KADOKAWA公式サイトより)

デビュー作『太陽の塔』に続く、森見登美彦第2作目の超名作。10年前にノイタミナ枠でアニメ化されたことは有名です。中村佑介が文庫版の表紙を担当した「腐れ大学生もの」3部作のひとつでもあります。

左から『四畳半神話大系』、『夜は短し歩けよ乙女』、『新釈 走れメロス 他四篇』
『乙女』の下のやつは映画公開記念カバー
『四畳半』のふせんの数がえげつない…

えー『太陽の塔』も腐れ大学生ものじゃないのって?それはそれ、これはこれ。

4つのパラレルワールドが描かれていますが、第三話までの謎が最終話で次々と明かされていく様子は本当にゾクゾクして、やみつきになる作品です。

7月に発売されたパロディ作品『四畳半タイムマシンブルース』記念YouTubeLiveでも『四畳半神話大系』について裏話を聞けました。特に印象的だったのは、4つのパラレルワールドが最後の場面で結び付く(同じ結末を迎える)ことと、鴨川デルタは高野川と賀茂川が結び付く場所であることを掛けて、鴨川デルタを最後の場面に使用したのだとか。深い。

ちなみに、既にどちらも読んだ方は下の動画がおすすめです。こちらでも同じ話題に触れていました。

ラーメンの屋台なんて実際のところ見たことがないんですが、ドラマなどを見ていると、寂しいおっさんが店主に愚痴をこぼしているイメージが強く、この作品を読んだ中学2年生の私は主人公がなんだかおっさんに思えてしまったことを覚えています。

今となっては、主人公より年上になってしまったけど…。

主人公の「私」が、同じ下宿の上の階に住む謎の学生「樋口さん」に初めて出会ったのが、「猫ラーメン」の屋台でした。

猫ラーメンは、猫から出汁を取っているという噂の屋台ラーメンであり、真偽はともかくとして、その味は無類である。出没場所をここで明らかにするには何かとさしさわりがあろうと思うので、細かくは書かない。しかし下鴨神社の界隈であることだけ述べておく。(文庫p.13)

モデルとなった「はらちゃんラーメン」は出町柳だったということで、ほとんどそのまま描いているようですが、もちろん「猫から出汁を取って」はいません。と、店主さんが仰っています。

2013年1月6日 17時59分25秒 (Sun)
営業案内
1月6日 営業いたします。猫好きの方はご存知かと思いますが、和歌山電鉄貴志駅のスーパー駅長の三毛猫タマが同電鉄ナンバー2の社長代理に昇任したそうです。たかが猫、されど猫!うちの屋台も間接的に、猫に御世話になっています(猫でダシはとっていません)!屋台の終わりがけに、チャーシューをねだりに来る白猫さんが、今年になって現れません。心配です。今日は来るかな?(はらちゃんラーメン店主ブログより)

この「猫ラーメン」、初出はデビュー作の『太陽の塔』だったわけですが、どちらの作品でも眠れない夜にふらっと立ち寄る場所になっているあたりが、京都に住む大学生の生活を垣間見ているようなふわっとした気持ちになります。

猫の出汁を使ったラーメンというのは、さまざまな都市伝説が存在するようです。Yahoo!知恵袋で「ラーメン 猫」と調べてみると、かなりたくさんの質問が出てきました。

九州の話題が多いですね。どうやら猫の骨は、煮ると泡が出るようです。うーん信じがたいけど、店で実際出しているかは別として、少なからず猫の骨を豚骨のようにしてラーメンにしようとした人はいるのかもしれません。

私たちにとってペットでしかない猫を食用に使うのは、想像すると残酷に思えますが、都市伝説だと割り切って考えれば「猫ラーメン」という字面はだいぶかわいらしい気もします。小津の猫撫で声もまた然り。

そんなキュートで愛らしい未知なるラーメンに想いを馳せながら、 #読書の秋2020 に寄せられる『四畳半神話大系』についてのステキな記事たちを読み漁る所存です。

ほぼ月1で更新している本連載ですが、11月と12月は番外編として、月末の旅行で撮影する予定の写真と共に、筆者お手製の森見登美彦聖地巡礼マップを公開する、かもしれません。

というわけでぜひマガジンのフォローもお待ちしています。

おしまい。

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