"やさしすぎる"人たちの物語
ちょうど心がほっこりするような小説を読みたいタイミングだったのと、「ぬいぐるみとしゃべる」というタイトルが気になったのもあって、ほっこり感のあるカバーイラストのこちらを選んでみた。
本書は4編からなる短編集である。
そのうちの、表題作『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、ぬいぐるみサークル【通称ぬいサー】に所属する大学生たちのお話だ。
手芸部のような感覚でみんなでぬいぐるみを作ったり、それぞれ自分のお気に入りのぬいぐるみを持ち寄ってパーティーを開いたり、そういうぬいサーを想像していた私は軽くショックを受けた。
誰も傷つけたくないからこそ、自分の抱えるモヤモヤをぬいぐるみに聞いてもらう。
このぬいサーはそういう人たちが集まる場所だ。
自分が男だからという理由で誰かを傷つけてしまうのではないか、と悩む主人公の七森をはじめとする、"やさしすぎる"登場人物たち。
彼らを見ていると、ほっこりするどころか、心がすり減っていきそうな気さえした。
けれど、"やさしすぎる"彼らゆえの心の揺らぎや人間模様からは、自分自身が日頃少なからず感じることのある、生きづらさの正体が垣間見えたような感覚があった。
暗いニュースを見てしんどくなったとき
性差によって理不尽な思いをしたとき
…
物語の中でも取り上げられているが、こういうときに感じるストレスや負の感情は、多くの人が経験したことのあるものだろう。
その種のモヤモヤと遭遇したとき、みんながみんな、誰かに話を聞いてもらって分かち合うことで、心を軽くすることができるわけではない。
自分の抱える負の感情を、他人にまで背負わせたくないと感じる"やさしすぎる"人たちは、それをどう昇華していくのだろうか。
少し重そうな内容だな…と感じた方は、表題作の次の『たのしいことに水と気づく』から読んでみてほしい。
私は4編の中でこちらの物語が一番好みだった。
結婚を控えながらも、恋人とのこれからの生活に憂鬱さを感じている主人公。
そしてこのお話にも"やさしすぎる"人が登場する。それが主人公の妹だ。
やさしすぎるがゆえに心を疲弊させていき、失踪してしまう。
けれど最後は、彼女たちにも救いがあるような終わり方だったのでホッとした。
それと個人的に印象に残っているのが、
「気の合う人とただ同じ空間にいたい」
「お互いひとりでいるような感じでだれかといたい」
という妹のセリフだ。
「つらいとき、言葉を交わさずとも、自分にとって大事な人がそばにいてくれるだけで救われるような感覚」のようなものかな、と自分に置き換えて想像してみると非常に共感できた。
本書を読了後、「"やさしさ"って何だろう」という、答えの見つからなさそうな問いにしばらく耽ることとなる私であった。
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