見出し画像

最近の"読んで良かった本"


私が最近読んだなかで「印象深かった」「もう一度読みたいと感じた」など、読んで良かった本をご紹介したい。


今回は一般書と児童書から、それぞれ一冊ずつ選書した。

①『我が手の太陽』石田夏穂/著(講談社)

まずこの無機質なカバーデザインに目を奪われる…


芥川賞の候補作として選ばれたことで、ご存じの方もいるだろう。

選書業務の際に参考にする「新刊案内」で見つけて気になっていた本だ。
そして本書の紹介文にあった、『異色の職人小説』というワードに惹かれた。

様々な職業に従事する人々に密着し、その仕事内容などを紹介するようなテレビ番組をたまに見かけることがある。
それを見ると、世の中にはこんなにも多種多様な仕事があり、まだまだ私の知らない世界がたくさんあるんだなあ、ということを実感することができる。私にとって非常に興味のあるテーマだ。

なにより、単純に『職人』という響きがカッコよくて好きだというのもある。



この作品では、溶接工というニッチな職種にスポットを当てている。
文中には専門用語も多く登場するので、あまり馴染みのない人からすると、主人公の作業シーンは少しイメージしづらいかもしれない。

しかし、私は前述の通り職人フェチなので、気になった用語は調べたりしつつ、自分なりに溶接工をイメージしながら苦なく読み進めていった。

溶接工に関する聞き慣れない専門用語の羅列に、読んでいてつらく感じる方もいるかもしれない。
しかし職種は違えど、主人公の心情には共感できる部分がきっとあるだろう。

自他共に認める溶接技術の腕を持った主人公が、突如陥ったスランプ。
募る焦燥感とともに、それでも自分がこんなミスをするはずがないという疑念。根拠のない自信。

それがありありと伝わってくる筆致は胸に迫るものがあった。主人公が抱く混沌とした気持ちは、自分にも共感できるところがあったのでなおさらそう感じた。

溶接の不合格、やり直しの連発。それによって自分の意向に沿わない現場へ回され、次第に周りから白い目で見られるように…。
原因不明のスランプによって、みるみるうちに落ちていく主人公は見ていてつらかった。

けれどそれは、慢心や他人に対する敬意の欠如など、自分自身の問題に端を発しているものでもあるので、単に「可哀想」で済む話ではない。そこが実に考えさせられる。

そして一番初めに、溶接の不合格を主人公に言い渡した"検査員"の謎。

物語の終盤で、再びその"検査員"が現れる場面。そのシーンできっと、もう一度初めから読み返したくなる衝動に駆られるだろう。

"検査員"の謎は私の中では未だ解決していないのだけれど、ラストの主人公の手の描写は、"そういうこと"なんだろうな…と自分なりに解釈できる結末だった。

タイトルである「我が手の太陽」の意味するところとは…。ぜひその答えをご自身で見つけていただきたい。



②『ぼくらの胸キュンの作り方』神戸遥真/著(講談社)

正反対そうな見た目の2人が、
対になっている構図。個人的に好きである。


私の好きな作家の一人でもある、神戸遥真さんの新刊だ。読まない理由がない。

まずこの作品のあらすじを簡単にご紹介。

主人公の男の子・日向は少女漫画を読むのが好きで、こっそり自作の小説も作っている。
しかし、そのことがなぜかクラスメイトの唯斗にバレてしまう。イラストが得意な唯斗に声をかけられ、2人で漫画を作ることに…。

私は昔から漫画を読むのが好きで、一番初めに漫画を買ってもらったのはたしか4歳頃だ。
当時週刊少年ジャンプで連載されていた『地獄先生ぬ〜べ〜』にハマっていた。我ながら何とませた子どもだ…。

当然、理解できない言葉のオンパレードで、分からない語句が出てくるたびに、家族に「〇〇ってなに?」としつこく質問していたのを今でもはっきり覚えている。

私の日常に漫画は不可欠だったので、物心ついた頃から中学生あたりまで、割と本気で漫画家になりたいと思っていた時期がある。
そのため、今でも「漫画」と聞くと耳をそばだててしまう。

そういうこともあって、本書のあらすじの冒頭に書かれていた、「ぼくと一緒に漫画、作らない?」という一文にすぐさま心を奪われてしまった。

おお!漫画がテーマのお話かぁ…!神戸さんの本は今回も面白そうだぞ、と期待値高めで読み始めた。


神戸さんの今作品、そして前作の『笹森くんのスカート』、前々作の『ぼくのまつり縫い』。

これらに共通していることの一つは、物語の中で登場人物たちがジェンダーについて考えるシーンがある点だ。

『笹森くんのスカート』では、クラスメイトの笹森くんがある日突然スカートで登校する。

『ぼくのまつり縫い』では、手芸が好きな男の子が主人公だ。主人公の優人と、一般的に女性がするものというイメージのある手芸との関わりがテーマの一つとなっている。

そして今作『ぼくらの胸キュンの作り方』では、主人公の日向が、少女漫画が好きだという本当の気持ちを周りに知られることを恐れている。
さらに、周りの目もそうだけれど、何より自分自身が一番「男なんだから…」という固定観念に囚われていることにモヤモヤしている。

だがそんな日向も、次第に心の成長を見せていく。
本書で私が特に印象的だった日向の言葉をいくつか引用したい。

日向らしい。
お兄ちゃんらしい。
男らしい。
女らしい。

なんで"らしい"に合わせないといけないんだ。
"らしい"に合わせて、何かいいことあったっけ?

"らしい"に合わせて、何かいいことあったっけ?

これはもはや金言だ。周りの目を気にして、自分の本当の気持ちを押さえつけてしまうことが私にもある。この言葉をコピーして部屋の壁にでも貼っておきたいくらいだ。

「なんで、『少年漫画』と『少女漫画』に分かれてるんだろう」

男はこっち、女はこっちって分かれてるから、そうじゃないものに触れようとすると引っかかりが生じる。

「『バトル漫画雑誌』とか、『恋愛漫画雑誌』とか、そういうジャンル分けじゃダメだったのかな」

確かに、言われてみるとその通りである。
それが当たり前すぎて、疑問に思ったことすらなかった。

このように日向は、身の回りのジェンダーにまつわる違和感について考え始める。
そうしていくうちに、男の自分がなぜ「少女漫画が好きなことを周りに言いづらいのか」、その答えを見出していく。

「楽しかった。楽しかったなら、それでいいかって思った。なんかもう、嘘ついたりとかそういうの、面倒だし疲れた。もうやめる」

少女漫画を作ることに対して、自分のありのままの気持ちを、日向が唯斗に伝えるこのシーン。
今まで周囲に隠しながら漫画を作ってきた自分を戒めるかのような、素直な言葉だ。


こういう子どもの真っ直ぐな気持ちを、大人になった今だからこそ大事にしたいし、忘れないようにしなければ、と考えることが児童書を読んでいるとよくある。

この3作品の共通点としてさらに言えるのは、主人公を助けてくれる"絶対的に良い友人"が登場することだ。

『ぼくのまつり縫い』のカイト。『僕らの胸キュンの作り方』のシュンがそうである。『笹森くんのスカート』は、笹森くん本人が本当にできた人物だ。
この子たちの優しさや強さに触れて、いち読者の自分まで救われた気持ちになる。

穏やかな気持ちになりたいとき、素敵なキャラクターたちに出会える神戸遥真さんの作品は本当におすすめだ。



今回、全く趣向の異なる2冊をご紹介したが、最近は特に一般書・児童書を問わず、様々な世界観の本を読むのが本当に楽しいと感じる。

私にとっての、物語を読むことの醍醐味の一つは、一時的に現実から離れてその世界を体験する感覚を味わえるということである。

多種多様な物語を読むことによって、視野が広くなり、多様性を理解してそれを受け入れることができるようになる、というのはまんざら嘘でもない。

物語の中の人物であっても、現実世界のように本当に色々な考え方の人たちがいる。
私には、その人たちの言動から学び、自分の実生活に生かした経験が、これまで何度もあった。

楽しめて、学びにもなる。
読書って本当に最強だな、と感じる日々である。

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?