夢なんて嫌い
酷く虚しかった。
彼に逢った後、みるみるうちに生気を失くしてしまって正気じゃなくなっていって、体調に引き摺られて心まで青白くヒビが入ってしまったようだった。彼との現実も夢だったのだ、そうして今日だって明日だって夢になってしまう、夢なんて嫌いだよ、ねえ、
貴方が夢に出てきてくれたのは私のためで、私を私たらしめているのも私で、だから夢の中で手を繋いで目を合わせてくれるのでしょう。貴方に逢ったことがこうやって現実じゃなくなってしまう、眠っている間まで愛おしくて、こんなにも悲しい。
アンバランスな私の手、掌が指の長さに対して少し大きい、それでも貴方は貴方の白く綺麗な傷ひとつない指を絡ませて手を握ってくれる、私とは違ってバランスの取れた完璧な手。一つも馬鹿馬鹿しくない、貴方の優しい瞳は嘘じゃないのに、
貴方の「うん」はあまりにも優しくて、だからひどくか弱くて、私はその声を思い出す度泣きそうになってしまう。触れるか触れないか、届くか届かないかの狭間で揺蕩う言葉、その声色は愛と寂しさが生んだ消え入りそうな白色。雪のような冷たさが孤独から沁みて、ミルクのような温かさが心に滲む、その白色に私はずっと閉じ込められていたかったし、今も帰って来られずに静かに淡く、けれども確かに其処に閉じ込められている。
ずっと私と貴方はひとつにもなれなければ二人にさえも成れていない、一人と一人のような気がしている、それが人間の性ならば仕方がない、なんて言えるだろうか、貴方のことは誰にも何にも譲りたくない、譲れないから、仕方がないなんて言葉はきっと無粋であまりにも無骨だ。精神を削りながら貴方を想う日々にどんな言葉が、感情が似合うだろうか、そんなことばかりを考えてみたりする。
現実も夢も本当は曖昧で境目などないものならば、融けあってしまえるものならば、私達、いつかちゃんとひとつになって消えることもできるよね、夏の夕暮れみたいに混じり合って気づけば夜、見えない星は言えなかったいつかの言葉みたいだ。覚えていないけれど大切だったよ
孤独、幸福、アイデンティティ、時間、空間、内側で乱反射してくらくらする、アイネクライネ・ナハトムジーク、どうか僕等を救いたまえ
小さな爪に広げたマニキュアの上で春が来る、おしまいなんてまだ言わないで、季節を越えて遊んでいよう、叶うならば、貴方と私で。
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