「都合のいい常識」を持つ化石オヤジの言動から考えてみた〜垣谷美雨『定年オヤジ改造計画』1
妹から教えてもらって読んでみた、小説『定年オヤジ改造計画』。
いやもう、これは……
全女性を敵に回すセリフが満載です。
化石オヤジの常識に唖然
大手石油会社を定年退職した主人公の妻が「夫源病」を患うのも当然、というエピソード満載です。
家事育児で追われて自分の時間がまったく持てずに行き詰まっている妻と、「仕事」を口実に自分時間を満喫しているという自覚がない夫。
定年してからも家事を一切せず、体調がすぐれず自身の食事もままならない妻に食事を用意させていることにもまったく気がつかない。
「自分の常識が正しい」という思いこみも、ここまでくると……と唖然とします。
話の途中で女が急に黙る理由
私が最も納得したのが、熟年離婚の危機を迎えている元同期と主人公とのやりとり▼
私もかつて、
「もう諦めよう」
と思ったことがありました。
結婚して何年かは、話し合いをしようとしていました。
ただ、私自身も未熟だったために感情的になってしまって、話し合いにならなかったんです。
何度も何度も何時間も話をしても、お互いに平行線のまま、という状態が何年も続いた末に、
「もう無理」
と感じてしまいました。
終わりの見えない、ループから抜け出せない話を真夜中に続けることに、疲れ果てたんですよね。
「自分こそが正義」とばかりに、「自分の常識」を互いに押しつけあっていたがゆえに、どちらもが消耗するばかりでした。
「時代のせい」にしたままでいいの?
私が息をのんだのが、「女の浅知恵」という言葉。
こんな言葉が浮かんでくる人がまだいるのか、と。
「女の浅知恵」と口から出そうになった主人公は、こんな気づきを得ています▼
これに対して、私は思うのです。
「時代のせい」にできるのは、フィクションの世界だけのこと。
現実世界でこんなことを言っている場合じゃない、と。
男女の違いを感じずに社会に出たものの……
50歳の私は、「女の子だから〇〇」と親からは言われずに育ちました。
「もっと勉強したい」
と言えば、素敵な先生方がいる塾を探してくれ、
「国立大学に行きたい」
と言えば、浪人にOKを出してくれて(結果、私立大学に通わせてくれて)、
「留学したい」
と言えば、アメリカへの交換留学にこころよく送り出してくれ、
「バックパックで世界中を旅したい」
と言えば、2ヶ月半の間、音信不通になっても反対されませんでした。
社会人になると、「女性だけの制服・お茶くみ・残業制限」がありましたが、仕事が楽しさがまさっていました。
残業続きでも嬉々として働いていた私は、家事の経験がまったくないままに結婚し、1年と経たずに出産。
慣れない家事で毎日をまわすことに必死になっていた私でしたが、思い返してみれば、夫には余裕があったんですよね。
家事育児をやってくれる夫ではありましたが、あくまでもそれは「手伝っている」という認識。
夫と私それぞれの母親と比べて、私の「できていない」ところを、何度となく言われたものです。
(しかも、本人は本気で「よかれと思って」言うのです)
普通はこうだよね
こうした「普通だと思っていること=常識」は、人と対するときにはワキに置いておくのが必須ですね。
「普通はこうでしょ」
なんて口にしようものなら、空気が凍ることだってある。
家庭の外では気を遣える人でも、家族の前ではポロリと本音が出ることも。
はい、私自身もそうでした。
「あなたの常識は世界の非常識」
これは、かつて夫に言われて頭に血がのぼった言葉ですが、今では肝に銘じています。
誰もが自分なりの常識・基準を持っているのが当たり前。
だからこそ、
「私はこんなふうに考えていたけれど、あなたはそんなふうに考えるんだ」
正邪の判断をすることなく、誰に対しても 何に対しても ニュートラルに受けとめる。
子どもたちに、
「普通はこうでしょ」
なんて軽々しく口にすることがないよう、日ごろから視野を広げ、視座を高めるために読書に勤しんでいます。
「この時代はこういうもんだよ」
なんて時代のせいにしない。
考えるための材料を集めて、自分で考える。
それを元に、自分がどんな発言をしているか、セルフ・トークも含めて客観的にチェックして、整えていく。
子どもたちにそんな背中を見せることを日々、楽しんでいます。
✼••┈┈┈┈あとがき┈┈┈┈••✼
自分の母親のことを「母性の塊」と信じて疑わない主人公に、胸がザワザワした私ですが、地元に残った兄や姉たちから「真相」を聞かされるシーンに、ほっとしました。
「世界は自分に都合がいいようにできている」
ということが、明らかになる事例でした。
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
「私が私である」ことの確信へ導く魔法使い
御影石 千夏
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