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【観劇log】Count Down My Life

人生の意味を問いかけるロックミュージカル。
なぜ人は生まれ、生きるのか。

2020年11月の終わり。
少し肌寒くなってきたころに、中目黒 キンケロ・シアターにて劇団TipTap 『Count Down My Life』を観劇。


1:劇団TipTap

『リトル・ショップ・オブ・ホラーズ』や『ラヴズ・レイバーズ・ロスト』などの演出を手掛けた上田一豪が主宰する劇団。

前身は2006年早稲田大学ミュージカル研究会OB・OGを中心に結成された劇団。(中略) 近年は都内小劇場で上質なオリジナルミュージカルの上演を心がけ活動を続ける他、ミュージカルをもっと面白く!をテーマに「TipTapの朝活」としてミュージカル講座を開催している。

★劇団TipTap Websiteより引用:http://www.tiptap.jp/TipTap_HP/index.html


2:Count Down My Life という作品

ニューヨークでの上演を目指し2011年10月ワークショップ公演として初演。
2011年以降も再演を重ね、2013年8月ニューヨーク国際フリンジフェスティバルに海外招聘作品としてニューヨークtheatre80で上演を果たし、アンサンブル賞を受賞。

2011年ワークショップ公演・初演、2012年2月、同年8月、2014年に再演。これまでに阿部よしつぐ(劇団四季に所属中。『ノートルダムの鐘』クロパン役)、味方良介(フジテレビ『教場』都築耀太役)、清水彩花(『レ・ミゼラブル』コゼット役)、上田堪大(2.5次元作品等に多く出演) 、神田恭兵など多くのミュージカル俳優が出演。


3:公演概要

公演期間:2020年11月27日(金)~29日(日)
会 場 :中目黒 キンケロ・シアター
作・演出:上田一豪
作 曲 :小澤時史
音楽監督:成尾憲治

出 演 :水田航生/中村 翼/松原凛子/相澤祥子/友部由菜
演 奏 :Key.岩永知佳/Gt.成尾憲治/Ba.戸枝航平
     Dr.長良祐一/Sax.&Reed.山口宗真


4:あらすじ

脚本家を志す主人公は29歳の誕生日にあと一年でデビューできなければ夢を諦めると決意し、新作を書き始める。
そこに突然現れた自分の脚本のファン。
二人の不思議な出会いと同時に進み出す新しい脚本の世界。
夢を追いかけるために別れた彼女への届かなかった手紙。
残された一年に何ができる?

★公演概要pageより引用:http://www.tiptap.jp/TipTap_HP/CDML.html


5:感想戦 

※ネタバレが含まれます

観劇に至った理由と感染対策
 2014年に一度観劇しているこの作品。コロナ禍の観劇不足でエンタメが枯渇していた私は、観劇の前々日に6年ぶりに上演することを知り、急いでチケットを購入。上演期間は東京都の感染者数が500人を超えた翌週で、観劇に一抹の不安を覚えながらも、my消毒液とチケットを片手にマスクを装着し、劇場へ足を運んだ。
 会場の中目黒 キンケロ・シアターはキャパシティ133席の小劇場。TipTapはいつもサムザ阿佐ヶ谷や中野ザ・ポケット、新大久保のR'sアートコート等の小劇場で上演しているため、観客同士の距離やステージは近いというのは予想していた。劇場に入る前に非接触型体温計での検温、消毒を行い入場。ロビーを通って客席へ入る際も手指を消毒。その間約20歩もないが、念には念を入れているなあ、という印象。正直肌が荒れそうだな、とも思った。
 客席はやはり狭かったが、一席ごとにビニールシートのパテーションが設置され、左右の座席とは仕切られており「感染しないように気を付けなければ」と張り詰めていた気持ちが少しだけ緩んだ気がした。センターブロックの席だったので、左右にビニールシートがあるため音が聞きにくかったり、照明が反射しないか不安だったが、なんてことはなかった。上演前には感染防止対策に関するお願い(マスク着用、発声は控える等)が口頭で説明された。

"僕は29歳で何してる?みんなは29歳で何してる?"
 「Count Down My Life」(以下 CDML)は、「人はなぜ生まれるのか、なぜ生きるのか」をテーマに人生の不条理が描かれている。叶えられない夢、妥協という選択肢、人の成功に羨む、恋人や友人の自殺、望まない妊娠・中絶。作中で描かれる脚本家の人生の中で、ひとつでも当てはまる部分は誰しもあるのではないだろうか。
 途中、脚本家が同級生の結婚式に呼ばれる場面があるが、まさに自分の姿を見ているようで、とても滑稽で、少し悲しくなった。結婚する人、子どもが生まれた人、転職する人、事業が成功する人。ついつい他人の人生を比べ羨んでしまう自分に嫌気がさす時がある。自分の人生は自分でしか歩めないし、他人の人生を生きることができないなんて、わかっているのに。隣の芝生は青く見えるとは良く言ったものだ。そちら側からこちらの芝生は青く見えているのだろうか?
 今年は自殺のニュースが目立っていた分、この作品はとても響いた。登場人物のうちの1人である青年、実は脚本家の息子である。7年前に別れ自殺した元恋人との間に生まれるはずだった存在。彼が生まれる条件、つまり元恋人との約束(脚本家が夢を叶える=戯曲賞を受賞しデビューする)を果たすためここに来たという。その約束が果たされるとき、彼はこの世に生を受けるということだ。彼は歌う。人生のドアを開ける鍵を持っている、踏み出せば戻れないと。自分から生まれることは選べない。もしも自分で生まれることを選べたら、あなたはどうする?生まれたあとは、人生を続けることも終わらせることも自分で選べる。あなたはなぜ、終わらせることを選ばずに生き続ける? 自分の人生において、何がそうさせるのかを見つける、知ることが出来れば、もう少し自分のことが好きになるかもしれないし、生きることが楽になるのかもしれない。少なからず私は、まだ生きていたい。この世はまだ知らないことが多すぎる。知らないままで終わるのは勿体ないほどに。

脚本家の描いた人生を歩んでいく
 CDMLで一番好きな演出がある。(残念ながら2020年11月公演ではこの通りの演出は見られなかったが、今年の美術セットによる演出も良かった。)
本編ラストに青年が脚本家の元から消える際、天井からたくさんの紙(たくさんと言うよりも"大量"という言葉が似合っているかもしれない)が降りそそぎ、その紙の上を青年が歩き、進んでいくというものだ。その途中で音楽は盛り上がり、照明は暗転する。私はこの演出を、大量を紙を脚本家が書いた脚本と理解し、「脚本家の描いた人生を"青年=生まれることのなかった息子"が歩いていく」と解釈した。彼が生きたかった人生を、生きるはずだった人生を、これから何十年も掛けて脚本家は描いていくのだろうか。
 演劇は、様々な人の人生を垣間見ることができる。自分がやりたくても出来なかったことや、自分の人生とは全くかけ離れた日々を送っている姿を見ることができる。「もし、この人が自分自身だったら・・・」と想像し、架空の人生を生きることが出来る観劇の時間が、私はとても好きだ。
 今年の春頃から、自分自身と向き合う時間が多くなった。この時間で何がわかったかなんて、幾つも上げられないけど、"自分がなぜ観劇するか"、"演劇が好きか"はこの作品を通して理解できた気がした。それが正解なのかはわからないし、正解なんてそもそもないかもしれないけれど、ここまで導き出せたのは一つの実りだ。生きることは難しい。疲れることだって悲しむことだってたくさんある。だからたまには、誰かの人生に身をゆだねて夢を見たい。

6:おまけ

CDMLの映像。ぜひこの世界を堪能してください。
★『Count Down My Life』舞台映像一部公開(2020年11月) - TipTap Channel

『Count Down My Life』ゲネプロ映像を公開!(2020年11月) - AMUSE Official Channel

★2012年、2014年公演のDVD
TipTapグッズショップより購入できます。
2020年公演と美術セット、脚本の一部が異なっています(2020年は一部カット) それぞれ3チームで上演されていますので、どの公演を選べばよいか難しい方には、2014年6月Cチーム(菊地創/上田堪大/藤倉梓 ほか) または 2012年2月Bチーム(阿部よしつぐ/西川大貴/杵鞭麻衣 ほか)をオススメします。ほかチームDVDはまだ購入していないので、もしご覧になった方で「このチームおすすめ!」などありましたらお教えいただけますと嬉しいです。


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