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【随筆】ある私立小学生の一日【ゼロ研アドベントカレンダー】

 朝5時半に起きる。歯は磨かない。朝ごはんは、グリルで焼いたモチと粉のコーンスープ。ニュースはなんだかよくわからないけれどもガソリン代が高くなって円高になった話を延々と繰り返す。行ってきます。

 電車を3本とバス1本乗り継ぐ。渋谷駅の「明日の神話」が通学を見守ってくれる。

 小学校は吉祥寺にある。みんな、こんな朝早いと言うのに学校が始まる前にグラウンドでドッジボールをしている。僕は図書室に行き「かいけつゾロリ」を読む。「デルトラクエスト」は読まない。「かいけつゾロリ」を読みたいからだ。

 毎週水曜日は朝の放送がある。6年生の放送委員が自分の好きな曲を勝手に流す。

 知らない曲だ。でもいい曲だから曲名をメモっておく。メモはなくした。二度と聞かなかったか、聞いても覚えていなかった。

 授業。面白くない。忘れ物をしたら教室の後ろで正座させられる。毎日正座だ。どう頑張っても忘れ物をしてしまう。授業後にランドセルの中で見つかって悲しくなる。

 給食、さっさと食べてさっさと教室に戻る。

 教室には1台だけパソコンが置いてあって、みんな「無料 シューティングゲーム」で検索するとゲームができるということを知っていたので遊んでいた。先生にばれて禁止になった。

 仕方がないからテレビゲームそのものはできないけれどその話をする。プロアクションリプレイというゲーム改造装置があるらしい。借りたけど、面白くなかった。マスターボール999個にして何になる。

 6時間目が終わって、帰る。帰る途中、水泳教室に行く。僕だけ制服で来るから浮く。公園でみんなで遊んだりすることはない。近所に学校の友達は誰もいないからだ。

 夜9時、寝室に向かう。仕事に疲れた父親も帰ったらすぐ寝る。寝る前にちょっとだけ本棚にあるちばてつやの「キャプテン」を読む。父親が買ってくるものだから全巻は揃っていない。同じ巻を何度読んだことだろう。

 電気を消す。

 「お父さん、自分がいつか死ぬことを想像したら結構怖いんだけど、どう思う?」





あとがき

 この文章はゼロ年代研究会(https://twitter.com/zeronendaiken)のアドベントカレンダーです。べつにゼロ研入ってないんですけど、なんか書きたくなっちゃったので書かせていただきました。

 この文章は文化というよりは、文化不在の話。

 公立小学校という文化的な空間で育ち、なおかつある程度文化資本のある家庭で育ち、いろんな小説とかを幅広く読んできた人たちへの妬みとアンチテーゼ。

 

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