【実験】我らが肝臓の友"ターメリック"をいじくりまわす
柳に風です。カレーが好きです。
今回はストレスフルな現代人の肝臓の味方"ターメリック"の、「加熱による香気成分及び着色成分の変化」について実験してみました。
ちなみに筆者は、もはやターメリックではどうにもならないレベルの下戸です。こんにちは。
はじめに
これはカレー哲学さんが主催されている「🍛カレーのオープンチャット🍛」の活動の一環で、色々な方が種々のスパイスについて同様の実験をされています。他の方の記事は下記リンクにまとめられていますので、是非合わせてご覧ください。
概要
ターメリック(和名:ウコン)はインド原産、ショウガ科ウコン属の植物です。見た目はほぼ生姜ですね。(ページ上部参照)
現在50品種ほど存在し、その内30品種以上がインドで栽培されているそうです。
カレー好きの間では着色のスパイスとして有名ですね。カレーの黄色はターメリックのクルクミンという成分で出来ています。沢庵も練りがらしもクルクミンの黄色です。クチナシ色素の場合もありますが。
ターメリックは土臭いような苦いような香りがして、カレー作り初心者が入れすぎて失敗するスパイスの代表格です。しかし、個人的にはこの香りもほどよくカレーに活かすことで美味しさに寄与している気がします。着色のスパイスと言えど、香りの面でも活躍してますよ、きっと。
では、様々な条件でターメリックについて探っていきます。
※肝臓の友、味方などと書きましたが今回はそのような効能の話は出て来ません、悪しからず。
実験その1 〜加熱と香り、味〜
1) ターメリックパウダー1.0gをアルミホイルの器に入れたものを3セット用意し、(A)そのまま、(B)水15ml、(C)サラダ油15mlを、それぞれ加える。
2) オーブンレンジで1,000W 2min加熱し、嗅ぐ。
3) 常温で30min静置し、嗅ぐ。
加熱前
左からA,B,C
加熱後
左からA,B,C
結果その1 〜加熱と香り、味〜
今回はパウダーのみの実験となりました。ホールのターメリックはたまに近所のJAで売っているのを見かけるんですが、まあ往々にして必要な時には置いてないものです。ホールで使う人なんて中々いませんよな。
で結果なんですが、まずAは焦げくさい。ターメリックの匂いと焦げた匂いが混ざったそのまんまな匂いがします。咽せました。
次に、水に浸したBはターメリックパウダーの匂いが強くなりました。沖縄にウコン茶ってありますよね、あれの匂い。舐めてみました。苦っ。あれの味。ウコン茶が出来ました。那覇空港に降り立ったときの得も言えぬ開放的な気分がフラッシュバックしました。まぁわたし沖縄行ったことないんですが。
最後に油に浸したCですが、匂いがほとんどしませんでした。高温になりすぎて全部飛んだのか?香気成分が油でコーティングされたのか?舐めてみると微かにターメリックの味がしますが、苦味はありません。
かなり差が出まして、面白い結果になりました。
続いて色について実験をしてみます。
器具などは職権濫用させていただきまして、少々専門的な話もありますがお付き合いください。
実験その2 〜加熱と色〜
1) ターメリックパウダー0.01g秤量したものを3セット用意し、(A)95%アルコール100ml、(B)水100ml、(C)サラダ油100mlを、それぞれ加える。
溶媒の異なる0.01%ターメリック溶液が3種。
最初1g(1%溶液)にしたら濃すぎて
色々試してこの希釈倍率に落ち着いた。
おそるべし、ウコンの力©︎。
2) (A)(B)(C)をそれぞれ半量の50mlずつチャック付ポリ袋に分け、恒温調理器具を用いて80℃を維持した水中で30min加熱する。
これをそれぞれ(A')(B')(C')とする。
加熱前。
もうこの時点でアルコールは凄いことに。
毎度おなじみのANOVAで30min加熱。
3) 常温で30min置いたA〜C、80℃で30min加熱したA'〜C'をそれぞれ定性ろ紙No.1*でろ過し、ターメリックパウダーの溶け残りを取り除く。
*No.1というのは目の荒さの数値です。
後ろのビーカーと比べると、パウダーが取り除かれて透き通っているのが分かりますね。
4) A〜C及びA'〜C'のろ液について、分光光度計を用いて430nmの波長で吸光度を測定する。
急に訳わかんなくなっちゃってすみません。
要は色の濃淡を数値化することが出来るんです。
結果その2 〜加熱と色〜
スパイスの有効成分は大体がアルコールに易溶性で、油に可溶性、水に難溶性もしくは微溶性と続くんですが、ターメリックも例に漏れずそんな感じです。まずは結果を目で見てみましょう。
左からA,B,Cです、常温で30min静置。
Aがやべえ。
Cは油自体が最初から若干黄色っぽいです。
左からA',B',C'です、80℃で30min加熱。
B'が頑張ってますね。
ではではここから、簡単に色について説明いたします。もとい、引用いたします。
"夜中、真っ暗な部屋の中でリンゴは赤く見えますか?答えはNOです。しかし、電気をつけたり、明るい昼の間はリンゴは赤く見えます。
〜中略〜
ある物質にいろいろな色を含む光(白色光)を当てたとすると、物質はその中から好きな色だけを取り込んで離さなくなり、嫌いな色が私たちの目にその物質の色として見えるのです。つまり、リンゴの場合は青緑という色が好きで赤色が嫌いなのです、白色光が当ると青緑色を吸収し、私たちには補色である赤色が見えるという訳です。"
引用:HITACHI 分光光度計基礎講座
なるほどなるほど、実に分かりやすいですね。
ちなみに好きな色と嫌いな色の組み合わせはペアになっています。青色が好きな物は黄色が嫌いで、黄色が好きな物は青色が嫌いです。補色というやつですね。引用元に詳細がありますので見てみてください。
つまり、ターメリックは青色の光を吸収し、黄色の光を反射しています。私たちは跳ね返ってきた黄色の光を見て「おっ、ターメリックは今日も黄色いな!」と認識しているのです。
ちなみにターメリックはアルカリ性の条件下では鮮やかな赤色になります。
常識なんて、実は存在しないのかもしれません。椎名桔平曰く「全ての真実を疑え」です。
…話を本筋に戻します。
さっきの分光光度計という機械は400nm(ナノメートル)〜700nmまで、指定した波長の光を検体に照射することで、検体が吸収した光の割合、跳ね返した補色の光の割合を数値化できるのです。
ちなみに、人間が見ることのできる光の波長は400nm〜750nmです。それより短い波長の光は紫外線、長い光は赤外線と呼ばれ、肉眼で見ることは出来ません。
…わたしの文章は"ちなみに"が多すぎて鬱陶しいですね。わかってます。わかってます。
まず、ターメリックの抽出液は明らかに黄色く見えますが、ほんとに黄色の光を反射しているのか調べてみます。
横軸が照射した光の波長、縦軸が吸収した光の割合です。これを見ると、430nmあたりで最も光を吸収しているのが分かります。430nmの波長の光というのは、そうです、青色です。
これで改めて、ターメリック抽出液は青色の光を吸収し、黄色の光を反射しているということが確認できました。
ここでようやく、分析結果に移ります。長かったですね。つらかったでしょう。眠気覚ましには、カルダモンが良いですよ。うふふ。
6検体の430nmでの吸光度(Abs)
(A) 0.380 (B) 0.018 (C) 0.290
(A') 0.392 (B') 0.107 (C') 0.332
吸光度は大体0.000〜1.000のレンジに収まるように調整します。今回は0.01%ターメリック溶液でちょうどいい感じでした。
結果を見ると、やはりアルコールはすごいですね。クルクミンがたくさん抽出できています。
水は、常温ではさっぱりですが加熱することでかなり抽出できました。
油はアルコールと比べると劣りますが、やはり可溶性ですね。加熱したときの伸びはアルコールよりもあります。
ここで「油は最初からちょっと黄色かったじゃないか」と思う方がいらっしゃるかもしれませんが、今回はBとB'なら素の水との、CとC'なら素の油との差を相対的に測定していますのでご安心ください。
まじで長くなりましたね。
深夜2時を回ってしまいました。
目、爛々と非常事態です。ヒラヒラ
考察とまとめ
・香りと味について
水中で加熱したものと油中で加熱したものでは、香りの強さと味に明らかな差があった。
水中で加熱したものは無処理のパウダーより強く香り苦味は強い、油中で加熱したものは香りはかすかに残っている程度で苦味は全く無かった。
油が高温になったことで香気成分や苦味物質が揮発したのか、油に包まれることで嗅覚や味覚の受容体に届かなくなった可能性がある。
カレーを作るとき、ターメリックは玉ねぎやトマトを炒めて水分を飛ばしたタイミングで投入するのが一般的だが、ターメリック特有の風味や苦味が苦手な人は、一番最初のテンパリング時に入れることでそれらを効果的に抑えることが出来ると考えられる。ただし焦げるので注意が必要。
・色について
ターメリックの着色物質であるクルクミンはアルコールに最も良く溶け、油に良く溶け、水にはあまり溶けないことが分かった。
加熱をすることで、どの溶媒においてもクルクミンの抽出率は上昇した。
ターメリックに含まれるクルクミンは中性や酸性下では黄色、アルカリ性下では赤色を呈すことを確認した。"ちなみに"これは何故かというと、クルクミンの化学的構造では共役二重結合が………
以上。
筆者はアイコンから分かるように黄色が好きなので、実物は青く発光しているのかもしれません。
終わり。
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