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まれ天サンプル(第71回)、『草食系ライオンと肉食系シマウマ』
草薙 渉
「風間だろ。そうだろ。うーん、変わってないなあ。十年ぶりか」
美浦トレーニングセンターに近いパチンコ屋。風間は派手なジャケットの男にいきなり肩をたたかれた。サングラスを外して、にやりと笑ったその顔に見覚えがあった。
「島崎か。なんだ、帰って来てるのか」
「ちょっとな、土地のことで帰ったんだ。どうだ、この先の吉野鮨で一杯やらないか」
「そうだな、じゃあこの玉がなくなったら行くよ」
「お
まれ天サンプル(第44回)、『ピンクのケータイ』
札幌競馬場、『ピンクのケータイ』
草薙 渉
無数の背中や後頭部。JR桑園駅から、同じような風体の男たちが同じ方向に流れていく。この一人一人が全部、一個一個の人生や事情を抱えているのだ。
そしてそれはまた全部途中で、その場その場の一瞬でしかない。そんなとりどりに様々な人生が集合し交錯する場所、などと、とりとめのない思いにひたりながら、谷は無数の背中や後頭部を見やった。
それにしても、明
まれ天サンプル(第30回)、『大女優』
新潟競馬場
まれに天使のいる場所(第30回)、『大女優』
草薙 渉
「社長の長年の夢が、いよいよあと十分以内に叶うわけですね」
秘書の宮本が緊張した顔でそう言う。新潟空港の到着口には、出迎えの人々が三々五々とたたずんでいる。福岡からの便が、あと五分で到着するとアナウンスが流れていた。
「まぁな」と、麻のスーツに真新しい縦縞のシャツ、同系色のハットを被った香田がにやりとする。「経団連の理事を
まれ天サンプル(第27回)、『源さんの臨死体験』
美浦トレーニングセンター
まれに天使のいる場所(第27回)源さんの臨死体験
草薙 渉
「まったくよお、あんな口向きの悪い馬は見たことねえ」と、引き綱を肩に担いだ源太が言う。「ゲートは嫌がるし、坂路じゃ口割って右に左にアカンベしやがって、真っ直ぐ走ろうとしねえんだ。ありゃただのバカ馬だ」
「先週来たツヨシクンですか」と、持ち馬の栗毛にシャワーをかけながら坂田が笑う。「まだ美浦の馬場に慣れてない
まれ天サンプル(第38回)、『今親鸞』
函館競馬場
まれに天使のいる場所(第38回)『今親鸞』
草薙 渉
「2番、2番逃げろ。そのまま、そのままだ!」
函館競馬場の一階スタンド。場内テレビに向かって法衣の坊さんが絶叫していた。海老反りになって、顔を真っ赤にして叫んでいた。「よーし、3番も7番も来るな。そのままだ。2番、行けぇーー!」
周りの客が呆れ顔をしている。冷笑しながら、テレビと坊さんを交互に見ている。なりふりかまわず絶叫
まれ天サンプル(第35回)、福島競馬場『色違いの毛虫』
色違いの毛虫
草薙 渉
鹿又(かのまた)陽一はその前夜に辞書を引き、『凱旋(がいせん)』という漢字がスラスラと普通に書けるよう練習した。そして高校卒業の寄せ書きに、「東京で大学を出たら、超ビックになって福島へ凱旋する」と太い文字で書きつけた。会心の思いだった。その後大学時代は毎年何度か福島へ帰り、ずっと続けていたテニス部に顔を出して先輩風吹かせたりもした。
だが社会に出てからは、福島には一
まれ天サンプル(第41回)、札幌競馬場『原始読者』
原始読者
草薙 渉
小説が好きだったから、植野は出版社に就職し文芸を志願した。入社後十年。単行本や文庫の手伝いからスタートして、五年ほど前から文芸誌編集部に所属になった。平均すると、日に本一冊分の原稿を読むことにもすっかりと慣れた。さまざまな作家とライヴで関われるのは、嫌なことも多かったがそれなりに充実していた。
「いつか大柴さんに、源氏を書かせたい」
編集長のその言葉はもう何度も耳に
我々はいま、超人類へ進化している(仮)
(ド文系物書きによる理系展望)
草薙 渉
目次
第1章 我々は何処から来たのか
換算修正後のコズミック・カレンダー
生命誕生(真核細胞→光合成→共棲)
(シアノバクテリアの地球的繁茂)
そして大いなる疑問
第2章 我々は何者か
思考革命
(時間という虚構)
(思考革命の中での時間)
農耕革命
(農耕革命後の思考革命)
ここで宗教について
(仏教)
(神道)
まれに天使のいる場所(上巻、全44篇)
草薙 渉
目次
前書き
小倉競馬場
(第1回)白馬の椅子
(第2回)消えもの
(第3回)ダンディー・ドライバー
(第4回)天網恢恢、疎にして漏らす
阪神競馬場
(第5回)超スクープ
(第6回)悲惨な復讐
(第7回)昇級戦
京都競馬場
(第8回)淀の二月
(第9回)オジサンと呼ばれて
(第10回)常ならぬ人
栗東トレーニングセンター
(第11回)一瞬