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くちなし書房
2023年3月5日 19:59
↑この動画のコメント欄に「文豪ニキネキ、和風な小説をはよ!」的なコメントがあり、触発されて書いたものです。流しながら読むと、より雰囲気を楽しめます。「月とオドリコ」湯につかった後、暖簾をくぐると少し暗い回廊に出た。まだ少し檜の香りがする。自分の出てきた暖簾のかかった横に、薄く壁を隔てて女湯がある。私は誰かに見られているようだったが、それは誰なのか、また、どこからの視線なのかはわから
2023年1月27日 18:52
少し、陽の光が暖かい日の話だ。日のあたる窓の傍で本を読んでいると、窓の外に一匹の脚長蜂がいた。その脚長蜂は一対の後ろ足を引きずりながら歩いている。只のなんでもない景であるが故に、只、一匹の足を引きずる脚長蜂が、のたうち回るのを見ることしかできなかった。**あなたは昆虫がお好きかな?そう慌てずとも答えは薄薄わかっているさ。勿論、言うまでもない。私も、普段虫をまじまじと見るわけでは
2022年7月27日 17:15
700字程度の掌編小説です。記憶の中にありました。私は色が好きだった。昔から絵をかくのが好きで、色の出方にこだわりがあった。赤は鮮やかに、ピンクは華やかに、緑は草木のように、青は心がすうっと軽くなるように。絵を描く時間よりも絵具を混ぜて色を作っている時間の方が長かった記憶がある。もしかすると、絵を「完成」させるというよりも、色を「完成」させていたのかもしれない。 十数年前のある日、5才だっ
2022年7月6日 13:06
700字程度の掌編小説です。久々に街へ出た。私の知っていた景色とは随分と違うことに少し動揺しながらも、ふと見つけた「鏡」という店に立ち寄った。店の中に席は多くないものの、多くの客が訪れているようだった。鏡という店名からは想像できないであろう、異国の“トウフ”という食べ物を使った甘い菓子を出している。味には自信があるようで私の他にも既に数名の客が匙を器用に使いながら食べていた。