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『不思議な店』


700字程度の掌編小説です。


久々に街へ出た。

私の知っていた景色とは随分と違うことに少し動揺しながらも、ふと見つけた「鏡」という店に立ち寄った。

店の中に席は多くないものの、多くの客が訪れているようだった。

鏡という店名からは想像できないであろう、異国の“トウフ”という食べ物を使った甘い菓子を出している。

味には自信があるようで私の他にも既に数名の客が匙を器用に使いながら食べていた。


私とほぼ同じ頃、店に入った男性と相席することとなった。

席数が多くないのでよくあることらしい。

その男性はよくこの店に足を運ぶらしく、おすすめの菓子を教えてもらった。

木の器に入って出てきた菓子は「ティラミス」と言って、ここ最近人気があるもののようだ。

初めて食べる味なのに、どこか懐かしさを感じる甘さが印象的だった。

相席している男性との会話を弾ませながらそれを食べていると、ふと意外な共通点に気づいた。

建築学生、古屋好き、おまけに写真が好きとなぜこんなにも私と似ているのか。

話が弾むのもそのせいだろう。色々な話をしていると、時間はあっという間に過ぎていた。


そろそろ時間なので、と男性が会計をしようと席を立ったので私もそろそろお暇しようと席を立った。

ここで出会って話をしたのも何かの縁だろうと私が彼の分も会計を済ませた。

男性は律儀に会計を終えるのを待っていて、ペコペコとお辞儀をした。


店を出ると、心地よい風につられて目を瞑ったが再び目を開けると、そこにいたはずの男性の姿も、出てきた店の札も看板も見当たらない。


ただの知らない路地に1人突っ立っているだけだった。

気のせいだったのか、はたまた夢だったのか。

そう考える私の口にはほのかな甘みが残っていた。


’22/6/9に書いた作品で、
詩より長い作品を書いたのはこれが初めてです。

作中の「鏡」というお店は実際に訪れた所をもとにしています。


話があるのは、相手が自分の鏡だからかも??


最後までお読みいただきありがとうございます。
次回も読んでいただけると嬉しいです。

梔子。

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