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右脳左脳神話

【この記事のまとめ】
「左脳=言語活動」ではあるが「右脳≠感性」


5回目の『見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス』の読書メモです。
メモ書き程度に、知らなかったことや面白かった話などをまとめていきます。

【この本から学びたいこと】
・なぜ「見た」ものをそのまま「描く」ことができないの?
・「見る」ってどういうこと?
・「描く」ってどういうこと
読書メモ『見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス』目次

⑴ 視界の中で見えてる世界はごくわずか 
⑵ 脳が見てるものは1つじゃない
⑶ 神経科学でみる「イメージ」
⑷ 同じ「描く」でも違う「描く」 
右脳左脳神話  ←イマココ!
※ 右脳左脳神話《考察編》
ぼくはポケモンが描けない


利き脳は存在しない?

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SNSやまとめ記事などでたまに見かける、パーソナル診断ってありますよね。最も身近なところでいうと、占いや血液型が挙げられます。いくつかの要素に答えると、「この人はこういうタイプ!」というのを決めてしまうアレです。バーナム効果と呼ばれる心理状態らしいですね。

今回はその中でも、一度は目にしたことはあるであろう、利き脳テストに関する話です。

【利き脳テスト】
「あなたは右脳派?左脳派?」
「左脳派のあなたは、論理型スタイル!」みたいなやつ


最近(といってもここ数十年ですが)の脳科学研究では、右脳派・左脳派という、いわゆる「利き脳」は存在しないことがわかっています。

詳しい研究は後述しますが、先にざっくりと結論をいうと、「脳は右脳と左脳の両方を駆使して様々な処理をしている」ことが、利き脳が存在しない理由です。たしかに、全体の90%以上の人が左脳で言語活動を行っていることは明らかになっていますが、感性やクリエイティブ能力が右脳だけで行われている根拠はないそうです。


POINT①

・利き脳は存在しない
・脳は右脳と左脳の両方を使って情報処理をしている


脳梁切断患者の観察研究 《左脳編》

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右脳左脳神話を明らかにした研究の1つに、脳梁を切断した患者をテスト・観察したものが挙げられます。

【脳梁】
右脳と左脳を繋ぐケーブル。お互いの情報を交換する。


この脳梁が切断されるとどうなるのかというと、右脳と左脳が情報を行き来させられなくなります。先ほど「全体の90%以上の人が左脳で言語活動を行っている」と述べましたが、これに関する面白い研究を紹介します。


脳梁切断患者の識字能力に関する研究

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脳梁を切断した患者に、片側の目を閉じて、もう一方の開いてる目で、紙に書いた文字を読んでもらいます。すると、以下のような結果になりました。

【脳梁切断患者の識字テスト】
右目だけで見た場合:読める
左目だけで見た場合:読めない


ここでの「読める」とは、視覚的認知に問題がなく、かつ書いてある文字の意味がわかるという意味です。これが何を示しているのかというと、脳の半分のみで処理が行われていることがわかります。

人間の身体は左右交叉(さゆうこうさ)といって、脳と身体の半身との支配領域が逆転します。

【左右交叉】
右半身(右手・右足など):左脳が担当
左半身(左手・左足など):右脳が担当


これは目においても同じことがいえます。「右目で見たものは左脳」、「左目で見たものは右脳」へと送られます。つまり、先ほどの右目のみに識字能力があった患者の結果から、言語活動に関わっているのは左脳であるといえるわけです。

逆にいえば、脳梁(=両脳の通信ケーブル)を断たれていることから、右脳を使わずとも文字を読むことはできることがいえます。これが、ほとんどの人の言語活動が左脳で行われるという根拠になります(まれに左右逆転する人がいるみたいです)。

別の例でいうと、脳梗塞などで運動に障害が現れた場合にも、この左右交叉の構造が見られます。症状が右脳に出ると左半身不随に、左脳に出ると右半身不随になるといわれています。


POINT②

・左脳=言語活動
・右半身=左脳 / 左半身=右脳


脳梁切断患者の観察研究 《右脳編》

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続いては右脳についてです。先ほどと同様に、脳梁を切断した患者へのテスト・観察研究から右脳左脳神話をみてみます。

右脳は感性に関わっているという俗説ですが、結論からいうと「たしかに右脳優勢ではあるけど、左脳なしにはうまく機能しない」とされています。


脳梁切断患者の描画・認識能力に関する研究

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1965年にカルフォルニア工科大学に行われた研究では、脳梁切断患者を対象にして3種類のテストを行いました。以下のような内容です。

【脳梁切断患者の描画・認識能力に関する研究】
①左右の手それぞれで模写をしてもらう
②積み木を使って図形パターンを認知し、見本通りに組み上げてもらう
③自発描画をしてもらう


模写と自発描画に関しては前回の記事を参考にしてください。


では、それぞれの結果を見てみましょう。

【研究結果】
《① 左右それぞれで模写をしてもらう》
結果:利き手とは逆の左手(=右脳)の方がうまく模写できた

《②−1 積み木を使って図形パターンを認知する》
方法:右目で見て右手で選ぶ / 左目で見て左手で選ぶ
※手元に積み木と、積み木に対応する図形の見本が用意されている
結果:視覚認知能力は左右で大差はなかった

《②−2 積み木を使って図形パターンを認知し、見本通りに組み上げてもらう》
方法:②−1に続き、選んだものを右手・左手それぞれで組み上げてもらう
結果:視覚的に構成する能力は右脳が優勢だった

《③ 自発描画をしてもらう》
結果:利き手とは逆の左手(=右脳)の方がうまく模写できた


このことから、以下のようにまとめられています。

【研究結果のまとめ】
・全体的に右脳優勢だが、右左脳の能力には個人差がある
・言語活動と違い、脳梁が切断されても全く描画できないわけではない
・右脳・左脳にはそれぞれ得意な処理様式があり、人はそれを縦横無尽に使いこなしている


つまり、右脳=感性・クリエイティブ担当とはいえない。これが今回の結論です。この右脳左脳神話がもたらす問題点についても触れたかったのですが、思ったより長くなったので続きはまた次回。


POINT③

・右脳≠感性
・クリエイティビティは右左脳で複雑に情報を行き来させて成立している

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