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神経科学でみる「イメージ」

【この記事のまとめ】
脳は見たものを概念として記憶し、いつでもイメージとして想起できるが、「見る能力」「イメージする能力」「描く能力」は、それぞれ独立している


3回目の『見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス』の読書メモです。
メモ書き程度に、知らなかったことや面白かった話などをまとめていきます。

【この本から学びたいこと】
・なぜ「見た」ものをそのまま「描く」ことができないの?
・「見る」ってどういうこと?
・「描く」ってどういうこと?
読書メモ『見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス』目次

⑴ 視界の中で見えてる世界はごくわずか 
⑵ 脳が見てるものは1つじゃない
⑶ 神経科学でみる「イメージ」 ←イマココ!
⑷ 同じ「描く」でも違う「描く」
右脳左脳神話 
※ 右脳左脳神話《考察編》
ぼくはポケモンが描けない


視覚情報×感覚情報=概念

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「イメージする」とか「想像を膨らませる」って言い方をしますよね。あれって何が起こってるかというと、「頭の中で景色を思い描いてる」わけです。

その時にまず思い浮かべるものは、視覚情報です。次に匂いや触覚や知識などの感覚情報です。なので、想像力に先立つものとしては、いかにいろんなものを見たことがあるかによるとぼくは考えています。

逆にいえば、ぼくらはすでに知っている概念を自由自在に使いこなして、物事を判断しているといえます。すでに見たことある、すでに知っていることなど、視覚や感覚を通じて概念は形成されるため、それらを組み合わせて「頭でイメージする」ことができます。


「アレってもう○年前か〜」という感覚

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概念はいったん形成されると、他のどんな感覚情報からも思い出すことができます。例えば何か知らないものを食べて、「リンゴみたいな食感やなぁ」と思ったとします。これは、リンゴの食感というすでに形成された概念が想起されて、今見ているもの、食べているものの概念を新たに作ろうとしているのです。

ぼくは昔、おばあちゃんによく、砂糖をまぶしたグレープフルーツを食べさせてもらっていました。今でも同じものを食べると、思い出すのは「おばあちゃんの味」です。「懐かしい〜!」という感覚が、他の感覚から呼び覚まされることは、体感的にもわかることですね。

個人的あるあるですが、カラオケでボカロ曲を歌うと出てくる「2010年」という表記にふと口から漏れるやつ。


え、これ10年前の曲なの…?


POINT①

・概念は視覚情報と感覚情報から作られる


「イメージする」ってどういうこと?

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脳の中でイメージを作る最初の役割を担うのが、「高次連合野」という部分です。ここでは視覚情報と他の感覚を結びつけて、概念の想起や運動に必要な情報を理解します。

【視覚認知のプロセス】
網膜→神経節細胞→一次視覚野(V1)→視覚連合野→高次連合野


イメージするときって、目の前で何かを見て考える場合だけじゃないですよね。試験で問題を解くとき、アイデアを出すとき、人の話を聞いてるとき…。様々な場面で「イメージする」瞬間があります。

その際に必要になる機能が、「記憶」です。高次連合野では、見たものをもとに、過去の記憶や一時的に必要な記憶を引っ張りだしてきて、情報を結びつけながら新たな概念を形成します。

【高次連合野のはたらき】
見たものから関連する情報を記憶から引っ張りだす
【イメージができるまでのプロセス】
①視覚脳で見る
②高次視覚野で他の感覚と一緒に概念を作る
③何かを見たとき・考えるときに作った概念が記憶から出てくる


さっきのおばあちゃんの例は、「グレープフルーツ」の視覚情報と味覚情報がぼくの記憶に概念として残っているから、似たようなものが刺激されると、これが思い出されるわけですね。

ぼくは昔、おばあちゃんによく、砂糖をまぶしたグレープフルーツを食べさせてもらっていました。今でも同じものを食べると、思い出すのは「おばあちゃんの味」です。


ちなみにボカロの聴覚情報から想起されるものも同様です。思い出すのは、当時仲良かった友達の顔や、当時よく食べていたもの、PCをいじっていた部屋などの記憶ですよね。

「え、これ10年前の曲なの…?」


POINT②

・網膜→神経節細胞→一次視覚野(V1)→視覚連合野→高次視覚野
・高次連合野がイメージを作る
・作られたイメージは他の感覚や思考からも思い出せる


イメージと描画に関する研究

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高次連合野で視覚情報を処理する時には、脳の2つの部分が重要な役割を担うことがわかっています。

【側頭葉と頭頂葉】
側頭葉:形を把握する
頭頂葉:位置を把握する


このことは、側頭葉、頭頂葉にそれぞれ障害をもった患者を対象に行った、イメージの想起と描画能力に関する研究からわかりました。インタビューや課題をこなしてもらうことで、以下の対称的な症状が確認されたのです。

【イメージの想起と描画能力に関する研究】
▼側頭葉に局部的な障害をもった人
・形はわかるが意味がわからない(人の顔・動物の形が思い出せない)
・見本通りに模写できるが、描いたものの意味はわからない

▼頭頂葉に局部的な障害をもった人
・形はわかるが位置がわからない(道順などが思い出せない)
・見本通りに点と点を結ぶことができない


さらに、視覚的に認知することと、イメージを想起することの違いも同様に検証されました。

【視覚的認知と視覚的イメージに関する研究】
▼視覚的認知のみ障害をもった人
・脳に損傷は見られないが、見たものの形がわからない
・思い出しながら正確に絵が描ける

▼視覚的イメージのみ障害をもった人
・左半球側頭葉に局部的に障害があるが、視覚的認知に問題なし
・思い出しながら絵を描くことができない


つまり、「見ること」と「イメージすること」は分業体制で行われており、それぞれの神経経路は独立しているということがいえます。

簡単にいうと、

正確に見れる≠正確にイメージできる≠正確に描ける

ということですね。


POINT③

・見る/イメージする/描く は、それぞれ別の能力


参考文献

岩田誠『見る脳・描く脳 絵画のニューロサイエンス』精興社,1997年

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