じいちゃん

「次の電車が来たら飛び込もう」
じいちゃんは首を横に振って下を向いた
友達を止める事は出来なかった
それぐらい戦争は恐ろしい

じいちゃんは戦争の話をよくしてくれる
毎朝大きなラッパの音で起こされた話
捕虜として強制労働させられた身も心も凍るシベリアで
現地のお母さん達がこっそりと渡してくれる手料理が温かくて優しかった話

等を屁をこきながらしみじみと語る
(腕の骨でも折れたんかなっていうぐらい。ボキッに近い勢いの。ボリッていうめちゃくちゃでかい屁)
えっじいちゃんは今屁こいたやんな?と聞けた試しはない
完全に屁をこいていない顔をしているからだ
全くのノーリアクションなのである
そんなん戦争に比べたら大した事じゃない
完全に生きてる証だ
醤油煎餅みたいな色に霜焼けした顔面の深いシワがそう物語っている

そんなじいちゃんは昔から外でよく遊ぶ僕を褒めてくれたし好きでいてくれた
真冬でも半袖半パンだった僕をこりゃ大したもんやと笑ってくれた
砂場で一緒に遊んでいた時にじいちゃんが犬のウンコを掴んだ
うわじいちゃんウンコ手で触ってもうてる笑笑
とは言えないぐらいあっさりと無言でそれを遠くに放り投げた
そこにもちろん笑顔は無く飼い主への怒りが込み上げていたのかもしれなかった
いやでもやっぱりじいちゃんウンコ掴んでもうたら一旦は笑おうやと思った

最近では耳が遠くなったりボケてきたりで少し会話がしにくくなっている
後何時間じいちゃんと喋れるだろう
死んでからでは遅すぎる
生きてる内に戦争の話をもっと聞いておきたいと思う

落ち込んでいる時や糞みたいな気持ちの時は本や漫画を読めないしテレビや映画も観れない
作品のセンスに触れたくないからだ

お前なんて何者でもないくたばれ

そう言われて殺される気がする

目を瞑るのは防衛本能かもしれない

周りを見渡せば頑張っている人達で溢れている
タバコもコーヒーもペンもノートも誰かが頑張って作っている
それがこわくて受け取れなくなってしまう時がある

そんな時は喜びより悲しみが優しい
誰かの幸せより誰かの不幸が優しい

自分より苦しんでる人がいるんだ
自分なんてマシだと思える材料が欲しい

悲しみは悲しみでしか消せないと思う

もう少しじっくりじいちゃんと喋って自分を戒めたいなあと思う

今日はなんだかいい気分だから思い切って公衆便所の便座を拭かずに座りイーストウッドみたいな顔で俺は今完全に愛に満ち溢れていると呟いてウンコをしながら優しくお尻を拭くんだ

じいちゃんありがとう

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