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お茶が運ばれてくるまでに

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意気地なし。

意気地なし。

共通テーマ「忘れられぬモノ」

ゴツゴツとした雲に覆われた空の下を
どんよりとした気持ちに支配されながらも
なんとか歩を進める。

立ち止まってなんかいられない。

僕はまた、歩み出すと決めたのだから。

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7月2日、午前9時30分

僕が君にもう一度ちゃんと謝ろうと心に決めていた頃、君はもうこの世から居なくなっていた。

潔い最期だった。と後になって

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また、雨が降ってきた

また、雨が降ってきた

近所の八百屋の店主がやけに静かだ。
あらゆる家のベランダには洗濯物が見当たらない。
色とりどりの格好をした子供たちがいる。
また、あのカップルが喧嘩している。

あぁ、そうか。
今日は雨なんだな。

傘もささずに歩き続ける者もいれば
相手に傘をさしてやっている者もいる。

赤い傘、黄色い傘、緑のカッパ、青いタオル、
黒い鞄、透明のビニール傘。

まるでその色たちは人の心情を表していた。

傘をささ

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はじめまして。

はじめまして。

テーマ:「転校生」

結局、また話しかけられなかった。

体育祭の終わり、どれだけ呼びかけても
反応を示さない彼女に苛立ちを覚え、
強く当たってしまったあの日。あの時。

ようやく聞こえてきた彼女の声はどこまでも透き通っていた。それでいて、どこか寂しさを感じさせるもの言いで。言い放たれた言葉がいつまでも心に引っかかっている。

「私はあえて話さないの。話しかけないで。
私の見た景色や抱いた感情は、

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あの日、あの夏

あの日、あの夏

あれは平成最後の夏だった、、、

近所に愛くるしい顔をした犬が現れるようになった。あいつは、いつのまにか飼われていた。

使い古しのビーチサンダルに愛着を感じて、捨てきれなくなっていたのを母に捨てられ激怒した。

「休み期間の宿題が終わらない」と泣きじゃくる弟を背に家を出た。帰りにアイスを買って帰ると弟は宿題を諦めてゲームしていた。

初デートの帰り道、告白した僕の耳に聞こえてきたのは大塚愛のプラ

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始まりのゴールテープ

始まりのゴールテープ

【書き出し固定:あれは平成の夏だった】

あれは平成最後の夏だった。

抱え込んだ資料の束が手から離れて床に舞い散るときと同じように、色褪せた記憶が静止画となって脳内を舞い落ちる。

熱っぽいそよ風に揺られる一面のひまわりも、君が差し出すあんず飴も、海辺ではしゃいで舞い上げた水しぶきも。

何でもないはずの記憶の一片がすべて、必死に伸ばす手をすり抜けていった。

「今年で最後だね。」
君が持つ残り

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