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真夏の終り

ぼくらの七日間戦争やグーニーズ、スタンドバイミーみたいな映画がやっぱり好きだ。
少年たちの世界が好きだ。
大人ではない世界が好きだ。
上手くいえない世界が好きだ。
言葉にできない記憶が好きだった。

小さな頃から小6くらいまで、春、夏、秋、冬、晴、雨、くもり、温かい、涼しい、暑い、寒い、汗やら縮こまり、ほんのり雪化粧とか、浮き沈みやら、あやしい空なんか関係なく、一年中、特に夏休みともなれば、時間があれば、子どもだけで遊んでいた。
毎日毎日手付かずの原生、裏山に分け入った。
蚊に刺されて、蛭に血を吸われた。
でかいダニが一列にいた。
いろんな虫や鳥のさえずりが、そこかしこにあった。
ガサガサと何かの音がしてみんなそっちを見た。
いつも何もいなかった。

山のふもとにつるべ式の井戸があって真夏でも水は冷たかった。
永遠の綱引きみたいに桶バケツを上げ下げした。
わからないくらいみんなで飲んだ。
家のスイカをこっそり持ってきて、井戸のなかに沈めた。
夕方になって取り出して、そのへんの木の棒で叩いて考えずに割った。
全くの不均一バラバラであったけどキンキンに冷えていて最高だった。
家には何故だかいつも縞玉のスイカがあった。

僕らしか知らない秘密基地を作りに行っていた。
秘密だから親に言ったことはなかった。
だから大人は知らなかったはずだ。
犬のジョンはもちろん知っていた。
今思えば子どもじみた基地だったけれど、それはまるで親鳥がせっせと小鳥のために巣を築くようだった。
夢みたいに夢中だった。
いろんな長さ、大きさ、重さの枝やら葉やら石を集め続けた。
それらを敷き詰めて感覚で組み立てた。
お金という発想が全くなかったから、山の中で拾えるものだけで作っていた。
どのくらいかかったのだろう。
究極にシンプルな僕らの家ができた。

あれ?どんな感じだったっけ??
あれだけ毎日のように通っていたのに記憶が遠すぎて曖昧だ。
つまらない情報を見すぎたせいで、大切な記憶に上書きされてしまったのかもしれない。
具体的にどんな感じの秘密基地になったのかが、はっきりと思い出せない。
少し残念だ。
今と違って頭の中に記憶するしかなかったから仕方ない。
けどきっとカッコよかったはずだ。

水面でアメンボがスケートみたいに滑りながら、楽しそうにジグザグしていた。
アメンボを捕まえるのはむずかしい。
オタマジャクシが水中で左右に踊っていた。
小さな手が生えていた。

「あそこにでっかいウシガエルがいるぞ!」
誰かの声が聞こえて、指をさしていた。
見るとたしかにいた。
逃げられないうちにゆっくりゆっくり近づいて行った。
微動だにしない。
だいぶ手前で気がついた。
何かの動物のでっかい糞だった。
めっちゃ腹が立った。

真夏の静まり、人の気配はない。
蝉の大声に僕らは包まれる。
シャアシャアシャアシャア。
ため池にザリガニやブルーギルを釣りに行った。
よく行った。
どこからか牛蛙が低い声で鳴き出した。
聞こえてくる声はいつも狂いなく規則正しかった。
何と言って、鳴いていたのだろう。
僕らの気配を察知した生き物が水底へ一斉ににげた。
水面は一瞬波打って揺れていた。
水の中が混ざって見えなくなった。

粘ったからたくさん釣れた。
お兄ちゃんがブラックバスを釣り上げた。
噛み終わったガムで釣っていた。
どこかの池に雷魚がいるとウワサになって、それがどこなのかがすごく気になった。
朽ちた大木がしっかり横たわっていた。
「大丈夫や」と言ってそおろり乗ったら、見事に割けて静かな水面が豪快な音を立てた。
泳ぎは得意だけど、水底は見えず、足はつかなかった。
僕は魚ではないからここでは暮らせない。
お兄ちゃんに助けてもらった気がする。
水草の匂いのする緑色の温水プールみたいだった。
少しだけ鼻から入ってしまった。
全身ずぶ濡れになったけど、何も気にならなかった。
みんなが僕を見て大爆笑だったから僕も笑った。
すぐに服も身体も乾いて心も元にもどった。

底なし沼に脚を取られて動けなくなった。
怖かった。
誰かが長い棒を渡してくれて、それを掴んで、みんなに引っ張り上げてもらった。
助かった。

道の側溝にある苔石をひっくり返して沢ガニを山ほど捕まえた。
でっかい亀を見つけた。
両手で持ってほんの少しだけ浮いた。
何回も持ち上げてたら、引っ込んでた首が伸びてきてくるっと回って僕の方を見た。
持って帰らなかった。
そのままにしておいた。
ウーパールーパーを捕まえた。
持って帰った。
カブトムシとオオクワガタがたくさんいる場所を知っている大人がいたけれど教えてくれなかった。
ヒラタクワガタとかノコギリクワガタとかコクワガタをけっこう捕まえた。
スズメバチの羽音と大ムカデが大嫌いだった。

自分の背丈を遥かに超えた虫取り網を作った。
長すぎて上手く扱えずにそれでも背伸びして、一番上に止まっている蝉を捕まえた。
蝉はびっくりしていた。

勝手に学校のプールに入って泳いだ。
音を立てすぎて見つかって逃げた。
一目散だった。
逃げ切ってみんなで笑った。
自販機の下に顔を貼り付けて目をこらす。
みごとに百円を見つけてサイダーを買って回し飲みした。
炭酸が喉に弾けておいしかった。
落ちてた煙草を吸ってみた。
キョロキョロキョロキョロ、野生動物みたいだ。
父親の吐く煙を100倍濃くしたみたいだった。

自販機で煙草を買ってきてくれと父親によく頼まれた。
マイルドセブンとセブンスターをよく間違えて怒られた。
怒られた意味が大人になってよく分かった。

百貨店の屋上で釣り上げたカラフルな鯉を学校のプールに放したら、みんなの話題になっていた。
僕も「ホンマや鯉や」と言った。
優雅に好き勝手に泳いでいた。
なのにいつの間にかいなくなっていた。

深きの広場に朝のラジオ体操に通った。
スタンプがいっぱいになった。
何かくれると思ったら何もくれなかった。
腹が立った。

冷蔵庫の中のものを全部出して、玄関まで並べてドミノ倒しをしていたら、あほかと怒られた。

牛乳瓶のふたをたくさん集めた。
手紙を書いたら日付けの印字されてない、珍しいふたが家に届いてうれしかった。
学校に持っていって自慢した。
交換してと言われたけどしなかった。
一枚も残っていない。
どこいっちゃったんだろう。

入学式で校歌を歌った。
大きな時計は12時25分だった。
ここから始まったのかもしれない。
いつまでも歌えるのは小学校の校歌だけだ。

初めてどこかに遠足に行った。
お母さんがおやつにと薄緑色のパッケージのサッポロポテトベジタブルを買ってくれた。
うれしかった。
当日おやつの時間がきて、袋を開けたら手が滑って、目の前の川に袋ごと流れてしまった。
取ろうとしたけど流れが早くて流されてしまった。
お母さんが買ってくれたのにと泣きそうな気分で胸がいっぱいになったのを思い出した。
流れてしまったことを母親にいえなかった。
この間、何十年ぶりに同じのを買った。
母親にあげたら喜んでいた。

母親は足腰がえらく弱ってしまった。
ちっちゃくなってしまった。
口はえらく強くなってしまった。
耳が遠くなって、声がでかくなった。
なのにかなわない。

そこにいる一番の年上がリーダーになっていた。
時計なんか誰も持ってなかったから、言われたことといえば、「暗くなるまでに帰って来い」だけだった。
陽が暮れて帰りが遅くなると叱られた。

「今日はどこ行ってたん?」
そのくらいしか聞かれなかった。
「やま」とか「いけ」とか「そのへん」とか「峠の店」とか、ひと言ふた言だけだった。
いつもだいたい同じだから、親もそれ以上は聞いてこなかった気がする。
けど毎日聞かれた。
いつも家族そろってご飯を食べていた。

毎年元旦に家族そろっておせちを食べた。
全員そろったところで、お父さんが「新年おめでとう」と言ったみたいだけど、家族には「死んでもいい?」に聞こえてシーンとなったあと、誤解が解けてみんなで大爆笑になった。

毎年元日翌日はおじいちゃんの家でおせちを食べた。
二日はおじいちゃんの誕生日だった。
上座に座ってあまり喋らなかった。
僕はみんなにちやほやされていた。
「鯛の骨に気をつけるように」と100万回くらい言われた。

お正月になると福田君とコマ回しをした。
鬼ゴマが強くてやっぱり好きだった。
空中手乗りが得意だった。
非常階段の屋上から空に投げて回したりした。
3月の終わりまでやっていたら笑われた。

雪が降っていた。
カチカチに凍った観察池を歩いて渡ると石川君が言い出した。
みんな「止めといたら」と言った。
一歩目で氷が割れて下に落ちた。
そりゃそうだよなと思った。
僕よりバカがいるわと思って安心した。
何回か石川君の家に遊びに行った。

月曜日の朝。
雨が降ってきたから、全校朝礼は体育館ですることになった。
一年生から六年生までが教室からゾロゾロ体育館へ向かう。
後ろの方から校長先生が「おはようございます」とみんなに声をかけていた。
だんだん先生が近づいてきて僕の横にきた。
「おはようございます」と言われた。
「おはようございません」と言ってしまった。
めちゃくちゃ怖い顔になってあとで校長室まで来なさいと言われた。
女性の校長先生だった。

20分くらい色々と言われた。
「信用を失くすのは一瞬だけどそれを戻すのはものすごく時間がかかる」
最後にそう言われた。
今、校長先生が隣にいたら謝りたい。
さすがにもう許してくれるだろう。
しかし何であんなこと言ってしまったんだろ。
不思議だ。

缶缶を立ててトイレットペーパーをボーリングみたいに転がして倒してたら史上最大に怒られた。
こりてないわ。

一回お兄ちゃんが崖から滑り落ちて、えらい怪我をした。
親指がどこかに落ちてみんなで探した。
初めてお兄ちゃんが号泣してるのを見た。
急いで家に戻って伝えると、大急ぎで車に乗せられて、大きな病院に連れて行かれた。
すぐにだったので無事に縫合できたけれど指は少し短くなっていた。
お兄ちゃんはあまり気にしてないようだった。
母親はかなり気にしていた。

お兄ちゃんと夏祭りの屋台へ行った。
でかいモデルガンを撃って商品を倒したら貰えるやつをお兄ちゃんが一回200円も払ってやった。
当たったけどびくともしなかった。
止めると思ったら、もう一回200円払ってやった。
また当たったけど同じだった。
お兄ちゃんを見ると店主にもう一回やると言って200円払っていた。
僕は小心者なので真似できないと思った。
結局また同じだった。
ガンダムの巨大プラモデルを狙っていた。
お兄ちゃんは僕をチラッと見て「おい、こう、行くぞ」とそれだけ言った。
めちゃくちゃカッコよくて、一生かなわないと思った。
もうすぐ中学生になってしまうお兄ちゃんを見ながら心細くなった。

海水浴で買ってもらったばかりのシュノーケルを盗まれた。
あたりを見ると僕のシュノーケルを付けた同じくらいのやつがいた。
ものすごく特徴的な蛍光色の黄色のシュノーケルで、疑いようなく僕のだった。
ついさっきまで自分が使っていたものを、知らないやつが嬉しそうに使っているのを見て、何か怖くなってお兄ちゃんに言った。

「そのシュノーケル俺のやねんけど」
「知らん、そこで拾ったから俺のや」
「いやだから、それ俺の弟のやねん」
「拾ったから俺のや」
言い合いしていたら親まで出てきて、このシュノーケルが僕のものである証拠はあるんかと言い出した。
名前は書いていなかった。
しぶしぶ戻ってお父さんに言うと僕のシュノーケルを付けて遊んでいる子どもを見て「もうほっとけ」と言った。
何も言い返しに行かなかった父親に落胆したと同時に平気で盗みをする人間にはなりたくないと思った。
そう思ったはずだった。

夏のカンカン照りだった。
みんなで池に行く途中、古いお寺を横切った。
「喉かわいた」
「おれも」
「僕も」
気がついたらみんなで賽銭箱を覗いていた。
何個目かの賽銭箱に千円札が下に落ちずに引っかかっていた。
みんなでお札を見ていた。
誰もいなかった。 
棒をハサミみたいに二つ持って、千円札を器用につまみあげた。
みんなで盗んだ。
上手く取れたことでワアワア言って盛り上がった。
そのお金でジュースとアイスを買ってみんなで食べた。
何度か同じことをした。

あるとき、また賽銭箱を見に行こうとなった。
静かな境内に一人のおばあさんがいた。
みんなでおばあさんがいなくなるのを見ていた。
おばあさんは賽銭箱の前にいき、お金を入れた。
賽銭箱の前の仏様に手を合わせた。
さらに深々と首を垂れた。
ふたたび仏様を見て、長い間、目を閉じて手を合わせていた。
誰かが池に行こうと言ってみんな同意した。
誰も何も言わなかったが、みんな理解した。
盗みはこのとき終わった。
だから今も職業は泥棒ではない。

成人してから苦しくなって、お寺にお金を返しに行った。
謝罪をした。
まだまだ子どもで未熟者だったとはいえ、願いのこもったお金を盗んでしまったことは許されることではなかったと思った。
今も年に一度だけど賽銭をして、盗んでしまったことを仏様に詫びている。
盗んだお金は僅かだったと思うけど、行ける限り、一生続けなくてはいけない。
そうしなくてはいけない。
そのくらいのことをしてしまった。

いつかの海水浴の帰りの車中で母親と父親の大喧嘩が始まった。
温厚な父親が真顔で高速道路をいきなりものすごいスピードで走り出した。
あらゆる車をごぼう抜きしていった。
びっくりした。
母親を見ると知らん顔していた。
いつも遅くて抜かれてばっかりだったから、「この車こんなにスピードが出るんや」と違うびっくりもやってきた。
エンジン音と振動がすごかった。

車の後部座席で目を閉じていたら母親が「こう寝てるわ」と言った。
全然寝てなかったけれど、起きてるわと言えない雰囲気だった
結局、長い時間の狸寝入りをして、限界がきて、不自然に起きた。
あらゆるところが痛かった。
車はいつもの左車線、のろのろ運転に戻っていた。
ラジオからPL学園が大差をつけて勝っていると、アナウンサーの声が自慢げに流れていた。
地平線の夕陽がものすごく眩しくてオレンジ一色だった。

そういやひとりでセミ捕りしてる子ども見かけないな。
何十匹とセミを捕まえて、家のカーテンに引っ付けてたら母親にえらい怒られたことを思い出した。
当時は蝉のほとんどがアブラゼミだったからカーテンが真っ茶っ茶になった。
一匹が何かの拍子で飛んで、他の蝉もびっくり、つられて飛び回って、オシッコ撒き散らして部屋がえらいことになった。
楽しくて何度か同じことをした。
毎回怒られた。
秋、机の奥にカマキリの卵を入れた。
すっかりそのことを忘れていて、春のある日、数えきれない赤ちゃんが引き出しから出てきたときはびっくりした。
母親は、淡いベージュの赤ちゃんを可愛いと言っていた。
ちっちゃなちっちゃなカマだった。
窓を全開にした。
気が付いたら机のなかから消えていた。
みんな春の陽気にさそわれて、旅立っていったみたいだった。

あれから春は来すぎたから、僕は大きなカマになって傷つけてしまった。

この間、今までの人生で一番うれしかったことはなんだろう?と思い返していた。
・・・たぶん間違いなくあの瞬間だ。

当時、僕の地域に生息していたのは、アブラゼミ、クマゼミ、ニイニイゼミ、ツクツクボウシ、そしてミンミンゼミだった。
木に止まって鳴いている蝉のほとんどが茶色のアブラゼミだった。
いやになるほどいた。
クマゼミは今では珍しくないけれど、あの頃はアブラゼミ100匹に対して1〜2匹程度しかいなかった。
アブラゼミより一回り大きくて、羽は薄緑がかった透明で、見つけるとテンションが上がった。
ニイニイゼミは小さな蝉で見栄えも蛾みたいに地味で見つけても嬉しくなかった。
あまり捕まえなかった。
捕まえてもすぐに放した。

そして僕を何よりも虜にしたのはミンミンゼミだった。
何日かに一回くらいの頻度でミーンミンミンミンミンミーンと鳴いている。
どこからか鳴き声が聞こえる。
どれだけ目を凝らしてもどこにいるのか分からない。
どんな蝉なのだろう。
姿かたちを見たい。
ただそれだけだった。
今ならボタンを一つ押せば簡単に過剰な動画や写真、詳細な情報が出てくるけれど、そのときは分厚い百科事典で調べるしか方法はなかったし、肝心の百科事典も家にはなかった。
実際に捕まえて、本物を見るしかなかった。

小4の夏だった。
大きく繁る木々の一番上でミンミンゼミが鳴いているのをとうとう発見した。
蝉のお腹が振動している。
めちゃくちゃ興奮、それ以上に緊張したけれど、高すぎて持っていた網では全然とどかなかった。
そうこうしているうちに鳴き声は止んで見上げたらもういなかった。

家に戻った。
持っていた虫取り網に物干し竿をガムテープで巻きつけて超長い網竿を作った。
先ほどのとおり、自分の背丈を遥かに超えた網だった。
長くて重たくて小さな僕には不釣り合いだった。

明くる年の夏にまたまたミンミンゼミを目視直視した。
息を殺す。
手製の長網を少しは扱えるようになっていた。
静かに静かに慎重にソロリソロリ上にあげていく。
真下まできた。
まだ気付かれていない。
さらにジワリジワリ真横まできた。
再び息を殺す。

目にも止まらぬスピードで蝉にかぶせた。
網の底に落下した。
捕まえた!!
網を捻って逃げられないようにする。
緊張が解けない。
ドクドクドクドク。
地面までゆっくりゆっくり竿を下ろして中を見た。

見たことのない蝉が入っていた。
アブラゼミくらいの大きさで身体の一部が緑色だった。
羽は透明だった。
手に取って見た。
ミンミンゼミだった。
死ぬほどうれしかった。
虫カゴにそおっと入れて一晩ながめた。
次の日、空に逃がした。
うれしさは心のなかにずっととどまった。

ツクツクボウシが唄い始めると、夏は終わりに近づく。

学校が始まって、鳴き止んで、蝉はどこかに隠れる。
プールの水は濁り始めて、夏は終わりを告げた。
やがて秋風がやってきて、抜け殻みたいに寂しくなってくる。

子どもの世界に大人なんていなかった。
それが普通だった。
大人は大人同士、子どもは子ども同士で過ごすのが当たり前だった。
子どもながらにその方がいいと思っていた。
分からないけれど、ありのまま子どもの時間を生きていた。
子どもの世界に大人がいたら、それだけでやっぱりもうどうしたって気を使う。
つまらない。
あんなふうに過ごせたことは、僕にとって幸せだったのかもしれない。

僕が中学生になって、あの山の大部分は切り倒されて、削られて、灰色コンクリートの立派な大学が建った。
反対に基地を作っていた場所は初めから何もなかったみたいに綺麗に消えていた。

「明日の朝、4時半にここで集合な、基地いこ」
「わかった」
妙にテンションが上がって行った。
誰もいなかった。
しばらく薄白いなか待ったけど、誰も来なかった。

みんなどうしてるのだろう?
夏になるとふと思いだす。
みんなはどう思っていたのだろう。
みんな夏の生き物みたいに元気だった。
真夏みたいにキラキラした目と表情だった。

どこかでミンミンゼミが鳴いていた。

まっすぐに遠くにどこまでも。



むかしむかしのことです。
回想して書きました。
違っているところ、脚色してるところもあると思います。
書いているうちに楽しくなって、時系列がバラバラになりましたが、大体の内容はこの通りです。
夏の出来事でないことも思い出しました。
季節の意味合いで「真夏の終り」として書き始めましたが、あの頃は季節でない真夏感が暮らしに散りばってたなと思い出しました。
ですから夏の出来事でないことも書きました。
まだまだ思い出していないこともたくさんあるように思います。
次の夏の終りまでに思い出したら書いてみます。

ものすごく久しぶりに写真を探りました。
当時の写真はほとんど残ってなく、さらにジョンと一緒に写っているものは、この一枚だけでした。
内容と合っていますし、まあ大昔の写真だから良いかなと思って載せました。
鎖と首輪が時代を映してますね。

小学校の校庭から付いてきて一緒に帰りました。
ジョンは初めての犬でした。
冬の雪の舞う朝に玄関から出て行きました。
普段ならすぐに戻ってくるのに戻ってきませんでした。
探しまわりましたが見つけることが出来ませんでした。
4年間しか一緒に暮らせなかったけれど、きれいな想い出です。
とても賢い犬でした。

もう9月ですね。
カレンダーをめくると気分が変わります。
今日から「白露」と言うそうです。
きれいな言葉です。
季節の変わりが遅くなってる気がします。
けれど夏の終りは間近です。

読んで下さりありがとうございました。


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