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「ウイスキーを飲むとき、いい感じの写真を撮りたくなるけど背景がイマイチで困る」をデザインする <前編>

デザインとは問題を解決すること。

こんにちは。86400"の山本です。
この記事では、僕たちがデザインしたものについて、どんな問題に、どう応えたのかを振り返って記しています。

今回は額縁形コースター「ウイスキーコースター」についてのお話です。
最終的な、問題QとコンセプトAは以下の通り。

問題Q:ウイスキーを飲むとき、いい感じの写真を撮りたくなるけど背景がイマイチで困る

コンセプトA:背景になるテーブルウェアをつくろう

一喜一憂しながら進む手探りの商品開発記。
それでは、はじまりはじまりー。


きっかけは1通のメッセージ

僕たちは、生活の悩みや喜びを募集して、それを元に商品開発を行うオーダーメイドサービス(co-creationの略でコークリと言います)を行っています。
それを知った友人のAさんが、1通のメッセージを送ってくれました。

「ウイスキーが美味しく、楽しく飲めるようになるもの」

コークリではご応募の中から広く一般販売できそうなものを選考していくのですが、今回はお題が趣味のウイスキーということで、「暮らしの遊びを拡げる道具」をテーマに掲げる僕たちとも相性が良さそう。
ということで、とりあえずAさんに詳しい話を聞いてみることに。




step1. ヒアリング

ヒアリングはできるだけ雑談の雰囲気で

2020年の5月某日。
遠方とのやりとりなのでオンラインにて。

通常はテーマについて事前に調べておくのですが、今回はAさんにウイスキー愛をドバドバ話してもらいたい、ということで準備はそこそこです。
ウイスキーのどんなところに惹かれているのか、ウイスキーを飲む普段の様子などをお聞きしました。

・Aさんは毎晩ウイスキーを飲んでいる
・家で飲む時は1人での場合がほとんど
・場所はリビング
・大体1週間でフルボトル1本のペース
・食事中はハイボール、その後はストレートやロックなどなど
・飲み方に合わせてグラスも色々所有している
・テーブルの上に、グラス、ウイスキーボトル、フルーツやナッツなどのアテを置いている
・いろんな銘柄を買い集めている
・雑誌やSNSなどで情報を仕入れている
・SNSで発信することも
・空きボトルを取ってあるが、なかなか使い道がない

いろんな銘柄を画面越しに紹介してもらいながら、
酒税から逃れるために密造酒を樽に隠したら琥珀色のウイスキーができたこと、ウイスキーが樽のなかで長期間熟成する間に蒸発して目減りした分を「天使の分け前」と呼ぶこと、ウイスキーは甘いが糖質ゼロなので体を鍛えている人が好むなどなど、僕の下調べがあまりにもそこそこ過ぎたせいもあり、ほぼ先生と生徒の状態でいろんなお話を伺いました。

そんな話の中で特に強調して仰っていたのは、ウイスキーは自由だということ。
特定の銘柄や種類が正解&最高というわけではないし、飲み方も色々楽しめるところが1番の魅力で、みんな好きに飲めばいいじゃんという感じが好きと仰っていました。
こうじゃなきゃツウじゃないねー、という考え方じゃない方です。
そんなこともあって、つくるものはウイスキーを楽しめるグッズであればなんでもOKとのこと。

コークリは買わなくてもいいオーダーメイドなのですが、3万円くらいなら買いたいなということで予算を設定。
スケジュールとしては急ぎではないとのことなので、ゆっくり時間をかけて取り組むことになりました。
後日、普段飲んでいる様子を写真に撮って送ってもらうことをお願いして、初回ヒアリングは終了です。
(本来なら一緒に一杯やりながらもいいんですけど、こういうご時世ですしね。)


サプライズ!

初回ヒアリングはできるだけ多く話を聞き出すことで精一杯なので、その場で案出しすることはあまりしないのですが、今回もまだ提案を持っていない空っぽの状態です。
さてさて何をつくろうかというところで、突然Aさんから段ボールが届きました。

ウイスキーとグラス!
(あと、こちらの地域には売ってないお菓子ランキング第1位のカールも。)

「ウイスキーオリジナルスターターキット」なる手紙も添えられています。
これは無知な生徒への激励であり、いわゆるマニアたちが行う「布教」というやつ!

先生!
すごいです!
楽しませていただきます!

ちゃんと応えられるものをつくらねば、と改めて思う僕たちでした。




step2. 企画提案

琥珀色、綺麗ですね

ということで、案出しです。
情報の整理からということで、ウイスキーのつくられ方や歴史、銘柄、既存のウイスキーグッズ、販売店への視察など、いろんな角度から情報を集めていきます。

そして、実際に飲んでみることも大切!
僕はあまりお酒を飲む方ではないのですが、送ってもらったスターターキットをはじめ、いくつかウイスキーを飲んでみました。

手紙の通りに、チューリップ型のグラスで香りを楽しみ、少しだけ加水をして変化を確認、ストレート、ロック、常温の水で割るトワイスアップなどなど…
確かに、飲み方やグラスでそれぞれ違いますね。

次は銘柄の違い。
手に数滴垂らして擦って匂いの違いを確認という具合に、飲み比べていきました。
あぁ、全然違う。
白州は爽やかで美味しい、でも僕は山﨑の方が甘味もあってかなり好みです。
美味しい!メーカーズマークはちょっと甘みが強過ぎて合わないかも…
と思いきやちゃんと手紙にコーラで割るべしとあって、早速試してみるとなるほど良い。

好みの銘柄を見つけるのも、どうやったら自分好みに飲めるかを探すのも面白いですね。

あと、ウイスキーは色が綺麗ですね。
蒸溜したてのウイスキーはジンやウォッカのようにもともと無色透明のものが、樽の中で熟成する間に少しずつ木材の色味がお酒に移ってあの琥珀色になっていくのだそう。

白州は瓶のグリーンも美しいですね。
ウイスキー、色はじっと見ちゃいます。

なるほど、知れば知るほど面白い。
知識の行き着く先はやはり沼なのですね。

ウイスキーの魅力をバシャバシャと浴びつつ、何をつくろうかと案出し&チームミーティングの繰り返しです。出てきたもののうち、(恥ずかしいけど)いくつかご紹介。

ボツ案A:月のコースター

study:月のコースターは、グラス底の形状によって立体的にもなる案

ウイスキーの色は琥珀と表現されます。
他に琥珀といえば月。

ということで、クレーターを表現した凹凸のモルタル製、はたまた叩いて表面に凹凸をつくった金属製、いずれにせよ月のようなコースターをつくって、上にウイスキーの入ったグラスを置くと底に琥珀色の月が現れると。

でも…わざわざ覗き込まないと月に見えないですよね。
真上から覗き込みながらお酒を飲むって、なかなか不自然な光景。
こういう人の行動に無理な方向で負担をかけるモノは、最初面白がっても長く使われることはない。
ということであっさりボツです。

ボツ案B:底が階段状のグラス

study:階段底のグラス案

グラスの底が坂道、もしくは階段上になっているグラスです。
ウイスキーを注いだときの深さが異なるため、上から見ると色がグラデーション状、もしくは階段状になっていて、ウイスキーの色の深みを楽しめるのではという提案です。
…はい、もうお分かりですね、お酒を飲むとき上からは覗きません!
ボツです。

ボツ案C:ボトル専用のコースター

study:ボトル用のコースター案
study:コースターの側面を立ち上げて反射させる案

Aさんもそうですが、お酒を飲むときはそのボトルを横に置いてというシーンをよく見かけます。
ということで、グラスではなくボトルを演出するためのボトルコースターをつくってはどうかという案です。
それで調べてみたら…

Google ボトルコースター

既にあった…
ワインボトル用の雰囲気ですけど、
なんならアンティークのものも…そんな昔からあるんですね…

既存チェック、嫌な時間ですね…
さらにそのもののクオリティが高かったときの絶望感たるや…
この世に良いものがあるならわざわざ作る必要はないですもんね。

そんなふうに、いろんなことを夢想ては儚く消えていく。
ウイスキーの美しい色で何か提案したいなという感じはありつつ、案出しは続いていきます。


ウイスキーの(現代的な)楽しみ方ってなんだろう

そうこうしているうちに、Aさんからお願いしていた写真が送られてきました。

背景に部屋の様子も映っているので、モザイクをかけていますが、ヒアリングで伺った通り、リビングにあるテーブルの上にボトルとグラスとフルーツ皿が載っていました。

そういえば、みんなはどんなふうに楽しんでいるんだろう。
InstagramやGoogleで検索してみました。

Instagram #ウイスキー

出てくる写真を見ていると、グラスとボトルを並べて写しているものが多い。
Barなんかの写真だと背景が薄暗くて良い雰囲気だけど、家庭っぽいところで撮られたものは壁とかカーテンの前で撮られている。
生活感があるとウイスキーが引き立たないみたい。
なるほど、背景か。。。
面白いテーマかもしれない。

さらにいろいろな方のSNSへの投稿やブログなどを読んでいると、なんとなく現代的なウイスキーの楽しみ方として2つのキーワードが浮かんできました。

1つ目は希少性。
ドラマ「マッサン」の放送以来、なかなか手に入らない銘柄も多く、幸運にも入手できると写真を撮りたくなる、SNSに上げたくなることもあると。

2つ目は情報収集。
ウイスキーの情報を得ようと思ったとき、一昔前ならバーなどでよく知ってる人に教えてもらうのがベストだった。でも今はSNSがある。となると、手元のスマホで撮影してアップするなんていうのも自然な流れ。

もっと知りたい、自慢したい、繋がりたい、好きな人を増やしたい。
ウイスキーに限らず、趣味全般に言える話ですが、ウイスキーには希少性と情報収集という側面から、より強い欲求が働いているように感じました。
こんなふうに考えていると、個人的には腑に落ちたというか、ウイスキーを身近に感じることができました。

こういうクライアントや現代の人々が持っているかもしれない潜在的欲求を発見していくのが僕の仕事で、出されたお題や要望に応えることと同じくらい大切にしていきたいと思っています。
(ただ、こんな野暮が過ぎる話はもちろんAさんに確認しませんでした。提案に含まれていればそれで十分かなと。)

さて、話はアイデアの方に戻って、
ウイスキーを飲む、撮るときの背景になる道具(トレイのようなテーブルウェア)をつくりたいなと思い至ります。


そんな時、窓際に掲げている額縁のガラスに窓からの光が反射しているのを見つけて、綺麗だな思ったことを思い出しました。

窓からの光が額縁のガラス面に反射している

中の絵ではなく、ガラス面への反射が作品のように見える。
反射は作品になりうる。

これで冒頭の問題QとコンセプトAが出揃いました。

問題Q:ウイスキーを飲むとき、いい感じの写真を撮りたくなるけど背景がイマイチで困る

コンセプトA:背景になるテーブルウェアをつくろう


クライアントが面白がってくれるのは嬉しい瞬間です

やりたいこともはっきりしてきたので、ここいらで一度クライアントに提案。
「ウイスキーが美味しく、楽しく飲めるようになるもの」というお題に対して、まずは僕たちがウイスキーの楽しみ方として共感したポイントを2つ説明。

・ウイスキーの楽しみ方1:色の美しさ

樽熟成により色づいた琥珀色が美しい。
さらに、ストレート、ロック、水割り、ハイボール、ホット、カクテルなど、飲み方やグラスのヴァリエーションが豊富で、琥珀色もさまざまに。(銘柄によっては瓶の色も◎)

・ウイスキーの楽しみ方2:写真を撮りたくなる

ウイスキーはその希少性やSNSとの相性から、写真を撮ったり、写真をSNSにアップしたりしたくなるのが現代的な楽しみ方。

そんなことから、写真でウイスキーの美しさを表現するための道具をつくりたいということになったと。


その上で、「ウイスキーを飲むとき、いい感じの写真を撮りたくなるけど背景がイマイチで困る」という問題が浮かび上がってきたので、ウイスキーやグラスの色が作品になる額縁形のトレイをつくりたいと伝えました。
底板がウイスキーの色を映すような素材で出来ていて、大きさはボトルとグラスとアテ用のお皿が載るくらいをイメージ。(下の写真よりはもう少し大きくしたいところ。)

手持ちの額縁にウイスキーを載せて撮影
底面にアルミ板を敷くと反射が柔らかくなった

機能としては、ボトルとグラスを載せるためのトレイ的役割、ウイスキーの色を写して作品にする額縁的役割、さらに撮影時の背景的役割です。

ウイスキーは飲み方も豊富なので、それに合わせて映り込みの様子も変わる。

この提案にAさんも面白がってくれて、
どのくらいのライティングでトレイにどんな光が落ちるのかもう少しスタディして欲しい、額縁にはめ込み式の小皿があるなどのギミックはつけれないか、などさらなる展開の話も出ましたが、基本この方向で進めて欲しいとのこと。

底板の素材や、額縁部分の装飾など、ここからはディテールや金額の話になってくるよということで、知り合いの額縁の職人さんに相談してみようということに。


というのが2020年12月、年の瀬も迫った頃のこと。
ここまでの間に半年以上の時間が経過していました。
最終的にAさんの元に商品が届いたのが2021年11月なので、約1年半のプロジェクトです。

ということで、ここからまだ1年間あれやこれやとスタイリングや製作が続くのですが、その話はまた後編にて。



後編はこちら



<この記事に登場した商品の情報>

ウイスキーコースター


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