「不二家」の文字に

○「おいしい」と 「もっと」が最後の 母味覚 モグモグ咀嚼(そしゃく)す 不二家のケーキ           <短歌 なかむら>

※亡母が最後に、咀嚼(そしゃく)。ちゃんと自分の力で口から食べたのが、不二家のケーキ。不二家のプチ・ケーキだ。

入居していた特養の近くにある、不二家の支店。毎日、わたしは面会にゆき、車椅子に介護員さんに車椅子に乗せて貰った母を、散歩させていた。平日は施設の庭園を主に、リハビリがお休みとなる休日は、施設内を。結構、広い。ゆっくりとだが、2周、3周と廻ったのを思い出す。

9月15日の面会。母の誕生日である。亡父も一緒だった。今後について関係者と話し合う為だ。「不二家でケーキを買って食べさせたい」亡父も賛成してくれた。店に入る。普通の大きさのは到底、無理だろうから、プチ・ケーキを1つ買い、特養へ。馴染みの職員さんに「これこれで」。説明し了解を得る。飲み物は、母の好きだったココアをオーダー。自由に注文できるようになっている。

いつものように「お母さん、おはよう」。丁度の角度に傾斜があるベットで、仰向け状態。口を半ば半開きにだけし、目に力がない。が、わたしが来たのは察したようだ。「お誕生日、おめでとう。ケーキでお祝いしよう」

箱を開け、母に見せる。つけて貰ったフォークで、小さなケーキを3分の1ぐらいずつ切り分け、そっと母の口元へ。何かが口に入ったのは理解できたらしい。口をゆっくりモグモグと咀嚼させなから、食べていた。途中で、ココアも飲ませる。気を使う。

(元気な頃だったら、こんなの一口)(噛むなんて、三回もないはず)(可哀想に)別人となった母に思うのは、切なさだけだ。「おいしい?」聞く。と、「おいしい。もっと」口を大きく開けて、答えてくれた。次のを待っているのだ。

母が、自分の意志、自分の力で食べた、最後の食べ物。「不二家」の文字に思い出す。




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