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アイドルにガチ恋して成仏できなくなった女の話~“平手友梨奈”に出会ってしまった(2023.7追記)

2度目の恋の相手は、18歳の女の子だった。

欅坂46のセンター、平手友梨奈だ。

彼女は私がまだ社会の何たるかも知らなかった年齢でアイドルデビューし、社会的なテーマを歌ったシングル曲のセンターとしてこれまでに何度も世間に露出してきた。私が最初に彼女を見たのは、マニッシュなスーツに黒ぶちの眼鏡、サスペンダーの衣装で性別を感じさせない、だけどどこかちゃんと丸みを残している姿で、そこから彼女が歌い、踊り、時には世の中を糾弾するような激しいパフォーマンスに釘付けになった。

初めて見た時から彼女はどこか異質で、才能ゆえに目立ってしまい、それが彼女自身を苦しめているのだということをファンとして追いかける過程で知った。どうして私はいつも、唯一無二の輝きにこんなにも惹かれてしまうのだろうとまた自分を憎んだ。それでも平手友梨奈という少女は私を惹きつけてやまなかった。アイドルとしてではなく、1人の人間として好きになり始めた時にはもう遅かった。

ある日の夜、彼女が夢に出てきたのだ。

それも、1度だけじゃない。何度も繰り返し、彼女は私の親しい友人として夢の中に現れてくる。奇天烈な冒険に繰り出したり、なんでもない日常を一緒に過ごしたこともあった。夢の中の私はとても幸せで、こんな日々がずっと続けばいいのにと願いながら、人を好きになることの幸福を感じ、悦に浸っていた。

だからこそ、目が覚めると同時に大きな喪失感と虚しさに襲われる。目覚めた瞬間、まだ私と彼女は友達なのだけれど、ゆっくりと現実が戻ってきて意識の輪郭が戻ってくると、彼女と私は何ら接点のない、ましてや友人でも恋人でもない、アイドルと有象無象のファンの1人という関係だったのだという事実を思い知る。

その瞬間がどんなに苦しいか、なぜ私は夢に見るほど彼女に惹かれてしまったのか、そんなことを話せる友人もいなかった。この感情は一体何なのだろう、と懐疑したこともあった。もしかしたら恋じゃないのかもしれない、あこがれや尊敬、そんな類の、ちゃんと境界線を理解している感情であればいいと。

それでも彼女は私の夢に現れ続けるのだ。私にしか見せない笑顔を、私に向けて投げかけてくれる。アイドルの彼女は、どこにもいない。人間対人間の向き合い方で、私を見てくれている。私は彼女にとって個人になっている。それもすべて、私が願いすぎたゆえに偶像化した映像にすぎないのに。

つい最近、彼女はソロでシングルを出した。その曲の歌詞とPVは、明らかに自分自身が世間でどのように思われているか、それに対する不安と怯えを表現していて、1度ごとのパフォーマンスに命を懸けるようなエネルギーで挑む彼女が映像と歌で表現する胸の内に、私は涙した。そうして、もっと苦しくなった。

私に何が出来るのだろう、彼女のために。

答えは分かっている。何も出来ない。私はただの妄執的なファンにすぎず、私のような存在自体が彼女を怯えさせてしまうこと、世間が彼女に向ける鋭利な視線をはねのけるため盾となって守ろうとしても、それは叶わないのだということ。こうして思いの丈を書いていることすら、彼女を傷つけてしまうかもしれないということ。

かなしくて、やりきれない。けれど嗚咽のように書き募るのを止められない。好きなのに、どうしようもない。普通の片思いより何倍も苦しい。祈るだけの思いが、報われる日はない。彼女のまなざしに見つめられながら、スマホを見つめる。画面越しの彼女は、儚くてたまに見ていられなくなる。

守りたいのに、そこに手は届かない。

生きる世界が違う、という火の渦中に、恋を放り投げて融けさせ、弔うことしかできない。その熱さは私を苛むし、いつまでも苦しいし、きっとアイドルに恋をしてしまった人間が行き着く永遠の苦しみなのだと思う。苦悶、執着、妄執。みっともないし、どうしようもない。

成仏したい。

そんな風に叫びたくなる。それでも出会えた奇跡に縋り、美しくないべたべたの顔で泣きつく。

美しい彼女に反して、私はちっとも美しくない。どうしたらあんな風に美しくいられるのだろう。何度傷ついてもそれを表現として昇華する姿に、熱い涙がこぼれる。

日常は恐ろしいほどに単調で、どこかで彼女の生きている世界が確かに回っているのだけれど、実感がない。きっとあの幸せがまた夢に出るのを覚悟しながら眠りにつく。それが私の1日の終わりだ。

いつか距離が遠すぎて、どんな表情をしているかも見えない点のような彼女を見にライブに行きたい。亡霊はそこで念仏を唱えるのだ。彼女と一緒に、大好きな曲を歌う。

どうか幸せに生きて、という業をなめて燃えさかる願いとともに。

以下、本文執筆後追記

2020年1月23日、平手友梨奈が脱退を発表した。 同時に私は、本当に成仏出来なくなった。 それでもこの愛は消えない。つらくても、手放さない。いつか会えることを信じて生きる。

これを読んだ誰かに、私の思いの丈が少しでも伝わればと思う。


以下、2023年7月追記

このエッセイを書いてから3年が経とうとしている。その間に私が本気で恋した相手である平手友梨奈(以下、てち)は欅坂46を脱退し、歌手/女優/モデルとマルチな活動をスタートさせ、楽曲が発表されるたびライターとして彼女の魅力を文章にして発信してきた。

私がなぜライター、という文章を書く仕事を続けているかというと、好きで好きでしょうがないものに対する思いを文章に昇華させることが使命であり生きがいだと思っているからだ。
そんな1人のライターからしてみると、てちは誰よりも書きがいのアーティストなのであり、さらに言えば私は彼女の芯の通った歌声とパフォーマンスが欅時代から本当に好きなので、今後も彼女が新譜を発表したり、ソロライブ(そんなん、行くに決まってるんだけど、唯一神を目の前にしたら気が動転しそうだ、という怖さもある。死んでも行くけど)を敢行したりするたび、ありとあらゆるメディアに食らいついて「平手友梨奈の記事を書かせてください!」と必死の形相で頼み込みに行くだろう。

そして先日、大手事務所HYBEに移籍したてちが披露した22歳のバースデービジュアルに、私は戦慄した。あまりにも、すべてが"ド好み"だったのである。

好きすぎて部屋の中をぐるぐると徘徊しながら、インスタに投稿したストーリーズは"オタク構文"まっしぐらで何もてちの魅力を事細かに伝えられていない。顔が好き、無理、尊い。こういうてちが見たかったんだよ……!!!というパッションの奔流が抑えきれず、そのまま半覚醒状態のように眠りに落ちたところ、数年ぶりにてちが夢に出た。3年前に綴った通り、私とてちはまたも夢の中では親友同士で、てちは私を信頼しきっているような満面の笑みとスキンシップで接してくれていて、ああ、こんなかわいい子を独り占めできるなんて、私は幸せ者だなぁ……と思った矢先、ブツン、と暗転。目覚めるといつもと変わらない天井、日常の生活音。ぼーっと身体を起こし、数分かけてたっぷり反芻する。それでようやく、私とてちは親友でもなんでもない、自分はただの"恋は盲目"を体現したようなファンであることを知る。

これで何度目だろう。呪縛が消えない。一生このままてちの夢を見続けるのだろうか。好きという気持ちに嘘がつけない体質だからこそ、夢はいつだって鮮やかで、幸せで、このまま醒めたくない、ずっと続いてほしいと願ってしまう。
てちが大好きだ。かっこいい。こんな風になりたい。めらめらと燃える熱さをはらんだ瞳、鋭い瞼の切れはし、世界一似合う黒髪のショート・ボブ。その心の強さ、表現への貪欲な意志は誰にも負けない。私のような凡庸な人間を惹きつけて離さない。一度捉えたら死ぬまで。

そんな彼女に出会えて、同じ時代を生きられて良かったと思いながら、この"呪い"は一生消えないのだろうな、という諦めを背負った私は、今日もスマホ越しに流星のような彼女のきらめきを見つめ続けるのだ。

2023.7.21

前半部分の本文転載元:BadCatsWeekly

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