小島奈菜子

IT関連、古書店を経て出版社に9年半勤務。その後個人の本棚の変遷を写真で記録するサービ…

小島奈菜子

IT関連、古書店を経て出版社に9年半勤務。その後個人の本棚の変遷を写真で記録するサービスを作るため活動中。 和歌を詠むのが好きなので歌日記をはじめました。

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人の「本棚が見たい」のはなぜか?ーー本棚記録サービスを作りたい(1)

人の「本棚が見たい」のはなぜか? 本好きによる本好きのための月刊誌『本の雑誌』。その巻頭コーナーを飾っているのが「本棚が見たい!」というカラー写真ページだ。脈々と続いているこの連載は、これまで2冊の書籍『絶景本棚』『絶景本棚2』として刊行されているほどの人気ぶりである。本棚のある部屋の雰囲気が伝わる全体像と、背の文字が読めるアップの写真とで構成されていて、知っている本に目を留めながら知らない本の背を読んだり、全体の構成からジャンルの分け方を眺めたりすることで、持ち主の興味の

    • 【読書日記】『シベリア鎮魂歌 香月泰男の世界』立花隆

       葉山の神奈川県立美術館で開催された「生誕110年 香月泰男展」でシベリア・シリーズを初めて見たのが2021年の秋。入手しづらくなっていた「私のシベリヤ」などを収録した立花隆による文庫版が発売されたのが2023年2月。積読していたこの本を読み始めたきっかけは、去年の秋に舞台化された村上春樹「ねじまき鳥クロニクル」を観たからだった。太平洋戦争における「黒い死体」(原爆で殺された被害者としての日本人)と、「赤い死体」(戦後満洲で恨まれて生皮を剥がれた、加害者としての日本人)のこと

      • 【歌日記】7/14

        ◇歌 ひとたびの宴おぼゆか天の川 宿かる人の歌ありし日の 七夕の歌には恋の歌ばかりではなく、こんな旅の歌もある。酒宴の雰囲気が伝わってくるような詞書が楽しい。 注によると、業平の歌を読んだ親王は、「業平の歌があまりによかったので、それにふさわしい歌を返すことができなかったのである。そこで供の紀有常が、親王に代って返歌を作った」のだという。短い文章の中にも、こんなにも人柄は現れる。自戒。 怒りや悲しみや不安が次々に去来して、落ち着いて課題に向き合えない週末。襲ってくる無力感

        • 【歌日記】6/12

          ◇歌 夏宵に雲居の月を待つ人や 風待つさらば寝ねずもあらなむ  返歌のような気持ちで本歌取りをするようになったのは、小林秀雄『本居宣長』に描かれている契沖と下河辺長流の送りあっていた歌が、お互いの言葉を少しずつ採り合っていて本歌取りみたいだな、と思ったから。  うまく眠れなくて心細いような夜でも、八百年の時を経てなお人気のスーパスター、西行と歌を交換しているような気分になれるのです。 (厳密には本歌取りになっていないかもしれません。歌に詳しい方、ぜひご指南いただけたら嬉し

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        人の「本棚が見たい」のはなぜか?ーー本棚記録サービスを作りたい(1)

          言語、和歌についてこれまでに書いた文章(2024/8更新)

           これまで10年以上にわたり小林秀雄を学ぶ私塾に参加し、発表内容をWeb同人誌(2017年開始)に寄稿してきました。それらを一覧できる場所が現状ではどこにもないので、自分自身の参照の便のためにリンクをまとめてみます。お読みいただけたら嬉しいです。 「ながむる」――事物と人情が親和する行為  2024年8月公開  詩経に由来する「興観の功」の「観」は、荻生徂徠から本居宣長へと受け継がれて「ながむる」行為として一層精しく認識された。自前の文字を持たないまま漢字に出会った国だから

          言語、和歌についてこれまでに書いた文章(2024/8更新)

          【歌日記】6/8

          ◇歌 雪を無み色浅からぬ不尽の峰 裾の青垣わけてよく見む 南関東にいると見えて当たり前の富士山も、例えば関西では見えない。見えて当然と思っているものも、場所を少し移動するだけで見えなくなる。見える場所にいても、雪のない夏の間は、空の青が迫ることでさらに遠くに見える。 どんなに山が遠くて高くても、まずは裾に広がる森から、その一本の木から、一枚の葉から見るような気持ちでいたい。 自分がどんなに非才無能であっても、受けた恩を返さなくていい理由にはならない。生きているうちにできる

          【歌日記】6/8

          本を「おすすめ」する難しさーー本棚記録サービスを作りたい(4)

           書店や図書館が近くにない、という人は少なくない。私自身の育った地方の田舎町も、子どもの頃に2つあった新刊書店はいずれも閉店してしまった。地域によっては大きな図書館ができたり独立系書店ができたりしているけれど、全体として本に出会える場は減少傾向にある。個人の本棚を写真で記録して見せ合うサービスを作りたい理由のひとつがそれだ。『人の「本棚が見たい」のはなぜか?ーー本棚記録サービスを作りたい(1)』で書いたように、デジタルの本棚には現れない「本棚人格」を通した本との出会いが、人や

          本を「おすすめ」する難しさーー本棚記録サービスを作りたい(4)

          【歌日記】5/30

          ◇歌 花はみな 散ると知らざるものなくに 言葉も花になさばなりなむ  桜の時期が終わる頃、とある場での言葉のやりとりを眺めていて、古今集仮名序の という一文を思い出して詠んだ歌。 人に届いたかどうかはともかく、自分の心が慰められた。  自然の様子に心を寄せて、古代の人は歌を詠む。比喩は、言葉にならない、語るに余る心を物に託してあらわさんとする切なる表現だった。物に準えるとは、物の、存在の力を借りることだった。五感に訴えてくる物をまねて、形のない心というもののありかたを

          【歌日記】5/30

          【歌日記】5/28

           好きだということをすっかり忘れてしまうほど、あたりまえのように和歌が好きらしい、と思い出したので、歌日記を初めます。  義父の月命日、目黒川で鷺が見上げていた空は雨。でも夜には晴れて、近所の川では名残の蛍が舞っていました。 ◇歌(本歌取り) いなむしろ川門を通ふ蛍火に 通はぬものは言や心や いなむしろ…「川」の枕詞 川門… 両岸が迫って川幅が狭くなっている所。 川の渡り場。 *素人なので古語の用法間違い等ありましたらぜひご指南ください

          【歌日記】5/28

          本を「買う」とき、何が起きているのかーー本棚記録サービスを作りたい(3)

           自分の本棚の記録をとりはじめて数ヶ月。「いつ、どんなときに」「何をどんなふうに」記録すると楽しいか?を考えるために、自分の本棚が変わるのはどんなタイミングなのかを観察した。ピーター・メンデルサンドの刺激的な読書論『本を読むときに何が起きているのか』の言い方を借りて、「本を買うときに何が起きているのか」という視点で、個人が本棚を持ち編集する意義を考えてみる。というのも、本棚に並んでいるのは、買っただけで読んでいない本の場合もあるからだ(その方が多い、とすら言えるかもしれない

          本を「買う」とき、何が起きているのかーー本棚記録サービスを作りたい(3)

          古書の流通でも本の作り手に還元する仕組みは可能か?ーー本棚記録サービスを作りたい(2)

           前回「本棚を写真で記録するサービス」を作りたい、と書いた。人の本棚を「見たい!」と思う理由を探り、「本棚人格」の現れがその理由ではないかと考えた。現状では物理的な本棚にそれが最も現れるので、本棚の写真をベースにした本好き同士のコミュニケーションの場を作りたいのだ、と。  そしてもう一つ理由がある。「二次流通(以降)でも作り手(著者、出版社など)に利益をもたらす仕組み」が必要だと考えるからだ。それがなぜ「本棚を写真で記録する」こととつながるのか。順を追って整理したい。 古

          古書の流通でも本の作り手に還元する仕組みは可能か?ーー本棚記録サービスを作りたい(2)