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閃光。【6作目】「短編」

光の粒。遠くなる音。
濡れた車体が通り過ぎる。
初めて空中で考え事をしている。
話で聞いたことはあったけど、
時間が止まったように感じるって本当だったんだ。
最期に思う。
ああ、俺でよかった。


今日もどこかで誰かが死ぬ。
別のどこかでは誰かが生まれる。
世の中はそういう風に廻っている。
最早、世の中の常識としてそこにある。
ただ、それには1つ思い違いがある。
星と同じように人も生物も、
死ぬ時と生まれる時の2回、
徐々に光りだし、
最後には閃光を放つということだ。
人が光るわけがないと思うだろうが、
俺にはそう見えている。
常日頃、世界が輝いて見える。
俺はそんな世界が嫌いだった。


1回だけ、光らずに死んでいった人を見た。
飛び降り自殺だった。
彼は、何を思って自ら死を選んだんだろう。
何が彼を光らせなかったんだろう。


ある日、淡く光りながら泣いている子がいた。
何の気の迷いか話しかけてしまった。
どうやら、病気で入院が長かったようだ。
それを聞いた時に、
さぞつまらない人生だっただろうと
思ってしまった。
でも、彼女は

「私はこの人生に満足しています。
周りの人に愛されて生きてこられて、
本当に幸せでした。
出来れば命と一緒に、
皆の記憶から消えたいです。
皆の記憶から消えれば、
誰も悲しまずに済みますから。」

と言って泣いた。
衝撃が走った。
もうすぐできっと彼女は
死んでしまうのだろう。
ただその涙は、
自分に向けたものではなく、
愛する誰かに向けたものだった。
彼女は確かに、周りに愛されていたのだろう。
それと同じくらい、彼女は愛していたのだろう。


雨が降る夜、傘を忘れた俺は
濡れながら歩いていた。
前方には楽しそうに笑う親子。
母は腹だけが淡く光っていた。
それと同時に、
子供も光りを放ち始めていた。
親子が横断歩道に差し掛かった時に
轟音と共にトラックが走ってきた。
俺は咄嗟に走り出していた。


なんで知りもしない親子の為に
走っているんだろう。
人は皆、いつかは死んでしまう。
それは自然の摂理だ。
でも、何かが俺をそうさせた。
2人を歩道に引っ張り出し、
反動で俺は車道に飛び出た。
フロントガラスに映る俺は、
閃光を放っていた。


強い衝撃。回る視界。
相変わらず世界は輝いていた。
最期に見えた景色は、
言葉を失う親と光の消えた子供だった。

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